第24話 修学旅行1日目 国会議事堂
「えーと、これよりセキュリティーチェックを行うので、身に着けている金属類はすべて外せ」
担任教師が、クラス全員に向かって諸注意などを説明している。
僕たちは今、国会議事堂の中にある参観者ホールというところにいた。
これからセキュリティーチェックを行うのである。
携帯をポケットから出してカバンに入れ、列に並ぶ。
前方には空港で見かけるゲートみたいなものが見える。
どうやらあれを潜るらしい。
おまけにカバンチェックもあるし。
警備体制は万全だな~ と感心していると、あることを思い出した。
マズイ … カバンの中には、拳銃入り特殊ケースが入っている!
僕は超常現象部の部員なので、万が一に備えて文崎先輩から持たされたものだ。
ちなみに凜も持っているのだろう。
どうすんだ?
拳銃なんか見つかったら銃刀法違反で即刻逮捕じゃないか!
おまけにクラスメイトみんながいるところで見つかったとしたら、かなりマズイ。
どうしよう! どうしよう!
「クリア」
僕は恐る恐るゲートをくぐり終え、前に進む。
近くのテーブルでは、衛視がカバンを開けて、中をチェックしている。
待て! あれは僕のカバンじゃないか!
くそっ、セキュリティーチェックがあるんだったら、拳銃入りケースなんかこのカバンに入れるんじゃなかった!
バスの荷物入れに入っている大きめのキャリーケースの方に入れるべきだったんだ!
後悔してももう遅い。
衛視はもう僕のカバンの中をチェックしていた。
そして突然、警備員が眉を顰める。
「おい、これは何だね?」
衛視がカバンに入っている特殊ケースを指さして、僕に尋ねてきた。
はい、終わりましたね。
「いや … これはですね … 」
僕はどうしようかと迷い、辺りを見渡してみた。
他のクラスメイト達は、次々とチェックを終えていっている。
とりあえず凜の姿を探してみると … なんと、凜は既にチェックを終えていた。
ええっ! ああ、そうか。
凜は、拳銃を肩にかけているバック内ではなく、バスの荷物入れに入っている方のバックの方に入れていたのか!
「おい、君。これを開けて中身を見せろ。ロックがかかっているぞ?」
まずい、衛視に怪しまれている。
僕がおどおどしていると、凜が駆け寄ってきてくれた。
「祐磨ー? どうしたのー?」
「凜、マズイことに … 」
僕はカバンの中に入っている特殊ケースを指さしながらそう言うと、凜はすぐに状況を理解してくれた。
凜は勉強が苦手だけど、超常現象部に関係すること(銃や武器など)だけは頭の回転が速いらしい。
凜は僕の耳を顔を近づけてきて、
「祐磨ー、あのカードだよー」
カード … ああっ、特別証明カードのことか!
超常現象部の部員しか持つことのできない、いわば警察手帳のようなもののことだ。
このカードは防衛省公認の特別カードのため、道路・建物の封鎖や立ち入り禁止エリアに入れるなどのなんでも可能なのである。
そうか、このカードはこういう時に使うのか。
「いでよ、マスターカード!!」
僕は胸ポケットから1枚のカードを取り出し、衛視に突き付けてやった。
衛視は少し驚いた様子でそれを受け取り、専用の機械に差し込む。
するとあら不思議、態度が急変した。
「これは失礼いたしました! どうぞお通りください!」
「どうも」
ご丁寧にも敬礼ポーズ付きだ。
まるで国のお偉いさんにでもなったような気分だ。
このカード、すげぇな。
「柊! 遅いぞ。いつまで時間がかかっているんだ」
担任の声が聞こえてきて、慌てて僕はみんなと合流する。
僕に近寄ってきた穂崎は、ニヤニヤ笑顔を浮かべているし。
「柊、怒られてやんの! 荷物検査で時間かかりすぎだったな。なんかヤバいもんでも入れてたのか?」
「まぁ、えーと … なぜかハサミが入っていてね … 」
適当に嘘をつく。
なんとかピンチは免れた。
これも凜のアドバイスのおかげだ。
「凜、さっきはありがとう」
「えへへー、別にいいよー。祐磨のためだからー」
◇
「ここは衆議院本会議場というところでございます」
ガイドさんがいろいろと説明をしている。
本会議場の入り口付近で、その説明を聞き流しながら本会議場を見渡していたとき、ふと後ろから誰かに引っ張られた。
そのまま引きずられるようにして、僕の体は本会議場の外まで引っ張られてしまう。
廊下みたいなところまで引きずられると、ようやく解放された。
一体何が起きたんだ?
そう思って顔を上げると、目の前に凜が立っていた。
「凜?」
「あっー、祐磨も連れてこられたんだー!」
連れてこられた? 誰に?
恐る恐る後ろを振り返ってみると、そこにはメガネをかけた女性が立っていた。
高そうな女性ものスーツを着込んでいる。
まさか僕を無理やり引っ張っていったヤツって … この人?
見た感じから推測するに、国会議員だろうか?
ハッ! まさか … 拳銃を持ち込んだのがマズかったのか!
僕が驚愕の表情を浮かべていると、その女性は頑なな表情で口を開いた。
「柊祐磨くんと來林凜さんですね? お待ちしておりました。本部長がお呼びですので、私についてきてください」
はい? 本部長って誰?
ていうか僕たち、修学旅行生なんですけど!
でも仕方なく、女性についていく僕と凜。
すると僕たちの心配を感じ取ったのか、女性は歩きながら話しかけてきた。
「突然、すみませんね。私は防衛省 防衛大臣補佐官を務めております八木野というものです」
「は、はぁ … 」
「今回は本部長の命令により、あなた方を連れてくるように頼まれたもので」
いや、政府関係者に知り合いなんていませんが?
「とりあえず私についてきてください」
クラスみんなが見学している最中、僕と凜がいなくなっただけでは、誰も気が付かないと思うけど。
穂崎と新泉だけは除いて・・・
ていうかどこに連れて行かれるのだろう?
赤い絨毯がひかれた長い廊下を進んでいくと、前方に扉が見えてきた。
大臣補佐官と名乗った女性は、その扉のロックを解除し、扉を開ける。
扉の奥は何かの部屋なのかな、と思ったのだが、違った。
階段だった。
「これから地下へと参りますので、足元にはお気をつけて」
僕と凜は、お互い顔を見合わせて苦笑いを浮かべると、仕方なく階段を下りてみることにした。