1.冬至
一年で一番、日が短くなる日。
今年、もう幾度目かの雪が降ってきた。
分厚い雲が空を塞いで、お日様を隠す。
雲の分だけ空が低くなり、地に近付く。
真っ白な雪が、雲間から、後から後から、舞い降りる。
羽毛のようにふわふわ軽い雪が、風に舞って空で踊る。
灰色の雲の中から次々と生まれては、地に降りてくる。
木々はすっかり葉を落とし、幹と枝は雪の白と影の黒。
灰色の雲と雪の白と影の黒。彩りを失った冬色の世界。
お昼過ぎには、雪は小さく細かく千切れた。
さらさらと、灰色の空を埋め尽くして降る。
さらさらと、粉雪が灰色の空を埋め尽くす。
ひとりの旅人が、暗い森をとぼとぼ歩く。
木々は、純白の毛布のような雪をまとう。
枝に残った赤い木の実は、季節の忘れ物。
地は、深い雪の毛布の下で、凍えて眠る。
風は森の外よりも穏やかで、静かだった。
しんしん、しんしん、降り積む雪が、音を吸いこむ。
しんしん、しんしん、音を吸いこみ、雪が降り積む。
雪の上には、ウサギやキツネの足跡が残っていた。
すぐに雪が降り積もり、あっという間に覆い隠す。
しんしん、しんしん、粉雪を凍える風が散らかす。
しんしん、しんしん、降り積む雪がすべてを隠す。
時々、枝から雪が落ちる他は、旅人が雪を踏む足音しか、聞こえない。
旅人の吐く息が、雲のようにぽっかり丸く浮かび、風に流れて消える。
旅人は来た道を振り返った。旅人の足跡も、いつの間にか消えていた。
しんしん、しんしん、風が吹き上げ、粉雪が舞いあがる。
しんしん、しんしん、粉雪が舞い散り、風を白く染める。
しんしん、しんしん、地吹雪が空の粉雪とひとつになる。
旅人はまた、深い雪を踏みしめて、ゆっくりと歩き出した。
森の中に土壁の小さな家があった。
煙突から細い煙が立ち昇っている。
屋根には真綿布団のように厚い雪。
しんしん、しんしん、雪が積もる。
しんしん、しんしん、森が冷える。
しんしん、しんしん、音が消える。
いつもより早く日が暮れて、一年で一番長い夜が来た。
しんしん、しんしん、雪と夜の帳が下りて。
しんしん、しんしん、すべてが息を潜めて。
しんしん、しんしん、どこまでも続く夜へ。