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11話 強襲

 この数週間でラナブルもすっかり小隊に馴染み、みんなと打ち解けていた。

 今朝もミーティーングルームで雑談をしていると隊長がやって来た。いつもより厳しい顔になっているが、こういうときは新しい任務が来たときだ。


「新しい任務だ。帝国反乱組織の掃討に我々も参加することなった」


 帝国反乱組織。つまり今度は人間と戦うということか。

 いままではモンスターが相手だったから気に負うことなく戦っていたが、同じ人間相手だと本当に気が乗らない。手を抜くにしても相手は知能がある人間だ。下手を打って仲間を危険に晒すのは避けたい。


「今回は他の小隊や騎士団との合同作戦になる。まず、第14、16、18、19、20小隊が拠点へと攻め入り、騎士団がその後制圧する。我々は第24、25小隊と共に、取り逃がした敵の始末と、増援の警戒に当たる。これは反乱組織の中には他国の異世界人も協力している為、不測の事態が起こることを前提としている為だ」


 異世界人の能力は固有で様々だから、対策も取りづらいってことだろう。

 だから俺達の小隊はその不測の事態に備えるように配置されるわけか。

 

「決行は明日の明朝だ。そしてこれより他の参加者を集めた全体の作戦説明が行われるが、まだ少し時間がある。それまでに俺達の役割の詳細をしておく」


 タケアキは地図を広げて作戦内容を告げ、その後、作戦会議室に移動することになった。

 その移動中、ミサキが話しかけてくる。


「同じ人間同士で戦うのって嫌だね。ずっとモンスター相手がいいよ」

「そうだな。でも軍人ってそういうものだろ」

「はは、クオンくんは第三小隊にも容赦なかったもんね」


 本当に容赦してなかったらあいつら死んでたけどな。

 

「俺たちはバックアップみたいなもんだろ。案外戦わないで済むかも知れないぞ」

「うん、だといいね」

「それに第三小隊程度の相手なら問題ない」

「さすがクオンくん、頼りになるね!」


 そうしてミサキは腕に抱きついてきた。

 ミサキからすれば、これは別に何か意味があるわけではない。彼女には獣の特性があるので元々の性格と相まって、このようなコミュニケーションを取る傾向がある。もっとも、あの日以来たまにミサキの家には行ってるので気心が知れてきたというのはあるだろう。

 そのとき、ふと背後に視線を感じた。

 

「ユナ、どうしたんだ」

「う、ううん。何でもないです。クオンさん、ミサキちゃんとずいぶん仲良くなったんですね」

「同じ小隊の仲間だからな」

「そうだよね、うん。仲間だもんね……」


 ミサキもユナに話しかける。


「あっユナ、ごめんね。でも、大丈夫だよ。ユナの彼氏なんだから取らないよ!」


 そして彼女は慌てて俺の腕から手を離した。


「ううん、取るなんて思ってないよ。ミサキちゃんは親友なんだから。それに、私はクオンさんのことは信頼してます。むしろミサキちゃんとクオンさんが仲良くなって嬉しいよ」

 

 そう言ってユナは微笑んだが、さりげなく腕を組んでくる。

 言葉ではそう言っても、彼女は意外と独占欲が強い。

 きっとさっきも嫉妬してたんだろう。


 それから作戦会議室へと到着し、待機する。

 周囲には同じように他の小隊と騎士団もおり、偉い人が来るのを待っていたが、しばらくするとやって来たようだ。金髪の綺麗な長い髪の胸の大きな女の子が先頭だ。あの子が一番偉いってことか。

 それを見て他の奴らもその子に注目しているが、みんな知ってる様子だ。


「ミサキ、あの子は誰なんだ」

「あの子なんて行ったら怒られるよ。オーミュリッド帝国第3皇女のクユルア様だよ。ほら、戦場に出てるお姫様のこと前にも話してたでしょ。もうすぐ遠征から帰って来るって」

「そんなことも言ってたな。帰ってきてたのか」

「うん。私たちには関係ないけど騎士団では話題だったよ」

「ふーん。それで帰ってきてからすぐにまた戦場か。よっぽど城にいるのが嫌なんだな」

「ちょっと二人とも、喋ってたら怒られますよ」


 ユナの注意を受けて会話を止め、作戦の説明が始まるのを大人しく待つことにした。

 すると、準備が整ったのかクユルアが檀上に立ち、話し始める。


「皆さん。今回の作戦の指揮を執るクユルア・オーミュリッドです」


 戦場に出向いてるとは思えない程の美貌だ。

 思った通りイルナーシアと同じぐらいの美少女である。

 

「クオンくんもファンになった?」

「いや、俺にはユナがいるからな」

「そっか。でも騎士団ではかなりファンもいるし、異世界人からも人気高いんだよ」


 まるでアイドルだな。

 だが、元の世界でもそれで通用しそうなぐらいのものは備えていた。

 確かにファンが多いのも納得だ。


 その後、作戦会議は終了して明朝の出撃に備えて準備することになった。

 作戦としては騎士団がまず出発し、拠点を包囲する。そして強襲をかける小隊が戦闘機から降下。その後、騎士団が包囲しながら敵を殲滅することになっている。

 俺達は包囲の外で待機して不測の事態に備えるのが任務だ。

 作戦が上手くいけば本当に出番はないが、準備だけはしっかりとしておかないといけない。今回は掃討作戦なので重火器も多めだ。重火器と言ってももとの世界と違い魔力を使うのが大半だが、それはこの世界の技術力では完全に銃を再現して、量産することはできなかったせいだろう。

 

 そうして準備を終えたので、あとは作戦開始までは自由時間だ。

 と言っても基本的には待機扱いなので、軍事区画からは出れないけど。

 ユナかラナヴル、あるいはミサキのところにでも行くか。

 誰のところに行こうか。


 すこし考えてラナヴルのところへ行くことに決めた。

 俺も保護者だからな。作戦前に彼女の様子も見ておいた方がいいだろう。

 そうしてラナヴルの部屋に向かい、ノックする。


「ラナヴル、いるか」

「うん、入っていいよ」


 中に入ると彼女は制服から私服に着替えていた。

 野生で暮らしていた彼女にとっては、制服は窮屈に感じるのだろう。

 

「クオン、どうしたの」

「いや、出撃前にラナブルと一緒にいようと思って」

「ん? わたしと一緒にいたいの?」

「ああ、心配だからな」

「わたし、強いから大丈夫」


 どうやら彼女は人と戦うことに対してはあまり深く考えてないようだ。

 種族も違うし俺達と違って同胞と戦うわけじゃないからかな。

 それはそれで心配だけど。


「そうだな、でも敵の中には異世界人もいるし油断はダメだぞ」

「大丈夫。クオン、しつこい」


 これ以上言うとまた癇癪を起こしそうだ。

 確かにラナヴルは小隊の中でも俺の次に強いし大丈夫か。


「わかったよ」

「うん、それでいい」


 そうして出撃の前まで彼女と一緒に過ごしていた。

 

「それじゃ、そろそろ行くか」

「うん、着替える。待ってて」


 そう言って彼女は服を脱ぎ出そうとした。


「ラナヴル、男の前で女の子が着替えちゃいけない」

「知ってる、でもクオンだから大丈夫」


 それは知ってたのか。

 確かに俺は彼女の保護者だけど、それは立場上のことだしな。

 さすがに着替えまで見るわけにもいかない。


「俺でもダメだ。外で待ってるぞ」

「んー……わかった。ちゃんと待ってて」


 それから彼女と一緒にミーティングルームへと戻った。

 するとユナが話しかけてくる。


「クオンさん、ラナちゃんと一緒にいたんですね」

「ああ、どうした。何か用事があったのか」

「い、いえ。……別になんでもないですけど」


 また嫉妬か。


「悪かったな、ユナ。ラナヴルのことが心配だったんだ」

「分かってます」

「今度の休みはユナに付き合うよ。デートしよう」


 そう言って彼女の頭をなでると、すごく嬉しそうだ。

 簡単にさっきまでと表情が変わった。


「はい、楽しみにしてますね」


 その後、俺たちは軍用ヘリに乗り込み出撃した。







 帝国東部地区、そこに今回の攻撃目標である反乱組織の拠点がある。

 山岳部に隠れるように造られた砦だ。

 すでに騎士団の包囲網は完成し、もうすぐ強襲組が降下するころだろう。


 そして、戦闘が始まった。


 砦からは魔法を使用したときに生じる発光が、空の上からでも確認できた。

 騎士団も遠距離から魔法や火器を使い、距離を縮めていっている。

 今回の拠点は数あるうちの一つに過ぎない。

 帝国軍は敵の戦力を数も質も圧倒的に上回っている様で、かなり一方的な展開になっていた。砦からは火の手が上がり、その周囲も爆撃と魔法との飽和攻撃で焦土になっている。

 反乱組織の者たちの中にも逃げるものが、包囲網を突破できる者はいない。皆、魔法と爆撃の前に力尽きてしまう。これは俺達の出番もなさそうだ。

 だが、包囲網を抜け出した者が出たと報告が来た。


「何名かの異世界人が包囲網を抜け出した。我々はそれを追う。このまま移動し、目標を爆撃する。爆撃に失敗した場合は降下して直接戦うことになる。皆戦闘準備をしておけ」

 

 タケアキが皆に指示を出し、滞空していたヘリを報告を受けた方角へと向け発進させた。

 そして、運転していたカズヒロが報告する。


「敵性異世界人を発見しました。人数は3名、ロック、爆撃します」


 ヘリからミサイルが発射され、地上へと降り注ぐ。

 それは確実に相手へと命中するコースを辿っていたが、敵は手をかざしそれを逸らさせた。敵の能力だろうけど、ミサイルは通用しないようだ。


「爆撃失敗です」

「分かった。これより降下して、直接仕留める。メンバーはサヤカ、ケンタ、ミサキ、クオン、ラナブルの五名とする。俺とユナとカズヒロはヘリで待機だ」


 そうして俺たちは敵の元へと降下することになった。

 まずは前衛の俺とミサキがヘリから飛び降りる。

 ――その直後、アラートが反応する。

 降下中を狙われようで魔法がこちらに向かってくる。

 しかも俺だけではなく、ミサキとヘリも狙われていた。降下中だが急いでスキルを使い空中を移動してミサキに近づき、そのまま抱きかかえて攻撃を回避する。


「はうっ、クオンくん」

「大丈夫だ、慌てるな」


 ミサキはこの状況に慌てていたが、落ち着かせる。

 一方、ヘリは回避しきれず被弾してしまったようだ。破壊はされていないが、急速に高度を落としていくのが見えた。あの落ち方だと、たぶん大丈夫だろうが高度もあった為に俺達とはかなり距離が離さえてしまったことになる。合流するにも時間がかかるだろう。

 そんなことを思いながらもミサキを抱えて着地に成功する。


「ありがとクオンくん。助かったよ」

「ああ、大丈夫か」

「うん、へいき」


 ミサキも怪我ないようだ。

 

「皆は大丈夫かな、ヘリ墜とされちゃったけど」

「たぶん大丈夫だろ、それより俺達の方も囲まれてるぞ」

「えっ……」


 敵は分断された俺達を倒して、安全性を確保するのを選んだらしい。

 敵の数は5名に増えていた。カズヒロが見落としたのか、それともどこからか合流したのかは知らないが、5対2なら確実に勝てると思ったのだろう。

 ミサキを守りながら叩くうのに力を抑えていては危険か。

 出し惜しみしてミサキに怪我をさせるわけにも行かないからな。第三小隊のときと違ってあいつらの標的にはミサキも含まれている。俺一人だけが狙われているわけじゃない。

 

「ク、クオンくん」

「大丈夫だ。ミサキは俺が守ってやる」


 アナライズを使い、敵の戦力を分析する。


「帝国軍め、仲間の仇だ」


 そう言ってこちらに魔法を放つこいつの能力は誘導。どれだけ無造作に打っても相手が裂けても魔法は必中し、逆に敵の攻撃は当たらない。さっきミサイルを逸らしたのもこいつだろう。俺にとっては避けるまでもない攻撃なのでそのまま突っ込み、蹴り倒す。

 続けて二人、三人と倒していくが、残りの二人が攻撃を仕掛けてきた。

 そいつらの能力は攻撃反射と身体強化か。攻撃反射はすこし厄介だが、常時ではないようだ。認識できないものは反射できないし、そもそも反射できない攻撃も存在すると解析された。例えばこれとか。体術系の高位スキルを打ち込んだ。それは防御不能技で、特殊なスキルによる防御も無効化できるものだった。

 その様子に驚いた残りの一人もすぐさま倒す。


 こうして敵は全滅した。

 

「す、すごいよクオンくん。こんな力いままで隠してたの!?」

「ああ、でもこれは秘密にしておいてくれ」

「どうして、こんなに凄いのに」

「いろいろだ」


 隠している理由は帝国を信用できないからだが、ミサキにそれを言う必要はないだろう。そして彼女は再び問いかけてくる。


「ユナは知ってるの?」

「いや、知らない」

「そっか……ユナも知らないんだ」

「ああ、それよりみんなと合流しよう」


 そうしてその場を離れようとすると、倒れている敵の一人が話しかけて来た。

 体は動かせないみたいだが、喋ることはできるようだ。


「待て、お前たちも同じ異世界人だろ。帝国のやり方に疑問を思わないのか」


 確かに帝国は信用ならないが、この世界はどこに行っても戦争だろ。

 だったら待遇がいいところの方がいいに決まってる。

 そう思っていると、ミサキが返事を返した。


「仕方ないじゃない、隷属魔法を打たれてるんだから」


 隷属魔法? 何の話だ。


「俺達は隷属魔法を解除する方法を知っている」

「て、敵の言うことなんか信じれるわけない」

「本当だ、実際に元帝国の異世界人も俺の組織にいるんだ」

「ほ、本当なの? クオンくんはどう思う」

「いや……隷属魔法って何だ」

「えっ、何言ってるの。クオンも受けたでしょ、召喚されたときに」

「知らない」


 その言葉を聞いて、ミサキと倒れた男は驚いた顔をしていた。

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