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13話 調査

 ミサキと関係を持っても、結局ユナにはまだ何も話せてはいない。そんな後ろめたさを持ちながらも、ユナとラナヴルと朝ご飯を食べていた。それもユナが早起きして作ってくれたものだ。


「朝は簡単なものにしたので、私でもできるかなって頑張りました」


 ユナは笑顔で朝食を配膳してくれる。


「ああ、ありがとう」

「うん、ユナの料理はおいしいよ!」


 ラナヴルは寝ていたので、今朝はユナ一人で作ったものだ。パンを焼いて卵を添えたと、サラダとスープ。確かに簡単なものだった。それでもユナは頑張ったんだろう、その健気さに罪悪感が沸いてくる。


「クオンさん、今日はどうされるんですか。もし、時間があるなら一緒に出掛けたいなと思うんですけど……」


 今日も休みなので、ユナはデートをしたいらしい。


「今日は用事があるんだ、来週は一緒に出掛けよう」

「そうですか……どこへ行くんですか」

「ちょっと調べたいことがあってな」


 ユナには悪いが、今日は本当に用事があるのだ。

 この前の戦闘で接触したあの反乱勢力の男の言葉と、ミサキから聞いた隷属魔法のこと。その二つを切っ掛けに、俺は帝国のことをあの任務から帰ってきてから調査していた。

 そのおかげで大よそのことは分かったが、まだ分からないことろもある。

 それを今日は調べに行くつもりだった。


「……分かりました。じゃあ私は今日もラナヴルちゃんと遊んできますね」


 詳しく話を聞きたそうにしていたが重たい女と思われたくないのか、あっさりと納得するふりをしてくれた。しかし、こっそり調べているのでユナにもまだ秘密にしておいた方がいいだろう。


「ああ、なら俺はこれを食べたら出かけるよ」 


 それから朝食を食べ終え、家を出ることにした。


 

 そうしてやって来たのが、最初に転移されてきた場所である城だった。


 ここ数日の調べで、分かったことはいくつかある。

 まず、最初にジジイが俺に説明したことはあながち嘘ではなかった。しかし、それは隷属魔法という前提があってのことだ。


 そして、俺達の第26小隊はこれまでモンスターの討伐をメインにして来たので、あまり人間と戦うことはなかったが、小隊によってはかなり乱暴な作戦についていることもあるのが判明した。戦争を恒常的にしている国なので、仕方ないとも言えるが、それでも隊員による略奪まがいのことも黙認している節もある。あの第3小隊の横柄な態度も、納得だ。

 ここまで調べてみれば、確かに反乱勢力が生まれるのも理解はできることだった。


 そんなことを色々調べていくうちに、あることに気が付いたのだ。

 召喚された人間の数と、今いる人間の数が違っていたのだ。もちろん戦死ということもあるのだろう。

 しかし、戦うことを選ばなかった人も多くの死亡が確認されている。自然に死んだとは考えられない程の数だった。それに隊員の方も、どうにも不自然な感じがするのだ。

 まだ確証はないが、あの反乱軍の男が言っていた通り帝国から寝返った人間もいるのだろう。

 

 今はその件を調べている。

 

 城の中でも異世界人について深くかかわっていそうな人物たちを調べて行った結果、ひとつの部署のことが分かった。そこは異世界人を管理しているところらしく、最も情報が得られそうな場所だ。

 今日はそこに潜入すると決めていたのだ。

 そこが異世界人関連のことを取りまとめているところで、もちろん責任者はあのジジイだ。

 

 俺はそこへ潜入して、身を潜ませることにした。

 もちろん朝から来たのには理由がある。それは、やつらの会話を盗み聞くことだった。夜いきなり来て何かを探そうとしても重要な資料などどこにあるかは分からず調べるよりは、こうして朝の内から忍び込んで見当は付けておいた方がいいと思ったのだ。

 そうして張り込んでいると、引っかかる会話が聞こえてきた。


「こないだ反乱軍の掃討作戦があっただろ」

「そうだな、それがどうかしたか」

「不自然な痕跡があるからって事後調査をするように言われてたんだ」

「ふーん、それで何か見つかったのか」

「ああ、どうやら反乱軍と接触した者がいる可能性がある」

「でも、脱走者はいなかっただろ」

「そうだが、もし隷属魔法の解除方法を知られていたら見逃すことはできない」

「処理ってことか。だが目星は付いているのか」

「まあな、だいたいは絞れた。これを見て確認しておけ」

 

 こつら、あのときのことを知ってるのか。

 そうだとすれば、面倒かも知れない。男たちは会話を続けていたが、その手にはファイルが持たれていた。おそらく、あれがこの件に関する資料だろう。

 その後、しばらくは様子を見続けていたが、隙が出来た際にその資料を盗むことができた。

 見たらすぐに元に戻さないといけないので、素早くそれを見る。


 それにはこう書かれていた。


 先日の掃討作戦において、それを完遂したが、その際に報告にない戦闘の痕跡があるとの報告が挙げられた。敵拠点から離れていることから、逃げた敵勢力の残党狩りの際のものと思われるが、どこの部隊もこの地点での戦闘は記録されていない。調査を進めた結果、第26小隊が最も疑わしいと思われる。ただの戦闘であれば問題はないが、深い接触があった場合は問題である。それでは、接触させないために掃討作戦で一気に敵を全滅させた意味がない。

 もし、反乱勢力から隷属魔法の解除方法を伝えられていれば、危険な存在である。この件は時間を掛けるわけにもいかないため、容疑者を処理処分とすることを決定した。

 その者の名前は第26小隊所属、ミサキ。また、同小隊のクオンも同じく容疑はあるが、こちらに関しては処理を見送ることとする。この者は最初から隷属魔法が効かないので、拘束するすべはない。戦闘力も未知数の部分が上に、第四召喚の成功体であるた現時点で敵対するべきではないとの通達があった。その為、ミサキの処理も偶然の事故か任務先での戦死と偽装する必要があるが、任務先にはクオンも同行している為、戦死の偽装は難しいだろう。よって、事故死に偽装させることとする。

 なおクオンに関しては今まで通り、優遇処置をとって懐柔する方向とする。彼の性格や行動から見ると対応はそれで十分に可能であると思われる。


 俺は、資料を読み終わると、素早く元の場所に戻し城から出て行った。


 まずはミサキの保護が優先だ。

 すぐに彼女の家へとやってきたが、いなかった。

 

 どこに行ったんだ。

 もしかしたら、また食材を買い出しに言ってるのかも知れない。

 なら、このまま待っていた方が確実か。


 そうして待っていると、やがて日が暮れてきた。


 もしかしたら既に何か仕掛けられたのか。

 不安に思っていると、ようやくミサキは帰ってきた。


「あれ、クオンくん。今日も来てくれたの?」

「ちょっと用事があってな」


 そして俺はミサキに監視が付いていることに気が付いた。

 もしかしたら、昨日も付いていたのかも知れないが、俺自身が対象ではなかったせいか今まで気が付かなかったようだ。これでは、迂闊に話を切り出せないな。


「そうなんだ、じゃあ今からご飯作るから食べていきなよ」


 ミサキはいつものように誘ってくるが、今日は事情が違う。

 

「いや、今日は外で食べないか。いい店を見つけたんだ」

「そうなんだ、じゃあそれでもいいよ」


 監視がついてるので、まずはこいつらをまかないといけない。

 その為にミサキを外に連れ出す必要があった。


 それからミサキは荷物を置いて、支度をするため家に戻った。


「お待たせクオンくん、それじゃ行こ」


 準備を終えたミサキが出てくると、腕組みをしてくる。

 監視がついている以上、普通のデートを装わなくてはいけないので都合がいい。


 そうして俺たちは街へと繰り出し、食事を普通にとることにした。


 俺が一緒にいる間は帝国もミサキに何かすることはできないだろう。

 このまますぐに帝国を出ることもできるが、ユナとラナヴルを置いては行けない。


 まずはミサキに事情を話して、次に二人に説明してから国をでる。


 そのつもりだった。

 まずはミサキだがそのために、監視の目から逃げないといけない。


「ミサキ、こっちに来てくれ」

「ちょっと、クオンくん」


 タイミングを見計らって、ミサキの手を取り引っ張った。

 人ごみに紛れながらも、異世界人ならではの身体能力で素早く歩いて行く。

 何度かそれを繰り返して、ようやく監視をまけたようだ。


 この隙に建物の中に入ってやり過ごそう。


「ここで少し休憩しよう」


 いいところにホテルがあったので、そこに入ることにした。

 チェックインをすぐに済ませて、部屋へと入る。


「クオンくん、ホテルに行きたかったんだ」


 ミサキは顔を赤くしていたが、そういうつもりで来たわけじゃない。

 それよりも話さないといけないことがある。


「ミサキ、大事な話がある」

「えっ、もしかして……私と付き合うのユナに反対されたとか?」

「いや、それはまだ話してない」

「そっか……」


 ミサキはがっかりした様子を見せた。

 しかし、時間もないので、さっさと話を切り出すことにした。


「それより、もっと重要なことだ」


 そうして、ミサキにこれまでの調査のことを説明した。


「そんな……じゃあ、私、このままだと殺されちゃうの……」

「いや、あいつら今の時点ではそう派手に動かないだろう。今のうちに逃げよう」

「でも、クオンはいいの?」

「ああ、どうせこの国には最初から不信感があったからな」

「ありがと……」


 これで、ミサキのことは大丈夫だろう。

 このまま一緒に家まで戻って、ユナとラナヴルと連れて国を出ればいい。


 そうして、ホテルを出て家に戻ることにした。


「ただいま」

「お邪魔します」


 家に戻ると、ラナヴルが出迎えたくれた。


「……お帰り」


 ユナの姿が見えないな、いつもなら二人で来てくれるのに。

 まあ、お風呂とかトイレなんだろう。


 そのままリビングへ入ることにした。

 しかし、しばらくしてもユナの姿は見えないままだ。

 さすがに不審に思ったのでラナヴルに聞いてみた。


「ユナはどうしたんだ」

「……いなくなった」

「どういうことだ?」

「……今日、ユナと遊んでたら、その途中でクオンたち見かけた」

「それで、どうしたんだ」

「クオン、ホテルに入った。それから……ユナいなくなった」


 詳しく話を聞くと、ユナとラナヴルが遊んでいる途中で俺達を見かけたらしい。それで、ラナヴルが声を掛けようとしたら、ユナが止めたと言う。そのまま、こっそりと後を付けたら俺達がホテルに入っていくのを見届けたと言う。その後、ユナは泣いていたそうだ。

 そして、ラナヴルと一緒に家に帰った来たが、いつの間にかいなくなっていたらしい。


「クオンくん……ユナ、探しに行かないと」


 一緒に聞いていたミサキは責任を感じているようだった。


「そうだな、たぶん寮に帰ってるんだろう、そっちに行ってみよう」


 そうして寮へと向かうことにした。

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