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お友達ってなんだっけ

「お待ちなさい」


 長かったような短かったような一日が終わり、帰ろうとした姫華に声が掛けられる。

 振り返った姫華は内心やっぱりきたな、と思いながら不思議そうに小さく首を傾げる。

 そこには眉根を寄せて姫華を睨み付ける一対の瞳。


「あら、どうなさいましたの?優美子さん」


 彼女の名前は春日優美子。

 姫華の家と遜色ない家の一人娘で、父親同士はライバルだ、と人目も憚らずに豪語している。

 お互いがお互いを意識し切磋琢磨しそれぞれの家を盛り立ててきた。

 だが、なんだかんだと腹を割って話し合える間柄で、お互いを認め合っているのが周りから見てもわかる。

 本人達は認めないが。

 そして昼間、陽乃を非難していた令嬢と睨み合っていた令嬢だ。


「……ちょっと顔貸しなさい」


 そう言ってさっさと自分を迎えに来た車に乗り込む。

 姫華は小さく微笑んで自分を迎えに来た運転手に後で連絡をすると告げ、むっすりと顔を顰める優美子の待つ車に乗り込んだ。


「……今日の出来事は一体どういうことなの」


 車が目的地に着くまで優美子はずっと姫華を睨み付け、姫華は優美子ににこにこと微笑みかけていた。

 目的地──優美子の家──に着くと優美子はすたすたと自室へと向かう。

 姫華は出迎えに出ていた執事やメイドに挨拶し、先を歩く優美子を追い掛ける。

 そんな優美子の部屋は可愛いものに溢れている。

 淡いピンクと白で室内は纏められ、レースやぬいぐるみがそこかしこに見える。

 小さい頃から変わらないな、と思いながら優美子と向き合ってソファーに腰掛ける。

 ソファーもレースがふんだんに使われたカバーが掛けられ、目の前のローテーブルに掛けられたクロスもレースたっぷりだ。

 実はちょっとくどいと思っているが、個人の趣味に口は出さない。


「どういうこと、とはどういうことでしょう?」


 微笑みながら首を傾げればメイドがしずしずとやってきてテーブルにクッキーと紅茶を並べて、そっと去っていった。

 優美子はむっすりと頬を膨らませて私を睨み付ける。


「今日急に大事にした理由よ」


 実は優美子は鶴ノ薔薇宮学園の中で姫華と陽乃の関係を知っている数少ない人間の一人である。

 後は叔父である理事長しか知らない。

 二人はそれこそ物心つく前から一緒に遊んだりしていた。

 緩やかなウェーブを描くふわふわの長い髪を、左耳の下でリボンで束ね胸元へと流すという髪型がお気に入りで中等部に上がる頃に定着していた。

 髪型が変わっても納得いかない時に毛先を指にくるくると巻き付ける癖は昔から変わらない。


「実は私も驚きましたの。予定では卒業まで放っておくはずでしたのに」


 そう言いながらも姫華は思う。

 貴女に知られる予定もなかったのに、と。

 姫華と陽乃の関係は学園では表面上の付き合いしかしていなかった。

 だが、陽乃への嫌がらせの収束に動いた事で彼女に聞かれたことがあった。

『何故貴女が動くの?』と。

 陽乃が友人であることは伏せていたのに、彼女は気付いた。

 言及したわけでもないのに。

 かと言ってお互いがそれを言葉にしたことはない。

 それなのに確信していた。


「最近は陽乃さんへの嫌がらせよりも貴女への嫌がらせの方が顕著でしたものね」

「あの程度では嫌がらせにもなってませんけどね」


 そう言って膨れる優美子に苦笑いを返すしか出来ない。

 既にどこか納得した優美子からカップに視線を落としゆっくりと喉を潤す。


「陽乃さんに先を越されてしまったのね」

「何故優美子さんががっかりされますの」

「わたくしが貴女を庇って差し上げたらわたくしの株が上がりますわ」

「そんな物が欲しいの?」

「欲しいわけないでしょう」


 舌の根も乾かないうちに否定ししまった、と顔を顰める優美子に姫華の笑みが溢れる。


「わたくしより弱い者を支えるのは、人の上に立つ人間として当然のことですわ」


 つん、と顔を背けて言う優美子だが、姫華は知っている。

 彼女が彼女なりに姫華を心配していることを。

 優美子は素直になれないだけなのだ。

 昔から変わらない優美子に昔のように頭を撫でてやりたくなる。

 撫でたらその手を叩き落とされるのだけれど。


「ツンデレですわね」

「誰がツンデレですの!わたくしはこんなにも素直ですのに!」

「はいはい」

「何ですのその返事は!」

「優美子さんは可愛らしいわね」

「馬鹿にしてますの!?」

「まさか。私の事を気にかけてくれるお優しい方だと感激しておりますわ」

「素直に喜びなさいよね!」

「そっくりそのままお返しいたしますわ」

「なんですって!?」


 喧々囂々、ああ言えばこういう、こんなやり取りをしているから仲が悪いのかと勘違いされる。

 優美子も友達じゃありませんわ、と否定するのだから。

 だが少し話をすればわかる。

 何だかんだ言いつつ優美子は姫華をよく知っていることを。

 そして最終的には満面の笑みで言うのだ。

『わたくしと肩を並べられるのは姫華さんだけですわ』と。

 馬鹿な子ほど可愛いとはこれか、と姫華は笑いを堪えるのを苦労したことを思い出す。

 この話はとあるパーティーで何処かの令嬢が優美子に擦り寄って来た挙句、姫華を貶める様な発言をした時の優美子の台詞らしい。

 春日のおじ様が教えてくれたのだ。

 パーティー会場で胸を張って言い切ったというその場で見たかったと思った。

 きっと、何を見ているのと怒るんだろうけど。

 ツンデレにも程がある。

 一切隠し切れていないけれど。

 だが姫華も(ゆみこ)のことは言えない。

 もし誰かが優美子の事を悪く言うのならば、いかに真っ直ぐで可愛らしくて優しくて努力家であるかを懇懇と説明して悪口を撤回させる。

 いや、させたが正しい。

 既に撤回させた事が何度かある。

 半泣きで謝られた。

 こちらはしっかりと余計なことは言うなよ、と微笑んで終わらせたけれど。


「……これからどうしますの」


 さっきまでの憤りを何処かに放りじっと此方を窺う目に姫華は微笑む。


「平和な学園生活を送らせていただきますわ。この先そうそう面倒を起こすような愚行はないと思いたいですもの」

「あそこまでやられてまだ面倒を起こす愚か者はいないはずですものね」

「ええ」

「じゃあ後日きちんと彼女を紹介してくださいね」

「まあ、何故?」

「貴女のライバルはわたくしだけですわ!」


 声高々に宣言する優美子はいい加減ツンデレを止めたらいいのにと姫華は溜め息を零す。

 自分達の父親を見て育った為にライバルと友人の違いが混濁している。

 お友達ってなんだっけ。

 だがこれも友情の一つの姿なのだろう。

 可愛い友人に姫華は心がほっこりする。

 物凄く嫌そうに睨み付けられたけれど、私は悪くない。

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