第1話 入部編① 部活勧誘
この小説にはときどき残酷な描写がございますので、苦手な方は注意してください。
4月9日
始業式・入学式が終わり、高校の校庭には大勢の人で溢れ返っていた。
大半が今日入学したての新入生やその親、そして部活勧誘を行っている在校生といったところ。
新1年生は、4月中にいろいろな部活を見学し、どの部に入部するのかを決めるであろう。
その光景を遠目で眺めながら、僕は小さく息を吐いた。
僕の名前は、柊 祐磨。
この端谷学園高校 新2年生に進級したてで、運動が苦手なだけの、ごく普通の男子高校生である。
「さてと … やることないし、そろそろ帰りますか」
校舎の窓からグラウンドの様子を眺めながら、僕はそう呟いた。
ちなみに僕は部活には入っていない。
世間一般で言われている、帰宅部というものだ。
今日は在校生は、始業式・LHRだけの午前中で学校は終わった。
しかし、家に帰ってもすることがなかったので、僕は昼を過ぎても学校に残って、こうして窓から外の様子を眺めていたというわけである。
さすがにそろそろ帰った方がいいかなと思い、鞄を背負って帰ろうとしたら、
「もう帰んのか? いいよな~、帰宅部は自由で」
僕にそう言ってきたのは、同じクラスの友人である穂崎立平だ。
短髪で、少しだけ色黒の活発そうな顔立ちをしており、白いユニフォームを着ている。
ちなみに彼は野球部である。
「自由になりたいなら、部活やめればいいんじゃないか?」
「いや~、そりゃ無理だ。先輩 超怖いんだぜ? やめるって言ったら殺されるって!」
「いや … さすがにそれはないと思うけど … 」
「お前、部活に入ってないから、先輩というものの怖さを知らないだけなんだよ」
穂崎は呆れたようにそう言うと、時計をチラリと見た。
「あっ … やべぇ! 俺もそろそろ新入生を勧誘しなきゃいけないから、そろそろ行くわ」
「ああ、頑張れよ」
そう言い残すと、穂崎は早々と立ち去って行ってしまった。
部活してる奴って案外忙しいものだな。
「部活か … っていっても、自分は運動が得意じゃないしな … 」
この端谷学園高等学校には文化部もあるのだが、僕はどれもこれもあまり興味がなかった。
中学時代は、射撃部という部活に所属していたが、この高校には射撃部はなかったのである。
せめて射撃部があったのなら、入部していただろうなと思う。
まぁ、帰宅部でも別にいいじゃんと思いながらも、時間を確認するためにポケットに手を突っ込むと
「ん、ない … !?」
携帯がない!
即座に制服についている全ポケット内を調べてみたが、やはりない。
一応、バックの中も調べてみたが、やはり携帯は見当たらなかった。
教室にでも置き忘れて来たのか?
ポケットから出した覚えはないんだけどな。
そう思いながらも、僕は仕方がなく教室へと向かうことに決めた。
◇
僕の教室は、西校舎の教室棟3階の中腹辺りにある。
校舎内は、吹奏楽部の楽器音以外は何も聞こえない静かなものだった。
ほとんどの生徒は帰宅するか、部活勧誘へと向かったために、既に校舎内にはほとんど残っていないのだろう。
2-3 と書かれた教室前まで来ると、静かにドアを開けた。
やはり、中には誰もいない。
教室には入り、自分の机の中や周辺を探ってみたが、携帯は見つからなかった。
「参ったな・・・・」
誰かの携帯電話を借りて、その携帯で自分の電話番号へとかけてみる方法を思いついたが、校舎内には生徒はいないみたいなので借りられない。
これは却下!
途方に暮れていると、
「どうしたのー?」
後ろから声をかけられた。
甘い声で、のほほんとした声だった。
振り返ってみると、そこには1人の女の子が立っていた。
「君は … たしか、來林さん?」
目の前にいたのは、栗色のロングヘアーに左右を短めのツインテールのように束ねた、いわゆるツーサイドアップという髪型の女子生徒であった。
肌は色白で、一瞬目の前に妖精が現れたのかと思うほど、可愛い。
名前は確か、來林凜だったような・・・?
彼女は少し天然キャラ、性格はのほほんとしている美少女で、クラス中の男子から好かれ、モテモテ女の子だったはず。
ちなみに自分が大人気だっていうことは、自覚していない。
もちろん、僕と彼女にはなんも接点もないので、会話したことがなかったが。
「そうだよー! 覚えててくれたんだー! わーい!」
彼女はまるで、小さな子供が飛び跳ねるようにジャンプしている。
その行動がとても可愛らしい。
「っで、どうしたのー? 困ってた様子だったけどー?」
「ああ、そうそう、携帯が見当たらなくて … 」
「ケータイ? もしかして、これのことー?」
そう言いながら、彼女は手に持っていた黒色の携帯電話を差し出してきた。
「あっ、それだよ! よかった、拾ってくれてたんだね」
「うん。教室の床に落ちてたから、先生に届けた方がいいかなーって思ってたんだよー」
「ありがとう、來林さん」
僕は携帯を受け取り、彼女に向かって微笑みかける。
「本当に助かったよ。ありがとな。じゃぁ … また明日」
用も済んだことだし、教室から出ようとしたら、
「あっ! 待ってー!」
彼女に呼び止められた。
もしかして僕に、何か用があるのか?
いや … ていうかさっき会話したばかりだし。
「何?」
彼女は僕の目を見つめてきた。
彼女は何やら、どうしようかと何か迷っている様子で、モジモジと体を左右に揺らしていた。
「ねぇ … 祐磨君、何か部活に入ってるのー?」
うお! いきなり下の名前で呼ばれた!
僕の心臓が一瞬、ドキッと高鳴る。
ダメダメ・・・ここはきちんと返事をしなければ・・・
「あっ … いや … 何も入ってないけど」
「そっかー。祐磨君って中学時代、射撃部に入ってたんだよねー?」
「うん」
僕が中学時代に射撃部に入っていた、ということを彼女が知っているのは、当たり前のことだろう。
今日のLHRの自己紹介の時間で自己紹介したのだから。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
そして訪れた沈黙。
何だ何だこの空気?
なんか・・・気まずい。
しかも僕と女子の2人きりだ。
当然、うまく話せるわけがない。
「用ってのは、これだけ? だったらもう帰るけど … 」
「ああっ! 待ってー!!」
彼女は必死なのだろう。
來林さんの目が慌ただしく左右に動いていた。
何だろうと僕が首をかしげていると、彼女はおもむろに口を開き始めた。
「だったらー、超常現象調査部に入ってみない?」
はい? いきなり部活勧誘を受けてしまいました。
ていうか僕、1年じゃないのに。
「はい? 何それ? そんな部活ってあったっけ?」
「あっ、そっかー、そりゃ知らないよねー。 じゃぁ … オカルト研究部っていうのはー?」
「オカルト研究部? そういえば それは聞いたことがあるな」
僕の目の前には、モジモジしながらこちらを見ている女の子 來林凜が立っている。
確かにオカルト研究部ってのは、この学校の部活にあるけどさ。
「だったらって … でも射撃とそれって関係するの?」
「す、するよー! なんだったら、見学してみるー? 普通、勧誘とかは、部長がするものなんだけど、祐磨君だけは特別だからねー」
「うーん」
「見学に来るなら明日の放課後、体育館裏にある部室まで来てほしいなー。詳しい説明はその時にするよー」
部室に来てほしいとのことですね。
どうせ僕は帰宅部ですることもないんだし、見学くらいは行ってあげよう。
女の子の頼みなんだから。
「一応、わかったよ。」
「そうー? じゃぁー、また明日ねー! バイバーイ!」
來林凜は愛嬌のある笑顔を浮かべながら、こちらに大きく手を振ると、早々に立ち去って行ってしまった。
結局、何の活動をしているか理解できないまま、誘われてしまった。
まぁ、明日見学に行ったら、何かわかるだろう。
そう思い、僕はケータイをポケットにしまうと、早々と校舎を後にすることにした。