1話
「よぉ、ユキト。もう予定時間は過ぎてるぜ」
背後から投げかけられた男の声に振り向く。
そこにいるのは赤髪に血のような赤い瞳の男だ。夜の闇に溶け込むような黒衣を着て、髑髏の柄のグローブを嵌めている。
この男の名前はアルゴ。
俺の仲間であり、邪神――つまり一応はこれでも神族の端くれだ。
俺から少し離れた倒木に腰掛けたアルゴは退屈そうに話を続ける。
「ルナリスはなんで来ねぇ?」
「ルナか。別件だとさ」
ルナリスというのは仲間の女神だ。いつもは俺たちとチームを組んでいるが、今回は別の役目があって来ていない。
「さっきまで雲に隠れていた月が出てきやがった。忍び込むには面倒になんぞ」
「そうだな」
俺も顔を上げると、兄弟のように並んだ大小ふたつの月から青白い光が地上に降り注いでいる。
続いて視線を地上に転じれば、月明かりに浮かび上がる大きな城が丘の上に建っている光景が目に入る。
生者を否定するような禍々しい雰囲気を放つ城だ。
そこを守るのは骨だけの死者の兵――スケルトンである。
城壁に立つスケルトンの多くは弓やライフルを身に付け、見張りを続けている。少数だが杖を持っているのはスケルトンメイジだろう。
あそこに、とある人物が囚われている。
俺たちの目的はその救出だ。
だが、俺たちだけでそれをするわけではない。他の部隊と協力して行うことになる。
役割としては救出担当と陽動担当に分けられる。俺たちはそのうちの前者だ。
目的の人物の居場所が判明したのはつい先日のことで、手が空いていた俺たちが先行して向かうことになった。
周辺の偵察や警備状況などを調べて本部に伝え、そうして今夜救出作戦が実行されることが決まったので俺たちはこうして増援を待っているというわけだ。
「もうオレらだけでやっちまわねぇか? 大したことなさそうだぜ」
「アホか、そんなことができるか」
スケルトンぐらいなら数が集まろうとも力ずくで突破できる自信はあるが、城の内部の状況は分かっていないのだ。思わぬ強敵がいる可能性はある。
何より囚われの人物の安全が確保できていないのだから慎重に事を運ぶべきだ。
不満を露わにするアルゴを抑えつつ、それからしばらく待機を続けた。ふたつの月を眺めながら過ごすこと暫し。
「――来たか」
気配を感じてそちらに顔を向ける。
やがて地形に身を隠しながら十数名の人影が姿を現した。
「連邦のユキトにアルゴだな?」
一行の先頭に立つ赤髪の男がこちらの素性を確認してくる。
筋骨隆々の大男だ。盛り上がった筋肉が暗色の戦闘服を押し上げている。
厳しい顔をして俺たちを見据える眼光は鋭く、こちらの一挙手一投足を見逃すまいとしている。
「ああ、そうだ。初めて見る顔だけど、そちらは?」
俺が代表して答えると、男はわずかに警戒を緩めた様子を見せた。視線から剣呑さが薄れ、全身に張り詰めていた力が抜けたのが分かった。
「私は竜族のファルガ。この者たちは私の部下だ。この度の皇女殿下救出に対する連邦の助力に感謝する」
「なるほど。いや、協力するのは当然のことだ。気にしないでくれ」
これまで俺たちが所属する多次元連邦、そして連邦と敵対関係にある六神同盟のいずれに対しても中立を保ってきた竜族が、連邦への参加に乗り気になっているのだ。ここで皇女救出が成れば竜族の連邦入りが正式なものになるだろう。
だからこそ連邦上層部も今回の作戦を重視しており、何としてでも成功させろとお達しがあった。
出来るだけのことはするつもりだが、成功するかどうかはやってみなければ分からない。幸運の女神が微笑んでくれるかどうかだ。
俺の知り合いの女神と違って優しいことを願おう。
◆◇◆
作戦はまず救出担当が城へと潜入することから始まる。
潜入に成功した後は皇女の居所を探すことになる。無事に発見できたら、外部の陽動担当が攻撃をかけるのを待つ。
そして攻撃によって生じる混乱に乗じて皇女の身柄を確保し、脱出するという流れだ。
この作戦における懸念点としてまず挙げられるのが、潜入に成功するかどうかだ。
もしこの初期段階で失敗するなら後はもう力押し――つまりは城を落としてしまうしかない。諦めるという選択肢はないのだ。
俺とアルゴ、そして竜族の力を結集すれば不可能ではないと思うが、この方法では皇女の安全が保証できない。
こちらの攻撃に巻き込まれる恐れがあり、それ以外にも敵が皇女を連れて逃げる可能性もある。また、敵の戦力がこちらを上回っている場合の結末は言うまでもない。
次に現時点で皇女の居場所が判明していない点だ。
潜入から攻撃開始まではある程度の時間を設けてあり、その間に皇女の囚われている場所を探すことになる。
もし皇女を発見した時点で救出できそうなら予定を変更してすぐさま脱出することになるが、そうそう簡単には行かないだろう。
時間内に発見できなかった場合は臨機応変に対応することになる。言葉を変えれば、行き当たりばったりともいう。
いずれにせよ、後には引けないのだからどんな障害があろうと突き進む他ない。
城に潜入するのは俺とアルゴ、竜族からはファルガとその部下であるエアロナという女の4人に決まった。
エアロナは緑髪を肩まで伸ばしたほっそりとした女性だ。優しげな顔立ちで、態度の端々にも性格の良さがにじみ出ている。
俺個人としては胸が少々寂しいのが残念ではある。小さいのも悪くはないとは思うのだが、やはり見た目のインパクトは大きい方に軍配が上がるというのが俺の持論だ。
地形の起伏に身を隠しながら城の近くまで接近する。まだ敵から発見されていないと思うが油断は禁物だ。
各人が携帯型の電磁迷彩装置と魔法による気配隠避という科学・魔法を併用した対策は取っている。
起動中の電磁迷彩装置がフィールドを形成し、かなり近づかない限り俺たちの姿は風景に溶け込んで視認できないはずだが、絶対に見つからない保証などない。
急がず、ゆっくりとした速度で丘を登っていく。身を隠していた岩から地面の窪みへ、敵に変化がないことを確認するとまた次の遮蔽物へと。
そんなことを何度も繰り返し、見張りから死角になる城壁真下の暗がりにたどり着いた。
「何とかここまで来れたな」
他の三人にだけ聴こえるように小さな声で囁く。
「だがこれからが本番だ。気を抜くなよ」
「こんなチマチマしたこたぁ、やっぱりオレの性に合わねぇな」
険しい顔でファルガが注意し、アルゴが肩をすくめる。
「頑張って絶対に皇女様を救出しましょう」
エアロナが両手をぐっと握りしめ、全員に発破をかける。オッパイが揺れないのが悲しい。ほとんど見えないけれど。
約一名を除いて士気は高い。俺はもちろんやる気十分だ。
ここからのルートは3つ考えられる。城壁を越えるか、城壁を破るか、地面を掘るかだ。
どの方法だろうと内部に入り込めさえすれば良い。
ただし、俺たちの存在が露見する可能性は極力抑える必要がある。
城壁を越える際には敵のすぐ傍を通り抜けることになるので発見されるリスクが他より高い。
残りふたつは敵から離れた場所を通れるのでその点ではマシだ。
具体的にどうするかというと「沈黙」の魔法を周囲にかけて、城壁または地面に進入路を開け、通り抜けたら元に戻すというだけである。
だが、城壁の向こう側の状況がわかっていない。反対側に敵がいたら笑えない事態になる。
透視の魔法か魔眼があれば確認できるのだが、俺たちの中に使える者はいない。
よって選ぶのは城壁越えルートだ。
全員が「飛行」の魔法で浮かび上がる。
速すぎると電磁迷彩が揺らいでしまう。また、高速で飛行するほど魔力が多く漏れ出るため気づかれやすくなる。そのため速度には十分に気をつけながら上昇していく。
城壁上部までもう少しといった辺りで、巡回中のスケルトンがカタカタと骨を鳴らしながら近づいてくるのを察知した。
すぐに壁に張り付くように空中で停止し、気配を殺す。
動かなければ電磁迷彩はより効果を発揮する。だが、この距離では勘のいい相手には不自然さを抱かれるかもしれない。
スケルトンにそんな上等な感性はないと思うが、息の詰まる時間が続いた。
「…………」
やがて、スケルトンはこちらに気がつくことなく通り過ぎていく。
十分に距離が開くのを待ってから素早く城壁の上の凹凸を乗り越え、俺たちは手近な物陰に身を隠した。
「ヒヤヒヤさせてくれるぜ」
「文字通りの節穴な目に見つかるかよ」
アルゴと軽口を交わす。
電磁迷彩があるとはいっても、すぐ隣にいればそこにいることは分かる。注意して見れば風景が歪んでいるような違和感があるのだ。逆にいえば注意していなければ気づけないということでもある。
今のところは順調だ。ここまでスムーズに来れたので、攻撃開始時刻までにはかなりの余裕がある。この調子で行けば皇女を無事に救出できるかもしれない。
「静かにしろ。周りは敵だらけなのだぞ」
「ハッ、肝っ玉の小せぇ野郎だ」
「なんだと貴様ッ」
「おいバカッ、アルゴ止めろ」
こんな時に何をやっている。
「へーへー」
「すまないファルガ。コイツはバカなんで気にしないでくれると助かる」
アルゴはちっとも反省した様子はなく、顔は見えなくてもニヤニヤと笑っていることが容易に想像できる。
「まあまあ隊長、アルゴさんなりの冗談だったんですよ、きっと。今は大事な任務中なんですから落ち着いてください。ね?」
エアロナのフォローが入る。
無論アルゴの発言は冗談ではなく単に喧嘩を売っているだけだ。そんなことはエアロナも承知の上で、これ以上の諍いが発展しないように場を収めようとしているのだ。
彼女がいてくれてよかった。もし男三人だけだったら俺の負担が大きすぎる。
「……さっさと行くぞ。迅速な行動が求められていることを忘れるな」
ファルガが先頭に立って歩き出す。俺たちもその後に続いた。
どうにか城に入り込んだ俺たちは、予定通り皇女の探索に移行した。
エアロナが風の精霊を使役して探させようかと提案してきたが、その案は却下された。
広範囲に渡る魔法を使うと察知される恐れがあったためだ。
城内部には監視カメラや赤外線センサーなどの警備システム以外にも、魔法の発動を感知するための魔法回路が壁や床に刻まれている。
ただの模様にしか見えないが、一定以上の魔力を感知したら警報や罠が発動する仕組みだ。
ちなみに現在俺たちは気配遮断の魔法を使っているが、この種の魔法には魔力を隠避する効果も備わっているので魔法回路が反応する心配はまずない。
隠れるための魔法で魔力を撒き散らし、発見されるようでは本末転倒というものだ。
しばらく探しても皇女の居所が掴めなかったので、別々に探すことになった。別れ際にファルガがアルゴを戒めていたが、おそらく反対の耳から抜けていったことだろう。
通路を行き交うスケルトンをやり過ごし、俺はひとり城の中を探して回る。
ジリジリと残り時間が削られていくことに焦りを感じるが、焦りはミスを呼ぶ。深呼吸をして心を鎮め、次のエリアへと向かった。
「――――あれは、地下への階段か」
通路の角に隠れて様子をうかがう。
これまでにも地下室は見かけたが、埃の積もった倉庫やゴミ捨て場などで完全に無駄足だった。
だが、ここはそれらとは明確に違う点がある。二体のスケルトンが地下室へと向かう階段の両脇に立ち、周囲を警戒しているのだ。
これは守るべき何かがあることを意味する。
財宝の保管庫かもしれない。あるいは武器庫。この城の城主の部屋であってもおかしくない。死者の城の主だ、地下室で暮らしていても不思議ではないだろう。
だが、皇女がいる可能性もある。
どのみちもう時間がない。攻撃開始時刻が迫っていた。ならば外の部隊の攻撃に合わせて内部を確認してみよう。
俺は近くの物陰に隠れると、ジッと動くことなく時を待った。
◆◇◆
遠くから爆音が届き、座っていた床が微かに揺れる。
直後、警報が鳴り響く。その音に急かされるように、槍や斧、弓や銃火器で武装したスケルトンたちが大挙して、隠れている俺のすぐ傍を駆け抜けていった。
まだだ。まだ早い。
今すぐ動きたくなる気持ちを抑え、その場で待機を続ける。城内が手薄になるのを待ったほうがいい。
静かに規則正しく呼吸を行い、意識を全身に伸ばしていく。頭から胴体、そして手足へと。指先にまで意識が行き渡り、体が思い通りに動くことを確信する。
続いて魔力を練る。全身を巡る魔力の流れを腹部の丹田へと集め、より高純度な魔力へと昇華させていく。
最後に鋭く呼気を吐き出し、俺は立ち上がった。
右手を軽く持ち上げる。自分用に構築している亜空間を開くと、固い感触が手の中に出現していた。
剣だ。
無骨で肉厚な片手半剣。だが、黒い握りの部分に施された金の紋様によって実用一辺倒だけではない風格をまとっている。
師匠、行きます。
この剣の以前の持ち主であり、今はもういない武神に一瞬だけ祈りを捧げる。
階段を守る二体のスケルトンは持ち場を離れてはいない。敵の襲撃があっても優先するべきものがあるのは確実だ。
階段に向かって歩を進めると、スケルトンたちは即座に臨戦態勢を取った。一方は長大なハルバードを構え、もう一方はライフルをこちらに向けてくる。
剣の一部が電磁迷彩のフィールドからはみ出ているためだ。あちらには宙に浮かんだ刀身が見えていることだろう。
もう隠れる必要はない。俺は電磁迷彩を解除した。
同時に剣を振るう。空中に火花が散り、弾かれた弾丸が壁に穴を開けた。
「ギィィィ……!」
初弾を防がれたスケルトンの射手は、今度は連射してくる。音速で飛来する弾丸を足運びだけで避け、前へと出る。
それを阻むように、弾丸を追い越すほどの速度でもう一方のスケルトンが飛び込んできた。
振り下ろされるハルバードの先端速度は音速の数倍に達し、引き裂された大気が悲鳴をあげる。
横に軽く跳ぶことでそれを回避する。目標を外したハルバードは止まることなく落下し、凄まじい衝撃を受けた床が放射状に砕けた。
直後、スケルトンの横をすり抜けようとした俺を目掛け、ハルバードが跳ね上がってくる。床を叩いた反動を利用した返しの刃。頸を断とうとする一撃を身を沈めることでくぐり抜けると、そこを狙って弾丸が撃ち込まれる。
だが、俺はそれを無視した。
足を床に突き立てることで前へと進む勢いを円運動に転換。その場で鋭く回転し、加速した刀身がスケルトンの胴体を両断した。
上下に分断されたスケルトンは、それでも攻撃を止めようとしなかった。空中に残された上半身だけでハルバードを振り下ろしてくる。
未だに回転を続ける動きに逆らわず半身になることで回避する。
更に身を捻りながら床を蹴った。横に倒した体に縦回転が加わり、それを足先へと伝えて振り下ろす。
斜め上から襲いかかった蹴りがスケルトンの頭部を粉砕した。砕けた骨の破片が飛び散り、力を失った骨だけの手からハルバードが滑り落ちる。
その時、ようやく到達した弾丸が着地した俺の顔や胴体に命中した。
だが、最初の射撃の時点で呪いや毒といった要素のない通常弾であることは確認済みだ。それならば例え至近距離から撃ち込まれようとダメージはない。
残ったスケルトンの射手も片付け、俺は地下への階段に足を進めた。
階段を降りて行くと、すぐに扉に突き当たった。
見るからにただの扉ではない。
両開きの扉には頑丈そうな錠前が掛けられ、複雑な魔法回路が刻まれている。
外から鍵がかけられているため、もしこの中に誰かがいるなら自力では出られないだろう。
魔法回路は扉を開けられないようにする罠の類だろうか。
ここまで執拗に閉ざされた扉だ。当たりを引いた予感が強くなる。
試しに剣先を突き出してみると、扉に届く前に何かによって止められた。魔法回路が発光し、半透明の障壁が形成されている。
「なるほど」
もっと攻撃的な罠が発動するかと思ったが、違ったようだ。
もしかしたら頻繁に出入りしているのかもしれない。もし致死性の罠であったら解除に失敗したら大変なことになるが、こういった結界ならその心配はない。
「まあ、これぐらいだったら……なッ!」
上段に剣を構え、振り下ろす。
障壁が行く手を阻むが、一瞬の抵抗の後にあっさりと突破できた。過剰な負荷を受けた魔法回路から光が失われ、障壁が霧散した。
遅れて切断された錠前が落下し、甲高い音が地下空間に反響する。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
取っ手を掴むと、少しだけ開けてから一度止める。
内側からの攻撃はない。罠の発動もない。
覚悟を決め、一気に開ける。
部屋の中に足を踏み入れると、独特の鉄臭さが鼻の粘膜に届いた。血の匂いだ。
室内は薄暗い。
天井の照明がオレンジ色の光を投げかけているが、元々の光量が少ないのだ。
背後で開いたままの扉から差し込む光で多少は明るくなっているのにこれでは、普段のこの部屋は生活することにさえ不便を感じるだろう。
そんな劣悪な環境の中に、俺の探し求めていた人物はいた。
少女だ。
透き通るような銀髪に、黄金の瞳。肌は白く、驚くほど肌理が細かい。
中学生ほどの小柄な体を包むのは紫を基調としたローブだ。腰帯で締めていることで華奢な体のラインが見て取れる。目立たないようにローブに施された刺繍は一見地味だが、よく見れば格調高さを感じさせる気品があった。
そして、まだ幼さを残しながらも人間離れした整った容姿をしている。
竜族の基準で見て美人かどうかは分からない。ただ、人間から見たら美しいとしかいえない超がつくほどの美少女だ。
だが、そんな美しい少女が力なく壁に背を預けて床に座り込んでいる。
壁から伸びた手錠に繋がれ、腕には血の乾いた跡があった。中空に向けられた顔には凍りついたように表情らしいものがない。
痛ましい姿に胸が詰まった。
「…………誰?」
聞き逃してしまいそうなほど小さな声。その口が微かに動くところを見ていなければ、気がつかなかったかもしれない。
それでも少女はまっすぐに俺の顔を見上げ、瞳には確かな意思を宿している。
「君を助けに来た」
膝を落として少女と目線を合わせる。少女はほんの少しだけ目を丸くして、俺の目をジッと見つめ返してくる。
神秘的な黄金の瞳――竜眼から俺の内面を暴き出すかのような圧力を感じる。もしかしたら心を読む力があるのかもしれない。例えそうだとしても目を逸らすつもりはない。
実際には僅かな時間だっただろう。だが、長く感じた視線だけの対話は、少女が目を閉じることで終わりを迎えた。
「そう、ありがとう」
少女の口元に浮かんだ小さな笑みに、俺は必ずこの娘を助けることを誓った。






