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6話 任務

 軍に入ってから数日が経ち、小隊のメンバーともそれなりに打ち解けて来た頃。

 今朝もミーティングルームで皆と話していたのだが、ミサキが思い出したように話題を振って来た。


「ねぇ聞いた? 最近、魔族が現れたらしいよ」


 ここでも俺のニート期間に蓄えた知識が役に立った。確か魔族というのはこの世界では人間と争っている種族のことだ。総じて戦闘力が高く様々な形態を持っていると聞く。


「俺もその話は聞いたけど、まだ噂だろ。それに本当に魔族がいったって、どうせ俺達のところには回ってこなさ。どうせシンヤたちの小隊が担当するに決まってる」


 ケンタはそう答えたが、俺もそれと同意見だった。

 特に各小隊ごとに特色だとか役割があるわけではないが、一部の小隊だけは例外だった。その一つがシンヤたちの第3小隊。この小隊はリグセナドの中でも特別視されており、魔族関連の任務は優先して割り当てられるようになっている。

 第3小隊はいずれは魔王を討伐するときの中核を成すことを目的とされ編成されており、魔族との戦闘経験を積むためにそうなっているらしい。


「そうだけどさ、なんか怖いよね。もし魔族と戦うことになったら、私たちでも勝てるのかな」

「余裕だろ。この前だってあんな化け物みたいなでっかいゴブリンを倒したばかりじゃないか」


 二人がそんな会話の会話を聞いてると、若干の不安を覚えた。

 実際の魔族の強さがどのくらいかは知らないが、少なくともあのゴブリンは決して強くは見えなかった。そんな相手を倒したからと言って、そこまで楽観しているのは少し慎重さが足りない気がする。

 

「ケンタ。相手を軽く見過ぎない方がいい」

「うん、ケンタくんはいつも油断する」


 俺の言葉にサヤカも同意するかのように言葉を重ねてきた。サヤカは最年少ではあるが、ケンタよりもずっとしっかりした少女なのだ。

 

「別に油断なんかしてねーよ。それに俺達にはどうせ関係ない話だろ」

「もう、ケンタくん。そういう態度はダメなんだよ」


 そうしてケンタは年下の女の子に説教をされていた。

 そしてちょうどそのとき、部屋の扉が開く。

 隊長が来たようだ。そして隊長は二人のやり取りを見て、またかという表情をしていたが、それに関しては触れず別のことを切り出してきた。


「今日は報告することがある」


 その言葉に皆はすぐに軍人として、上官から報告を受ける体勢を整えた。

 恐らくは緊急招集ではない通常の任務が回って来たのだろうが、今まで魔族の話をしていただけに、メンバーの様子は少し緊張ぎみだ。

 隊長はその様子を見て、言葉を続けた。


「新しい任務が来た。帝国東部地区への派遣任務で、現地の騎士団のサポートを行う。概要は、東部地区の村が何者かに襲撃されたので、それの調査だ。犯人は不明だが、当事者の証言ではモンスターではなく人間だと言う。幸い被害は建物の損壊と食糧を盗まれただけで、死者は怪我人は出ていない様だ。しかし、相手は魔法を使ったらしい。なので、万が一の可能性も考えて俺達にも声が掛かったというわけだ」


 万が一……それは犯人が他国の異世界人の可能性があるということか。

 もしそうであれば、一番可能性が高いのが国に属さなかった異世界人が帝国に流れてきたものの、金もないので仕方なく食べ物だけを奪っていったパターンというのも考えられる。人に手を上げていないことから、そのような印象を受けた。

 しかし、相手は人間か。素直に投降してくれればいいが。


「というわけで今日の訓練は中止だ」


 そう言ってタケアキは詳細を伝えてきた。


「それでは各自出撃の準備をしてくれ。それが整い次第出発する」


 そして、隊長は本部に用事があるとかで一度出て行ったが、またすぐ戻ってくるらしい。

 残された俺たちは出発の準備を始める。戦闘用の制服へと着替えたり、荷物をリュックへと詰めていった。さっき地図を見せてもらったが、目的の村は遠いみたいだから必要なもの多い。

 

「でも、よかったですね。魔族の討伐じゃなくて」


 ユナがほっとしたような表情で話しかけて来たが、横からケンタが口を出してくる。

 

「だから言ったろ、魔族相手の任務なんて俺達にはまわってこないって」

「わかったから早く準備しなよ」


 それにミサキが軽くあしらうように答えた。

 ケンタはいつも軽いので、皆から突っ込まれたり説教されたりあしらわれたりすることも多いのだが、それとは反対に寡黙に黙々と行動するタイプがカズヒロだった。

 出動の準備を始めて、それを一番早く終えたのもカズヒロだ。

 

「では、俺は車を取って来よう」


 カズヒロはそう言って部屋から出て行った。小隊には車が配備されているので、俺たちは車で向かうことになる。

 そうしてじきに隊長も戻って来てきて、皆が準備を整えたことを確認する。

 

「では、これより出発する」


 隊長がそう号令をかけて車へと乗り込み、目的地へと向かう。

 運転はカズヒロ、助手席に隊長。その後ろに俺たちがまとめて乗っている。

 帝国中央地区を出ると、外観も変わってきてどんどんと田舎道になっていく。

 最終的には道もなくなり、ただの平地が広がっているだけだった。


「なんだかここまで来ると、本当にただの中世の田舎みたいだな」

「そうですね、帝国も領土全域を現代化するまでには至ってないですから」


 ユナとそんな会話をしていると、舗装されてない荒れた道を走っているせいか車が大きく揺れた。


「きゃっ!」


 体を強化されていないユナは大きくバランスを崩し、そしてこっちへと倒れこんできた。


「大丈夫か」

「は、はい」


 そう答える彼女の顔は近く、もう少しで触れ合いそうなぐらいだ。ユナは一気に顔を赤くして座り直した。彼女は謝ってくるが、恥ずかしくてこちらを見れないのか、顔を逸らしている。


「あ、あの、すみませんでした」

「ユナは体は普通の人間なんだから仕方ない。怪我をしなくてよかった」


 彼女は誰にでも優しく接して社交的なようだが、今の反応からすると異性との付き合いはあまり経験がないようだ。いや、あまりというか全くないのかも知れない。

 すると、その様子を見ていたサヤカがからかってくる。


「ユナさん積極的ですっ、その調子ですよ! でも、あと最後の一押しが足りなかったですね」   

「もう、サヤカちゃんっ! 私はただ本当にバランスを崩しただけなんだよ」


 それに対しユナは本気で照れて反論していた。

 年下の女の子に何をムキになっているんだ。

 

「へー、そうですか。じゃあ、ユナさんの代わりに本人に言ってあげましょうか?」

「ちょっと、誰にも言わないって約束でしょ」

「いいじゃん、別に。たぶん大丈夫だよ、ユナは可愛いし」

「ミサキちゃんまで何言いだすの!」


 いつのまにやら彼女らはこっちのことを忘れて三人で盛り上がっていた。

 というか、盛り上がっているのはミサキとサヤカの二人で、ユナはあたふたしてるようだが。

 そうして騒がしくなった車内も、時間の経過と共にだんだんと静かになってくる。

 さすがにずっと話していられるほど、短い移動距離ではないのだ。辺りはすっかり夜になっている。

 そして、体調の合図で休憩のため車を停めることになった。


「よし、それじゃこの時間で晩飯にするか」


 隊長がそう言ってメシの準備をするように言った。携帯食もあるのだが、そんなのより簡単なものでも普通に調理した方がいいし、その為のものは準備してきていたのでそれを使う。

 そして、調理を終えて夕食を取った後にまた車を走らせる。東部地区の目的の村へは一日で辿り着かないので、何度も運転手を交代していく必要があった。






 それから車を走らせ続けること2日。

 ついに目的の村へとたどり着き、隊長が指示を出す。


「我々はこれより東部地区の騎士団と合同で襲撃犯の確保に当たる。とりあえず先に騎士団のテントへと向かおう」


 騎士団は俺達よりも先にこの村へと到着しており、キャンプを張っていた。

 俺達は騎士団のこの事件を指揮している人間に到着の報告をし、騎士団が今までに調べてきた情報を教えて貰った。

 そして、その情報を基に俺達も行動を開始する


「よし、それではまずは被害にあった現場を見に行く」


 隊長の指示で向かったのは村のとある民家だった。その家の壁は粉砕され、見事に穴が開いていた。さらに周囲の地面は抉れ焦げた跡もある。


「まず、ここが最初の被害者の家だ。家主の話では、夜に物音がするので見に来たら、誰か知らない人間が家を漁っていて声を掛けると、壁を破壊して逃げていったという話だ。最初の、と言った通りここ以外に何か所も被害に会っている。被害自体は小さいものだが、問題は犯人の正体だ。これが異世界人の仕業かどうかが、我々にとっては重要となる。なので、我々でも騎士団と別のアプローチで犯人の捜索をする。こっちにはミサキもいるし、うまく行けばすぐに犯人を見付けられるだろう」


 隊長の説明を聞く限り、犯人のやってることはただの泥棒だ。

 そして、またすぐに移動していく。

 被害にあったそれぞれの家を巡り、そして最後に襲われた家へとやって来た。

 

「ミサキ頼めるか」

「うん、やってみるよ」


 そう言ってミサキは獣人化をして、地面に鼻を付けるように四つん這いになり、現場を嗅ぎまわる。スカート姿であまりする格好ではなかったが、彼女は下にハーフパンツを履いているので問題はないようだ。そもそも、そうでなければスカート姿の戦闘服など採用されないだろう。


「うーん、日にちが経ってるせいかほとんど臭いは残ってないけど、微かに感じる……けどこれ、もしかしたら人間のものじゃないかも知れないわ」


 獣人化したミサキは嗅覚も獣と同じように、多くの臭いをかぎ分けることができるので、今回のような追跡調査には向いている。だが、人間ではないとはどういうことだ。人間以外の別の種族が犯人ということなのだろうか。

 隊長も同じことを思ったのかミサキに質問をする。


「人間ではないとすると亜人のものか。だとすると、どの種族のものかは分かるか」

「うーん、獣臭くはないんだよね。だから獣人ではとは思う。他の亜人……エルフやドワーフかも知れないけど、そこまでは断定できないよ」

「追跡はできそうか」

「臭いが薄れてるからどこまで出来るか分からないけど、やってみるわ」


 そしてミサキは現場に残された臭いを辿っていき、犯人を追跡していく。


「ここから先はもう臭いが混ざり過ぎて分からないね」


 そう言って立ち止まった場所は、森の入り口だった。

 

「そうか、どうも相手は異世界人ではないようだし、我々も一端ここで引き揚げよう。俺はここまでのことを騎士団に伝えてくる。お前たちは先に休んでてくれて構わない。ここまで分かったら後は、騎士団で対応できるだろう。ただ、何かあったらすぐに動くことになるので、そのつもりでいてくれ」


 そう言って隊長は再び騎士団のテントへと向かっていった。このまま何もなければ、今日の捜索はこれで終わりか。

 もし、この森の中に犯人がいるのなら俺の探索スキルで見付けられるかも知れないが、泥棒相手にそこまですることもないだろう。後は騎士団に任せよう。そう思い俺たちは車へと戻った。

 そして、しばらくして隊長も戻ってくる。


「皆、ご苦労だったな。とりあえず後は騎士団の者たちが森を重点的に捜索してくれる。我々はそれには参加せずここで待機だ。捜索範囲も限定できたおかげで、犯人もやがて捕まるだろう」


 数の多い騎士団たちが人海戦術で森狩りをするらしい。

 そういうのは俺達の仕事じゃないのだろう。いくら泥棒だとは言え、相手は魔法を使う犯罪者だ。騎士団も野放しにはできないので、数を投入してさっさと終わらせたいのだろう。

 しかし、待機の多い任務だ。これならモンスター討伐の方がよっぽど楽だな。

 それからずっと動きがあるのを待ち続けていたが、やがて日も落ちてくる。夜になると森での捜索も難しくなってくるだろう。今日は進展なしか。

 そう考え始めた頃、騎士団の使いの者が隊長に何かしらの報告を伝達してきた。

 それを聞いて頷く隊長は、全て聞き終わると俺達にその内容を説明し始めた。


「いま、犯人を見つけたそうだが、魔法を使って逃げられたらしい。そして、敵の正体も判明した。相手は、魔族だ。魔法の種類と外見的特徴、その他総合的なことからそう判断された」


 その言葉に小隊のメンバーは息をのむ。

 この前話題に上っていた魔族だが、本当に自分たちが相手にすると思ってなかったのだろう。


「なので我々も、この事態に対応することになる。だが、我々の任務は魔族の討伐ではない。威嚇攻撃をして、森の外へと出さない様にすることだ。既にこの件を受けて、第三小隊がこちらへと向かっている、空路を使っているので、じきに到着するだろう」


 俺達は第三小隊が来るまでの繋ぎってわけか。


「そして、相手の姿だが桃色の髪が特徴的な少女の見た目をしているそうだそうだ。だが、決して見た目に惑わされるな。奴ら魔族は簡単に人を欺いて襲いかかってくる。見かけたら躊躇わず攻撃しろ」


 異世界人を相手にしなくていいと思ってたら、今度は少女か。

 いまいち気が進まない。


「それではこれより出撃する」


 隊長の号令で、魔族と戦うために森へと向かうことになった。

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