こころのランプ
あぁ、寒い。
吹き付ける雪、手に持ったマッチは湿気っている。
唯一のランプに火を灯すことも叶わない。
ちっ、と男は小さく舌打ちをする。家を飛び出したのはほんの些細なきっかけだった。
車に積んだままだった、ろくに手入れもされていない登山靴に履き替えたのは昼過ぎだろうか。時計なんて見ていなかった。
少しして空が陰ってきたのはもちろん気が付いた、だが、気が落ち着くまではここにいたかった。
そういえば、マッチならもう一箱あったはずだ。
鞄の底を漁る。クッキータイプの簡易食が出てきた。
車に乗り込んだときは、どこへ向かうかなんて考えていなかった。ただ、どこかに行きたかった。
自然と足が向いたのは登り慣れている近くの山だった。
嫌なことがあれはここに来る。ここに来たのも当たり前と言えばその通りだ。
簡易食の封を開ける。さぁ、マッチはどこだ。
些細な言い合いだったのだろう。
どちらが悪いなんて言えないような。娘も加わって、2対1になるのも慣れている。
自分にも非があることも分かっている。ただ、口に出したら止まらない。
くたびれた箱のマッチが出てきた。これなら火が付きそうだ。
ようやくランプに火が入る。
あぁ、あぁ、寒い
とても、寒い