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7話 魔族

 森へと向かった俺たちは、騎士団の誘導を受け奥へと進み、フォーメーションを組みながら魔族がいる場所へと進んでいく。森の中には魔族が逃げようとして放った魔法の痕跡があちらこちらに刻まれていた。その様子から、確かに騎士団がまともにやり合うには、この相手は荷が重いのかもしれない。


「よし、それでは目標の魔族を包囲する。あくまで魔族をここに留めるのが俺達の役目だ、無理はするなよ。討伐は後から来る第3小隊がする」


 それぞれが了解と返事をして、さらに進んでいく。そうして森の奥まで来ると、戦闘の痕跡が新しいものへと変わっていってるのが分かった。すぐ傍のクレーターもさっき作られたばかりのようで、熱を放っていた。

 

「臭いが近くなってる。もう、すぐ側まで来てるから気を付けて」


 ミサキがメンバーに注意を促しさらに進んでいくと、そこに魔族の少女がいた。だが、隊長は攻撃命令を出さない。俺たちは彼女が逃げようとしたら、そのとき動けばいいのだ。わざわざこちらから仕掛ける必要はない。倒すこと自体は、もうすぐ来るであろう第3小隊に任せればいいのだ。

 そうして遠目で魔族を様子を伺っていると、あることに気が付いた。どうも彼女は独りではないようだ。正確には人ではなくモンスターだが、彼女の傍には大きな狼型のモンスターがいた。

 そしてそいつはコチラを向いて唸っている。少女もモンスターが唸っているのを見て、こちらの方を向き、泣きそうな顔をしていた。

 泣いている?

 その表情は、帝国で読んだ本のイメージとはずいぶん違うように感じた。本には魔族とは人類の敵で、決して分かり得ない邪悪な存在だと書いてあったのだが、彼女はそんな風には見えない。


「騙されるなクオン、この森に入ってからもあの魔族が攻撃によるクレーターが多くできていただろう。それがやつらの狂暴性だ。それに、実際に民家も襲っている。ただ見た目が少女なだけで、本性はまったく違う」


 隊長はそう言って少女との間合いを計っている。

 そして、彼女がこちらに叫ぶように話しかけて来た。


「お願い、もうやめて。これ以上、わたしたちをいじめないで。なんで、わたしたちを攻撃してくるの。やめてよ!」


 それは助けを乞う悲痛なものだった。

 それに対し、メンバーたちは感想を口に漏らした。 


「い、威嚇してきた」

「仕掛けてくる気か」

「ミサキちゃん……」

「だ、大丈夫だよユナ、わ、わたしがやっつけるから!」


 言葉が、通じていない?

 俺にはこの世界の言語が全て日本語に聞こえる。だから彼女の声が皆にどんな風に聴きこえているのかは分からない。だが、彼女の言葉はまるで通じていないどころか、誤解されているようだった。

 少女の叫びを、威嚇と勘違いしたメンバーたちは攻撃を仕掛ける為に構えた。

 彼女は人類の敵とされる魔族だ。小隊のとった行動も仕方ないのかもしれないが、言葉の意味が分かる俺には、それを見過ごすことは出来なかった。


「ちょっと待て、お前たち。あの魔族に攻撃の意志はない」

「な、なに言ってるのクオンくん。だってあんなに威嚇してるんだよ、そんなわけないよ」

「俺もミサキに同感だ。すぐにでもこっちに飛び掛かってきそうな勢いだぜアイツ」


 皆は何を言い出すのかと、俺を伺ってきた。


「わかった。なら俺が証明する」


 俺は武器を全て手放し、彼女に話しかける。


「何もしない。だからお前も攻撃をするな」


 すると、少女はさっきまでの泣きそうな表情を一瞬止め、驚きの表情を見せた。

 そして俺は彼女へと近づいて行った。


「ちょっと、クオンくん危ない」

「クオンさんっ!」


 ミサキたちが声を掛けてくるが、大丈夫だと言って彼女の傍に行く。


「俺はお前の言葉が分かる。だから、もう攻撃はしない」

「あ、あなたも魔族なの?」

「いや、違う。人間のつもりだ」

「でも、言葉が分かるのは同じ魔族だけなのに」

「いろいろあるんだよ。ところでお前の名前は何と呼べばいい」

「ラナヴルだけど……」


 ここならメンバーとも距離が離れて死角を作りやすい。

 死角になっていることを確認し、ゲームシステムのパーティー編成画面を操作する。


「ラナヴル。お前は今から俺の仲間になれ」

「いや。人間となんか仲間に慣れない。人間は嫌い。すぐ攻撃してくる」

「俺の仲間にならないと、また攻撃されるぞ」

「や、やだ。絶対仲間にならない」


 くそ、パーティーになれば翻訳プログラムをラナヴルにも適用できると思うのだが。

 しかし、彼女が承認してくれないとパーティーに入れられない。


「いいから俺の仲間になれ。このままだとお前の身が危ない」

「やだって言ってるでしょ! なんでいきなり知らない人間に命令されないといけないの!」


 そんなやり取りをしていると、傍にいた狼型モンスターが唸り声をあげてくる。

 これは翻訳がなくても本当に威嚇されてるのだと分かった。

 俺がラナヴルを襲ってると勘違いしてるらしい。

 

「こいつは何だ」

「こ、この子はポチウルだよ。な、なに、まさかモンスターだからって殺すの、そんなことさせない!」

「殺さないさ。でもこいつ、怪我をしている様だな」

「そうなの。この森で見つけたんだけど、怪我しててエサも取れないようだから面倒見てあげてたの」


 それで村に食料を奪いに行ってたのか。

 

「そいつの怪我、治してやってもいいぞ」

「えっ、治せるの!」

「ああ、俺にとっては簡単なことだ」

「ホント! だったら早く治して!」

「だが、条件がある」

「な、なにを要求するつもりなの?」

「俺の仲間になれ。そうすればこの犬を助けてやる」

「それは……ズルいよ……」

「嫌ならお前も、この犬も、二人とも死ぬことになる」


 これでは俺が無理やりラナヴルを自分のものにしようとしているみたいだが、それは言いがかりだ。

 仲間にしようと思ったのはラナヴルは話してみると人類の敵とはほど遠いものだと思ったからだ。あとは人間社会の常識を覚えて貰えれば、彼女も平和に暮らせるだろう。


「……うぅ。わ、わかった。仲間になるからポチウルを助けて」

「ああ、任せておけ」


 スキルはエフェクトが出てばれる恐れがあるので、アイテムで治療することにしよう。ストレージから回復薬を取り出し、ポチウルにかける。

 すると、すぐに怪我はふさがっていった。


「す、すごい。ずっと辛そうだったのに。一瞬で治せるなんて」

「俺にかかればこの程度だ。では、約束通り俺の仲間になってもらう」

「……う、うん。でも、ポチウルも一緒でいい?」

「そうだな……まあ、いいだろう」


 魔族を仲間にするんだからモンスターを仲間にしても同じことか。

 そうして二人をパーティーに加えた。


「よし、これでお前も人間の言葉が理解できるようになったはずだ」

「そうなの? 今までずっと会話できてからって……」


 そこでラナヴルは一瞬考え込み、話題を変えてきた。


「そういえば名前。まだ聞いてない。わたしまだあなたの名前知らないよ」


 名乗ってなかったか。そういえばそうかもな。


「俺はクオンだ」


 これで後は小隊の皆にラナヴルとポチウルのことを説明してジジイに相談しよう。

 そう思ったが、ふと違和感が浮かんできた。

 俺の読んでいた本を用意してくれたのはメイドのローザだ。あのときは何の疑問も持たなかったが、用意された魔族関連の本は、全て魔族は人類の敵で邪悪だという内容のものだった。

 そもそもスキルや魔法の研究しているような帝国が、果たして魔族の生態や言葉を本当に把握できていないんだろうか。

 もしかすると、帝国は魔族の本当の生態を知っててそれを隠してるのか。

 魔族の領地を奪うためか。それとも支配して利用するためか。あくまで想像にすぎないが念のために用心はしておいた方がいいだろう。帝国は信用するべきではない。

 ラナヴルはとりあえず傍に置いておこう。そうすれば何かあっても守れるだろう。


「それじゃ行くぞ」


 そうして小隊に戻ろうとしたとき、アラートスキルが発動した。

 すぐに周囲を確認すると、俺達を狙ったように魔法がすぐそばまで迫っていた。

 攻撃!? 誰が。

 

「ラナヴル、伏せろ」


 咄嗟に彼女を抱き寄せて、魔法を回避した。

 この状況なにか覚えがある。

 あの魔法も、ユナと初めて会ったときと同じ種類のものだ。


「第3小隊か」


 まさかこんなに早く着くとはな。空路って言ってたけど戦闘機でも使ったのかよ。

 それにしても俺ごと狙うなんて、あのときのこと、まだ根にもってるかアイツ。

 そうして攻撃が放たれた方向を見ると、ミサキがシンヤに詰め寄っていた。

 恐らく俺ごと攻撃に巻き込んだことを言及してるのだろう。

 しかし、厄介だ。第26小隊だけならまだしも、第3小隊も含めてラナヴルたちのことを説明できるだろうか。少し難しいように感じる。

 でもここで逃げたら魔族に寝返った反逆者扱いだろう。俺は別にそれでも構わないが、それだとラナヴルが、また人間から追われる生活に戻ってしまう。

 ここは説得する方向でいこう。


「攻撃を止めろ。この魔族は既に投降している。戦う意志などない」


 その言葉に二つの小隊は俺とラナヴルに注目した。

 説得するなら今がチャンスだろう。


「この魔族は人間の言葉を理解できる。食糧を盗んだのだって悪気があってやったわけじゃない。この子は中央へ連れて帰ることにした」


 第26小隊のメンバーは俺の言葉に戸惑っているが、攻撃の意志は最初から見せていない。

 しかし、第3小隊のやつらは違った。


「はっ、だったらどうだって言うのだよ。人間の言葉を理解できようが、悪気がなかろうが魔族ってのは人類の敵だ。投降してようがぶっ殺すだけだ。それに、そいつ。魔族のくせになかなか可愛いじゃないか。楽しめそうだ」


 こいつら、なんでこんな好戦的なんだ。

 特別な部隊に所属しているという特権意識か、それとも強さに自信があるのか。あるいは単純に戦うのが好きなのか。いや、最後のはないか。とてもそうは見えない。

 通常、第26小隊と第3小隊が戦場でぶつかることはない。なぜなら第3小隊の方が指揮系統が上位だからだ。だから、説得に失敗した場合は俺は命令違反として粛清されても文句は言えないのだが、説得は失敗した。これで第3小隊のやつらと敵対は確定か。

 そうして、一人の男が前に出てきた。やつらの中で唯一見覚えがあるやつだ。


「こいつは俺にやらせてくれ。ちょっと借りがあるんでな。それにしても命令違反をしてくれるとは助かったぞ。こんな正々堂々とボコれるとは思ってなかった」


 シンヤはそう言って剣を揺らしていた。

 すると、今まで様子を見ていた第26小隊の中からユナが飛び出してきた。

 

「待ってシンヤくん。お願い、攻撃しないで」

「へー、ユナも命令違反するんだ。願ってもないチャンスだな。たっぷり可愛がってやるよ」


 面倒な事態になってしまった。

 他の第三小隊の連中も下衆な笑いを浮かべていた。

 これはこいつらも、職権乱用の軍規違反なんじゃないのか。

 それとも他の小隊では、これが当たり前と感じる程に腐ってるんだろうか。


「おいシンヤ。お前にユナは勿体ない。あと、ユナは俺のことが好きだから」

「あっ、なんだとテメェー」

「ちょっとクオンさん! い、いきなり何を!?」

「だったらお前の前で奪ってやるよ!」


 シンヤはこの前同様、なにかしらのスキルで一気に加速してきた。

 だが、今日は素直にカウンターを取らせてもらおう。あのときはギルドカードもなかったので必要以上に手加減していたが、今はカードのステータスまでは出すことにしてるのだ。

 だったら不自然ではないだろう。

 シンヤは加速を活かすように剣を突き出して突進してきたが、それを躱して顔面に拳を撃ちむ。やつは突進の勢いが仇となり、そのまま大きく空中で回転して地面へと崩れ去った。


「クオンさん、すごい」


 ユナがその光景を見てそう呟くが、第3小隊のやつらはそうはいかない。

 仲間が下位系統の命令違反者に返り討ちやられて、黙っていられるはずがなかった。

 

「特別扱いされて喜んでるようなやつが、どれ程のものか見てやろう。シンヤみたいに一撃で倒れないことを期待してるぞ」


 とは言え、さすがにこの人数差はスキルを使わないと無理か。

 まあ、少しぐらいは見せてやろう。

 そしてスキルを発動させる。

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