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8話 第3小隊

 第3小隊のやつらはシンヤを除いて全員で6人。

 話に聞く限りは魔王討伐の為の中核メンバーだけあって、全員がどのポジションでもこなせる様に訓練されているらしい。それは戦況に応じて自分の役割を判断し、最適な連携と取れるということだ。

 その実力がどれ程のものか試す為に、まずは小手調べとしてスキルを発動させる。すると俺の右手には火球が作りださたが、これ自体はこの世界に来てから覚えたただの初級魔法だ。だが少しだけスキルで細工はしてあるので、それを第三小隊へと打ち込んだ。狙ったのは最も先頭にいた短髪の男。しかし、それは簡単に躱される。 


「おいおい、なんだよこのヘボい魔法は。こんなの俺達に当たるわけないだろザコが」

「そう言ってやるなよ。俺たちが特別なんだ。それをじっくり教えてやろうぜ」


 奴らは俺をなめきっているせいで、まともなフォーメーションを組んでいなかった。先頭に立っているタンク役が魔法を受け止めるべきなのだが、男は勝手に回避する。

 フォーメーションをまともに組んでいないのだから、たまたま自分が先頭にいただけでタンク役の意識はなかったのだろう。


「それじゃ、このまま行かせてもらうぜ!」


 そいつは見切ったように回避したと同時、体を捻り攻撃の体勢を整えた。そしてこちらへ向かってこようとしている。さすがに訓練されているだけあってその動きはスムーズだが、根本的にこいつの行動は間違っていた。あの魔法は避けるのではなく受け止めるか、もっと大きく回避するべきものなのだ。


「それで躱したつもりか」


 言葉の意味が分からないと言うような表情を見せた男だったが、直後、そいつの後ろで爆発が起きる。俺が放った火球はただの初級魔法には違いなかったが、スキルによって二つ属性が付加されていた。それがホーミングと爆発。これを付加された火球は任意のタイミングで爆弾のように爆発されることができた。ゆえに、やつは回避したと思ったところに背後から爆風を受けたのだった。もっとも威力自体は初級魔法なので殺す程ではない。

 しかし、不意打ち同様に攻撃を受けたせいか思いの外ダメージを受けたようだ。男は地面に倒れ背中の傷がいたいのか呻いている。だが、それもすぐに回復魔法で癒したようでこちらを睨んでくる。


「くそっ、油断した。お前ぜってぇー許さねぇぞ、こんな不意打ちもう食らわねーからな、いい気になってんじゃねぇーぞ!」


 男はよほど見下していた相手から地面に倒れる程の攻撃を食らったことがムカついたらしい。他のやつらも今の攻撃で、多少こちらを警戒したようでフォーメーションを組みだしたようだ。  


「そうか。だったら油断せず防いでくれ」


 そう言って俺は新たに火球を作りだした。


「へっ、そんなの分かってたら食らうかよ」

「だったら、こんなのはどうだ」

「はぁ?」


 そしてさらに火球を作りだした。一つ、また一つとその数はどんどん増やし周囲に浮かび上がっていく。その光景に男は顔を青くしていった。

 やがて周囲だけでは収まりきらず、この空間を埋め尽くすほどの火球が作りだされる。その総数は百。いくら初級魔法とは言ってもこれだけの数では、少し痛いじゃ済まないだろう。


「今度は油断しないでくれよ。まあ、不意打ちでもないし、第3小隊のエリート様ならこの程度は防げるか。済まない、余計な心配だったな」

「おい……ちょっと待て、待てって!」


 まあ実際、威力は低いし受け切るだけの防御力があれば数が多いだけでたいした脅威じゃない。

 たぶん死ぬことはないだろう。


「それじゃ、受け取ってくれ」


 そうして男の言葉を無視し、全ての火球を降り注げた。

 百個の火球は男へと命中すると、次々の爆発していき炎で包み込む。その様子はちょっとした爆撃みたいなものだったが、やがて火球がすべて爆発し終わると、衝撃で巻き上がっていた砂埃も晴れてくる。

 そして男の姿が見えてくる。その体は焼け焦げており所々が損傷しているが、まだ息はあるようだ。これなら後で回復魔法で治療できるだろう。

 男に向けていた視線を残った第3小隊のやつらへと向けると、そいつらは完全にフォーメーションを組んでこちらへと仕掛けようとしていた。そこに油断している様子はなく、確実にこちらを仕留めようとしているものだった。


「恐らくあの爆撃がやつの能力だ。近接戦も多少はできるようだが、所詮は一人だ。連携で押し込めば圧倒できるはず。一気に畳み掛けろ」


 あれが第三小隊の隊長か。ずいぶんと戦力判断が甘いようだ。

 やつらは残り五人だが、そのうちの三人が同時にこちらへと迫って来た。

 またあの魔法を出されては厄介だと思ったのだろう。そして、後ろの二人がそれを援護するように魔法を打ち込んでくる。接近していくるやつらと魔法攻撃で合わせて4方向から波状攻撃か。悪くはないが、こいつらにとっての最良は戦うのをやめて逃げることだったな。

 まずは後方から放たれた魔法を同じ魔法で相殺する。ただし、相手が使ってきたのは上級魔法。それに対し俺が使ったのは初級魔法なので数と速度で対抗しなくてはいけないのが面倒だった。俺がこの世界に来てから覚えているのは未だに初級魔法だけだからな。さすがにいきなり俺が上級なんて撃ちだしたら後で言い訳がめんどくさい。

 そして次は接近してくるこいつらか。左右に二人と後ろに回り込んだ一人が同時に仕掛けてくる。それにしてもなんでこいつらの武器は全員剣なんだ。後衛を担当してる二人すらも剣だし、何かこだわりでもあるんだろうか。まあそっちの方がこっちも対処しやすいが。

 まずは左右から仕掛けてくるやつらの剣の側面を掌でいなして体を捻り、後ろのやつも巻き込んで円を描くように薙ぎ払う。勢いをそらして攻撃を防ぎつつも、相手に攻撃を加える体術スキルだ。


「五人がかりでもこの程度か。手加減してくれなくてもいいんだぞ?」


 そう言って挑発するとやつらは顔を赤くする。

 今まで軍の中でも特別扱いを受けてきて、こんな扱いはされたことがないのだろう。


「ふざけんな、俺たちは特別なんだ。お前みたいなザコ小隊のやつらに!」

「くそが、調子に乗りやがって!」

「だったら本気でやってやるよ!」


 そう言ってやつらは再び向かってきた。

 しかし、やつらの攻撃が届く前に俺は新たにスキルを発動させる。

 すると地面から土の塊が隆起する。それは先端が鋭く尖り、人間の体など簡単に貫けそうなものだ。というよりも実際にやつらの体を貫いた。

 これも土の初級魔法だがスキルで強化してあるので通常のものより数段固い仕上がりでその強度は鋼鉄にも及ぶものだ。

 これで残りは二人か。そっちの方向を見ると奴らはかなり狼狽した様子だった。

 距離が離れているので魔法で仕留めるか。右手を突き出し、それを放つ。今度は風の初級魔法だが、これももちろんスキルのよって強化されたものだ。圧縮された風が二人を薙ぎ払い、その体を切り刻む。

 こうして第3小隊は全滅した。



 

 

 

 戦闘を終えてラナヴルの元へと戻る。


「それじゃ行くか」

「う、うん……」


 彼女の手を引き第26小隊へと合流すると、皆かなり気まずそうな顔をしていた。それはそうか。上位系統の小隊を全滅させてまで、魔族を庇うなんて普通じゃないもんな。


「みんな、いろいろ思うところはあると思うが俺の話を聞いて欲しい。この魔族は悪いやつじゃない。黙って殺されるのを見過ごすことはできなかった。皆も話してみれば分かる」


 その言葉に答えたのはミサキだった。


「クオンくん、さっきも言ってたけど、この魔族。本当に人間の言葉が話せるの?」

「ああ、話せる。ラナヴルって名前だ、話しかけてみるといい」


 彼女はおそるおそるラナヴルに話しかけた。


「ラ、ラナヴルちゃん?」

「な、なに……」


 二人ともお互いに怖がっているようでぎこちない。

 だがミサキを含め他のメンバーも本当に会話ができたことに驚いていた。

 

「な、会話もできる。悪い奴じゃない」

「う、うん」


 そうしてミサキはラナヴルとの会話を続けた。

 

「ラナヴルちゃんは悪い魔族じゃないの?」

「ちがう。わたし、何も悪いことしてない」


 本当は食糧を奪ったりしてるけど。

 ただこれは人間の社会のことを知らないだけだ。決して人類の敵だとかそういうものではない。そこらへんのことを会話を聞いてたメンバーに補足した。

 そうして二人の短い会話が終わり、いよいよこれからのことに話題が移る。

 一番渋い顔をしていたのがタケアキだ。


「話は分かったが、俺達の任務は魔族の討伐補佐だった。それが、魔族を討伐するはずの第3小隊を壊滅させ、魔族を守ったと。これは立派な反逆行為だぞ。それに俺はまだその魔族のことを信用していない。俺達を騙すための作戦かもしれん。見た目こそ少女だが、年齢はそうではないはずだ。どれだけ老獪な考えを持っているかわかったものではない」

「なら隊長はこの子を殺すって言うのか」


 タケアキは魔族が嫌いなようだが、第3小隊とは違って話が通じる男だ。説得できるはず。ユナの方を見ると、彼女は俺の考えを察したのか頷き、タケアキに話しかける。


「隊長、私もこの子は悪い子には見えません。それにこうして会話ができてる女の子を殺すなんて、可哀そうです。私にはできません。ミサキもサヤカちゃんもできないよね?」


 そう言ってユナは二人に同意を求めた。


「え……うん。確かに普通の女の子って感じはするかな」

「そうですね。せめて拘束ぐらいは必要かと思いますが」


 これで7人中4人がラナヴル擁護派になったな。


「待てよ、そりゃ確かに可哀そうだけど、魔族は人類の敵なんだぞ。このまま中央に戻ってもどうせ殺されるだけだろ。それに第3小隊もあんなにしちまってどうするんだよ」

「ケンタの言うとおりだ、ここで命令違反を重ねて魔族を保護しても無駄に終わるだけかも知れない」


 ケンタとカズヒロが邪魔してきたか。


「どっちにしろもう第3小隊を全滅させてしまった。軍法裁判は避けられない。全て俺の責任だが、その証言のためにも彼女は必要だ。だから連れて帰る」 

「いい加減にしろよ! 魔族の味方をするのも、第3小隊を全滅させたのも、全部クオンがやったことだろ! 勝手なことばかり言って俺達を巻き込むなよ! お前のせいで俺達まで反逆者扱いになるだろうが!」


 ケンタが襟首を掴み突っかかってきたが、ユナが止めに入る。


「ちょっとケンタさん、落ち着いて!」


 そうして俺たちが言い争っていると隊長が口を開いた。


「お前ら静かにしろ! これ以上問題を起こすな。どっちにしろ今回のことは一度、中央に報告せねばならん。判断は上に仰ぎ、その決定に従う。魔族の処遇はそれまで保留だ」

「隊長、正気ですか」

「仕方ないだろ。ここでまた魔族とクオンに暴れられても困る」


 そうして隊長は中央へと連絡を取り行き、サヤカはその間に第3小隊の治療に当たっていた。

 やがて隊長が連絡を取り終え戻ってきた。

 メンバーの注目が集まる中、隊長は告げる。


「魔族は中央に連れて帰る。ただし、クオンは命令違反者として拘束し、魔族も同様に拘束して連行する。そういうわけだ、クオン」

「ああ、仕方ない。拘束してくれ」


 魔族を連れて帰るという決定がされたことに、ケンタたちは驚いていたようだが、とりあえず小隊を誰も傷付けずに、ラナヴルの安全を確保できたようだ。

 もし、これでラナヴルの討伐命令でも出されたら、隊長たちと敵対するところだったからな。


「それでは今回の任務はこれで終了だ。これより帰還する」


 そして俺とラナヴルは手錠を掛けられ、中央へと戻ることになった。 

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