思いがけない出来事
母とのそれなりに穏やかであった日々がある出来事を境に変わり始めます。
そろそろ庭の紅葉も終わり始めたある晩にその事故は起きた。
母は、先ほどから一人でお風呂に入っていた。
もう、そろそろ上がる頃かな?と母を見に行こうと思った矢先……
大きな物音がした。
驚いた梓は、急いで洗面所に向かった。
そこには、
「梓、痛いよ~!」
と転んで横向きになったままの母が痛みに顔を歪めていた。
足元が濡れていて滑ってしまったらしい。
何とか助け起こすと母の右腕がみるみる腫れて黒ずんでいった。
骨折したのかもしれないーー
裸のままだった母に洋服を着せ、すぐに梓は救急車を呼んだ。
母と一緒に5分ほど待っていると救急車のサイレンが聞こえ、車が自宅に近づくと音が止まった。
梓は、担架に乗せられた母と車に乗り込んだ。
受け入れ先の病院が決まるまで、梓はやきもきしたが、運良くいつも母が診てもらっている大学病院に行き先が決まった。
車が走り出す……。
見慣れた景色もサイレンを鳴らしながら走る車の中から見るとまるで別世界のように映った。
華やいだ街のネオンが梓の目にはやけに明るく映った。
母はこれからどうなるんだろう?
梓の頭の中にはその言葉がぐるぐると渦巻いた。
無事に救急病院に着き、母が病院内に運び込まれると救急隊員から
「私はこれで失礼します。どうぞお大事に。」
と丁寧な挨拶があった。
「ありがとうございます。」
救急隊員の温かさに思わず胸を打たれて深々とお辞儀をした梓だった。
心細い時に助けてくれる人たちがいること。
それがどんなに心強いことなのかを梓は身をもって体験した。
救急隊員の人たちも急に身近に感じられ、助けてもらったことへの感謝の気持ちでいっぱいになった。
医師からは、母は1ヶ月の入院が必要だと言われた。
右腕の骨折に加えて足の方にも不具合が見つかったからだ。
骨折が治ってからも、しばらくリハビリが必要になるらしい……。
今まで記憶の方に障害はあったものの体は元気だったのにと梓はがっかりしてしまった。
病室のベットに横たわり、今は痛み止めが効いて眠っている母の顔を見ながら梓は深い溜め息をついた。
入院している間にすっかり弱ってしまったらどうしたら良いのだろう?
仕事はどうにかやり繰りしてやってきたが、これ以上の負担を考えると気が滅入った。
一人っ子で相談相手もいない自分。
こんな時に私にも兄妹がいたら良かったのにと思わずにはいられない。
梓は、誰かに今の自分の気持ちを聞いてもらえたらなと切に思った。




