2.お客
小さな手が、その家の戸をたたいた。
風の音にまぎれて、消えてしまいそうに、かすかなノックだった。
それでも、おばあさんは小さなお客に気付いて、戸を少し開けた。
戸をたたいたのは、リスだった。
木の上では、白いカラスがリスを見ていた。
雪に埋もれて誰もカラスに気付かない。
戸をたたいたリスは言った。
「おばあさん、こんばんは。あたたかいおうちへ、いれてください」
「そうかい。じゃあ、薪を持っておいで。そしたら入れてあげるよ」
リスは森へ走り、おばあさんは戸を閉めた。
しばらくして、リスは毛糸のように細い小枝を一本、くわえて戻ってきた。
おばあさんは、リスを小さな家へ入れた。
リスはおばあさんの右肩に乗って、暖炉にぬくぬくあたった。
小枝をくべると、火は赤々と燃え、薪はパチパチ音を立てた。
木の上では、白いカラスがリスを見ていた。
雪にまぎれて誰もカラスに気付かない。
しんしん、しんしん、一年で一番長い夜に雪が降る。
しんしん、しんしん、冷たい風に煽られ粉雪が舞う。
しんしん、しんしん、枝がしなりバサリと雪が下へ。
しんしん、しんしん、枝先の閉じた冬芽に雪が降る。
◆
その家の窓をコツコツコツと叩く者があった。
おばあさんが雪に埋もれた窓を見ると、スズメが一羽、ふるえていた。
小さな小さなくちばしで、灯の漏れる窓をたたいた。
風の音にまぎれて、消えてしまいそうに、かすかなノックだった。
木の上では、白いカラスがスズメを見ていた。
雪に埋もれて誰もカラスに気付かない。
おばあさんは小さなお客に気付き、肩にリスを乗せて、窓辺に立った。
窓をたたいたスズメが言った。
「おばあさん、こんばんは。あたたかいおうちへ、いれてください」
「そうかい。じゃあ、薪を持っておいで。そしたら入れてあげるよ」
スズメは森へ飛び、おばあさんは暖炉の前の椅子に戻った。
しばらくして、スズメはワラを一本、くわえて戻ってきた。
おばあさんはスズメを家へ入れた。
スズメはおばあさんの左肩に止まって、暖炉にぬくぬくあたった。
一本のワラをくべると火は赤々と燃え、薪はパチパチ音を立てた。
おばあさんは、カゴから毛糸と棒を出して、編み物の続きをした。
木の上では、白いカラスがスズメを見ていた。
雪にまぎれて誰もカラスに気付かない。
ちらちら、ちらちら、風が止み、闇に雪が舞う。
しんしん、しんしん、池が凍り、木に雪が積む。
ばきばき、どさどさ、枯枝が折れ、雪が落ちる。
しんしん、しんしん、冬芽は、じっと春を待つ。