105話 トリガーハッピーコノミちゃん
注 きっとサブタイトルに深い意味はございません
「そこだ! 行くぞ二人とも!」
二人の冒険者を助けた場所からほんの50m走ったところで、倒れた冒険者の足らしきものが見える。他の部分はトゲトカゲが六匹くらい群がってるせいでよく見えない。生きてるのかこれ?
ジェノがフィスタニスとターナに声を掛けて突進して行く。通路の幅が狭いせいでターナは大検が満足に振るえないらしく、一歩引いて腰の短剣を抜こうとしていた。んー、大丈夫だとは思うけど今回前に行くことは無さそうだしいっか。
「ターナ、これ使って!」
「え? ありがとうございます!」
腰にマウントしてた双龍刃をセットでターナに向かって投げつける。ターナは笑顔で回転するカタールを的確に空中で両腕に装着して前線に飛び掛って行く。そこではフィスタニスとジェノが冒険者に群がるトゲトカゲを押し返していた。
そこに飛び込んで行ったターナは両手の刃で蹴散らしていく。武器が変わっても強いぞあの子。せいぜい二人が並ぶのが精一杯な幅しか無い為ターナとジェノが前に出て、抜けて来そうな奴をフィスタニスが幅広の短剣で滅多刺しにしてる。
フィスタニスも狭い空間向きの戦い方じゃなかったらしくて新しく用意した武器だ。商店で買ったそこそこのものだけど、こっそり作ってあげてもいいかもしれない。
得意な戦法が鞭、爆発の魔法、真の姿で暴れる、なんて開けた場所じゃないと真価を発揮できないにも程がある。人型でもその肉体の強さは残ってるみたいだから前衛として暴れられるのが幸いか。その為の短剣で切れ味よりも丈夫さを重視したっぽい。
前衛三人がトゲトカゲ達を押し返して解放された冒険者を後ろへと引っ張っる。貧弱とは言っても冒険者基準での話だ。人一人引き摺るくらいはわけない。獲物が奪われると思ったのかトゲトカゲの勢いが一瞬増すも、ジェノ達が即座に押し返す。隙間を縫ってのコノミの射撃もいい具合にトゲトカゲの邪魔になっている。
「スランテ! おい、しっかりしろ!」
「ちょっとどいて。コノミ、頼む」
「うむ、我に任せるが良いの」
スランテと呼ばれた冒険者は体中ズタボロで見るも無惨な姿になっていた。ただ、腹から食べる習性でもあったのか、一番酷い胴体以外はまだ原型は残ってるし息もある。
二人の冒険者は絶望した表情だしハーフプレートの方に至ってはすがり付いて泣きそうになってる。邪魔だ。これならと男をどかしながらコノミに場所を譲ると、銃を仕舞ったコノミは杖をスランテの上で軽く振るう。
すると何度か見たあの癒してますって感じの光が漏れ出てきて見る間に治してしまった。再生する様子なんかも無く、光が全身を包んだかと思えば一瞬で元の綺麗な身体だ。って女の人かよ。結構あられもない姿だけど緊急事態だから仕方ないよね。
「これで大丈夫、なにかかけてあげた方が良いね」
「うむ、じゃあ我は残りのトカゲ共をぶち抜いてくるかの」
「スランテ! ああ、良かった、スランテ・・・」
「すまない、本当に助かった。なんてお礼を言えば良いのか」
癒し終わったコノミは杖を左手に持って銃を引き抜き、ジェノ達の援護に走って行った。銃が相当気に入ったらしい。作った甲斐があったな。
ハーフプレートの男はまたすがり付いて今度こそ泣き出してる。号泣だ。その前に何かかけてやれって。革鎧の男が無言で引き剥がしてからマントをかけてやっていた。そのままこっちに向き直って礼を言ってくる。
「詳しい話はあれを片付けてからな」
長くなりそうだから一旦ぶった切って、俺も戦闘に参加することにした。コノミと一緒に水弾でもぶつけてひるませよう。
「ふぅ、片付いたみてぇだな。みんなお疲れ」
ターナが空中で串刺しにした最後の一匹の首をジェノが両断したところで、殲滅が終わったらしい。ジェノが武器をしまいながら皆へ声をかける。時間にしてたった五分ほどしか経ってない。さすがの殲滅力、これでみんな本気出してないんだからすごいよな。
「ガイサは使わなかったんだな」
「ああ、頼りきりじゃなくて生身でもある程度戦えるように鍛えとかねぇとな。両手はこの状態だし完全に生身って訳でもねぇけど」
そういえばジェノガイサにならなかったなと聞いてみるとそんな答えが返って来た。なるほど。まぁ助けるだけなら即座に殲滅できなくてもどかすだけで大丈夫だし、これだけメンバーが揃ってればなんとでもなるだろう。それに、変身ってのはやっぱりギリギリのところでしてこそカッコいいものだしな。常にするもんでもない。
「スプリさん、これありがとうございました。冒険者さん無事だったんですね、良かったです」
「役に立ったみたいで良かった。ダンジョンだと大剣使いにくそうだし持ってて良いよ。あと助けられたのは皆がすぐに蹴散らしてくれたのと、なんと言ってもコノミのお陰だよ」
ターナが目線をさ迷わせながらも俺に笑いかけながら双龍刃を差し出してくる。後ろで横になってるスランテが生きてるのにも気付いたらしくホッとした顔をしてる。
とりあえずここでは俺より使う機会多そうだし、ターナに預けとくか。後はコノミがいなかったら助けられなかっただろうからちゃんとアピールしとかないと。回復薬ってやっぱり大事だ。
「じゃあしばらくお借りしますね、ありがとうございます。聞いてはいましたけどコノミちゃんの回復魔法?スキル?はすごいんですね。あとその銃?っていうのも、びっくりしました!」
「だな。回復が出来て援護も上手だったしうちのコノミはすげぇんだ!」
ターナが双龍刃を装着し直しながら歳相応にはしゃぎながらコノミを褒めると、すかさずジェノが乗っかってきた。ていうかターナ、それつけたまま行動するんだね。ジェノが死ぬかもしれない。まぁコノミがいるし即死さえしなければ大丈夫そうだな。
「褒められるのは嬉しいがこいつに家族扱いされるのもなんとも微妙だの。まぁ、そうしたくなるのは仕方ないかもしれんがの!」
微妙な顔をしてた癖にやっぱり最後はドヤ顔で胸を張るコノミ。なんだこれ可愛いなもう。
「すまない、ちょっといいか」
「ん、どうした?」
「今回は本当に助かった。改めて礼を言わせてくれ」
「ありがとう。あとさっきは悪かった・・・」
革鎧の男がおずおずと声をかけてきて、ジェノが反応すると深く頭を下げた。相当感謝してるみたいだ。ハーフプレートの男も隣にやってきて頭を下げる。さっきまでずっと取り乱してたけど落ち着いたみたいで良かった。
「いいってことよ、冒険者は助け合いだろ」
「ありがとう」
「いいっていいって、それより詳しく話聞かせてくれ。とりあえず一旦上まで戻ろうぜ」
そんなわけで俺達の始めてのダンジョン突入は二十分足らずで終了を告げた。完治してるはずだとは思うけど意識も戻ってないし、そんな状態でこの場所で長話をするのも辛いだろうし、それなら安全なところまで戻ったほうがいいのは明白だ。入り口からそんなに離れてないし。
いやー、イベントが起きると安心するね。何か手がかりとかつかめたらいいんだけど。




