第3話 入部編③ 射撃練習
「ここは、第1射撃場だ。ここで実弾が入った銃を使い、射撃練習を行う」
深堀部長と凜に案内されてやってきたのは、体育館くらいの広さがある場所だった。
部屋の4方向は灰色のコンクリートで覆われ、窓1つないところである。
説明によると、ここは先ほど説明を受けた部室の地下らしい。
室内を見渡してみれば、射座呼ばれる射撃台が10つ、ズラリと並んでいた。
どうやら、ここで銃を撃つようだ。
「では、いきなりで悪いが、ここで君の射撃の腕前を見せてもらおうとするかな」
「えっ!?」
今!?
僕は内心焦る。
ていうか本当にいきなりですね・・・
「あの、確かに僕は元射撃部でしたけど、実弾は使ったことが … 」
射撃部といっても実弾を使うわけではない。
中学生は未成年なので、ビームライフル銃を使用するのである。
ビームと言っても、レーザーではない。
キセノンランプが発光して、光センサーがそれを感知して、命中判定を行うわけなのである。
「それは心配ない。使い方はこちらで指導する」
「じぁあー、あたしが教えるー!」
凜はそう言って、元気よく手を上げた。
それがまた可愛らしく感じてしまう。
「じゃぁ凜、さっそく指導してあげてくれ」
◇
「でー、こうして弾が入った弾倉を挿入してー、スライドストップというところを押すとー、スライドが前進してー、弾丸が送り込まれるんだよー」
凜は僕の目の前で、本物の拳銃を手に持ち、使用方法を説明し終えると、デスク台の前に立った。
銃を持った女の子って案外いいなぁ と心の中で思った。
凜の表情はいつもの無邪気な表情と違って、真剣そのものだ。
それはそれでまた、一種の魅力を感じるわけだが。
「こうして構えてー、標的に狙いを定めるのー」
凜は拳銃を構え、狙いを定める。
標的は、20mくらい離れた先にある的。
凜が一気に引き金を引くと、パンッというすさまじい音が響き渡った。
一応 耳栓はしているのだが、それでもすごい音である。
ちなみに凜が撃った弾は、見事に的の中心に命中していた。
この少し天然さんに見える彼女が撃ったとは、到底に思えない。
凜は射撃し終えると、僕の方に向かって、いつもの無邪気な表情を浮かべて笑みを浮かべた。
「凜、すごいね。」
「そうかなー? 毎日練習してるからねー。ほら、祐磨もやってみてー」
言われたとおり、僕は目の前にある黒い拳銃に手をかける。
手に持った瞬間、ずっしりとした重みが伝わってくる。
それを前方に見える直径40cmの的へと向けて構える。
「えーとー、もっと、こうして体の重心を前の方に向けてー」
凜が体の姿勢を、直接直してくれる。
凜が後ろから抱き着くように密着してきて、背中に柔らかいものが当たった時には、思わず拳銃を落としそうになったが・・・・
「よしー、これで撃ってみてー」
僕は凜に指摘してもらった体勢で、狙いを的の中央へと向ける。
銃口を的の中心よりも少し下へ向け、そして一気に引き金を引いた。
脳を揺さぶるくらいの音が響いたと同時に、衝撃で体が後ろへと倒れそうになったが、凜に指導してもらったおかげか、なんとか倒れずに済んだ。
やっぱ中学の時の射撃部とは随分違うな、と感心していると、
「お~、すごいねー!」
「さすがは元射撃部だな。実弾の初心者にしては、なかなかのものだ」
後ろで、凜と深堀部長の感心した声が聞こえてくる。
よく見れば、僕が撃った弾は、なんとか的に命中していた。
命中しているといっても、ギリギリの位置だ。
「そうですか? でも的の端ですけど … 」
「普通、初心者なら的にすら命中しないよ。練習すればもっと上達する」
深堀部長が関心したように拍手をしていると、射撃場にライフル銃を持った女子2名が入ってきた。
2人ともピンク色の髪色をしていて、顔は双子みたいにそっくりだった。
そのうち、ツインテールの髪型をした女子がこちらに気が付いたのか、小走りで近づいてきた。
「えっ? 何々? 凜ちゃん達、何してるの?」
「えーとねー、新入部員の初射撃を見せてもらってたんだよー」
「新入部員? でも新1年生の勧誘はまだだったはずだけど … 」
その女子生徒は、僕の方を見て、
「もしかして … この人?」
「うん。ほらー、昨日話したー … 」
「あーーー、確か、凜ちゃんが熱心に話してた男の子のことか。でも今思ったら、恋に疎い凜ちゃんが男の子をナンパするなんてめずらしいね。ウチぶっちゃけ驚いたわ」
「えっ?」
凜の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
「いや~、やっぱ天然な凜ちゃんも女の子なんだね~。ちなみに告白とか … 」
彼女が言い終える前に、凜のストレートパンチが彼女のこめかみに直撃する。
「ぐへっ!」
ツインテールの彼女は目を回しながら、そのまま床へと倒れてしまう。
凜は顔を真っ赤にしながら、
「紗里ちゃん! 変なこと言わないでよー!」
「うぉへんなはーい (ごめんなさーい)」
しばらくの間、凜はワナワナ両手を振り回していたが、やがて僕の方に向かって、
「ほ … 本当にそうじゃないよねー!」
はい? 何がですか?
僕は正直、彼女たちが何のことを話しているのかが、わからなかった。
深堀部長の方を見ると、彼は非常に気まずい表情でこう言った。
「えーとだな、まぁ … とりあえず次の部屋に案内するとするか … 」
◇
「あの、部長、さっき入ってきた2人も超常現象調査部の部員ですよね?」
「ああ、そうだよ。彼女たちは一卵性の双子なんだ。セミロングヘアーの方が妹の神納麻里で、ツインテールの方が姉の神納紗里だ。2人とも2年1組に所属している」
「へぇ~、ちなみに部員って何人いるんですか?」
「キミも含めると全員で、男子3名 女子6名 の合計9名だよ」
「意外に女子多いですね」
「まぁな」
そうこうしている内に、僕達の目の前に十字路が現れた。
「この先まっすぐ進むと、普段我々の活動において、重要な情報を収集する部屋がある。右に曲がると仮眠室、左に曲がるとシャワー室・トイレ・休憩所がある。すまないが、俺はこれから調査に向かわなければならないから、後の詳しいことは、凜に聞いてくれ」
「わかりました」
「まかせてー!」
「うむ。じゃあな」
そう言い残すと、深堀部長は急ぎ足で立ち去って行ってしまった。
とりあえず凜と一緒にまっすぐ進み、扉が見えてきた。
ドアを開けて中に入ってみると、部屋内は本とパソコンだらけだった。
ズラリと並んだ本棚、日本地図が映し出された大画面、監視モニターみたいなものからパソコン・通信機などがたくさん並んでいる。
「ふむふむ、静岡県浜名湖にて未知の巨大生物発見か … 。実に興味深い話ですな~」
モノが溢れる部屋の中、ただ1人だけでパソコン画面に向かって、独り言を呟いている女子生徒がいた。
ツインテールの髪、メガネをかけており、なんといっても背が低かった。
そんな彼女は入ってきた僕たちに、まだ気が付いていない様子。
「同署はアザラシなどの可能性もあるとみて、付近を航行する船舶に注意を呼び掛けている … か。これは調査しなければ … ってこの学校の管轄地域じゃないから、無理ですわい!」
「あ … あのぅー、柳苗ー?」
「んっ? その声は凜ちゃんかい?」
凜の呼びかけに、ようやくこちらに気が付いたようだ。
その女子生徒は、凜と一緒に近くまで寄ってくると、
「いや、悪いね。つい夢中になっててのう」
すると、彼女は僕の顔を観察するように見てきた。
「ああ、確かこの人が凜ちゃんが言ってた子?」
「そだよー」
彼女はメガネをキランと光らせて、
「私は3年1組の文崎柳苗だわい。この部の情報収集係を務めていますの。ちなみに背のことに触れたら、世界の果てまで追いかけまわす!」
怖っ と心の中で叫んでしまう。
背のことには絶対に触れないでおこう。
ていうか僕らよりも先輩だったんですか。
てっきり、後輩かと思いました。
「あ、そうそう、丁度いいところに来たね。実は頼みがあるんですわい」
「頼みー? もしかしてー、また調査?」
「そうなのよ。とある目撃情報を掴んだのよ。このまえのガセ情報じゃなくて、今回のはマジなガチ情報みたいね」
文崎先輩は1枚の書類を手に取りながら、興奮した様子で語り出した。
「同市内の大丸4丁目のトンネルで、最近 未確認生物の目撃情報が多数出ているのよ。しかもそのトンネル付近では、失踪者が相次いでいるとか」
「あの、先輩、4丁目のトンネルって … たしか大丸トンネルのことですか?」
思わず僕が口をはさむと、文崎先輩は親指を立てた。
「そうよ。そのトンネルのすぐ前には、自殺が多いとかで有名な池があるのよね。最近は立ち入りが禁止されていたハズだけど … 」
文崎先輩はニヤッと笑みを浮かべ、僕らの方を見てきた。
「ってことで、あんた達、調査お願いね。」
「ええっ!! 僕もですか!? でも僕はまだ … 」
「まぁまぁ、いいじゃんよ。あんたにとって初任務だけど、何事も体験してみることが1番!」
「そだよー。大丈夫ー! あたしがついてるからねー!!」
ていうか、本当に凜で大丈夫なのだろうか?
まぁ、でも射撃の腕前は結構すごかったけど・・・
「あんたと凜ちゃんだけでは心配だから、もう1人他の部員にも付いてもらうから」
「うん! まかせてー!」
凜は嬉しそうに僕の手を握りしめながら、にこやかにほほ笑んだ。
「ガンバローねー!祐磨ー! へへっ^^」
「う、うん」
心配な気もするが、凜の笑顔を見ていると、そんな不安もすぐに消えてしまい、好奇心が湧いてきました。
こんな感じです