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プロローグ

 『断絶界』と呼ばれる場所がある。


 ほとんどの者には己の住む世界しか認識できないが、この世には無限に等しいほど世界は存在する。

 例えば地球のように科学が発展した世界、例えば魔法が実在し、エルフやドワーフといった人間以外の知的生命体がいる世界。神が存在する世界、神がいない世界。

 そして、永劫の時の流れの中において滅び去った世界も幾つもあった。


 通常そういった滅んだ世界は跡形もなく消滅する。

 暗黒の宇宙に燦然と輝く恒星も、光を受けて夜空に輝く無数の星々も、多種多様な生物たちも全てだ。

 しかし、極々まれに世界のほんの一欠片だけが残ることがあった。


 それら世界の欠片――あるいは残りカスとでもいうべきものが集まる場所がある。

 どのような仕組みによってそれが起こっているかは神と崇められる高位存在たちでさえ分かってはいない。

 ただ、この世の始まりからその場所はあり、永劫の時の中で少しずつ、少しずつ世界の欠片が積み重なっていった。


 無数の小世界の集合体。

 生態系や世界法則すら異なる世界群が複雑に絡み合い、自然環境どころか時間や空間すらも乱れ、神ですら脱出不可能な牢獄と成り果てた地獄。

 過去に内部の様子に興味を持った幾人かの神が侵入を試みたがそれっきり戻っては来ず、救助のために向かった別の神すらも同じ結末をたどった。


 そして、いつしかその場所は『断絶界』と呼ばれるようになり、神ですら手出しできない禁忌の地として恐れられるようになった。






 ◆






 古来より神隠しという現象がある。

 大抵は単なる失踪か、事故や遭難なのであるが、中には本物の超常現象として人が消えてしまうことがあったかもしれない。

 少なくとも彼――天生行人(あもうゆきと)――は神隠しと呼ばれるに足る現象に遭遇した。


 ごく普通の高校生である行人が学校からの帰り道を歩いている時だった。

 突如目の前の空間に亀裂が走ったかと思えば、音はしないが確かに何かが割れた感覚の後に、真っ暗な穴が空中に生じたのだ。

 明らかな異常事態に、行人は呆然と立ち尽くした。


 もしかしたらこの時すぐに逃げれば助かったかもしれない。だが、我に返った行人は思わず周りを見渡し、誰もいないことが分かるとどうするべきか迷った。

 何度まばたきをして、目をこすってみても穴はそこにある。幻覚ではないはずだ。


 警察に電話するべきか、それとも消防署だろうか。どちらも超常現象は担当していないというのは知っている。何より、空中に穴ができていますなどと正直に言ってもイタズラにしか思われないだろう。


 ならば見なかったことにした方がいいのか?

 しかし、もしこれが危険なもので、自分が連絡しなかったことが原因で誰か怪我でもしたら流石に罪悪感に苛まれる。


 そもそもこの穴は一体何なのだろう。マンガやゲームに出てくるような空間の裂け目というものが近い気がする。

 人並みに漫画を読み、ゲームをする行人は持ち前のファンタジー知識からそれっぽいものを当てはめた。


 まさしくそれが正解だったのだが、現実にそんなことが起こるなんて考えるのは馬鹿のすることだと、最近中二病から高二病に移行していた行人は鼻で笑う。きっと自分が知らない何らかの自然現象なのだろう。

 そう決め込んだ行人は、やはり警察に電話しようと決意し、携帯ガラケーへと手を伸ばした。


 ここがタイムリミットだった。

 生まれて初めて警察に電話することへの緊張から通話ボタンを押すのを躊躇っていると、突然の突風が全身に叩きつけられた。


 驚いた行人が携帯の画面から顔を上げると、落ち葉や地面に落ちていた石が穴へと吸い込まれていく光景が目に入った。

 穴の吸い込む力は瞬く間に強くなり、危険を感じた行人が逃げようとした時には人間すら持ち上げる台風か竜巻並みの風速に達していた。


 足が地面から離れ、咄嗟に伸ばした手は何も掴むことなく、穴に吸い込まれる恐怖への絶叫を残して行人は消えた。


 あるいはこれが異世界からの召喚などであればまだマシだっただろう。実際、別の世界から人や動物を招く召喚魔法が存在する世界もある。

 だが、今回の現象は全くの偶然であった。

 天文学的な確率で世界を隔てる次元空間が不安定になり、たまたま行人の目の前の空間に時空の裂け目が生じ、不幸なことにその先が『断絶界』に繋がっていたのだ。


 行人を飲み込んでからもしばらく穴の吸引は続いていたが、やがて穴も宙に溶けこむように消え去り、後には暴風で荒れた道路だけが残された。

 後に局所的な竜巻と判断され、行人は行方不明として扱われることになる。


 これが全ての始まりだった。








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