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4話 ギルド

「それではギルドですが、市街地にあるので一度お城から出る必要があります」


 そう言ってローザは先導して歩き始めた。

 この城はかなり広い上ので、それなりに歩く必要がありそうだ。


「それで、ギルドってどんなところなんだ」

「古い歴史を持った大きな組織ですが、実質的に私たちが使う機能としてはお金の管理だけです。そうですね、クオン様の世界でいうところの銀行なんかがイメージ的に近いでしょう。あとこれは私たちにはあまり関係ありませんが、冒険者と呼ばれる職業の人たちがよく利用する場所でもあります。冒険者とはギルドから依頼を受け、その報酬として金銭を得て生活している人たちのことで、依頼内容はモンスターの討伐や、それに伴う素材の調達、あるいは迷宮の探索など様々です」


 そうか、なら確かに俺には関係ないな。でもいざとなったら転職もありだから頭の片隅には置いておこう。

 そうして話しながらしばらく歩いていると、急にローザが立ち止まった。


「ここからは馬車で行きましょう」

「馬車か、別にいいけどバイクや車はないのか」


 ヘリコプターがあるぐらいなんだから、そういうのだってあってもおかしくはない。


「確かにそのような乗り物もありますが、基本的に軍事用の特別なものなので一般には普及してません。技術も完全ではないので、現状では大量生産ができないんです」


 なるほどな、だから馬車なのか。


「では今、手配しますので少々お待ちください」


 ローザはそう言って馬小屋へと向かった。

 そうしてしばらく待っていると、手配が終わったのか馬車を連れて戻ってくる。


「お待たせしました。では参りましょう」

「今回はローザが運転するわけじゃないんだな」


 馬車は業者付きで手配されていた。


「わたしが運転すると、ギルドについて行くときに困りますので」


 確かに道端に無人の馬車を置いておくのは嫌かも知れない。

 そう納得して馬車に乗りこみ、ギルドへと向かった。

 馬車は城の門を抜け、市街地を走っていく。しばらくしてギルドへと到着したようだ。


「ここがギルドです」


 そう言ってローザは馬車から降りると建物へと向かったので、俺も後ろからついて行き中へと入った。

 そして、彼女は迷わず受付へと向かう。


「ここが新規登録の受付けの列なので、並んで順番を待ちましょう」


 彼女は手慣れているらしく、手際よく指示をしてきた。

 それからしばらく待っていると、俺の順番がやって来る。


「では次の方どうぞ、新規の登録でよろしいですね」

「ああ、頼む」

「では、こちらに名前をご記入下さい」


 手渡されたカードに名前を記入する。


「クオンさんですね、では生体認証を行いますのでこの水晶に手を当ててください」


 そう言って受付嬢は大きな水晶を差し出してきた。これで情報を読み取るらしいが、これも二つの世界のハイブリッド技術なんだろうか。

 疑問に思ったが、言われた通り素直に手を当てる。


「あ、あれ。おかしいですね。すみません、エラーが出たようなのでもう一度お願いします」


 しかし、何度手を当ててもエラーが出るようだ。

 そこでひとつ心当たりを思い出した。そう言えば、俺には解析不能のスキルが設定されていた。元いたゲームでは解析魔法のアナライズでステータスを知られることあったからだ。

 だから、ステータスを隠すために付けていたのだが、もしこの水晶がアナライズ相当のものならシステムに弾かれていることになる。ならば何度やっても同じことか。

 メニューを開いて操作すれば簡単に解除できるが、監視役のローザもいるのでここでは無理だ。


「済まない、調子が悪いみたいなのでまた出直すことにする」

「そうですか……あの、申し訳ございません」

「気にするな、お前のせいじゃない」


 そう言って俺たちは列を離れてギルドから出て行った。


「おかしいですね、クオン様の次の人は普通に認証されてたようですが……」


 建物から出るとローザが疑いの眼差しを向けてきた。彼女は列から離れた後も、並んでたやつのことを観察していたようだ。この観察力が彼女のサポート能力の高さの秘訣かも知れない。


「さあな、体質なんだろ。また日を改めれば登録できるかも知れないし、今日のところは出直そう」


 それに対し俺もあまり隠すようなことはせず、わざととぼけるように答えた。どうせ能力を隠していることはバレてるわけだし、あまり無理して言い繕うこともないだろう。


「そうですか。クオン様がそうおっしゃるならそうなんでしょうね」


 彼女もそこらへんは分かっているような返事を返してきた。






 その後、結局ギルドではカードを作れないまま城へと戻っきたが、割と時間をくったようだ。

 今日はこの辺りで、もう出かけるのはやめておくか。


「ローザ、今日はもう部屋に戻ることしよう」

「分かりました。では、ご夕飯はどうなさいますか。食事に出掛けられるのでしたらついて行きますが、部屋で召し上がるならお持ちしますよ」


 そうだな、今日は色々出かけたし夜ぐらいはゆっくりするか。


「なら部屋で食べることにする」

「かしこまりました。では後ほどお部屋にお持ちします、19時頃でよろしいですか」

「ああ、それで頼む」


 それからローザは俺を部屋まで見送り、立ち去っていった。

 やっと一人になれるな。相変わらず監視されてるようでアラートスキルは発動してるが。とりあえずメシまでは時間があるし、すこしベッドで休むか。

 しばらくそうして横になっているうちに時間になったのか、ドアがノックされた。


「入っていいぞ」

「失礼します」


 そう言ってローザは台車にメシを用意してやって来た。それをテーブルの上に並べていく。


「食べ終わった食器は後で取りに来ますので、そのままにしておいて下さって結構です」


 そして彼女は用事が済むと部屋から出て行った。

 ローザはあまり感情を表に出さない人間のようだが、こうも事務的に仕事をされるとすこし冷たく感じてしまうな。まあ異世界人が嫌いっぽいし、面倒を起こされるよりはいいだろう。

 さて、それじゃさっそく頂くとするか。

 テーブルの上に置かれた料理はどれも手の込んだものだが、妙に家庭的なものだった。あまりこの城で出てくるような料理っぽくないな。まあ、別に旨ければ何でもいい。

 そうしてメシを食べ終わり、しばらくするとローザが再び部屋を訪ねてきた。


「失礼します。食器を下げに参りました」


 そう言って彼女は部屋に入ってくると、食器を片づけ始めた。


「足りるように多めに用意したんですが全部召し上がられたのですね。もしかして足りなかったですか」

「いや、十分すぎだ。旨かったから全部食べたが、腹はいっぱいだ」

「そう……ですか」


 そういうローザの顔はすこし嬉しそうだった。

 

「もしかしてこれ、ローザが作ったのか」

「はい、クオン様の身の回りのことはわたしが任されてますので」

「そうか、ごちそうさま」

「……いえ、仕事ですから」


 ローザは一瞬顔を伏せたが、いつものように澄ました顔で食器を片づけていく。


「それではクオン様、また何かあればお呼びください。失礼します」


 そう言って彼女は部屋から出て行った。






 そして、召喚されてから数日が経った。

 未だ所属の決まってない俺は基本的にニートのような生活だ。なのでその時間を利用して、この世界や国のことを知る為にローザと市街地へと頻繁に出向くことも多かった。

 その間に、ギルドカードも作ることにも成功していた。最初から分かっていればメニューを操作する時間ぐらいは簡単に作れるからな。水晶のアナライズ効果が気になったので、作るときに念のため多少の細工もしておいた。

 スキルを一時的に全部外して、ステータスを下げるために出来る限りデバフをかけておいたのだ。さらにその上からマイナス補正の装備を身に付けたのだが、元々の基本値が高いのでどうしても高くなってしまうのは仕方のないことだった。

 そうして出来上がった俺のカードにはこう書かれてある。名前はクオン、ジョブはファイター、ランクはF、特技はなし。この世界では職業とジョブは違うらしく、ジョブは能力やステータスによって決められるそうだ。ちなみにファイターは基本ジョブで誰でもなれるものだった。

 ただ、その生活も今日で終わりだ。今夜イルナーシアが俺に謝罪をするらしい。それをもって正式に俺も軍へと配属となる。

 そして今ここがイルナーシアが謝りに来ると言う場所だ。

 城のとある一室に俺は来ていた。


「で、ジジイ。まだ姫さまは来ないのかよ」

「もうじき来るわい……たぶん」


 どうやらジジイも姫が謝るのが嫌で約束を投げ出したのではないかと思ってるようだ。いつもより若干落ち着きがない。このジジイもイルナーシアには苦労しているのかも知れない。

 そして、しばらく待っていると応接室の扉が開いた。

 イルナーシアはちゃんと来たようだが、部屋に入ってこない。その目は恨めしそうに俺のことをみていて、まるで謝る気がないように思えた。


「ほら姫、こっちに来てちゃんと謝るのじゃ」

「分かってるわよ!」


 そうは言って中に入って来たが、なかなか謝ろうとしない。


「姫さまは下賤な平民に頭を下げるのが相当嫌なみたいだな」

「だ、誰に向かって言ってるのよ! あんたなんか本当は私と口も聞いちゃいけないんだからね!」

「その相手に頭を下げようとしているのだからいいザマだな」

「むぅぅー」


 この姫は相当プライドが高いようで、既に目に涙を浮かべていた。

 すこし言い過ぎたか。でもまあ殺そうとした相手からの仕返しが泣かされるぐらいなら安いもんだろ。


「これクオン、姫に対して失礼じゃぞ」

「そうよ! 失礼だわ! 不敬罪よ! 死刑にするべきだわ」

「姫も早く謝るのじゃ。でなければ陛下に報告しますぞ」

「クッ、卑怯だわお父様の名前を出すなんて。わかったわよ、ちゃんと謝ればいいんでしょ」


 そう言ってイルナーシアは俺の前に立ち再び俺を睨んできた。まるで親の仇を見るような目で、完全に逆恨みをされているようだ。

 そして目を逸らして小さく口を開く。


「…………はい、これでいいでしょ」

 

 え、今謝ったのか。まるで聞こえなかったぞ。


「聞こえなかったからやり直しな」

「はぁ? もう謝ったんだからなんで二回も言わないといけないの? あんたの耳が悪かっただけでしょ。私がちゃんと謝ってあげたんだからこれでお終いよ。もう帰るわ!」


 イルナーシアは吐き捨てるそう言って部屋を出て行こうとしたが、ジジイに腕を掴まれ阻止された。

 

「姫、もう一度ちゃんと謝るのじゃ」

「ちょ、ディルハウまで。もうっ離しなさいよ! わかった、わかったから。もう、謝ればいいんでしょ! はい、悪かったです! ごめんなさい! これでいいでしょ。なによ、ちょっと魔法が当たったぐらいで。異世界人のくせに調子に乗らないで欲しいわね。それじゃ、今度こそ帰るから。本当、私にこんなことさせるなんてありえないわ!」


 そう言って再び部屋から出て行こうとするイルナーシアだったが、まだディルハウに腕を掴まれたまま解放されないでいた。


「もう一度ですじゃ」

「そんな……もう2回も謝ったのに……」


 またイルナーシアの目に涙が浮かんできたが、ディルハウはちゃんと謝るまで手を離す気はないようだ。そして彼女もついに観念したのか、再び俺の前に立ち睨み付けてきた。

 だが、今度はちゃんと聞こえるような口調だった。


「この度は召喚の儀の際に不手際で、魔法を誤射してしまい誠に申し訳ありませでした。謝罪申し上げます」


 言葉だけ聞けば素直に謝っているが、完全に心が心がこもっていない機械的なものだった。しかも、また何か言われて謝り直すのが嫌なのか、棒読みでもなく綺麗な発音だ。

 なんか余計にむかつくぞコレ。


「はい、これでいいでしょ!」

 

 彼女はそう言ってジジイの腕を振りほどいて部屋から出て行ったが、立ち去る最後の瞬間、俺の方を睨むのを忘れなかった。


「あの姫はいつもああなのか」

「昔はもっと素直じゃたんじゃがの……」


 ジジイも大変だな。


「それはともかくクオン、謝罪も済んだことじゃしお主には明日から軍へと入ってもらうぞ」


 ジジイはさっきまでのことを何事もなかったかのようにそう告げた。

 こいつもなかなか図太い神経をしてるようだから、案外あの姫とは合ってるのかも知れない。

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