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1話 異世界召喚

「申し訳なかったな異世界の少年よ。手違いでとんだ無礼を働いたことを謝ろう」


 なんかジジイにさらっと謝られたのだが……

 普通人を焼き殺そうしてそれで許されると思うだろうか。

 いや、それよりもあの女の子、いきなり魔法を使ってきたがどういうことだ。こんな地下施設のようなステージも、あんなキャラも知らないぞ。っていうかここは本当にゲームの世界なんだろうか。

 すこし振り返って考えてみよう。


 まず、俺の姿はゲームアバターのクオンの姿をしている。

 これはさっきまでやっていた体感型VRゲームの姿だからそれは納得できる。

 しかし問題は、ここがゲームの世界ではなさそうということだ。いかに仮想世界がリアルに近いと言っても、ここまで現実と同じような空間を創り出すのは不可能だろう。

 だがここを現実だとするなら、あの少女はゲームでもないのに魔法を使ってきたことになる。それにいきなり転送されたわけだが、そんなのゲームの中でしか有り得ない。手がかりは目の前のこのジジイだが、俺のことを異世界の少年だと言ってやがる。異世界? そんなバカな話は到底信じられないな。

 そう思っていると、そいつは俺が黙っているので勘違いしたらしい。


「ふむ……言葉が通じないらしいの」

「いや、言葉は分かるぞジジイ」


 ゲームシステムが反映されているせいか、ジジイの言葉は日本語に変換されているようだ。言語設定を日本語にしていたおかげだろう。

 だからジジイの言ってることは理解できたが、この状況についてはさっぱり理解できない。しかし、こいつが何かしたことだけは間違いなさそうだ。


「それと、お前らがいきなり俺を殺そうとしたことも理解できてる」


 低い声を出して、まずは牽制をしてみた。

 よく分からない相手だが、文句だけは言っておかないとな。

 相手も謝ってるし、悪いことにならならないと思うのでここは強気でいく。


「本当に申し訳ない、こちらにも色々と事情があっての。詳しい話はちゃんとしよう。まずは部屋を案内させるので、休んでも頂くと言うのはどうじゃ。食事の席を用意するので、そこで詳しい話をさせてもらいたいと思う。なにせ話せば長くなるでの。落ち着いた場所の方がよかろう」


 これは、謝ってると見せかけて罠に誘ってる?

 いきなり人のことを殺そうとした人間の誘いに乗るのはまずい気がする。でも、こいつからは話を聞かないと状況がわからないのも確かだ。ならばここは素直に従うほうが賢明か。

 仮に罠だとしてもあの魔法の威力から察するに、たいした奴らではないと思う。解析魔法を使えば相手のステータスがわかるが、今は大人しくしておいたほうがいいだろう。余計な警戒を与えるかも知れないからな。


「ああ、それでいいだろう。ただこれだけは今答えろ。ここはどこだ」

「ふむ、そりゃ気になるわな。よかろう」


 そう言ってジジイは簡単にここが異世界であることを説明した。


 




 その後、案内された部屋は豪華な造りをしており、迎賓した客に対して最大限の敬意を払っていることが伺える。


「それでは御用がございましたらお呼びください」


 部屋まで連れて来てくれたメイドが、そう言って頭を下げて退室していった。

 同年代ぐらいの女の子のメイド服というのは、見てるこっちが恥ずかしくなりそうだったが、ここでは普通らしい。

 ベッドに倒れ込み、さっきの話を思い出しとため息が出た。


「マジでここ異世界じゃねーか……」

 

 しかも、戻れないらしい。

 ゲームをしてたらいきなり異世界に拉致られてしまったというわけだ。

 ただ、この世界では俺以外にも召喚された人間は多いらしく、この世界でもちゃんと生活してるらしい。詳しい話はメシのときにしてくれるらしいが、冷静に考えるとそんな悠長なこと言ってる場合でもない。

 いっそ逃げ出そうとも思うが、こんなよくわからない場所で問題を起こすのも躊躇うのだ。どうも俺はこの国の人間に監視されてるみたいだし。さっきからパッシブスキルのアラートが、敵に補足されていることを警告してきていた。

 今の状態だとこの国は、俺にとっては敵だとシステムに判断されてるらしい。

 

 だから今はこの場で出来るを試してみよう。そう思ってゲームシステムのメニュー画面を呼び出しステータスを確認してみる。ゲームのときのステータスをそのまま引き継いでいるのなら、俺はラスボスすらワンパンで倒せるレベルだ。

 ステータス画面を見てみると、そこにはここに来る直前のデータと同じく、全ジョブカンストでアイテムをフルコンプリートした最強状態のステータスが表示されていた。さっきも妙に生意気そうな金髪の女の子に攻撃されたけど、ノーダメだったことを考えればこの世界でも十分に通用しそうだ。

 それからもしばらくメニュー画面を操作していると、ドアがノックされる音が聞こえてきた。


「入っていいぞ」

「はい、失礼します」


 さっきのメイドか。メシの用意ができたから呼びにきたんだろう。

 メニュー画面で時間を確認すると、部屋に来てからそれなりの時間が経過していた。


「クオン様、会食の用意が整いましたのでこちらへお越しください」


 案の定、思った通りだったのでベッドから起き上がり扉に向かう。

 この家――というかお城だな――を見ると堅苦しい食事になりそうな気配がしてきてなんだか嫌になって来た。

 どっちかと言うともっとファーストフードみたいに気楽な方が好きなんだが。

 そんなことを考えながら廊下を歩いて行くと、目的地に着いたようだ。


「こちらです、どうぞ」


 そう言われた場所は食堂ではなかった。

 高級感のある内装をしているものの、普通の部屋だな。ここでメシを食うのか。

 何か想像していたのと違っていた。


「おお、よく来たなクオン」


 そう言って部屋から出てきたのはさっきのジジイだった。

 

「ああ。来ないわけにはいかないだろ。元の世界に帰してくれると言うなら今すぐ出て行くがな」

「まあそう言わずに中に入るのじゃ」


 部屋に入ると中には質の良さそうなテーブルとソファーが置かれており、その上にはファミリーレストランなどでよくあるようなメニューが並んでいた。

 

「お主のような若い異世界人は堅苦しい宮廷料理よりもこういう食事の方が好きじゃろうと思うてな。もし気に入らないなら、別の料理を持ってこさそう」


 このジジイ、異世界人の扱いに慣れてやがるな。

 確かにこういうメシの方が好きだが、この程度で懐柔されるわけもない。こっちはいきなり異世界に呼び出さた立場なのだ。

 ここは文句の一つでも付けないとといけないだろう。


「ハッ、ジジイと二人っきりでメシなんか喰えるかよ。もっと、可愛い女の子とかいねーのか」


 別に本当に女の子を呼んでもらいたいわけではない。文句が付けられれば何でもよかったのだ。

 だがジジイはなるほどと頷いて、メイドを呼び出した。するとすぐに彼女は女の子を呼びに行ったようで、部屋から出て行ってしまった。


「ふむ、最近の異世界人は女の子と話すのが苦手な人間が多いと聞いておったのであえて呼ばなかったのじゃが、クオンは女の子が好きなようじゃな」


 クソッ、失敗した。余計に懐柔されたような雰囲気になってるじゃないか。

 っていうか別に呼びに行かなくても、あのメイドで構わなかったのだが……

 やはり職務は別なのだろうか。まあメイドの仕事に接待とか入ってないもんな。


「ほれ、女の子が来るまで時間もあるからの、座るといい」


 促されるままソファーへと腰をかけると、思った以上に座り心地がいいことが分かった。テーブル、ソファー、グラス、どれもこれも日本製、というか元の世界のものとさして変わらないように見える。


「さっきも軽く言ったが、この国にはお主の世界の人間が多くいるからの。技術的に似ている部分もかなり多いじゃろう。じゃから、さして生活面で不自由することはないと思うぞ」


 ことあるごとに懐柔してこようとするな、このジジイは。

 わざわざ召喚して呼び出すぐらいだから何か目的があるんだろうが、素直に聞く必要もないだろう。帰れなくても何かしら働けば生きて生けると思うし。

 と言ってもせっかくの機会だし話ぐらいは聞いておくか。

 今後どうするにせよ情報は多いほうがいいからな。


「それで、さっきはあまり説明してくれなかったがアンタたちは何で召喚なんて真似をしてるんだ」

「そうじゃな。もちろんそれはちゃんと説明するが、その前に一つ聞きたいことある。お主、この世界に来てから変わったところはなかったかの。何か得体の知れない能力が身に付いたとか……」


 変わったところっていうか、全身まるごと変わったのだが。

 この体はゲームキャラのもので、俺の本当の体じゃないからな。感覚としては生身と変わらないので違和感とかはないが。


「あると言えばあるな。それがどうした」

「そうか。この世界に来た異世界人は特殊な力を得る場合が多くての。して、どんな変化があったのじゃ」

「力が強くなった。今までより数倍の腕力があると思うぞ」


 嘘ではない。本当に力は生身のときの数倍以上はあると思う。

 だが、いきなり自分の情報を全部いう程この男のことは信用できないからほんの一部だけを言ってみた。

 

「ふむなるほどの、そういう変化があった人間は多いの。そして大抵の者はそれだけでなく、固有の能力と言えるものがあるんじゃが」

「さあな、こっちに来て間もないんだ。そんな能力があったとしても分からねーよ。むしろ俺が教えて欲しいね」

「さっきは姫の炎を吹き飛ばしように見えたが、能力ではないのか」

「あのときは咄嗟だったからあまり覚えていない」

「そうか、ならば仕方ないの」

「ああ、そうだな」


 このジジイ、顔は笑ってるが恐らく俺の言葉を全く信用してないな。

 嘘を付くこと、付かれることに慣れている感じがする。これはこのジジイの説明も全面的に信用するのはやめておいた方がいいだろう。

 こいつは平気で嘘をついてくるかもしれない。


「それで、そんなことを聞いて異世界の人間を呼び出す理由とどう繋がるんだ」

「ふむ……我々はお主ら異世界の人間に助けて欲しいのじゃよ」

「どういうことだよそれは」

「我々の世界はお主らの世界で言うところの戦国時代とも言える乱世の時代じゃ。常に新しい技術や知識、そして力を求めているのじゃ」


 それは俺たち異世界から呼び出した人間を、戦奴隷にしてるってことだろ。

 そんな勝手なこと言われて、素直に言うことを聞く奴がいるとは思えないが、暴力で無理やり押さえつけてでもいるんだろうか。

 そう考えているとジジイが補足するように話を続けてきた。


「まあ待て、誤解をせんでもらいたいのじゃ。我々は戦いを強制をしたりはせん。ただ持っている知識を提供してもらうだけでもあり難いのじゃ。それに対価もちゃんと払う。もちろん戦ってくれる人間には、相応のものを用意しておる。そして実際に我が国では、およそ300人程の異世界人が自ら志願して闘ってくれておるわけじゃ」

 

 300人か。

 多いのか少ないのかわからないが、自ら志願して闘う物好きが少なくもそれだけいるといるんだな。そんなに相応の対価というのは魅力的なものなんだろうか。

 念のため確認だけしておこう。


「ちなみに相応の対価っていうのは」

「ほう、気になる様じゃな」

「いいから答えろよ」

「まず戦うことを選んだものには騎士階級が与えらる。準貴族扱いを受けられるわけじゃな、それに家と給付金が与えらえる。あとは戦果に応じてその都度じゃ」


 うーん、普通に働くよりは割のいい仕事なのかも知れない。

 だからって命を賭けてるわけだから実際に割にあうかはわからないが。


「そして戦うことを選択しなかった場合でも上級市民の階級が与えられ家と就職の斡旋が行われる。まあ家に関しては多少グレードが落ちるがの」


 なんだ、別に戦わなくてもそれなりの暮らしができそうじゃないか。だったらわざわざ戦う必要なんてないだろ。ゲームじゃないんだから負けたら死ぬかもしれないのに。


「そこで提案なんじゃが、明日、実際に戦ってる者たちに会って話を聞いてみてはどうじゃ。この世界での異世界人というのはちょっと特殊な存在じゃからな、同郷の人間と会って話してみるのもいいじゃろう。今後どうするかを考えるのはそれからでも遅くはあるまい。決めるまでは今の部屋をそのまま使ってくれて構わん」


 同郷の人間か。

 それは少し話してみたい気もする。


「そうだな、なら明日はそいつらに会ってみることにする」

「それがいいじゃろう。案内は今日のメイドを使いによこすようにしよう。お主、あの子のことを気に入ったようじゃからな、好きにしても構わんぞ」

「別に気に行ってなどいない。ただメイドが珍しかっただけだ」


 さっきちょっと見ていただけなのに、このジジイ。どれだけ俺のこと観察してたんだ。やはりこいつは油断できない。そう思ったと同時。

 ちょうど会話が終わったところで扉がノックされた。さっきのメイドが女の子を連れて戻ってきたようだ。このやけにタイミングがいいのも、きっと偶然じゃないんだろうな。そしてメイドが連れてきた女の子は、全員で5人いた。その誰もが美少女だ。彼女らは部屋に入ってくるなり、こちらに近寄ってくる。

 

「あっ、この子が新しい異世界の人ですか? きゃーかわいい」

「ちょっと影がある感じもかっこいい! わたしの好みかも」


 そのうちの二人が、俺の両脇に座り腕に組みついてきた。俺よりも年上だろうがさして年齢は変わらないように見える。


「ねぇー名前はなんていうの?」


 どうして女というはこうもうるさいのだろう。

 自業自得とは言え、すこし居心地が悪い。


「クオンだ」

「へー、かっこういい名前だね」

「それで、クオンちゃんも戦うの?」

「いや、たぶん戦わない」

「そうなんだ、でも私、戦う男の人ってすっごくかっこいいと思うの!」

「うん、彼氏が異世界人で戦ってる人だったら、すっごくステータスだもんね!」


 さすがジジイが用意した女だな。

 どれだけ俺に戦わせたいんだよ。食い物でおびき寄せてハニートラップか。

 なんとも古典的な手段だが、まあ気を付けていれば引っかかることもないだろう。とりあえず聞きたいことは聞けたし、明日は同じ異世界人に会える。

 だから女の子たちがいたところで、別に問題はないだろう。


 そうして接待は夜更けまで続いた。 

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