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113話 以外と気さくな魔術人形


「ここは・・・最深部か?」


 俺が立ってたのは見覚えのある広い空間。天井には淡く輝く光源があり、左の方には豪華な扉と、その前に立つロボットアニメに出て来そうなデザインのゴーレム。そう、このダンジョンの最深部と呼ばれてる地下十階の大ホールだった。


 ジッと俺達の方へ顔だけを向けていたゴーレムはズゥンズゥンと大きな音を立てて身体をこっちに向けている。やばい、これ完全に襲い掛かってくる気だ。とりあえず予想外の遭遇だし一旦体制を立て直すか。


「みんな大丈夫?」


「いたた、なんなんですの一体・・・」


「スプリが庇ってくれたお陰で無事だの」


「私はなんとか・・・。ですけど、その、ジェノさんが」


「・・・」


 慌ててみんなの方に向き直ると、皆が口々に喋りながら立ち上がってる。ジェノはうつ伏せの状態でぴくりとも動かない。良かった、ジェノ以外は無事そうだ。ってええ、どうしてそうなった。


「ゴーレムがこっち来ようとしてるけど、動ける?」


「ワタクシはいけますわよ」


「私も大丈夫です。ただジェノさんが動かないんですけど・・・」


「我はいつでも戦えるぞ!」


 フィスタニスとターナは大丈夫そうだな。ターナがジェノを心配そうに見てるけど、コノミに任せてしまおう。何故か戦う気満々だから気を逸らすのに丁度良い。


「コノミ、ジェノの回復を頼む。それが終わったら援護を」


「!? 後ろ!」


 コノミに指示を出してる途中で、コノミが顔色を変えて叫んだ。視線に釣られて振り返ってみるとゴーレムが拳を振りかぶったままほすごい勢いでこっちに跳んで来ていた。あのサイズの金属製のロボットがジャンプしてくるとかマジかよ。ほぼ水平だし完全にアニメの世界だぞ。


 【思考加速】のお陰で割と余裕があるけど、あと数秒もしないうちにゴーレムの鉄拳が振りぬかれる。重そうだし受け止められるか不安だなぁ。避けるか? 後ろにいるコノミやジェノは跳ね飛ばされるかもしれないな。・・・いや、その心配も無さそうだ。


「ジェノさんは私が守ります!」


「スプリお姉様の邪魔をするなら、ぶっ壊して差し上げますわ!」


 ターナとフィスタニスの二人が颯爽と躍り出てたのを視界の端で捉えてたからな。ターナはいつのまにか装備してた大剣を、フィスタニスはその拳を、迫り来るゴーレムの拳に叩きつけて迎え撃った。ゴガァンとかいうとんでもない轟音を響かせて衝突した二人と一体は、拮抗して動きを止めた。


「鉄クズの癖に中々やりますわね・・・!」


 この場合、二メートルくらいの金属製っぽくて、スーパーロボットが集うゲーム用にデフォルメされたスーパーロボットみたいなゴーレムに引けを取らないターナとフィスタニスを凄いと見るべきなのか、あの並外れた力を持つ二人に対抗してるゴーレムを凄いと言うべきなのか。よく分からないな。


「このゴーレム強いです!」


「ワタクシの敵ではなくってよ・・・!」


「落ち着け! 迷い込んじゃっただけなんだから戦わずにさっさと逃げるぞ!」


 簡単に跳ね除けられないことに苛立ちを見せるフィスタニスと、自分達と拮抗するゴーレムと戦いたいのかぎらついた笑みを浮かべ始めたターナに説得を試みる。すると、意外なところから反応が返ってきた。


「ジ、ザザ・・・トビラニヨウガアッタンジャナイノカ。スマン、マチガエタ」


「・・・え?」


「トビラヲヒラキニキタンジャナイナラナニモシナイ、アンシンシテクレ」


 渋い男のような、だけど機械的な声の出所を探っているとまたしても同じ声が聞こえた。まさかとは思いつつもゴーレムの方を見ると、さっきまで拳を振りぬこうとしていた姿はどこへやら。両手を軽く開いて上に上げていた。この敵意無いよポーズは異世界でもある上にゴーレムですら使うんだな。






 この世界のゴーレムがどういったものなのか。それは馬車の中でジェノと一緒に腹筋しながらスウェイが教えてくれた。


 ゴーレムとは、金属や鉱物で作り出した人形に核となる魔石を組み込んで、その核に魔術で出来た擬似人格を与えることで完成する。擬似人格とはいってもそれは簡単な命令をこなせる程度の機能しか持たない為、主に門番や見張りとして用いられる。


 そのボディに要素を付け加えることで様々な機能も追加することが出来るけど、複雑な思考が出来ないからなんでも使いこなせる訳じゃない。前にランクアップ試験の時にもドアに擬態したゴーレムと戦った覚えがある。


 というわけでスウェイに教わった常識の範囲の中ではゴーレムと会話が出来るなんてことは無かったんだけど、


「オマエタチドウヤッテココニキタ? アソコニイリグチハナカッタハズダガ」


「それがやたら気持ち悪ぃモンスターの巣穴みたいなとこに入っちまってさ、その穴の一つを転がり落ちたらここに出た、って訳だ」


「ナルホド、ソレハサイナンダッタナ」


 コノミの治療によって復活したジェノと気さくに話してるあのゴーレムは何なんだろう。超フランクに話してるんだけど。近付いたら襲いかかってくる門番じゃなかったのか? もしかして俺が話しかけたから謎翻訳で話が通じたのか? 謎だ。


 ジェノとゴーレムが楽しげに会話してる中、フィスタニスとターナは一歩退いた場所でゴーレムを見つめている。それぞれ微妙に違う理由で決着を付けたいのかもしれない。コノミはゴーレムの上によじ登って遊んでる。気持ちは分かるけどはしゃぎすぎ。まぁ俺もぺたぺた触ってるんだけど。


 ゴーレムはジェノの馴れ馴れしい態度もあってか本当に気さくで、色々と教えてくれた。扉の向こうには良くないものが封印されていて、その封印が解除されないように守ってるとかそういう話も交えて。


 元々、このゴーレムはここの門番として作られたわけじゃなかった。遥か昔、今でも伝説に残る魔術師がロマンと遊び心をふんだんに爆発させて、超高性能お手伝い用ゴーレムとして作り上げたのがこのゴーレムだった。


 そして、魔術師は良くないものとやらをこの場所に封印して、力を使い果たして死んでしまったそうだ。この間のことは、幸せだったような気がする程度でもはやほとんど覚えていないらしい。


 魔術師が亡くなった時に門番を任されて、今まで戦い続ける中で記憶が磨耗していったんだな。出会いと、最後に託された使命だけは消えずに残ったと。


「その、ゴーレムさんは辛くないんですか?」


 ターナが哀れみを含んだ表情で問い掛ける。相手は人間だけじゃなく、ダンジョンが産んだモンスターや良くないものに導かれてやってきた魔族なんかも排除してきたらしい。一人で何十年も何百年も戦い続けるのは、考えるだけで滅入る。ターナもそう感じたんだろう。


「ツラクナドナイ。ツクラレタイノチトハイエ、コノコアニキザマレタシメイヤコノセカイヲマモルトイウイシハ、ホンモノダトオレハシンジテルカラナ」


 な、なんてかっこいいんだ。やばい、泣きそう。ジェノなんかもうボロ泣きしてるからな。


「そういえばお前、ぐすっ、名前は?」


「ナマエ、ナマエカ。サッキモイッタトオリワスレテシマッタ」


「ぐすっ、そうか・・・。さすがにゴーレムじゃ味気ねぇし・・・オレ達でつけてもいいか?」


「・・・ソウダナ、スキニシテイイゾ」


「スプリ、こいつにかっこいい名前つけてやってくれよ!」


 ゴーレムの太い足の装甲を軽く叩いてた俺にお声が掛かる。名前か・・・任されたってことは俺のセンスで決めていいってことだよな。この熱いゴーレムにふさわしいかっこいいのをつけないとな。


「よし、じゃあ今日から鋼の守護機神テッカイザーな!」


「テッカイザーカ、キニイッタ。キョウカラオレハテッカイザーダ」


「おおう、流石スプリ、かっこいい名前をつけやがるぜ」


 それほどでもない。テッカイザーはボディの色が黒と赤だけど両方錆びてるだけみたいだからな。それが奇跡的なバランスでかっこよく塗装したみたいになってる。だからよく錆びるのは鉄のイメージでテッカイザー。うん、かっこいい。


「複数の足音が聞こえます。誰か来ます!」


 不意に、ターナの声が大ホールに反響する。マジか。テッカイザーの名付けに集中してたけど言われてみたら確かに足音や話し声が聞こえてくる。これ一人や二人じゃないんだけどまさか怪しい冒険者パーティーの連中か? スウェイ達は追いつけなかったのか。


「っしゃあ、遂に最深部に辿り着いたな。お宝はもうすぐだぞおらぁ!」


「「「ひゃっはー!」」」


 嫌な予感は当たってたらしく、冒険者らしき連中がぞろぞろと大ホールへ侵入してきた。全部で三十人はいるな。六パーティーくらいか?


 テッカイザーが無言で戦闘体勢に入る。ジェノの方を見ると、無言でこっちを見てた。そして頷くと、武器を構えて冒険者達を睨みつける。


 よし、こうなったら俺達で蹴散らしてやるか。良くないものとやらが復活する展開も見てみたいけど、テッカイザーの意志を守る方が大事だからな。邪魔するなら冒険者だろうが魔王だろうがぶっ飛ばしてやる。




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