――プロローグ――
――プロローグ――
淡い光を放つ光苔が複数の人物の存在を浮かび上がらせた。
何者かによって人工的に作られた壁と床で構成された迷路のような場所に彼等はいるが、その場所は地上とは限らない。
迷路、正式には迷宮と呼ばれている場所へは地上にそびえ立つ塔から入ったのだが、塔の大きさと迷宮の大きさの辻褄が合わない。
塔に入った直後なのか、あるポイントからなのかは分からないが、別の場所に転移されたと考えるのが適当だろう。ならば彼等がいる場所が地上なのか地下なのか、はたまた天空なのかなど判断しようがない。
なにしろ迷宮には窓など存在しないのだから。
不可思議な存在である迷宮は、人々の想像力と冒険心を掻き立てるが、同時に人類にとって危険極まりない場所でもある。
迷宮から持ち出された宝物は冒険者の血と汗の結晶であり、富と名誉を彼らにもたらすが、それらは元々冒険者の所有物だったのかもしれない。
迷宮は一獲千金を可能とする宝物庫にして墓所。
その土地を侵す者は探索者にして盗掘者なのだ。
墓暴きを企む盗賊には厳罰をもって処するのは、古今東西皆同じ。王墓と異なるのは墓所を守るのが魔物という点だけだろう。
魔物が先に住み付いたのか、迷宮の建造者が魔物に追い出されたのか、それとも意図的に召喚されたのか。それは最早どうでもよい問題だろう。
重要なのは、迷宮には人のロマンを掻き立てるだけの宝物と、同時に危険が存在するということなのだ。
betするのは自らの命。
怖れを知らず挑戦するギャンブラーは数知れず、生き残るものはそれなり、成功を収める者は僅か。それが迷宮の現状だ。数多の者達が死に絶え、胴元は賭け金を回収する。
駄賃代わりに、彼らの装備品一式も回収されるのは御愛嬌。
迷宮内に存在する本物の宝物に比べれば金銭的価値は僅かかもしれないが、失敗者が多ければ回収される額もまた多額になる。命がけの賭博はときに勝者を生み出すかもしれないが、彼が手にした宝物はかつての仲間が手にしていたかもしれないのだ。
冒険者と書いて盗掘者と読むとは、よく言ったものである。
盗掘者と後ろ指を指されて自尊心を傷つけられる奴や、後悔に苛まれる奴は冒険者にはいない。仮にいたとしても、それはかつての自分だろう。冒険者として成長する過程で捨て去った感情であり、センチメンタルな感情は迷宮では命取りだ。
僅かな気の緩みが即死に繋がる世界。
そんな場所でジョークの一つでも言える奴がいるとしたら、余程の馬鹿か手練れの冒険者という事になる。
これから見る冒険者はそのどちらなのか。
賭け金を回収し続ける迷宮をもってしても判断しかねる存在が、今日もやってきた。