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5話 小隊

 翌朝。俺は約束通り入隊することになったので軍部区画へと向かっていた。

 結局、ユナたちの部隊も他の部隊もたいした違いはないようだったので、彼女たちの部隊へと入ることにしたのだが、まずは隊長に会いに行かなければならない。

 事前に言われていた部屋へと到着し、ドアをノックする。


「入れ」


 返事があったので扉を開けると、隊長と思しき男が椅子に座っていた。

 

「よく来たなクオン。俺が隊長のタケアキだ」


 タケアキと名乗った男は30才前後に見え、俺よりもずいぶんと年上のようだ。

 

「まあ、とりあえず座れ。ミーティングルームへ行く前に簡単な説明だけしておこう」

「いや、その必要はない。事前に聞いている」

「そうか。だが、情報の食い違いがあっては困るからな。俺の口からも説明しよう」


 タケアキはそう言って話し始めた。


「まず、この部隊は異世界人だけで編成された部隊だ。通称リグセナドと呼ばれている。そして、我々は第26小隊だ。隊員は総勢7名。そして主な任務だが、正規軍である騎士団で対応できないものがこちらに回ってくる。例えば上級モンスターの討伐や、他国の異世界人との戦闘などだ。もちろん通常任務として騎士団のサポートに回ることもある」


 それらは既にニート期間に学んでいたものだ。

 頷いて話を先へ促す。

 

「それで、お前のことだが事前にもらったデータによると、まだ魔法やスキルが使えないらしいな」

「そうだ。身体強化しかされてない」

「まあそれも訓練していくうちに覚えていくだろう。魔法は慣れが必要だが、異世界人の場合は大抵のものが使えるようになる」


 それも学んだな。

 異世界人はこの世界に召喚されると身体能力が上がり、特殊な能力を得る。

 さらに魔力を扱える体質に変わってることが多いらしい。こっちの世界の人間は魔法を使える人間は才能があるものだけと聞くので、ここでも差があるわけだ。


「それで訓練だが基本的には小隊ごとに行われている。リグセナドは少数精鋭の部隊でもあるから大規模な組織行動よりも、単独での目的達成を求められてるからだ。訓練内容については後程やりながら説明しよう。何か質問はあるか」


 ないと答える。


「では、これからミーティングルームへ移動する。朝はそこに集合するようになっているので、小隊の皆も既に待機してるだろう。お前のことを紹介しよう」


 そして俺たちは部屋を出て、ミーティングルームへと移動した。

 それは各小隊ごとに用意されており、一つの建物に集まっている。


「ここが第26小隊のミーティングルームだ」


 そう言ってタケアキは部屋の扉を開けて中に入っていったので、俺もそれに続く。

 部屋にはデスクや椅子、ホワイボードなどが配置されており、ロッカーも備え付けられていた。そして、部屋で待機していたメンバーの注目が俺に集まる。その中にはユナとミサキの姿も確認できた。


「皆、こいつは今日からこの隊に配属になったクオンだ。最近こっちの世界に来たばかりなので、まだ魔法などは使えない。訓練では気を付けてやってくれ。ではクオン、自己紹介をしてくれ」

「クオンだ。隊長が言っていた通り俺はまだ魔法が使えないが、体力には自信がある。それでカバーするつもりだ。よろしく頼む」


 この前のシンヤとのいざこざ。ユナたちのゴブリンとの戦い。それらを見る限りは、基本ステータスだけでも十分に通用するとは思う。軍隊に入ったとは言え、ジジイやこの国が信用できないことには変わりはないのだ。能力をバラすような真似はしない方がいいだろう。


「では、次はお前たちの番だ。順番に自己紹介しろ」


 そうしてそれぞれが自己紹介をしていった。

 

「ケンタ。ジョブは魔法剣士で主に前衛をやっている」

「カズヒロだ。ジョブは騎士で俺も前衛だな」

「私はサヤカ、ジョブは魔法使いよ。ヒーラーを担当してるわ」


 三人が自己紹介を終え、次はユナとミサキの番だった。


「ユナです。ジョブは魔法使いでアタッカーを担当してます」

「ミサキよ、ジョブは獣戦士で前衛ね」


 そして最後に隊長。


「俺のジョブは将軍。みんなのまとめ役だ」


 将軍か。つまり司令塔ってわけだな。

 見た感じ少し攻撃に寄ってはいるがなかなかバランスはいい感じに思える。あの程度のゴブリン相手に時間がかかってたのは、やはり連携に問題があるのだろう。


「では、紹介も終わったところでさっそくだが訓練を始める。皆はいつも通りやってくれ。俺はクオンに付いて教える」


 タケアキがそう言うと、皆は外へと出て行った。すれ違いざまにユナがこっちを見て小さな声で、がんばってくださいね、と声を掛けてくる。

 どうやら新人の俺のことを気にかけてくれているらしい。


「それではクオン。朝はまず基礎訓練からなので、ランニングから始める。いくら体が強化されたと言っても鍛えていないと訛ってしまうからな」 


 隊長がそう指示を出してきた。

 しかし、俺の体は既にステータスが上限まで育ちきってるので、今更そんなことをしても効果があるかは怪しいのものだ。ニート期間もステータスは下がらなかったし。

 とは言えここで、効果がないと思うのでやりません、とも言えない。


「わかった。なら走るとしよう」

「よし、行くか。俺が先導するからクオンはついて来い。基本的には区画を周回するだけだが、分かれ道もあるからコースは覚えて走れよ」

「ああ、そうするよ」


 そうして俺達も部屋を出てランニングをすることになったのだが、先に出発してたはずのユナに簡単に追いついてしまった。他の4人の姿は見えないので、彼女だけ大幅に遅れてるらしい。


「あっ、クオンさんにも、追いつかれ、ちゃいましたね」

「どうした。調子でも悪いのか」

「いえ、私は皆と違って、体がほとんど、強化、されてないので、元の世界の、ままの体力、なんです」


 そうか。ユナは体が強化されてないのか。

 それは大変だな、話していると邪魔そうなので先に行くか。


「それじゃ、がんばれよ」

「う、うん、クオンさんも、がんばって、ね」


 そうしてインターバルを取りながらも、走り続けること2時間。

 その間にユナを何度も追い抜いた。

 

「よし、次は魔法の基礎訓練だ。クオンには最初から教える」


 タケアキはそう言って俺にレクチャーをしてくる。


「まず、魔法を使うのに魔力が必要なのは知ってるか」

「ああ、知識だけなら既に学んでいる」

「そうか、なら後は実戦だけだな。まずは魔力を感じるところから始めよう」


 ゲームスキルではないこの世界独自の魔法については少し興味があったので、俺もこれは真面目に取り組むことにする。


「では今からお前の体に魔力を流し込むから、それを感じろ」

「悪いが、その前にちょっとトイレに行かせてくれ」

「いいだろう、さっさと済ませてこい」


 危ない。あのまま魔力を流し込まれていたら、魔法無効化のスキルが働いてしまう恐れがある。それでは魔力を感じることができないからな。訓練のときは、毎回これを外しておいた方がいいかも知れない。

 そう思ったのでメニューを操作してスキルを外す。


「悪い、待たせたな」

「ああ。では始めるぞ」


 そう言ってタケアキは俺の体に魔力を流し込んできた。

 妙な感覚だがこれが魔力か。


「魔力を感じたら、自分の体からそれと同じ感覚を引き出せ。それがお前の魔力だ」


 言葉で言われても良くわからないが、感覚を頼るしかない。

 しばらく試行錯誤を繰り返し、なんとか魔力を感じるところまではいけた。

 その頃にはだいぶ時間も経過したようだ。


「もうじき昼休みだな。今日このくらいでいいだろう。あとはその感覚をいつでも引き出せて、魔力を操作することを覚えれば、魔法を使えるようになる。だが、それは明日からのメニューだ。午後からはみんなと同じ訓練に参加してもらう」


 それから間もなく昼休憩となった。

 今日は俺が初めて訓練に参加した日ということもあり、皆で食べることになった。思い返せばこの前もユナはミサキと二人で食べてたし、毎回皆で食べるというわけでもなそうだ。

 そんわけで、俺たちは食堂へと向かい昼メシを食べている。


「どうでしたクオンさん、初めての訓練は」

「うーん、なんだか思ってたのより地味だったな」


 ユナの問いかけにそう返す。すると、ケンタが話に乗って来た。


「まあ、基本的には地味なレベル上げみたいなもんだからな」


 ケンタはVRゲームの経験者らしく、この手のことに詳しいようだ。


「基礎を疎かにしてたらダメだよ。地味でもちゃんと効果はあるんだから」


 サヤカが注意すると、ミサキが話す。


「でもさ。やっぱり地味なのより、派手な実戦の方が面白いよね」

「お前が派手にやってる最中に犠牲になってるのは俺だがな」


 そう愚痴っているがカズヒロ。

 この小隊はメンバー同士の仲がいいようで会話が弾んでいた。もとよりリグセナドは正規軍である騎士団とは違い、かなり緩い部隊だ。元々が民間人、それも若い人間を中心として構成されてることがその要因の一つだろう。

 この小隊も一番年長のタケアキで28才、カズヒロが22才、そしてその下に俺とユナにミサキ、ケンタが同世代で、その下にサヤカと、若い年齢層で構成されている。

 

「隊長、午後はまた模擬戦なの?」

「ああ、今日はクオンがどれだけ動けるかが注目だな」


 模擬戦か。また手の抜き加減を考えないといけないようだ。あまり弱くても問題だし、強すぎても能力を明かしてしまう。ちょうどいいレベルの強さに加減するのも面倒だが、ギルドカードに記載してるステータス程度までは実力を発揮して問題はないだろう。


「あまり期待をしないでくれ」


 とりあえず様子を見て決めるか。

 そんな風に考えながらも会話を続けているうちに時間も過ぎていく。


「さて、時間だ。みんなそろそろ訓練に戻ろう」






 そして午後の模擬戦も終わり、今日の訓練は終了する。


「今日の訓練はここまでだ」


 やっと終わったか。


「クオンさん、お疲れ様」

「お疲れクオンくん、はい、これあげる」


 ユナとミサキが話し掛けて来て、ドリンクを手渡してきた。


「それにしてもクオンくんってスキルが使えないって言ってた割に、すっごく動けるよね」

「うん、私も運動神経がいいとは知ってましたけど、あそこまで動けるとは知りませんでした」


 とりあえずカード上のステータスまでで動いてみたのだが、思いの外それでギリギリだったな。もちろん俺は何一つスキルを使ってないので、体術のみだが。


「いや、こっちも驚いた。特にミサキ。お前の能力って見た目まで変わるんだな」

「そうだよ、可愛いでしょ」


 そう言うミサキの口からは八重歯が覗いており、頭からはケモ耳が生えていた。それをお尻から生えた尻尾と合わせて、嬉しそうに動かしている。

 これがミサキの固有スキル、獣人化らしい。模擬戦ではケモ耳を生やした瞬間から格段に身体能力が上がっていので見た目だけが変わったわけではない。


「そうだな」

「でしょ、やっぱりケモ耳はキツネ耳だよね」


 それは……どうかな。

 

「私はネコ耳も好きですよ」


 ユナもそこは乗らなくていいだろ。これ以上話が広がらないうちに話題を変えよう。この手の話は白熱すると面倒なことになる。


「それにしても、異世界人の能力っていうのは本当に個々人で様々なんだな」

「そうですね、この世界には今まで存在しない特別なスキルも多いみたいです」

「能力に関してはこの国でも、いろいろ研究されてるみたいだけどね。私の獣人化もこの世界に来るときに遺伝子情報が変化して発現した可能性が高いみたいなことを、研究室の人が言ってたし」


 そうか、この国はケモ耳の研究をしてるのか。

 まあ、それは冗談だが、人類の品種改良をしようとしているのは伺える。研究室というのは魔法やスキルなどを解析や開発している組織なのだが、遺伝子分野にまで手を伸ばしているらしい。

 そんなことを二人と話していると、隊長がやって来て話しかけて来た。


「お前たち、今日はクオンの歓迎会をやるぞ。集合は19時だ」


 タケアキはさらに続けて集合場所の店を説明をして、確認してくる。

 

「それじゃ遅れるなよ。クオン、場所はわかるか」

「あ、隊長。それならクオンくんは私が連れて行くから大丈夫だよ」

「そうか、なら頼む」


 そう言ってタケアキは去って行った。


「クオンくん、まだこの街に不慣れでしょ? わたしが案内してあげるね」

「助かる」


 この辺りの主要施設は一通り回ったが、さすがに飲食店など細かいところは見て回ってないからな。地図を見ても行けるだろうが、案内してくれると言うならそうしてもらおう。


「ならシャワーを浴びて着替えたらミーティーングルームに集合でいい?」

「ああ、それでいい」

「それじゃユナ、シャワー浴びに行こ」

「うん。それじゃクオンさん、また後でね」


 そう言って二人はシャワールームへと向かった。

 その後、俺も汗を流しに行きミーティングルームで二人を待つ。


「お待たせ」


 しばらく待っていると二人がやって来た。彼女たちは私服に着替えており、ミサキはTシャツにホットパンツとラフな格好で、ユナはワンピースだ。よく似合っている。

 

「それじゃ行こっか」


 ミサキのその言葉で俺たちは部屋を後にして店へ向かった。

 そうして着いた場所は大衆的な飲食店だった。


「お前たち、こっちだ」


 既に隊長とカズヒロ、サヤカは既に到着していたようだ。

 来ていないのはケンタだけか。


「ほら、クオンくんは今日の主役だから真ん中だよ」


 そう言って席を指定してきた。両隣にユナとミサキが座る形になる。

 そして皆から多少遅れてケンタが到着した。


「悪い、ちょっと遅れちまった」

「もう、遅いですよケンタくん」


 サヤカが少し文句を言っていた。

 だがこれで全員そろったようだ。それぞれ飲み物を注文するが、アルコールを頼んだのは隊長とカズヒロだけで、他は皆ソフトドリンクを注文した。


「よし、みんな揃ったな。それじゃクオンの入隊を祝って乾杯だ」


 隊長が音頭を取って歓迎会は始まった。

 その後2時間ほど続いただろうか。明日もあるので今夜はこれでお開きのようだ。

 歓迎会も終わり、俺たちは帰ることにした。

 家に帰るのは休みのときだけで、普段は寮に泊まることになる。だからせっかく家を貰ってもあまり使う機会はないようだ。

 

「それじゃクオンさんお休み」

「また明日ね」

「お休みなさい」


 ユナたちは女子寮なので敷地の入り口で別れた。そうして俺達も男子寮へと帰る。

 すでに時刻は23時近くだが、若い人間が多いせいか寮にはまだ多くの明かりが付いていた。みんな体力が余ってて元気らしい。

 そんなことを思いながらも俺は部屋に戻った。

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