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3話 戦場

 ヘリは空へ上昇すると、進路を定め前進し始める。

 すると、窓の外からはオーミュリッド帝国の街並みが広がり、その様子を見ることができたが、現代的な建物がある中がいくつか建っているのが分かる。

 しかしそれは一部のもので、街全体が現代的に発達しているものではないようだ。

 そしてそこを抜けて、街の外へと出ていった。


「ジジイ、いま向かってるのはどこなんだ」

「この先にある平原じゃよ、今回はモンスターの討伐で彼女らは向かっておる」


 そう説明を受けている間にも目的地に到着したようだ。さすがに空路は早いな。

 外では魔法を使っているのか、窓からは断続的に閃光が入ってきている。


「ふむ、ここなら巻き込まれる心配もないじゃろ」


 ジジイはローザに、その場で留まるよう指示を出した。

 つまり、ここから戦場を見ろってことか。

 窓の外へと視線を向けると、地上では多くのモンスターが犇めいていた。しかし、種類は多くない様にみえる。せいぜい3~4種類でどいつも弱そうだ。

 実際に戦っている奴らも魔法やスキルを使い、どんどんモンスターたちをなぎ倒していってる。


「モンスターってのはみんなこんなに弱いのか」

「種族によるの。いま戦っているのはゴブリンなど下級モンスターを含めたただの取り巻きの雑魚じゃ。そして、こいつらを纏めている存在が今回の目標じゃ」


 つまり群れのボスを倒せばいいわけだな。

 上空から観察していると、すぐにそれっぽい奴を見つけ出すことができた。

 一際大きなな体を持つゴブリンで、鎧を着こんで大剣を持っている。そいつはなかなか強いらしく、戦ってる異世界人の攻撃を躱し防ぎ、なお反撃をしていた。


「苦戦してるようだぞ」

「では助けに行くか?」

「まさかな、行くわけないだろ」

 

 ジジイの余裕ありげな表情を見るからに、そんなに緊迫した状況でもないと判断した。ゲームでもボスってやつは倒すのに時間がかかるからな。これが普通なのかも知れない。

 そうして観察しているとユナの姿も発見することができた。彼女は遠距離アタッカーのようで遠くから魔法を射撃している。その様子を見てるとなんだか歯がゆくなってくる。

 こう、もっと上手くできるだろ。

 その戦闘を見て、ここに来る直前にやっていたゲームを思い出していたのだ。この世界の戦い方は俺が今までやってきたゲームとよく似ている。そりゃ剣と魔法を使ってモンスターを倒していくのだから似もするだろうが、廃ゲーマーだった俺からすれば彼女たちの連携の稚拙さは、なんともイライラするものだった。


「お主、戦いたくないと言っとるわりに、どうも腕に自信がありそうじゃの」

「別にそんなことないさ」


 窓の外ではだんだんと異世界人が優勢となっていき、そのままゴブリンを倒すのも時間の問題のようだった。まだまだ稚拙ながらも、その能力の高さだけで押し切ったわけか。

 確かに、これは国の人間、ジジイにとっては異世界人というのは手放したくない人材というのもわかるな。だからこそ厚遇で迎えているのだろう。

 しかし、現地の人間の実力というのはどうなんだろう。


「それにしても、戦況はだいぶ決まってきたな。確かに異世界人が強いことは分かった。でも、この世界の人間だって魔法が使えるんだろ。そこまで異世界人が特別扱いされるっていうのはどういうことだ」

「そうじゃな。異世界人には我々にはない特殊な能力を持っておるし、基本的な身体能力も強化されてるからの。我々よりもよっぽど戦力としては優秀じゃ。どれだけの異世界人を抱えているかが、そのまま国家バランスにも繋がる程にな」


 そうか、ジジイ。さては俺が他の国に行くことを危惧してこれ程までに俺の勧誘に積極的なんだな。せっかく召喚したのに他の国に取られてはたまらないということか。

 そうしてジジイと話していると、下の様子が変わっていた。いつの間にかユナたちは無事にゴブリンを倒せたようだ。


「ふむ、今回はすこし手間取っていたようじゃが無事倒せた様じゃな。ならば帰るとかするか。ローザ、戻るぞ」

「はい、かしこまりました」


 戦闘を見届けた俺たちは、城へと戻ることにした。

 その帰り道、ジジイが訊ねてくる。


「どうじゃった、戦闘の感想は」

「よく分からないが凄かったんじゃないか。凄すぎて俺は参加できそうもないな」

「そんなことはなかろう。さっきも戦いたそうな顔をしとったぞ」


 俺としたことが感情を表に出してしまっていたらしい。  

  

「気のせいじゃないのか」

「ふむ、何が気に入らんのかの。もし何か不満に思うことがあるのならば言うみればどうじゃ」

「そうだな。まず勝手にこんな世界に召喚してきたことが何より気に入らない。さらに言うなら、その上から目線も気に食わない」

「ほう、これはまた率直な意見じゃな。それは本当に申し訳ない、この通りじゃ」


 ジジイはそう言って簡単に頭を下げてきた。


「今さら謝られても帰れるわけじゃないしな。あ、そう言えば俺、こっちの世界に召喚されたときに一回殺されかけたんだよな。あの金髪の女の子に」


 そう言うとジジイは渋い顔になった。

 どうやら嫌なところを突かれたらしい。


「ふむ、じゃからこの通り過っとる。本当にすまんかった」

「ジジイに謝られてもな。あの子から直接謝ってほしいのだが」

「それは……うーむ」


 いつも余裕ぶっているジジイは悩ましげな表情を見せている。恐らく奴の頭の中ではいろんなことを考えてるんだろうが、ついに答えを出してきた。


「よかろう。ならばイルナーシア姫にはお主に謝罪をさせよう」


 あの生意気そうな女の子は、お姫様だったのか。

 そしてジジイは言葉をつづけた。


「ただし、条件はある。この謝罪は非公式なものとして、あくまで個人的なものとすること。そして、お主は謝罪を受け入れ、その証として軍へと入隊すること。この二点じゃ」


 ずいぶんと吹っかけてきたなジジイ。

 

「なんで謝られる立場の俺に条件がつけられるんだよ」

「ふむ、仮にも一国の姫が直々に謝罪をするのじゃ。本来であれば異世界人といえど、ありえない対応なのじゃよ。この件は陛下も通さんといかんし、国益に繋がらなければ許可はおりん」


 いや、軽い気持ちで言っただけでそこまで大事にしなくてもいいんだが……


「別にそれなら謝ってくれなくても構わないぞ」

「そうは言っても、お主は謝らないと許さないのじゃろ?」

「それはそうだが、なんで俺がこの国の軍に入らないといけないんだよ」

「まあよく考えてもみよ。どうせ、この世界で生きていくことになるのじゃ。だったら待遇がいいところで暮らしたいと思うのが人間じゃろう。だったらこのオーミュリッド帝国よりもいい待遇を出せるところは存在せんよ。それに、お主には特別にワシ直属の扱いになるよう便宜を図ってもよい」

「ジジイの直属って普通とは違うのか」

「基本的には変わらんが、いろいろ自由が効くようにしてやれるぞ」


 うーん。ジジイの言うことも一理あるが、どうにも胡散臭いのだ。

 まあ、この帝国が一番いい待遇を出してくれるという点に関しては間違いはなさそうだ。なにせ、他の国に行けば俺はただの身元不詳の男だからな。あまりいい待遇は望めないかも知れない。

 しばらく考えて答えを出すことにした。


「わかった。それで手を打つことにする」

「おお、そうか。それはよかった」


 こうして、後日イルナーシアから謝罪を受けることを条件に俺はオーミュリッド軍へと入ることが決まった。だが、所属部隊など色々決めることがあるので、まだしばらくは無所属のままでいいそうだ。そして、ちょうど話もまとまった頃に城が見えきた。

 この都合のいいタイミングは、ローザが俺達の話の流れに合わせて運転速度を調整していたと考えるのが自然だろう。俺を取り込むためにジジイを地味にアシストしていたようだ。






 そうして、無事戻ってきた俺たちは、ここでジジイと分かれることになった。奴はこれから姫を謝罪させる為にいろいろ調整をしないといけないらしい。


「それではクオン様、そろそろ食事にしましょうか」


 城に戻ってきたときには既にお昼時だった。

 

「そうだな、それで昼はどこで食べればいいんだ」

「軍人や騎士団の皆さまが使う食堂か、もしくは市街地のお店などがあります。ですが、ここからだと食堂が一番近いですね」

「そうか、ならそこにしよう」


 食堂にたどり着くと、中は多くの人で賑わっていた。

 と言っても席も多く用意されていたので座れないようなことはない。


「それでは、好きな食べ物をとって下さい」


 ローザはそう言ってトレーを俺に渡してきた。どうやら、このトレーにテーブルに用意されている好きな食べ物を取っていくらしい。なので適当な料理を乗せることにした。


「それだけでよろしいですか?」

「ああ、十分だ」

「なら清算しますね」


 そう言ってローザは機械にカードを当てて清算を済ませたようだ。なんだその電子マネーみたいなものは。気になったので聞いてみる。


「それは?」

「これですか、お金や情報を記録できる便利なカードです。持っていて損はありませんよ、ギルドに行けば作れますので後で行ってみましょう」

「そうか、ならそうしよう」


 午後の予定はさておき、まずはメシを食おうと空いてるテーブルを探していると声を掛けられた。


「ローザちゃん、クオンさん」


 声のした方を見ると、そこには俺達と同じようにトレーを持ったユナとその連れがいた。

 どうやら二人もこれから昼メシのようだ。


「クオンさんたちもこれから食事ですか? だった私たちと一緒にどうでしょう」

「ユナ、この人は?」

「昨日こっちの世界に来たクオンさんですよ」

「そうなんだ。私はミサキ、よろしくね」


 ミサキは明るく笑顔でそう言ってきた。

 そういえばこの少女……そう言えばさっきユナと一緒に戦っていたやつだな。


「クオンだ、よろしく」


 互いに自己紹介も澄んだところで俺たちは一緒にメシを食うことになり、テーブルへとついた。

 するとユナがさっそく話しかけてくる。


「クオンさんたちあれからどうされてたんですか」

「俺達も戦場へと見に言ったぞ」

「えっでも……クオンさんの姿は見えませんでしたよ。それにまだ軍には入ってなかったんじゃ」

「ヘリの中で見ていただけだからな」


 そう言うと二人は驚いた表情をしていた。


「えっ、ヘリって確かに戦場にディルハウ様の専用機があったけど……もしかしてアレに乗ってたの?」

「ああ、専用機かは知らんがジジイと一緒に乗ってたな」

「ジジイって……ディルハウ様をジジイ呼ばわりってすごいねクオンくん」


 あのジジイ、確かにそれなりに偉そうだったが、異世界人である彼女からしてもそんな風に思うのか。

 

「そうか、別に普通のジジイだと思うが」


 そう言うと二人は苦笑いを受けべていた。


「でも、クオンくん戦場に来たってことは私たちの戦闘も見たんだよね。どうだった?」

「そうだな……」

 

 はっきり言うと全然連携が取れてない初心者パーティーという感じだったが、そのまま言うのも躊躇われる。かと言って嘘をついても仕方がない。


「うまく連携が取れてないように見えた。それぞれが自分勝手に動きすぎだな」

「えっ!? 私はただ魔法とかモンスターの感想聞いたつもりだったけど……」


 そうだったのか。確かに彼女たちからみれば俺は昨日この世界にやってきた新入りだ。いきなりこんなことを言われるとは思わなかっただろう。


「クオンくんってもしかして、VRゲームとかやってた人なの?」

「ああ、だからついそういうところに目がいってしまった」

「そうなんだ。確かにこっちの世界でもそういうの経験してる人って物覚えがいいものね。でもここはゲームの世界じゃないんだから、勘違いしてると死んじゃうよ? いくらゲームで強くてもそれはゲームシステムやキャラクターのおかげなんだからね」


 いや、何故か俺はそのゲームシステムを使えてそのままゲームキャラなんだが……


「でもミサキちゃん。クオンさんってすごい運動神経がいいんだよ。今日もシンヤくんに絡まれたときに助けくれたもの」

「ユナ、あなたまたシンヤたちに絡まれたの。本当にあいつらはしつこいわね」


 ユナはどうも頻繁にシンヤたちに絡まれてるようだ。今日の出来事を彼女から聞き終わるとミサキはこちらを見て話しかけて来た。


「それでクオンくんが助けてくれたのね。そっか、ありがとね」


 どうやら二人の様子を見るに、普段はミサキがユナのことを庇っているらしい。

 

「いや、どちらかというと最初に庇われたのは俺だしな」

「それでも、ユナを助けてくれたのに変わりはないわ。話を聞くと筋もよさそうだし、私たちの部隊に入ってくれたらいいのに」

「ミサキちゃん、クオンさんはまだ軍に入るかどうか決めてないよ」

「いや、それはもう決まったんだ」

「そうなんですか?」

「ああ、俺も所属はまだ決まってないが、近いうちに軍に入ることになった。」


 それを聞いてユナは嬉しそうな顔をした。

 

「だったら一緒の部隊になれるといいですね」


 ジジイに言えば一緒の部隊になることは簡単そうだが、こんな流れで決めてしまってもいいのだろうか。とりあえずこの件は保留にしておこう。

 それからしばらくユナとミサキと話していると、昼休みが終わったようだ。


「ユナ、そろそろ行かないと」

「あっ、もうこんな時間なんだ。クオンさん、わたし達は訓練に戻りますね」


 そう言って彼女たちは食堂から立ち去って行った。そして、食堂には俺とローザだけが残されたが、俺たちもいつまでもここでゆっくりしてても仕方がない。


「それじゃローザ、俺達も行こうか」

「そうですね」


 そうして俺達もギルドへと向かうために食堂を出た。

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