4.手紙
茶色い手が、その家の戸をたたいた。
風の音と間違えそうなノックだった。
それでも、おばあさんはお客に気付いて、肩にリスとスズメとヤマバトを乗せ、ウサギをだっこして、戸を少し開けた。
戸をたたいたのは、キツネだった。
木の上では、白いカラスがキツネを見ていた。
雪に埋もれて誰もカラスに気付かない。
戸をたたいたキツネが頼んだ。
「おばあさん、こんばんは。あたたかいおうちへ、いれてください」
「そうかい。じゃあ、薪を持っておいで。そしたら入れてあげるよ」
キツネは森へ走り、おばあさんは戸を閉めた。
しばらくして、キツネは椅子の脚の太さの枝を一本、引きずって戻った。
おばあさんはキツネを家へ入れた。
キツネは、おばあさんの椅子の下へ座って、暖炉にぬくぬくあたった。
引いてきた枝をくべると、火は赤々と燃え、薪はパチパチ音を立てた。
おばあさんは、毛糸と編み棒を手に取って、また編み物の続きをした。
木の上では、白いカラスがキツネを見ていた。
雪にまぎれて誰もカラスに気付かない。
◆
雪は白いカラスの上にも、しんしんと降り積もった。
カラスに降る雪は、森にもしんしんと白く重なった。
旅人が、綿雲のように白い息を吐きながら、森の中の小さな家を訪れた。
トントントン。
風にまぎれることのない、しっかりしたノックだった。
おばあさんは、できあがった手袋をして、肩にリスとスズメとヤマバトを乗せ、ウサギをだっこして、キツネと一緒に戸を少し開けた。
「おばあさん、お手紙を預かってきました」
「まぁまぁ、ありがとうね。何もないけど、あったまって行ってちょうだい」
おばあさんが戸を大きく開けて、旅人を迎え入れる。
木の上で雪に埋もれていた白いカラスが、雪を払い落として飛んだ。
旅人の頭を飛び越えて、まっすぐに暖炉へ。
火は赤々と燃え、薪はパチパチ音を立てる。
白いカラスは誰よりもあたたまろうと、火に近付いた。
近付きすぎて、雪のように白い羽は、焦げて煤だらけ。
カラスはあまりの熱さに驚いて、家の外へ飛び出した。
旅人が預かってきたお手紙には、こう書いてあった。
「おばあさんへ。
今日は冬至です。
一年で一番長いこの夜が明ければ、少しずつ日が長くなります。
どんなにか夜明けが遠くに見えても、明けない夜はありません。
あたたかくして、冬の一番底を乗り越え、春を迎えてください」
カラスは、雪の中を飛んで飛んで飛んで、逃げて逃げた。
やっと翼が冷える頃には、すっかり真っ黒になっていた。
その時から、カラスの羽は、炭と同じ色になったと言う。
そんな、遠い遠いずっとむかしの物語。
何がどうと言うのでもない、民話にありがちなお約束展開です。