109話 物足りないダンジョン
大量のアラクネカマキリをフィスタニスの手で殲滅した後も、俺達は田吾作の案内に従って駆け出し冒険者じゃ相手に出来ないようなモンスターを狩って行った。アラクネカマキリ以外は数もそんなにいなかったらしく、一時間程経って死神みたいなCランクモンスターを倒した辺りで田吾作が反応しなくなった。
「この階にはもういないみたいだ」
「おー、思ったより早かったな。・・・ふぅ、この後どうすっか」
一区切りついたことを告げるとジェノがほっとしたように一息つく。まだ地下一階とは思えない危険度のモンスターと戦ってたし、それがもう居なくなったならこの階にジェノ達の敵はいない。安心するのも仕方ないな。
そしてジェノはそのまま考え始めた。多分、地下二階も同じように探索するか、真っ直ぐ最下層に向かって進むか悩んでるんだろうな。死亡者が増えてるのは確実に強いモンスターが俳諧してるせいなのは分かったけど、結局原因は掴めてない。
それを調べに行きたいけど、かといってもしも地下二階や地下三階にも同じように強いモンスターがいるとすれば、放っておいたら犠牲者が出てしまう。パーティーを分けるのは万が一もあるしゴーレムのことを考えると難しいだろう。
「とりあえず、死亡者が増えてる直接的な理由は分かったんだからそれだけでもギルドに伝えたら? そしたら地下二階や地下三階は任せられるし」
「おお、確かにそうだな! さすがスプリかしこいぜ!」
「いたたたた」
「おっと、悪ぃ悪ぃ」
「でもここから一旦ギルドまで行ってまた戻って来るのも大変だの・・・」
ジェノに思いついたことを提案すると、感心したジェノが謎のハイテンションで俺の頭を撫で回す。これも久しぶりだけどガイサの腕だと硬いし痛い。【弱体化】がかかってると貧弱な俺の身体は痛みも普通に感じる訳だ。
実際そこまで痛いわけでもないけど思わず口に出てしまった。ジェノが誤魔化し笑いを浮かべつつ謝ってきた。まぁまだ義手に慣れてないし仕方ないか。
そんなじゃれ合いの傍らにいたコノミが、俺の提案に微妙な顔をする。まぁ普通に考えたらそうだ。沢山乗っててゆっくりだったとはいえ馬車で三十分くらいかかったはず。そんな距離を行って戻るのもそこそこ時間がかかるだろうからな。けど、俺達には強い味方がいる。
「それなら大丈夫。手紙を書いて田吾作に預ければすぐに届けてきてくれるよ。な、田吾作?」
「タゴ」
言い終わると同時にコノミの頭の上に乗っかっている田吾作に顔を向けると、首を回して俺の方を見つめてしっかりと返事をしてくれた。やっぱり田吾作は賢いなぁ。田吾作ならほんとに一瞬で届けてくれそうだし、一人でも最下層まで辿り着ける気がする。
「へー、田吾作さんは賢いんですね」
「うむ、うちの田吾作は賢いぞ!」
関心するターナに何故かコノミが胸を張って答える。なんの、うちのコノミだって可愛いぞ!
「うし、じゃあぱぱっと手紙書いてスウェイさんに手紙を届けてもらうか。そんで周辺の対応は任せよう。少しは犠牲者も出るかもしれねぇが、まぁ冒険者なんだから自己責任だ。最深部までの最短ルートからは結構外れちまってるから急いで戻らねぇとな」
ジェノは言いながら手紙を書くための用意を始めた。これでギルドからの高ランクモンスターの討伐依頼を受けた冒険者が上層の強敵は片付けてくれる筈。討伐依頼を受けた高ランク冒険者が来るのは早くても明日からになりそうだから遭遇したら片付ける必要があるにしても、これで高ランクモンスターを気にせず最下層に行ける。一体何があるのか楽しみだ。
「おらぁ! 地下十階だぜ!」
「ほとんどモンスターにも罠にも遭遇しませんでしたね」
地下九階から続く階段を降り切ってジェノが叫ぶ。後に続くターナがどこか残念そうに呟いてるのが怖い。ゆるふわな見た目してるのに戦闘民族みたいな本能を内に秘めてるだけはあるな。多分無意識なんだろうけど。
俺達は田吾作に手紙を託した後、スウェイから借りた地図を頼りに真っ直ぐ最下層を目指した。目的は地下十階の奥にあるという大ホールだ。そこにあるらしい扉とそれを守るゴーレム、この二つをがなんか意味深だからな。
多分門番の役割なんだとは思うけど、何を守ってるんだろうか。定番なのは封印とかお宝かな、やっぱり。なんにせよ行ってみないと分からないということだったんだけど、ターナの言う通りに罠もほとんど起動しないわモンスターにも遭遇しないわ、すごくあっさりとここまで来てしまった。
「このルートはスウェイさん達が定期的に通ってたらしいからな。多分そのせいじゃねぇか?」
可愛らしく首を傾げてたターナにジェノがそう答えた。それもあるとは思うんだけど、モンスターにほぼ遭遇しないっていうのもすごいな。地下二階や三階では高ランクモンスターに出会わなかったし、相応の強さのモンスターもほとんど戦ってない。
ギルドの施設と化した地上部分や完全に通路になったダンジョンじゃ楽しさが半減だ。俺のワクワクを返してくれ。せめてこの先に面白いものやイベントがあるといいんだけど。
この地下十階は石で出来たような四角い通路が続いてる感じだ。天井もそんなに高くないし、幅も一人が立って戦うのがやっとくらいの広さしかない。ターナの大剣みたいな長い武器は使い物にならないな。
地図に従って歩いてると、急に開けた空間に出た。まるでダンスホールか何かみたいに円形で、高さ六~七メートルはありそうな天井の中心には大きな灯りが灯ってる。部屋の広さは半径二十メートルくらいか? ダンジョンと考えたら広いのかもしれない。
「ここが噂の大ホールか。ゴーレムらしきものは見えるけど扉ってのはわからねぇな」
全員が通路から大ホールへと足を踏み入れ、それぞれが中を観察する。ジェノが目を細めながら正面を見つめている。確かに話に聞いてたようなゴーレムみたいなのが奥の壁際にいる。五頭身くらいで腕と脚が身体よりも太くて、もしあれが金属の塊だとすれば相当重そうだな。
なんか普通にかっこいいというか、ロボット物のアニメとかに出て来そうなデザインだ。確実にこの世界の世界観とはかけ離れてる気がする。そもそも技術力がちぐはぐだったりするんだけどどうなってんだ。責任者出て来い。
「きっとあのゴーレムの後ろにあるんですね。ギルドマスターからはこの先を調べるのは禁止されてるらしいですけどどうしましょうか?」
「近付くと襲い掛かってくるんだったよな・・・。異変の原因があの先にあるかどうかは分からねぇけど、流石にギルドマスターの忠告を無視するのはやべぇから今日のところはこれで引き上げようぜ。んでネーコさんに結果を報告して許可をもらいにいこう」
「了解」
「わかりました!」
「スプリが良いならそれでいいぞ」
「ワタクシも同じく」
ジェノの癖に割と真面目な意見を出してきた。とりあえず突っ込まないあたりチャラそうな見た目して考える系の主人公か、やるな。ずっと冒険者に憧れてたジェノからすれば、ネーコは憧れそのものって言ってもいいくらいの冒険者だもんな。無下には出来ないか。
そうと決まれば話は早い。俺達はジェノの提案に従って颯爽と引き返した。




