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間話 ユナ

感想にて説明不足との意見が多かったので予定外ですが

ユナのエピソードを書きました。

主人公から視点が外れるので三人称です。

(ここは……なに、どこここ。なんで私こんなところにいるの?)


「うっ」


 少女は突然、胸に激しい痛み感じた。

 思わず手を当てたが、特に怪我などはしている様子はない。


「あ、あれ? もう痛くない」


 このとき少女が感じたのは、隷属の楔。それが打ち込まれた証拠だった。

 戸惑いを見せる少女に話しかける者がいる。


「よく来たな、異世界の者よ」

「何を言って……ここは……いや、家に帰して下さい!」


 少女はこのとき、自分が誘拐されたのだと思い軽いパニックを引き起こした。

 いきなり見知らぬ場所で複数の男たちに囲まれていては、そう勘違いするのも無理はない。

 だから、召喚士たちのローブ姿や、魔法陣を見てもそこに目を向ける余裕はなかった。そして『異世界の者』という言葉も受け止めることもできない。

 彼女は男たちから距離を取ろうと後ずさる。


「落ち着け、家には帰せない。それより我々の話を聞け」

「お金ならお父様が払います、だから家に帰して下さい!」


 このとき『家には帰せない』その一言だけが彼女の胸に深く刻まれた。

 身代金目的ではないなら、何だと言うのか。少女の実家はとあるグループの直系に当たり、彼女はその令嬢、いわゆるお嬢様と呼ばれる立場にあった。だから身代金目的で誘拐されたのだと思っていた。

 だが、彼らにそのような気配はない。それは別の目的があるからのかも知れない。

 少女はそう思い、体をこわばらせた。


「やめて……何をする気なの……」

「待て、我々はお前が思ってるような乱暴なことはしない、だから安心しろ。まずは、我々の説明を聞いて欲しい。今お前がいるここは異世界、元の世界とは異なる世界だ」

「……異世界?」


 ここでようやく彼女は異世界と言う言葉を認識することになる。






 その後、ユナは部屋へと案内された。

 そこは飾り気も豪華さもなく、ただベッドなどの家具が一通り揃っているだけの部屋。

 彼女はベッドへと腰を掛け、涙を流す。


(こんなのひどい。勝手に召喚しといて戦うかどうか選べなんて……そんなの、私に戦えるわけないじゃない。でも、こんな世界で仕事しろって言われても……)


 ユナは召喚士から受けた説明について考えていた。

 彼女はこれまで身の回りのことは専属の使用人がやってきてくれていたのだ。今までアルバイトはおろか、家の手伝いすらしたこともない。むしろ服の着替えや、学校の準備すら使用人にやってもらっていたのでその生活力は低い。ユナ自身もそれを自覚していた。

 だから、働いて一人で暮らすことにまるで自信がなかったのだ。

 

(明日から検査があるって言ってたけど、それでどうにか便利な能力があることが分かれば、私でもなんとかなるのかな……ううん、どうせどんな能力があったって一人で生きてくなんて私には無理よ)


 ユナには、この世界に来てから身に付けたはずの能力について、明日から調べていくことが伝えられていた。この世界に来たものは例外を除いて、最初に能力を調べられることになっているからだ。

 そして、それを行う場所が研究室と呼ばれている場所だ。


(もうやだ、なんで私がこんな目に合わなくちゃいけないの……隷属の楔なんて、こんなのただの奴隷じゃない……)


 そして、この世界に来たものに行われるのが隷属魔法の説明だ。

 あえてわざわざ脱走を企てる者を作る必要はない、その為に国外に逃げればどうなるかを教えられる。実際にユナも一度魔法を発動させられ、その痛みを体感していた。


(あんな痛いの、ずっと使われたら死んじゃうわ。これがある以上、言いなりになるしかないのね……)


 そうして彼女は自分の胸へと手をあてた。

 





 翌日、彼女は研究室へとやって来ていた。

 

(ここで検査を受けるのね。どうかこの世界で生きていきやすい便利な能力でありますように)


 そう願いながら彼女は被験者室で待っていると、一人の少女が部屋へとやってきた。というよりも部屋へと戻ってきたんだろう。先に彼女の方が検査を受けていたようだ。


(可愛い女の子、ハーフかしら)


 ユナが彼女を見つめていると、彼女の方もユナのことが気になったようで話し掛けてくる。


「あなたも召喚されちゃったんだ。お互い災難だったよね」


 その様子にユナは驚いた。何故こんなに明るくそんなことが言えるのだろう。

 普通はいきなりこんな世界に召喚されたらもっと悲壮感に包まれるのではないか。なのに、なんでこの少女は何でもないように振る舞っているのだろう。よっぽどいい能力を手に入れたのだろうか。

 そんな疑問を抱き、ユナは動揺した。


「ん、どうしたの?」


 ユナの戸惑った様子を、彼女もまた不思議に思う。


「い、いえ。何でもありません」

「そう?」

「それより、あなたも召喚されて来たんですよね。それにしては落ち込んでないようですが、そんなにいい能力だったんですか」


 思い切ってユナは少女に訊ねてみた。

 すると彼女は答える。


「ん、そうね。いいかどうか分からないけど気に入ったよ」

「そうですか……」


 その返事を聞いて落ち込むユナに少女はさらに話しかけた。


「でも、私がこんななのは、能力が良かったからじゃないよ。そりゃ能力は嬉しいけど、それよりも異世界よ! 魔法があってスキルやステータスがあって、まるでゲームの世界みたいじゃない。モンスターとかもいるみたいだしワクワクするわ。どうせ戻れないなら、この世界を楽しまなくちゃ」


 ユナは彼女の言葉に再び驚いた。

 この世界を楽しむだなんて、ユナの頭には全くない考えだったのだ。


「き、危険です! 危ないです。戦うなんてそんなの……」


 ユナは咄嗟にそう答えた。

 思いの外大きな声を出してしまったようで、相手の少女は目を丸くする。


「すみません、大きな声をだしてしまって……」

「ううん、大丈夫。でも、そうだよね。みんなが私みたいな考えなわけじゃないよね。こっちこそごめんね、なんか無神経だったかも」

「いえ、別にそんなこと……」


 そんな会話をしていると、検査の準備が整ったらしくユナは部屋へと呼ばれた。


「それでは、私も検査を受けてきます」

「うん、いい能力だといいね」


 そうしてユナは部屋へと入って行った。







 検査も全て終わり、その結果が出た。


(最悪だよ……もうこの世界で生きていけないよ……)


 自分は他の召喚された人たちと違って体が強化されていないらしい。

 それだけならまだいいが、能力はそれとは反対に明らかに戦闘向けだったのだ。

 それはつまり、通常の生活を送るなら一般人と変わりなく、戦うにしてもハンデを抱えることになるということだった。


(誰か助けて……私、家に帰りたいよ……)


 ユナはそれから部屋に引きこもった。

 戦うことも働くことも拒否したのだ。


(このままだと私、どうなっちゃうのかな。役立たずだから、隷属の魔法で殺されちゃうのかな……なんか、もうそれでも仕方ないよね。だって私……こんな世界で生きていけないもの)


 そうして部屋に引きこもって数日が経った頃。

 部屋の扉がノックされた。

 

(今日の食事かな……)


 ユナには部屋に引きこもっている間も、ずっと食事が運ばれている。

 これは、いままで多くの異世界人を召喚してきた帝国の、積み重ねられてきた経験による対応によるものだった。帝国は多大な労力を掛けて召喚した異世界人を、無駄に潰すような真似はしない。ユナのように異世界に連れてこられてショックを受けた者への対応方法も確立されていた。


「失礼します、ユナ様。本日の食事をお持ちしました」


 そう言って食事を持ってきたのはメイドの少女。

 

「ローザちゃん、いつもごめんね」


 問題のある異世界人にはカウンセラーの役割を果たすメイドが付くことになっていた。そして、今回ユナに付いたのがローザ。彼女は本来、あまりこの手の仕事を受けないのだが、たまたま他のメイドに欠員が出たため、急遽担当することになったのだ。

 ローザはユナに食事を運ぶたびに彼女の話し相手を務めていた。

 その甲斐あって、ユナの精神もだいぶ安定し、いよいよ部屋から出るときが来た。


「ローザちゃん、私……部屋から出て少し、この世界のことを見てみようと思うの」

「はい、それはいいことだと思います」


 そしてユナは少しずつ部屋から城の中、敷地内、街へと行動範囲を広げていけるようになった。





 

 やがて彼女は演習場へも足を運ぶようになる。

 戦ってる人のことを見学する為だ。

 そうして何回か顔を出しているうちに顔なじみもできた。

 その相手は訓練をちょうど終えて、休憩に入ったようなので駆け寄った。


「お疲れ様、ミサキちゃん」

「うん、ありがとうユナ」


 ミサキ。この少女はユナにとって、この世界に来て初めて話した異世界人だった。

 あのとき、研究室で話したのが彼女なのだ。

 

「ミサキちゃんは凄いよね、もう魔法も簡単に使えて」

「こんなの練習すれば誰でも使えるよ。ユナも覚えればいいじゃん。そうだ、私が教えて上げる」

「え、いいよ。わたしは戦うつもりないし」

「戦わなくても便利だよ、料理するときにも使えるし」


(私、料理もできないんだよね……で、でもせっかく言ってくれてるし断れない……かな)


「……うん。わかった、それじゃ覚えてみようかな……」

「それがいいよ、ならまずは魔力を感じるところからね」


 そうしてユナはミサキからいろんなことを教えてもらうようになる。

 その為、その日以降も演習場へと通う回数も増えていったのだ。

 そんなある日。


「ねぇ、ユナもそれだけ魔法が使えるなら十分戦えるよ。まだ戦うかどうか決めてないんでしょ? 無理にはとは言わないけど小隊に入ってみてもいいんじゃない」

「えっ、無理だよ戦うなんて。魔法だってたまたま能力があるから皆より上手く使えるだけで、私、体力とか元の世界のままなんだよ?」

「でもユナの能力は動く必要ないじゃん。後衛アタッカーとしてみればユナほど優秀な人も早々いないと思うけどな。それにユナは可愛いし、ここでも惚れてる男子は結構多いから、ナイト役を買って出てくれる人はいっぱいいると思うけどな」


 ミサキにそう言われてユナは顔を赤くした。

 彼女はこれまで幼稚園の頃からずっと女子校に通っていたので、恋愛についてはまるで疎かったのだ。

 それなのに惚れられてるだとか、そんな話をされても戸惑うばかりである。

 しかし、いままで実家の存在ばかりが目立ち、個人の力を認めてもらったことがなかったユナにとって、ミサキの言葉は嬉しいものだった。


(私でもこの世界で生きていける。戦えるっていうなら……)


 それから程なくして、ユナは軍へと入ることを決意した。






 そうして彼女は第26小隊へと配属される。


(やっぱり軍隊になんか入らなかったらよかった……辛いです……)


 彼女の体力では小隊の訓練について行くのが精一杯どころか、危うさすら感じさせるものだった。もっとも後衛アタッカーであるユナにとって、肉体トレーニングはそれほど課せられてはいないのだが、最低限の基礎すら彼女にとっては過酷なものだった。


「ユナ、ゆっくり鍛えていけばいいからね。無理しないで」

「は、はい、でも、みんなに、迷惑かけられない、です」


 ユナにとって自分の、個人の力を認められる。

 それが軍に入った最大の動機だった。  

 だから、迷惑を掛けて自分の評価を下げるような真似はしたくなったのだ。

 彼女は弱音を吐きながらも、必死に訓練について行った。

 そうして訓練にも慣れた頃、彼女の前に一人の男が現れた。


「お前が最近、軍に入った美少女って噂のユナだよな」


(だ、誰。この人、すごく偉そう。怖い……)


 男はユナに迫り、なおも話しかけてくる。


「俺は第3小隊のシンヤ、名前ぐらいは知ってると思うが――」

「ご、ごめんなさい。私、まだ訓練が残ってるので」


 いきなり知らない男に詰め寄られてユナは、すぐにその場を立ち去ろうとする。

 唯でさえ異性に免疫のない彼女は男と二人っきりで話すこと自体が恐かったのだ。

 だが、逃げようとした腕をシンヤに掴まれる。


「待てよ、俺が相手してやってんだから話ぐらい最後まで聞けよ」

「やめて、手を離して下さい」


(誰か助けて……恐い……)


 そのとき、彼女の助けを聞きつけたようにミサキがやって来た。

 

「ちょっとシンヤ、何やってるの!」

「ちっ、ミサキかよ」


 シンヤはミサキを見るとユナの手を離した。

 

「ま、今日は自己紹介ぐらいにしとくか。でも、次はもう少し相手して欲しいけどな」


 そう言い残して、シンヤはその場から立ち去った。

 残されたユナにミサキが声を掛ける。


「大丈夫、ユナ。何もされなかった?」

「う、うん。ちょっと腕を掴まれただけだから……」

「そう、ならよかったわ。アイツの臭いは覚えてるから気を付けてたんだけど。遅くなってごめんね」

「ううん、助けてくれてありがとう」


 ミサキの能力は獣人化。その特性は通常時でも発揮される種類のものだ。もっとも能力を使ったときよりも性能は落ちるが、それでも特定の臭いをかぎ分けるぐらいのことは可能だった。


「あいつ、新人の女の子を手当たり次第に手を出してるから、ユナも気を付けてね。もし、襲われたら私を呼んで。きっと聞こえるから、すぐに助けに行くよ」


 ミサキは臭い同様に、聴力も獣並みなのでそう言った。


「うん……ありがとね……ミサキちゃん」


(ミサキちゃんは凄いよね、パーティーでも女の子なのに前衛で戦ってるし、私のことも気にかけてくれて面倒見もいいし。なんか私、迷惑かけてばっかりだよ……)


 ユナはそのことに落ち込んだ。







 それから数か月が経つ。

 いつも通りに訓練を受けて休憩していたユナの元に二人の人物がやって来たのだ。

 一人は知らない男の人、もう一人はメイドのローザ。

 そしてローザは男のことを紹介した。 


(この人もきっと召喚されたばっかりで不安なんだ。私も最初はそうだったものね。だったら私もちゃんと話をしてあげよう。私もミサキちゃんみたいになりたいから)


 しかし、その会話は新たにやってきた者たちに邪魔された。


「おっ、新入りか」


(シンヤくん……クオンさんが私のせいで目を付けられたみたい。いつまでもミサキちゃんには頼りたくない、だからここは私が自分の力でクオンさんを助けなきゃ)


「ちょっとシンヤくんやめて、クオンさんは昨日まだ来たばかりで困ってるんです! それに、まだ軍に入るかどうかも決めてないんですよ!」


 しかし、ユナの言葉はシンヤに軽く躱されることになった。

 それだけでなく、逆に追い詰められてしまう。


「――そうだな。今度の休みにデートしてくれるなら止めてやってもいいぜ」 


 シンヤはそう言ったのだ。

 

(デ、デート!? そんな、私そんなのしたことないし、それにシンヤくんとだなんて、そんなの危険すぎるよ。で、でも、クオンさんがこのままだと私のせいで……うぅ……でも……)


 ユナはシンヤの交換条件に頭を悩ませた。

 そして意を決して答えを出す。


「うっ……わ、わかっ――」

「いいぞ、練習相手になってやる」


 だが、彼女の言葉はクオンによって遮られた。

 それはユナにとって予想外のこと。まさか、昨日きたばかりの人がいきなりこの世界で戦うなんてありえない。彼女はすぐにクオンに反論する。


「ちょっとクオンさんダメです。昨日来たばかりの人が相手をするに危なすぎます」

「多分大丈夫だろ、それほど危険な相手には見えない」


 クオンはこともなさげに軽く答えた。

 そして実際、彼は言葉通りシンヤの動きを躱していたのだ。

 それはユナにとっては危うく見えるものだった。

 ハラハラして見守っていた彼女だが、ついに見かねて飛び出した。

 なぜならそれは、シンヤが魔法を使いだしたからだ。昨日来たばかりのクオンに魔法を防げるはずがない。もし、まともに食らってはただでは済まない。そうした判断によるものだ。


「ちょっとシンヤ君ッ!」


 けれでも、シンヤの魔法は発動直前の為、本人にも止められない。せいぜい方向をずらすことが精一杯いだが、それは前に出たユナを射線上から逸らすに至っていない。

 このままではユナは魔法を受けてケガを負うことになるが、それは直前で防がれた。

 クオンに抱き寄せられ。彼女は地面へと伏せられたからだ。

 そして彼はユナに問いかける。


「大丈夫か」


 いままで異性と付き合ったこともない彼女にとって、男に抱き寄せられるというのは初めてのことだった。しかも危機的状況を救われてのこと。彼女の鼓動はかつてないほど早くなっていた。

 

「う、うん。ありがと」


 彼女はそれだけ言うと、惚けたようにクオンを見つめていた。

 だが彼はすぐにシンヤへと振り向き直したので、その表情を見ることはない。


(クオンさん……かっこいい)


 いままで異性との交流が極端に少なかったユナにとって、男とは恐いものというイメージがあったのだがクオンは違った。少なくとも彼女にはそう見えたのだ。

 それからも彼女たちの会話は続いたが、やがて緊急招集によってそれは打ち切られた。


「また、お話ししましょうね」


(クオンさん……また話せたらいいな……)


 そう言って彼女は戦場へと向かっていった。






 クオンが第26小隊へと配属され、しばらく経った頃。

 女子寮のミサキの部屋には三人が集まっていた。

 部屋の主であるミサキ、そして同じ小隊メンバーであるユナとサヤカだ。


「それで、ユナはクオンくんのことが好きなんでしょ」

「そ、そんなことないよ。ただちょっとカッコいいなって思ってるだけで……」

「いいえ、ユナさんの態度は丸わかりです」

「そ、そうかな。そんなことないと思うけど……」


 年頃の女子が集まれば話題に上がるのはやはり恋愛についてだった。

 今夜はユナに注目が集まっていた。


「で、でもミサキちゃんもクオンさんのことカッコいいって言ってたでしょ」

「わ、私のはただ本当にカッコいいなって思って言っただけだよ」


(嘘だ。本当はミサキちゃんもクオンさんのことが好きなの。私に譲ってくれてるんだ……ミサキちゃんとはずっと一緒にいるから分かるよ。でも、私もクオンさんのこと好きだから……)


「ミサキちゃん、本当にミサキちゃんはクオンさんのこと好きじゃないの?」

「だからそう言ってるでしょ」


(ミサキちゃん……無理してる。でも……)


「うん、だったら私言うね。私、クオンさんのことが好きだよ」

「知ってるわよ」

「はい、バレバレでした」


(ミサキちゃん……ごめん。本当はミサキちゃんみたいな子の方が、クオンさんには似合ってるのかも知れない。ううん、私もミサキちゃんの方が素敵な女の子だと思う。でも、これはミサキちゃんでも譲りたくないから……)


「でも、絶対に誰にも言っちゃダメですよ」

「言うまでもないって感じだけどね」

「ですね、気付いてない人はいないんじゃないでしょうか」

「みんなひどいです」

 

(一番ひどいのは……わたしだよね……)


 そうして女子寮の三人は談笑を続けた。






 そして、任務を終えて裁判が終わった頃、ユナはクオンの家を訪ねる。

 

(なんかクオンさんにもバレてるみたいだし、今日はちゃんと告白しよう)


 先日の戦闘でクオンの衝撃発現によって気持ちを知られていると分かったユナは、意を決して告白しに彼の家へと訪ねてきたのだが、そこでもひと騒動があった。

 それでも、なんとかクオンと二人っきりで話す機会を作ることに成功する。


「ちょっとラナヴルを部屋まで運んでくる」


 そう言って彼は部屋から出て行った。


(い、いよいよだよね。例え気持ちがバレててもちゃんと言わないと。でも……もし振られたらどうしよう。訓練も気まずくなっちゃうよ……でも、言わないと。そうじゃなきゃ、ミサキちゃんにも申し訳が立たない、せっかく譲ってくれたんだから)


 そしてクオンが部屋に戻って来ると、ユナは口を開く。


「あ、あのね。クオンさん。あの……もう気づいてるかも知れないけど……わ、私ね、クオンさんのことが好きなの。そ、それで私と付き合って欲しいの」


(ついに言っちゃったよ。返事は……もう、どきどきする)


 ユナはクオンを見つめ、そして返事が返って来る。


「そうだな、分かった。付き合おう」 


(やった、告白成功だよ!)


 彼女はその返事に舞い上がったが、同時に不安も覚える。


(でも……クオンくんの返事……なんだろう……浮気とかされそう。もし、ミサキちゃんと二股とか掛けられたらどうしよう……私、ミサキちゃんのこと許せるのかな)


 しかし、彼女はその考えを振り払う。


(ううん、何考えてるんだろ。クオンさんが浮気なんてするはずないよね)


 そしてこの日、ユナはクオンの家に泊まって行くことになった。

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