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14話 出国

 その後、俺はミサキと一緒に女子寮へと向かい、ユナの部屋の前まで来ていた。


 部屋は当然のように鍵が掛かっているが、中には彼女の気配がするので外から話しかる。

 まずは誤解を解かないといけない。

 

「ユナ、誤解させてしまってすまない。俺とミサキがホテルに入ったのは理由があるんだ、俺たちは帝国に狙われていて、このままだと危険なんだ」


 ミサキと一緒にホテルへ行ったのは、下心があったわけではなく、監視の目から逃れる為だからそれを説明したいと思った。

 もっとも彼女とは関係が出来てしまっているのだが、それは少し落ち着いてから話した方がいいだろう。今それも話してしまうとユナに余計な負担をかけてしまい、話がまとまらなくなる。


 すると、ユナが部屋の扉を開けてくれて顔を覗かせたが、疑いの目で俺を見つめており、その顔には今まで泣いていたあとが残っていた。

 

「ユナ、泣かせて悪かった。でも、いまから言うことを聞いて欲しい」


 そうして俺は城に潜入して知ったことと、その後のミサキとの行動をユナに説明した。


 最初は俺の浮気をした言い訳が始まるのかと疑っていた彼女だったが、話をしていくうちにそうではないと分かってくれて、最後には俺とミサキのことを心配までしてくれた。


「ごめんねミサキちゃん、疑ったりして。私、ミサキちゃんには何も勝てないし……クオンさん取られても仕方ないなって諦めてたんだけど、誤解だったんだね……そうだよね、ミサキちゃんが私のクオンさんを取るわけないよね。それにしても、二人とも無事でよかったです」


 そう言われて気まずそうにこちらを見たが、俺はまだ言うなと首を軽く横に振った。


 せっかくユナが納得してくれたのだから、ここで話をややこしくするわけにはいかない。

 俺達はいま帝国に狙われているので、早く国を出ないといけない状況だ、この件はまた後日に回したほうがいいだろう。


 ミサキは罪悪感のせいか苦しそうな表情をしていたが、俺もユナには後で話すつもりだから今は我慢して欲しい。

 

「それじゃ、一度家に戻ってラナヴルを迎えに行こう」

「国を出るんだよね、だったら、いろいろ準備もしないと駄目だよね」


 ミサキは後ろめたい気持ちを隠すように、俺に話しかけて来た。

 

「そうだな、食糧と生活用品だけ用意できれば後は俺の方でなんとかできる」


 俺はゲームのときのままでアイテムも大量に保存されているので、今すぐにでも国を出ることはできたが、さすがに女の子の身の回りに必要なものは持っていない。


 彼女たちにも準備する時間が必要だろう。

 それにこれからどうなるかわからないので、食べ物ももう少し補充しておきたい。


 そして家に戻ろうとしたが、そこで監視が再び復活しているのに気が付いた。


 俺は二人に小声でそれを伝える。


 そして彼女たちにはユナの部屋でしばらく待ってもらうことにして、俺はそいつらを片づけることにした。どうせ、監視があっては準備もできないし、ここで始末しても問題ないはずだ。

 あとは出来るだけ早く出発することができればいい。


 その後、監視を倒して俺たちは家へと戻った。

 

 家に戻るとラナヴルが玄関まで寄ってきて、ユナの姿を見つけて嬉しそうに微笑んだ。


「……ユナ、おかえり」

「うん、ラナちゃん。ただいま」


 二人は俺の思っていた以上に仲良くなっていたようで、ラナヴルはそれだけでユナのことを理解したようだった。

 それはいいことだが、彼女にもこれからのことを伝えないといけない。

 

「ラナヴル、俺達はこれから国を出ることになった。もちろん、お前もついて来い」

「えー、やだ。わたし、ここが気に入ってる。ごはんもベッドも好き」


 もともと野生のラナヴルだったが、すっかりこの家の快適さに慣れてしまったらしい。

 しかし、ここで彼女を残していけるわけもなく、説得しなければいけなかった。


「駄目だ、ラナヴルも一緒に俺たちと来るんだ、ここに残るのは危ない」

「えー、でも、やだ」

「ラナちゃん、私も一緒だし、ここを出てもごはんはあるよ」

「んー、わかった。なら、ついて行く」


 ラナヴルはユナの言葉で、一緒に行くことを承諾してくれた。

 それから俺たちは準備を進めていったが、ユナが隣にくると不安そうに話しかけてくる。


「クオンさん、サヤカちゃんたちには何も言わないんですか」


 彼女は、他の第26小隊のメンバーのことが心配そうだった。

 俺たちがこのまま小隊を抜けたときに、彼女たちの身にも危険が及ぶかも知れないと思ったのだろう。しかしあのファイルにはミサキの名前しか載っていなかったし、監視をしていたなら第26小隊の他のメンバーには、俺やミサキが隷属魔法のことを何も話していないことは分かっているはずだ。


「狙われてるのはミサキだけで第26小隊じゃないからな。もう俺たちは監視の人間を倒してしまってるし、ここでサヤカたちを一緒につれて行っても危険に巻き込むだけになる」


 だから連れて行くのは、ユナとラナヴルだけにしておいたのだ。

 

「そうですね、それでも、私に声を掛けてくれたのは嬉しいです」


 俺の言い方ではユナは危険に巻き込また状況になるのだが、それでも誘われたことに喜んでいた。

 

「ユナを置いて行くなんて最初から考えてなかったからな」


 ユナならついて来てくれると思ってたし、置いていくことは出来なかった。

 ミサキのことは一端話の外に置いて考えても、俺はユナのことが好きなんだ。

 

「これからも、ユナとは一緒にいたいと思ってる」

「はい、もちろん私もです」


 ユナは笑顔で俺の気持ちに応えてくれた。

 そうして俺たちがそうして話していると、ミサキも話に加わってくる。


「ユナが羨ましいな、わたしもクオンくんの彼女になりたいかも」

「ダメ、ミサキちゃんでもクオンくんはあげられないよ」


 ユナとミサキもさっきまでの誤解が解けて、いつも通りの関係に戻っていた。

 さりげなくミサキが危ういことを言っていたが、誤解が溶けているのでユナは冗談だとしか思っておらず、そのまま二人で喋っている。


 一方、一人で出かける準備をしていたラナヴルも用意が終わったらしい。


「終わった。それで、これからどこ行くの?」

「まずは軍事区画に行ってヘリを奪いに行く」


 帝国から逃げるのであれば、やはりそれぐらいの乗り物は必要だろう。

 訓練でも操縦方法は習っていたので、ラナヴル以外なら誰でも動かすことができる。


 そうして、俺たちは家を出て軍事区画へと向かった。


 やがてヘリが収納されている格納庫まで何事もなくたどり着いたが、誰もいないようだ。

 この分だと簡単にヘリも奪えそうだと思ったとき、足音が響いた。

 その為、隠れようとしたのだが、名指して呼ばれてしまった。


「……クオン様」


 呼び止めてきた人物は、俺たちの前に姿を見せてメイド服姿で一礼をした。


「お久しぶりですね、クオン様。それにユナ様も」

「ローザか」

「ローザちゃん……」

 

 この世界に来て、最初に俺の面倒を見てくれたメイドであり、あのジジイ直属の監視係。

 しばらく見かけないと思っていたが、やはり監視はずっと続けていたのか。おそらく俺の前からだけ姿を消して、城の中から監視の指揮を執っていたのだろう。


「最初に言っておきますが、あなた方の逃亡を阻止しに来たわけではありません。もっとも、阻止しようと思っても私には何もできませんけど」


 確かにこの世界の人間であるローザが、俺たちに何かしようと思っても実力的に不可能だった。


「だったら何をしに来たんだ」

「それはディルハウ様の意志を伝えに来ました」

    

 ローザにバレてるなら、あのジジイも俺達が逃げようとしていることは知ってて当然か。


「ディルハウ様はクオン様と敵対することを望んでおられないので、このまま国を出られてもクオン様を追いかけるつもりはないとのことです」


 第三小隊もかなり痛めたし、この前の殲滅戦のことも少なからず掴んでいるだろうし、これまで俺のことを監視してきた結果から、そう判断したのだろう。

 ただでさえ帝国は様々な国と戦争しているのに、これ以上の敵を作るのことを嫌ったんだな。


「つまり追わないから、仕返しもしないで欲しいということか」

「はい、そういうことです」

「わかった、なら俺たちはこのまま別の国に行くことにする」


 俺だけならまだしも、ユナやミサキもいるので敵対しないで済むならいいだろう。

 少なくとも彼女たちの安全を確保できる場所が見つかるまでは、できるだけ危険なことはなくしたい。

 

 そうして話がまとまったところで、ローザは言葉を付け足してきた。


「ただし、これはディルハウ様の権限においてであります」

「それはジジイ個人の範囲でしか約束できないってことか」

「はい。ですがディルハウ様の権限は、異世界人部隊のほぼ全てです。実質的には国の意向とそれ程変わりはありません。しかし、イルナーシア様はかなりクオン様にご立腹のようで、この機会にかならず復讐のつもりで追撃部隊を出してくるでしょう」


 イルナーシア、俺が小隊に入るきっかけになった生意気なお姫様だったな。

 あのとき泣かせたことを、まだ根に持ってるのか。


「ちょっと待ってよ、それじゃ結局私たち帝国から追われるんじゃない」


 ミサキはローザへと当然浮かび上がる不平等さを叩き付けた。

 帝国は追撃をしてくると言っているのに、こちらは仕返しをしないで欲しいと言われれば怒るのも無理はない。

 だが最大の戦力である異世界人部隊が来ないのは大きい


「ローザの話はわかった、それでいいだろう」

 

 俺はローザの条件を飲むことにした。


「クオンくんっ、ダメだよ! 素直にいうこと聞きすぎだよ!」

「クオンさん、もう少しローザちゃんにお願いしてみませんか」


 二人があっさり条件を飲んだ俺に考え直すように言ってきたが、どうせイルナーシアなんて大した敵じゃないんだ。

 それよりも、追手が来るというなら早く出発した方がいい。


「ありがとうございますクオン様」


 ローザも俺の承諾を得たと判断して、礼を述べながら頭を下げてくる。

 そして彼女は一瞬俯いて、再び話しかけてきた。


「それと、イルナーシア様の部隊ですが恐らくクユルア様が指揮を執られると思われます。そちらは戦利品としてクオン様が自由にしていいとディルハウ様は仰ってました。戦いに敗れた者の扱いはクオン様に任せると」


 ローザの表情は暗くなっていて、本当はこのことを言いたくなかったようだ。

 クユルアと言えばお姫様でありながも、この前の掃討作戦の指揮を執っていた人物。

 

 俺はその言葉を聞いて、この状況の察しが付いた。


 あのジジイが本気で止めようとすれば、イルナーシアの行動を止められていた可能性は高い。

 それなのに彼女の子供じみた復讐を止めなかったのは、彼女の部隊、正確にはクユルアを出兵させたかったからだ。

 その目的はクユルアを俺の元に送り込みたかったからだ。

 

 それはさっきのローザの言葉を聞けば明らかだった。

 そうでなければ、わざわざ戦利品だとか、扱いを好きにしていい、なんて言う必要はない。戦場で負ければ自動的にその扱いは勝者が決めることになる。

  

 それでもあえて言葉にすることで、帝国の姫を手切れ金の代わりに渡すので、敵対するのはやめて欲しい、と俺に伝えていた。


 そして、ユナたちはその意味に気が付いていない。

 ただ追撃してきた部隊には反撃してもいいというぐらいにしか聞こえていないのだろう。


「わかった。追撃部隊のことは俺の好きにする」

「はい、かしこまりました」


 ローザはそれを聞くと頷き、格納庫から立ち去った。


 俺たちもイルナーシアの追手が来る前に急ごうと、ヘリに乗り込んでいき、出発しようとする。

 運転席には俺が座り、ユナたちを後ろに乗せた。


 そして俺は運転席でヘリの操作してエンジンをかけ、無事に離陸体勢へと移ると出発させて、帝国領の外を目指した。

姫の名前をクユルアに変更しました。

過去分もこの名前に修正しました。

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