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106話 自由な事情聴取


 ダンジョンの入り口でもある古びた神殿のような建物。そこは、ギルドの職員が住み込みで働くために中は割と綺麗にされていた。ダンジョンから出てくる冒険者が誰も彼も無傷なんてことも無いから、救護室的な部屋もきちんと用意されていた。


 そこへトゲトカゲの中から助け出して回復させたはいいものの、未だ気を失ったままのスランテを寝かし、付き添いということでハーフプレートの冒険者を残して更に場所を移した。それは詳しい話を聞くためで怪我人の傍でする必要もないのと、ハーフプレートの方は落ち着いたように見えるけどまた無駄に興奮されても面倒だからだ。


 ジェノが決めたことだから合ってるかは分からないけど多分こんなとこだろうと思う。だって俺はそう思うし。


 そこで俺達がやってきたのは食堂のような広い部屋だった。かつてどういう使われ方をしていたのかは分からないけど、今は食堂として利用されているらしい。この街の冒険者ギルドはなんでもありだな。普通遺跡に住み込むか?


 今はまだ朝方で、こぞってダンジョンへなだれ込む時間帯らしく食堂に職員以外の姿は無い。むしろ職員すら俺達の足音を聞いて驚いた顔で飛び出してきた。まぁ朝一で来て早速食堂とか普通ないだろうしな。話をするには都合がいいんだけど。


 ジェノがいくつかある長いテーブルの端に歩いていくのを見てみんなが追いかける。そこらへんから切り出した木材で適当に作りました感がすごいな。テーブルごとに大きさや長さがまちまちだ。


「とりあえず適当に飲み物でも・・・ああ、酒はダメだぞ。すんません、オレンジジュース六つ。あとあんまりでかくなくてちょっと深さのある器に水も頼む」


「オレンジジュースとお水ですね、わかりましたー」


 たむろするのに注文の一つもしないのを気まずく感じたのか、短時間とはいえ走って喉が渇いたからか、ジェノが飲み物を全員分注文する。酒禁止のところでコノミとフィスタニスが不満そうな顔をしたけど、よっぽどのこと以外はジェノの指示には従うことと言い聞かせてあるから逆らったりはしない。


 それに、特別な日でもなければあの二人に酒は飲ませるべきじゃない。何故なら、コウロを出る前に何回かやった宴会でコノミもフィスタニスも超うわばみだっていうのが発覚した。それぞれが一人で樽を何個か空にしてたからな。龍とドラゴンだから仕方ないのかもしれないけどやりすぎだ。馬車を買うお金が無かったのもそのせいなんだからな。


「どうぞ」


 栗色のふわふわくるくるのロングのお姉さんがオレンジジュースと水を置いて立ち去っていった。最後の変な注文にも動じずに笑顔を振りまいていった彼女は流石プロのウウェイトレスだ。いや、ギルド職員だったりするのか?


「じゃあ飲み物も来たところで聞かせてもらうか。一体何があったんだ?」


 ジェノが飲み物を各自に渡して男の前にもグラスを置く。そして端に座ってるコノミと田吾作にもオレンジジュースと水を目の前に置いた。ああ、あれ田吾作用だったのか。気が利くな。


 田吾作はコノミの頭の上からテーブルに降りて更に嘴を突っ込んでは上を向いて水を飲んでいる。嬉しそうだ。コノミも酒が飲めなくて不満そうにしてた割にはオレンジジュースにご満悦だ。ただ、一瞬何かを思い出したかのように苦い顔をした風に見えたけどきっと気のせいだ。


「ああ、そんなに長い話でも無い。俺達は全員Eランクだから地下一階を漁るのが日課なんだが、いきなりトゲトカゲの群れに出くわしちまった。それであの様だ」


 革鎧の男は恥を隠すようにおどけて言う。うん、わざわざ口にするのはかなり辛いだろうな。


 それからしばらく話をして、要は初級冒険者が浅い階層で強いモンスターに遭遇して全滅しかけただけだと分かった。


 それだけに聞こえるけど、問題は今までトゲトカゲみたいな強いモンスターが浅い階層に現れることはなかったそうだ。このダンジョンも例に漏れず、下へ行くほど魔力が濃くなっていく。それに伴ってモンスターの強さも上がる。


 ダンジョン自体の召喚スキルの影響なのかモンスターが周囲の魔力が濃いと強く育つのか知らないけど、とにかく浅いところは弱く深くなるほど強くなるのがこの世界の常識なんだそうだ。


 このダンジョンの地下一階は種類は多いけどほとんどが番外やFランク等弱いモンスターばかりで、たまにEランクのモンスターに出会うことがあるかもしれないくらいレベルらしい。だからこそこのEランク冒険者達は定期的に何度も篭っていた。


 だけど通いなれた安全なはずの場所に遥か格上のモンスターが現れた。そりゃ死ぬよ。もしかしたら最近の死亡率上昇はあのトゲトカゲのせいかもしれない。浅い階層で満足するような連中が出会ったら目撃者が出る余裕なんてないだろうし。


「なるほど、話は分かった。もういいから仲間のとこに戻ってやりな」


「ああ、助けてくれたこと、感謝する」


 年齢的にはジェノより少し上っぽいけど、冒険者の世界ではジェノの方が上だからジェノの態度については誰も気にしない。革鎧の男は空になったグラスを置いて医務室的なところへと向かっていった。


「んで、みんなはどう思う?」


 ジェノは他のみんなへ視線を巡らせる。フィスタニスはそっぽ向いてるし、コノミは水浴びしてる田吾作を見てきゃっきゃうふふしてる。可愛い。けど興味なさそうだな。分かってはいたけど。


「はい!上層で死亡率が上がったのはトゲトカゲのせいだと思います!」


 さすがターナ、ちゃんと聞いててかつちゃんと考えてたみたいだ。だけど若干足りない気がする。


「それは違いないと思うんだけど、じゃあなんでいないはずのトゲトカゲが地下一階にいたのかが問題だよね」


「だな。それがずばりスウェイさんに依頼された件に繋がりそうな気がするぜ」


 死亡者増大の謎を追ったらそうなるだろうなぁ。トゲトカゲが地下一階に出没してたからです、なんて言ってさっき殲滅したから大丈夫なんて甘い話も無いだろうし。まだ残ってるかもしれないし、むしろ他にも強いモンスターが徘徊してるかもしれない。上層と呼ばれてるらしい地下二階や地下三階にもいそうだし。


 根本的な原因を見つけてそれをなんとかしないと、解決することはないだろう。


「手がかりになりそうなことは見つけたけどまだ足りねぇ。今日はまだ始まったばっかだし、もう一丁行くとするぜ」


 ジェノがにやりと笑う。本日二度目のダンジョン進行が決定した。



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