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10話 復帰

 謹慎期間が明けて小隊へと復帰することになった。

 今日からはラナヴルも入隊するのでミーティングルームへと向かう前に、隊長のところへ行かなければならない。なので、そこへ出向き扉をノックする。


「入れ」


 タケアキがそう返事を返したので俺たちは部屋へと入る。


「クオン、謹慎ご苦労だったな。ラナヴルには以前のお前と同じように、俺から小隊の説明をする」

「ああ、頼む」


 彼女には既に一通りのことは教えていたが、隊長は自分の口から説明をしないと気が済まない性質なので任せることにした。責任感の強いタケアキは魔族を嫌っていると言えども公私混同はしないようだ。ラナヴルにも一人の小隊メンバーとして接しているようで安心できる。

 そうして説明を終えて俺達はミーティングルームへと移動した。


「ここが俺達のミーティングルームだ」


 部屋に入ると例によって自己紹介となるのだが、ラナヴルはちゃんとできるか少し心配だった。

 もちろん練習はさせたのだが、彼女にとって大勢の人の前で話すことは初めてのことだろう。ラナヴルの様子を伺うとやはり緊張した顔をしていた。


「それじゃラナヴル、自己紹介をしてくれ」


 タケアキが彼女にそう言ったが、当然皆はラナヴルのことを知っている。

 しかしだからと言って省略されるものでもない。


「……う、うん。わ、わたしの名前はラナヴル」


 彼女はたどたどしくも練習した通り自己紹介をしていった。それが終わると他のメンバーたちも自己紹介を初めていくのだが、その様子を見ると彼らのラナヴルに対する態度も分かってくる。

 もっとも顕著な態度を取ったのがケンタとユナだ。ケンタは明らかにラナヴルの入隊に不服そうで、ユナは妹が入隊してきたかのように歓迎している。実際ユナとラナヴルは、ここ一週間でかなり仲よくなっていた。あとの三人は様子見しているような雰囲気が強い。

 そうして全員の自己紹介も終わると、訓練が始まる。


「それではクオン、ラナヴルについて教えてやってくれ」


 彼女のことを任せられた俺は、ラナヴルに訓練メニューを説明して一緒にこなす。

 もともと彼女は基本ステータスが高いので特に問題なくこなしていったが、だんだんと飽きてきたようだ。我が儘を言い始めた。


「クオン。これ、何の意味があるの。もうやめたい」


 俺だって意味はないと思いつつも訓練を続けているんだ。だから、なんとも答えづらい。

 ステータスがカンストしている俺や、高い基礎を持つラナヴルにとってはこの基礎訓練は恐らく本当に無意味なものだった。でも、彼女にそのまま本当のことを伝えると訓練を投げ出しそうだ。

 だから、ラナヴルのやる気がでるように答えた。


「駄目だ。走らないとまた人間に襲われるぞ。それに、こうして走るだけでお金も貰えるんだ。美味しいものをいっぱい食べられる。だから走るんだ」

「うん……わかった」


 無意味なことでも、給料はちゃんと出るからな。もちろんラナブルにも。

 しかもこの世界からすると高給なのだ。それに任務の度に報奨金も出るし、軍隊にいる限りお金の心配はしなくてもいい。それに立場も保障されている。これ以上の待遇はなかなか見つけられないだろう。

 その後、午前の訓練を終わらせ、休憩をはさみ午後の訓練をこなしてこの日は終了となる。


「それでは今日の訓練はここまでだ」


 訓練のあとはラナヴルの歓迎会が催されることになっていた。

 


 そして、ラナヴルが小隊に入ってから1週間が経つ。

 最初は不服そうにしていたケンタだが、ラナヴルとの会話を重ねていくうちに、最初の頃の様な態度は出さなくなっていた。ラナヴルは素直な性格なので、もともと嫌われるようなやつじゃない。だから、彼女のことを分かってもらえれば、メンバーにも受け入れられるとは思っていた。

 今朝も訓練が始まる前、ラナヴルはミーティングルームで皆の輪の中に入っている。


「そう言えば、クユルア姫が遠征からもうじき帰ってくるそうよ」


 クユルア姫? この国にそんな姫はいただろうかと疑問に思う。

 もっとも俺の中では姫といえばイルナーシアしか印象にないだけだが、この国に複数のお姫様がいることぐらいは知っている。

 

「姫なのに遠征とか行ってたのか」

「うん、クユルア姫は自分の騎士団を率いて戦場に出てるの。皇族の中でも妾の子供だし、本人も城にいるよりは戦場にいる方が落ち着くのかもね」


 居心地の悪い城にいるぐらいなら戦場で戦ってた方がマシってことか。


「でね、もうすぐそのお姫様が帰ってくるんだよ。騎士団の方ではその話で盛り上がってるけど、私たちにはあまり関係ないかな。でも、すごく美人で可愛いよ」


 イルナーシアの姉妹だと言うのなら確かに美形そうだ。

 一度は見てみたい気もするが、考えを見抜いたのかユナが釘を刺してくる。


「ダメですよ。クオンさんには私がいるんですから。浮気は許さないです」


 別に浮気をするつもりはないが、ユナの浮気判定は厳しいようだ。

 そうして話は隊長が来たことにより終わり、今日の訓練が始まり、淡々とそれをこなす。



 そんな日常が続き、やがて休日がやってくる。

 休みの日でもこの日、俺には用事があったのでラナヴルをユナに預けて出かけることにした。やって来たのは研究室だ。中ではジジイが待っている。


「クオン、約束通りお主には協力してもらうぞ」


 俺はラナヴルを小隊に入れる為にジジイと取引を行っていたのだ。

 あの連行された日、ジジイが俺に話を持ちかけてきた。そうでなければ、ラナヴルが帝国に受け入れてもらえるはずがない。東部地区での第三小隊とやり合った後、隊長が本部に報告へ行ったとき。ジジイはあの時点で取引をする算段をつけ、ラナヴルを中央へと連れて帰ることを許可したのだろう。


「約束だからな。だが、こっちも休みを潰して来てるんだ。手早く終わらせろ」

 

 協力することは二つ。俺が隠している能力の解析と、召喚魔法の成功体としてのデータ収集。これらは本来は召喚された翌日に行われることらしいが、俺の場合はこの処理を飛ばされたらしい。

 もっとも解析不能のスキルがある限り、俺を解析できるはずもない。だが、それでは約束を果たしたことにはならないだろう。余計ないざこざでラナヴルの立場を悪くしてもいけない、とりあえず第三小隊との戦闘で使ったスキル程度は開示しておくか。

 そう思って解析不能の保護範囲からいくつかの強化スキルを外していく。

 そうしてジジイと研究室のやつらは俺の体を調べていった。やがてそれらも終わり、解放されることになる。ジジイは少し不満そうな顔をしていたが、さすがに俺も全部を公開するほどこいつらを信用していない。こいつらが俺からどこまでデータを取れたかは分からんが、それでもこれまでの完全非公開よりはこちらも譲歩したのだから、それで満足して欲しいものだ。


「それじゃジジイ、もういいだろ」


 研究室を出て、家に帰ることにした。

 ユナにはラナヴルを見ていてもらってるので、寄り道せず帰った方がいいだろう。そう思って家路を急いでいると、街中に見知った顔を発見した。


「ミサキ」

「あれ、クオンくん。一人? 今日はユナは一緒じゃないんだ」

「ああ。それより、ずいぶんと荷物が多いな」

「つい買いすぎちゃったんだ。おかげで持って帰るのも大変だよ」

「そうか、頑張れよ」


 ミサキは両手に荷物を抱えて大変そうだが、俺もユナたちを待たせている。

 ここはミサキを見捨てて行くしかない。そう思ったのだが、彼女は諦めない。


「ちょっとクオンくん。女の子が困ってるのに冷たいと思うの」

「悪いが俺も急いでるんだ」

「ねぇ、これさ。半分は食材なんだけど、運んでくれたら晩御飯もご馳走するよ? もとの世界の手料理ってここらへんじゃあまり食べられないでしょ。私、こう見えても料理得意なんだよね」


 確かにここらへんは外食メニューは揃っているが、手料理というのはないな。ユナも料理はできないし、言われてみれば手料理と言うのは久しぶりかも知れない。

 いや、ユナも待たせるしな……

 うーん、でも帰る時間は伝えてないし少しぐらい遅くなっても大丈夫か。


「わかった。手伝ってやる」

「さすがクオンくんだね、ありがと!」


 そうしてミサキの家へと荷物を運ぶことを承諾し、そのまま二人で向かった。


「ここが私の家だよ、どうぞ上がって」


 言われた通り家に入り、荷物を置くとリビングで適当にくつろぐ。

 ミサキの家は綺麗に掃除もされており、内装も可愛く仕上げられている。彼女は料理も掃除も出来て、趣味も可愛いものが好きでいかにも女の子という感じだ。

 ユナは美少女ではあるけれど、こういう家庭的な感じはしないので新鮮だった。

 しばらく待っているとミサキが料理を運んでくる。


「お待たせ、私の自信作だよ」


 彼女の料理は味付けも見た目も普通だが、絶妙なバランスで美味しかった。能力の影響で繊細な味付けが出来てるのかも知れない。これはそこらへんのレストランではまず食べられないレベルだ。


「さすがクオンくん、食べっぷりがいいね」

「旨いからな」


 そして料理を食べ終えて帰ろうと思ったのだが、ユナが話しかけてくる。


「実はね、クオンにちょっと相談に乗って欲しいことがあるんだ」

「どうした」

「あのね、クオンくんから見て私の動きってどう見える?」

「よく動けてるぞ思うぞ」

「ううん。本音で言って欲しいの。クオンくん、本当はもっと強いんでしょ。なんで隠してるかは知らないけど、私には分かるよ。だって心音まで聞こえるだもん。それに瞳孔の反応とかも見えるし、嘘ついたときは分かるんだよ?」


 なるほど。獣特有の身体能力を有しているミサキの観察力は凄いらしい。

 

「なら正直に言うと、動きが雑になってるときが多い。能力のおかげで筋力と反応速度は上がっているが、それに感覚がついていけてない。だから動きも読まれやすくなるし、攻撃も単調になる。自分でも自覚があるから意識してるのだろうが、そのせいで周囲が見えなくなり連携が悪くなっているときも多い」


 とりあえず当たり障りのない率直な感想を答えてみた。

 それをミサキも望んでいると思ったからだ。


「さすがクオンくん、よく見てるね」


 ミサキは頷き、独白するように語りだした。


「私ね、第3小隊とクオンが戦ってるのをみて本当にびっくりしたんだよ。たいしたスキルも使わず、初級魔法だけであれだけを相手にして圧勝してるのを見て凄いなって思ったの。私のこの能力って便利だけど強いか弱いかで言えばそれほど強くないし。それでもあの戦いを見て、私ももっと戦えるかもって思ったの。でも自分だけじゃ強く慣れないし、小隊の訓練でもいまいち伸びないし、クオンくんなら何かいいアドバイスくれるんじゃないかなって思って」


 俺が強いのは各種ステータスが上限値までカンストしてる上にスキルもコンプリートしてるからだ。 

 けれでも、それを得るまでに蓄えた膨大な戦闘経験は確かにあった。あのときの戦闘でも強化スキルを多少使っただけだしな。ならば、彼女にも多少のアドバイスはできるだろう。


「そうか。なら俺でよければ少しはアドバイスできるかもな」


 それからスキルのつなぎ方、ヘイトの取り方逸らし方、仲間との連携で気を付けるべきことを教えていると時間が過ぎて行った。最初は理論から説明していたのだが、だんだんと実戦形式での指導へとなっていき、お互いの距離が近くなる。


「よし、それじゃ今日はこれぐらいにしておくか」

「うん。ありがとねクオンくん。助かったよ。それじゃドリンク持ってくるね。休んで待ってて」


 そうして彼女からドリンクを受け取り水分を補給する。

 

「クオンくん、シャワー浴びて帰る? そのままだと汗臭いでしょ」

「着替えもないから別にいい」

「着替えなら男女兼用のものがあるからあげるよ。フリーサイズだからクオンくんでも着れると思うから大丈夫」


 そうして、彼女から着替えを受け取りシャワーを浴びることにした。

 ミサキの家のフロか。

 あまりそのことは深く考えないでさっさと汗を流して着替えを済ませた。


「ミサキ、ありがとな」


 そうして帰ろうとしたのだが、ミサキに呼び止められる。


「あのさ、クオンくん」

「どうした」

「また、指導してもらってもいい?」

「訓練のときでも十分だろ」

「でも二人でこうして指導してもらった方が強くなれると思うの」

「都合が合えばな」


 そう言ってミサキの家から出て自宅へと戻る。

 3時間ぐらい潰したが、全然平気だろ。まだ日も傾いてないしな。

 そうして、家に戻るとユナとラナヴルが出迎えてくれる。


「お帰りなさいクオンさん」

「クオンおかえり」


 二人は俺のことを待っていたようで玄関までやって来た。

 

「ただいま。遅くなって悪かったな」


 そう返事をしてリビングへと移動する。

 それからは二人と過ごしていたのだが、この日のユナは、少し元気がないように見えた。

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