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第32話 修学旅行3日目  地下鉄

『半蔵門線をご利用いただきまして、ありがとうございます。この電車は、渋谷方面 東急田園都市線直通、 急行 中央林間行きです。渋谷までは各駅に停車します。次は、青山一丁目、青山一丁目です』



 「やっほー! もうすぐ渋谷だよ渋谷! お買いもの張り切っちゃうよぉ~!」


 「麻里はよくこんなハイテンションでいられるよね」



修学旅行3日目、今日も班別自由行動の日である。


現在場所は地下鉄の電車内。

本来ならみんなで楽しみたい … と言いたいところだが、そんな雰囲気ではなかった。

メンバーは昨日と変わらないのだが、マラ・紗里だけが見るからに落ち込んでいるのである。


理由は簡単。 昨日の夜の出来事だろう。


昨日の夜、あの後何があったかというと、屈辱のオンパレードだった。

僕は、女装させられたり、服を脱がされたり、痛めつけられたり、とひどい目にあったのだ。



 「祐磨君 … ご … ごめんなさい」

 「ウチ … どうかしてた」



顔を真っ赤にして俯いている、マラと紗里。

朝からずっとこんな感じなのだ。


そして2人とは対照的に、麻里だけはまったく反省していない様子。



 「2人とも今更反省しちゃって~。 あの時楽しんでたじゃん」



コイツは … 。


そして残る凜は、そもそもあの夜のことを恥ずかしいことではなく、ただのお遊びだと思っているらしい。

僕の隣でいつものようにくっつきながら、パンフレットを眺めていた。



 「でもさぁ、祐磨くんの女装姿、可愛かったよね~。 あたし萌え萌えしちゃったよ!」


 「そだねー。可愛かったよ祐磨ー」



頼むから僕の恥ずかしい姿を忘れてください!

でも凜に可愛いって言われて、ちょっぴり嬉しい気がしたのも事実である。


そして女装と聞いて反応したのが、やはり穂崎と新泉だ。



 「何っ!? 柊、お前女装したのかっ!」


 「お前もとうとうその道へ走ったか」


 「無理矢理女装させられたんだよ! その道に走ってない!」


 「じゃあ、みんな、祐磨くんの女装姿をバッチリ捉えた写真見る?」



えっ!? ちょっ … 写真って何?

あの時、撮られてたの?



 「じゃーん! これぞ、祐磨くんの萌え萌え女装写真だぁ!」



そう言いながら、麻里は携帯画面をみんなに見せつけ始めた。



 「うぉっ、これ本当に柊なのかっ!? 完全に女子にしか見えない」


 「これは … 今すぐにでも金稼ぎができるぞ。今度はボクの前でもやってくれ」


 「死んでもやらないよ! 2度とやるもんか!」


 「じゃあ、あたしがみんなの携帯に写メ送るね。」


 「やめろーーー!!」



だが時すでに遅し。

僕の女装姿写真が、みんなの携帯に送信されてしまった。

ちなみに僕の携帯にも送られてきた。



 「あっー、何度見てもたまんないよぉ! ハァハァ」



これはかなりの重傷だな。

電車の中でハァハァ言ってる女の子 というもの変な光景だなと思ってしまう。

他の乗客から変な目で見られてるし。



 「ほら、麻里落ち着いて。ここは電車内だよ」


 「お姉ちゃんには関係ない!」


 

ここはとりあえず紗里に任せておこう。


一息をついて、窓の外を眺めてみる。

しかし、そこに写るのは真っ暗な暗闇ばかり。

当たり前だ。

ここは地下鉄なんだから。


にしても地下鉄か~、端谷市にも地下鉄はあるんだけど、規模が違うんだよなぁ~。

と考えていたとき、不意に体が電車の進行方向へと引っ張られた。



 「ひゃぁ!」



凜の体も、僕と同じように前へと傾く。


いや … 僕たちだけではない。

乗客みんながまるで見えない力によって、電車の進行方向へと引っ張られていくではないか。

だがすぐに状況が理解できた。



 「急ブレーキだ!!」



そう、この現象は急ブレーキによる慣性の力だ。

授業で確か習ったよな。

止まっているものは止まりつづけ、等速度で動いているものは等速度で動き続けようとする性質のことだ。


あいにく僕は、手すりや吊革などに掴まっていなかったため、慣性力をもろに受けてしまった。

それは僕の体に寄り添っていた凜も同じである。

そのまま凜と一緒に、床へと倒れてしまった。



 「祐磨君、凜ちゃん、大丈夫?」



マラがしばらくして駆け寄ってきてくれた。

この様子だと電車は完全に停止したらしい。



 「僕は大丈夫。凜は?」


 「ううっー、あたしは平気だよー」



よし、凜に怪我がなければ十分だ。



 「おいおい、一体どうしたんだ?」


 「妙だな。ここは地下鉄だから、線路内に人なんか立ち入らないハズだが … 」



穂崎と新泉が真剣に頭を悩ませているところで、車内アナウンスが聞こえてきた。



 『乗客のみなさまにお知らせいたします。ただ今、線路内にて異常を感知したため、急停車いたしました。これより安全確認をいたしますため、乗客の皆様は今しばらく車内でお待ちください』



電車内は次第にザワザワと騒がしくなっていた。

凜も不安そうな表情で、こちらを見つめてくる。

ちなみにだけど、僕も不安でいっぱいなんです。


とりあえず電車が動くまで何しようかな?

そう思ったとき、電車の外から悲鳴が聞こえてきた。

窓の外を何とか目を凝らして眺めてみると、それは見えた。

大勢の人が地下鉄線路上を走っており、電車の後方部分へと向かっていくではないか。



 「電車の先頭部分に乗っていた乗客かなー? まるで何かから逃れるように走っているねー」



同じくそれを見ていた凛が呟く。


先頭部分の乗客?

確かにその通りだろう。

地下鉄線路上を人が走るなんて、電車の前方部分で何かがあったとしか考えられない。

その異様な光景に、僕たちがいる車両の乗客たちも慌て始めた 。



 「おい、何があったんだよ! 火災事故か?」

 「何でみんな、線路上を走っているの?」

 「俺たちも逃げないとやべぇんじゃねぇのか!?」



不安の連鎖は徐々に広がっていき、やがて耐え切れなくなったのか、行動に移す者が現れた。


まず乗客の1人の会社員男性がドアをこじ開けようとした。

それに続いて、次々と他の乗客たちもドアへと群がっていき、ドアをこじ開けた。

そして乗客たちは、次々と線路上へと飛び出していく。


気が付けば、この車両には僕たちしか残っていなかった。



 「おいおい、俺達も逃げないとヤバいんじゃないのか!?」


 「そ … そうだな。 ここは他の乗客のように、近くの駅まで歩いて行くのが正しい判断だな。ここからだと、次の青山一丁目駅が近いが、乗客たちは後方の永田町駅へと向かったから、ボクらも永田町駅へと向かった方がいい」



他の乗客がいなくなった不安から、穂崎と新泉も慌てだす。


 「おい、お前達も早く逃げないのか?」

 「穂崎君と新泉君は、先に行っててください」



穂崎が声をかけてきたが、それにマラが即答した。



「えっ … マラ、僕たちは行かないのか?」



僕が思わずそう尋ねると、マラは僕の耳に顔を近づけてきて、小声で囁いてきた。



 (「もしかしたら、昨日文崎先輩から聞いたマンティコアが現れたのかも知れないわ。だから調べるの」)


 (「えっ … ? でも僕たち今、きちんとした装備してないのに?」)


 (「大丈夫。拳銃くらい持ってきてるでしょ? 未確認生物が出現したら、対処するのがわたし達の役目ですわ。」



そこは納得せざるおえなかった。

マラは笑顔を浮かべたまま穂崎達に向かって語りかける。


 

「わたし達は後から行きますから、先に行っててください」


 「でもよ … 」


 「行きなさい!」



マラはかなり強めな口調で言った。

手に持っていたパンフレットを握りつぶすほどの勢いだった。


その迫力に押されたのか、穂崎と新泉は渋々電車を飛び出して去って行った。

他の乗客たちは既に全員逃げたのだろう。

悲鳴も足音も何も聞こえなくなっていた。

残されたのは、超常現象部メンバーの、僕と凛・マラ・麻理・紗里の5人のみ。


辺りに誰もいないことを確認すると、マラは静かに口を開いた。



 「これから電車の前方へと向かいますわ。わたしと紗里ちゃんは車両の外から。祐磨君と凛ちゃんは車両内から先頭車両へ。麻里ちゃんは他に乗客が残っていないか後方車両の確認をお願い。」


 「「「「了解!」」」」



マラの指示に従い、それぞれが行動に移る。


僕は凛とペアか。

僕と凛は、カバンから拳銃を取り出して、車両内から先頭車両へと向かうことにした。



 「本当に何があったんだろう?」



拳銃を構えながら、僕は車両内を進んでいく。

隣では、凜が辺りをキョロキョロしながら僕についてきている。


車両内は静かだった。

当然だ。 乗客は全員逃げたのだから。

こうしてみると、本当に何がったんだろうかと思う。

文崎先輩は言っていたマンティコアという生物が出現したのだろうか?


でも首都高速に出現しているのは聞いたことがあるが、地下鉄に出現したという話は聞いたことがない。

そんなことを考えながら、次の車両連結部分を通り抜けた時、



 「わっ!」


 「うわっ!?」



突然、誰かが僕の目の前に現れたのである。

びっくりして思わず構えていた拳銃を発砲してしまった。


目の前に現れたのは、小さな少女だった。

幸いなことに、拳銃の銃口は上へ向けていたため、弾は少女に当たらずに済んだのだが、その代わりに天井部分に小さな穴が空いてしまっていた。



 「おい、驚かすなよ! 危ないだろ!」



僕は目の前の少女に向かって、そう言ってやった。



 「高校生なのに子供のイタズラで驚いた。クスクス」



対して少女はクスクス面白そうに笑っていた。

すると、後ろにいた凜が 「あっ!」 と声を漏らす。



 「祐磨ー、この子ってー、昨日あたし達が会った子だよー。確か名前はー … 」


 「昨日会った子? 昨日と言えば、班別自由行動の日だったよな … って、あっ!」



凜に言われてふと思い出した。

目の前の少女に改めて目をやる。


身長は小学生高学年くらいで、オレンジ色のウェーブがかったセミロングヘアー、胸部分に緑色に輝いたペンダントがぶら下がっていて、そして少し眠たそうに半開きになった目。

まさしく、昨日僕たちが東京ソラマチで出会った、自称:異世界から来たという不思議ちゃんではないか!


自動車も知らない彼女がどうして地下鉄なんかに?



 「お前 … クルだろ?」



そう尋ねると、少女は実に嬉しそうにほほ笑んだ。



 「憶えててくれたんですね。 嬉しい」


 「そりゃ … 僕がつけてあげた名前だから。でも、なんでクルがここにいるの? 確かあの時、友達の声が聞こえたとか言って、追いかけていなくなったんだよね? その友達とは一緒じゃないの?」


 「はい。イリとは合流できたけど、すぐにはぐれた。イリは、いつも勝手にどこかに行っちゃう。だから、追いかけているうちにここへ」


 「切符とか買えたの? ていうかお金持ってたっけ?」


 「キップって何?」



ああ、この子、切符を知らないってことは、切符を買わずに電車に乗ったってことだな。

よく改札通れたな。



 「キップって何?」



いちいち説明するのも面倒くさいので、そこはスルーすることにしました。

とりあえず小さな女の子がこんなところにいるのは危険だ。



 「クル、お前は逃げた方がいい。とりあえずこのまま後ろの車両に進め。そしたら麻里というお姉ちゃんに会えるから、一緒に地下鉄を出ろ」


 「それはできない」


 「何でだよ。ここは危険なんだ」


 「危険って、何があったの? 人が倒れているのに、放っておけない。自分だけ逃げるのは嫌」


 「えっ … 人が倒れているって?」


 「そう。先頭で10人くらいの人が倒れてる。本当。だってアタシ、先頭部分にいたから。 だから助けようと思って誰かに協力を呼びかけたんだけど、誰も聞いてくれなかった。倒れてた人を助けようとしてくれなかった。みんな自分勝手」



そうか、クルは倒れてた人を助けようとしたけれど、彼女1人ではどうしようもなかったから、他の乗客に協力を呼び掛けていたのか。


だけど他の乗客達は、クルの言葉に耳を貸さず、我先に自分だけ逃げて行った。

確かに自分勝手であるが、乗客達もパニック状態であったため、それどころではなかったのだろう。

そんな状態の中、慌てずに冷静に倒れてた人を助けようとしたクルはすごいと思う。

彼女は不思議ちゃんだけど、心がすごく優しいんだな。


クルの話を聞き、僕と凜はお互いに目を合わせ頷く。

そしてクルの頭に手を置き、頭を撫でてやった。



 「分かったよ クル。その倒れている人を今から助けに行こう」


 「うん!」



僕がそう声をかけてやると、クルは顔を上げて、大きく頷いた。







先頭車両にたどり着いた時、僕は思わず息を飲んでしまった。


先頭車両ではmクルの言った通り、10人くらいの人が倒れていた。

急いで駆け寄り、意識の有無や呼吸・脈などの確認を行ったところ、幸いなことに彼らは生きていた。

この様子から、ただ単に意識を失っているようだった。


このことをクルに伝えてやると、彼女はホッとしたように胸を撫で下ろす。



 「なぁ、クル、先頭車両に乗ってたんだよね? だったら何があったのか教えてくれないか?」


 「うーん、正直言ってアタシにも分からない。急に停まって、しばらく時間が経つと、誰かが叫んだ。 窓の外に何かいるって。そしたら次々に人が倒れた。そしてみんな一斉に逃げた」


 「窓の外に何かいるって?」


 「そう。暗くてアタシには何も見えなかったけど」



少なくても、これは普通の電車事故ではないだろう。

何がが現れたのには間違いない。

マンティコアか、はたまた別の未確認生物か。



 「そっか、ありがとう。っでこの倒れた乗客たちを運ばないとな」



でも僕たちだけで、この倒れた乗客たちを運ぶのには無理がある。

ここは麻里・紗里・マラも呼ばないとな。


その時、開いたドアから身を乗り出して、外の様子を眺めていた凜が叫んだ。



 「あっー! マラ、紗里!!」



そう言って、凜は慌てた様子で車両外へと飛び出していった。

僕も後を追いかける。


車両外に出ると、そこは真っ暗だった。

凜を追いかけて先頭車両から10m先に進んだとき、凜が呆然と佇んでいるのが見えた。



 「おい、凜。勝手に離れると危険だよ。僕から離れ … 」



そう言い終える前に、僕は気が付いた。

凜の目が見開いており、体を震わせていたのだ。


視線の先を目で追ってみると、そこには血だまりが広がっていた。

その血だまりの中に、人間の指らしきものが落ちていた。



 「おい … コレ … 」



次第に僕の足も震えてきた。

本能的に脳が危険信号を放っている。


さらに辺りを見渡してみると、倒れているマラと紗里を発見した。



 「マラ! 紗里!」



急いで駆け寄って意識を確かめる。


彼女たちは息をしていた。

目立った外傷もなく、指も全部そろっていた。

やはりさっきの乗客たちみたいに、意識を失っているだけだった。


とりあえずホッと胸を撫で下ろしたのだが、疑問は湧いている。

ならば、さっきの血だまりと指みたいなものは、なんなのか?


もう1度、その血だまりへと目をやると、その先が続いていた。

拳銃をしっかりと前方に構えながら、前進する。


そして僕は見てしまった。

恐ろしい光景を。



まず目に入ってきたのは、レール上に転がっている人間の腕だった。

そして血に染まった紺色の帽子。 次に人間の脚部分。


紺色の帽子を目にした時から、僕はある程度悟っていた。

この足・腕と大量の血は、電車の運転手のものだということを。


最後に、血まみれでグチャグチャになった肉片と、その肉片を美味しそうに頬張っている獣の姿。

獣の体長は6m~7mくらいだった。

暗くて体の詳しい部分は見えないが、相当大きい。

コイツは危険だ。


僕は構えていた拳銃の引き金を引こうとしたとき、後ろからドサリという音が聞こえてきた。



 「凜?」



振り返ってみると、凜だった。

凜が線路上にうつ伏せに倒れていた。



 「キサマッああああああ! 凜に何をしたんだぁぁぁあああ!!」



僕は改めて目の前の獣へと目を向けた時、奴の体の一部分が赤く光った。

何だろうと思った瞬間、急に視界がぼやけてきた。

手に持っていた拳銃を地面に落としてしまう。


あれ … 何だか意識が遠のいていく … 。


徐々に意識が薄れていく中、僕は思った。

目の前にいるのは、マンティコアなんだと。

さっき光った赤い光は、奴の目なんだ。


これまでいろいろな人から聞いた話では、どれもこれも何かが赤く光った直後に、意識を失っているらしい。

じゃぁ … これも …。

そして、僕の意識は、プツリと途切れてしまった。


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