全ては、悪役令嬢となった私の思うままに。
※主人公の性格はめちゃくちゃ悪いです。※
リハビリも兼ねての作品なので、グダグダな部分も多いですが、楽しんで読んでいただければ幸いです。
彼女が歩けば誰もが振り返る。
風になびく艶やかな金髪。
強い意志の宿った赤色の瞳。
全てにおいて洗練された優雅な動作。
男も女も皆、彼女に見惚れる。
「フィー、おはよう。今日も相変わらず綺麗だね」
「ありがとうございます、レイドリック様」
レイドリックが彼女の艶やかな髪を一束取って口付けると、彼女は擽ったそうにしながらも、嬉しそうに頬を染めて微笑む。
それを見たレイドリックは、他の人には絶対見せない蕩けるような笑みを浮かべて、彼女の腰を引き寄せて機嫌良さげに歩き出した。
「今日も綺麗だなぁ、リンフィーネ様」
「レイドリック様ともお似合いですわ!」
「美男美女ですわよねぇ〜」
婚約者であるレイドリックと一緒に歩けば、周りはそれを羨望の眼差しで見つめている。その眼差しに嫉妬が宿っている者など、誰一人としていない。
それもそのはず、王太子であり眉目秀麗なレイドリックと、社交界の華と言われるほどの美貌をもつリンフィーネは、誰が見ても文句のつけようのないほどお似合いだったからだ
リンフィーネ・ハルド
彼女のことを聞けば、人々は口を揃えて「あの方は素晴らしいお方である」と賞賛する。
公爵令嬢であり、圧倒的な美貌と物怖じしない性格から社交界の華と呼ばれている。
学園内でも彼女に憧れる者は多く、中には盲目的な信者のようなものも少なくない。
王太子であるレイドリックの婚約者で、将来の王妃として申し分無いほどの教養、気品がある。
そう。これが、リンフィーネという人物に対する人々の印象。
……リンフィーネの表の顔に対する印象であるが。
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帰宅すると、すぐさま自室へと向かう。
自室へと飛び込み扉を閉めると同時に、今まで耐えていた笑いが込み上げてきた。
「ふふっ……あははははは!!」
全てが全て、私の思い通りに事が運んでいく。
「ほーんと。皆、面白いくらい騙されてくれちゃうんだから……ねぇリオン?」
私がソファに座り、丁度いいタイミングで紅茶を運んできた私専属の執事であるリオンに同意を求めた。
「はい、その通りでございます」
彼は基本無口なため、一緒にいて楽しくはない。
ただ、私はすごく気に入っている。私専属にしてもらうように、お父様に頼んだくらいには。
理由は簡単。彼は私に対して絶対服従だと断言できるから。
人間、誰でも一番大切なのは自分だ。
彼は違う。全て最優先すべきことは私のこと。
きっと私が“死ね”と命令したら、迷いなく自殺するだろう。
でも、それでいい。裏切られることなんて絶対にない関係の方が安心できるから。
だから私は、リオンの前だけでは“本当の自分”を出している。
「リオン……いつもありがとうね」
「リンフィーネ様のためですから」
「そう、いい子ね」
その分、たくさん愛してあげよう。
私に服従を誓う間は、惜しみない愛情をあげよう。
彼にはそれが最高の褒美だということが、私は分かってるから。
ほら、今だって。
彼の頭を撫でて、頬に口づけを落としてあげる。
それだけで頬を染め、惚けた表情をする。
単純すぎる男共に、お腹を抱えて笑いそうになるのを堪えながら、執事という名の“下僕”に私は微笑んだ。
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少し昔話をしようか。
実は、私には前世の記憶というものがある。
あれは5歳のとき、私が婚約者となるレイドリックに会う前日の夜のこと。
明日を楽しみにしてなかなか寝つけずにいたとき、唐突に頭に大量の記憶が入り込んできた。
私はその突然の出来事に頭がついていかず、いつの間にか気絶してしまっていた。
次に目が覚めると既に朝だった。
そのときには、全てを思い出していた。
ここが乙女ゲームの世界だということ。これから起こる出来事。私の、“悪役令嬢リンフィーネ”の結末を。
でも、私は運が良かったと思う。
全ての始まりであるレイドリックとの出会いの前に、記憶を取り戻すことができたのだから。
それからは全てが私の思い通りになった。
前世での知識を生かして、周りの人を味方につけるのはとても簡単だった。
ゲーム内での攻略キャラ達は特に。
まずは、一人目。
王太子で婚約者のレイドリック
彼は、第二子だが正妃の子ということで王太子になるも、自分より優秀な兄に対して劣等感を抱いている。
レイドリックとのお茶会の日。彼はポツリと兄に対しての劣等感を口から漏らした。
「城の者は誰も言わないが、皆思うことは一緒だ。『第一王子の方が優秀だ。』と口を揃えて言うだろう。ただ正妃の子というだけで王太子となった私を、未来の国王として望むものなどいないだろう」
そこで私は彼に「どちらが優れているかなんて、気にしなくていいのです。貴方には貴方の魅力があります。レイドリック様、私はありのままの貴方が好きなのです」と手を握って伝えてあげた。
彼は瞠目した後、涙を隠すように下を向き、小さく「ありがとう」と言ってくれた。
私が彼をそっと抱きしめると、彼も私の背に腕を回してくれた。
だけど、彼は気づいてない。
この時の私が、慰めるような仕草とは裏腹に楽しげに口元に弧を描いていたことを。
つぎに、ニ人目。
宰相の息子のディーク
彼は宰相の一人息子のため、跡取りとして厳しく教育されていた。そのためか、何処か捻くれた性格になった。心を許した人には優しいが、その他の人には酷く冷酷である。
レイドリックと一緒に会ったときのディークは、人の良い笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。
初めて2人きりになったとき、「どうせ貴方も殿下の顔目当てでしょう?良かったですね、婚約者となれて」と言われて驚いた。まさかここまで捻くれた性格だったなんて。
心底馬鹿にしたような顔で言いのけた彼に、イラついたので笑顔で返してやった。
「確かに、レイドリック様との婚約は嬉しいことです。ですがそれは、容姿が良いからではありません。王妃として、レイドリック様を、この国を支えていけるのですもの。これ以上に名誉なことはないでしょう」
彼は一瞬呆気にとられた顔をしたが、すぐに笑い出した。面白い人ですねと言って笑った顔は、以前の貼り付けたような笑みではなかった。
「でもこれだけ優秀な宰相がいれば、この国は安泰ですわね」
彼が今まで厳しい教育の中“褒められる”ということが、ほとんどなかったことは知っている。だからこそ、私の言葉が嬉しかったのであろう。頬を赤く染めながら「当たり前でしょう」と言った横顔は、小さく笑っていた。
それ以来、少しずつだが私の前だけでは捻くれた態度をとることがなくなっていった。
だけど、彼は気づいてない。
彼を変えたあのときの言葉は、決して私の本心からではないということを。
最後は、三人目
騎士団長の息子のアレン
アレンは、騎士団長の息子でありながら剣技がなかなか上達せず、同期の団員達にからかわれたり、あまつさえ《出来損ないの息子をもつ騎士団長》と父親のことを馬鹿にされたことに激怒し、暴力事件を起こした。
謹慎期間中に父親と一緒に彼の元へと訪れた私は、親同士が話してる間2人きりとなった。様々な人から陰口を言われ続けた彼は、軽く人間不信となっていた。
話しかけても無視される。だけど私は、めげずにひたすら話しかけ続けた。
「……どうしてそこまでして、落ちこぼれの俺なんかに構うんだよ」彼がようやく口を開いたのは、どれぐらい経ってからだっただろう。
そんなことはどうでもよかった。口を聞いてくれた時点で、私の目的はほとんど達成されたのだから。
「どうして落ちこぼれだと思うの?周りに言われたから?私はそうは思わないわ。だって、真剣な顔で剣を振るっている貴方はとても格好良かったもの。こんなに一生懸命な人が上達しないはずがないわ」
しゃがんでいる彼に目線を合わせながら、微笑んであげる。
案の定、彼は私の言葉に疑心になりながらも、希望を見つけ縋り付くような目で見つめてくる。
「大丈夫、貴方なら絶対出来るわ」
ダメ押しとばかりに甘い言葉と共に手を差し伸べてやれば、恐る恐るといったように私の手をとってくれた。
だけど、彼は気づいていない。
この時の私が、歪んだ笑みを浮かべていたことを。
彼等はその後、三人とも私の取り巻きと化した。
『私の為に』と言って動く彼等は、完全に私にとって“ただの駒”だった。
……全てが全て、ヒロインな台詞を真似ただけなのに。
心にも無い言葉でも彼等はそれを疑わず、甘い言葉を吐き出すだけで蕩けるような笑みを浮かべてくる。
あぁ、馬鹿な奴ら。
彼等も、学園内の生徒も、教師も、みーんな。
甘い言葉で、笑み一つで騙される人ばかり。
「あーぁ。ほんと、揃いも揃って面白いなぁ」
単純すぎて笑っちゃうよ。
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今日も今日とて、つまらない日常が始まろうとしている。
「フィー、おはよう。今日も相変わらず綺麗だね」
いつものように惚けた笑みを浮かべてくるレイドリック。
「リンフィーネ、おはようございます。荷物持ちますよ、貴方に重いものなんて持たせられませんから」
荷物を持ち、さりげなく手の甲に口づけを落とすディーク。
「リンフィーネ、おはよう。さっきリンフィーネのことを不埒な目で見ていたクズを沈めてきたよ」
まるで、褒めてと言わんばかりに爽やかに報告してくるアレン。
「今日も綺麗だなぁ、リンフィーネ様」
「レイドリック様ともお似合いですわ!」
「ディーク様のあんな笑顔見たことないです〜!」
「アレン様の眼差しも優しいものですわ!」
「あの方々は本当に絵になりますわねぇ〜」
盲目的に私達を崇拝する、生徒達。
つまらない日常だな。
心の中で溜め息をつきながら、表面上では笑顔を繕う。
そこで私は、一人の女子生徒が目に止まった。
私を憎悪の篭った瞳で睨みつけてくる人。
手は固く握られていて、唇は強く噛みすぎたのか血が滲んでいる。悔しそうにこちらを見る瞳と目が合った瞬間、自然と口角が上がるのが分かった。
あぁ、あの子が“ヒロイン”だ。
私と目が合い、笑われたことに気付いたのか、彼女は顔を怒りで真っ赤に染め上げて走り去っていった。
「フィー、どうしたの?何か面白いことでもあった?」
レイドリックに呼ばれて顔を向ければ、三人とも不思議そうに私を見ていた。
そんなに分かりやすく表情に出てたのか、危なかった。
彼女に会えたことが嬉しすぎて、いつものポーカーフェイスが崩れるところだった。
やっと見つけた彼女の後ろ姿を一瞥してから、彼らの方を向いて極上の笑顔で答える。
「えぇ、とっても面白いことですわ」
役者はこれで揃いました。
“今回の”ヒロインちゃんは、どんな《喜劇》を見せてくれるのかな?
舞台を盛り上げるためにも、貴方達“駒”は
私の思い通りに動いてくださいね。
あぁ……楽しみだなぁ。
さぁ、楽しい舞台を始めましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
本当は連載で書きたかったのですが、力尽きたので短編で妥協してしまいました……。
要望があれば、別な人視点のものや、もしかしたら連載……?もあるかもしれません。笑