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第10話 モスマン編③  大切な人


僕と凜は、マンション階段を急いで駆け降りる。

時々、足がもつれそうになったが、何とか踏ん張って足を動かした。


ようやく1階フロアに到着すると、自動扉を潜り抜け、マンション外へと飛び出した。

外では深堀部長が待っていると聞いていたが、誰もいなかった。



 「どうしたらいいんだよ」



途方に暮れていると、道路の向こうから1台のスポーツカーが走ってきたことに気が付いた。

スポーツカーはこちらに近づいてくると、急ブレーキをかけ、地面をこするような音を鳴らしながら、僕らの前で急停止する。



 「おい、祐磨と凜! 早く乗れ!」



なんと、車を運転していたのは深堀部長だったのだ。

助手席には浅井先輩、後部座席には双城先輩もいる。

とりあえず後部座席に凜を乗せ、続けて僕も乗り込むと、スポーツカーは急発進した。



 「2人とも大丈夫か?」



深堀部長が運転をしながら言った。



 「はい、大丈夫です」


 「ならいいんだ。」


 「でも、これからどうするんですか?」


 「そこまでは … 考えていない」



深堀部長が困ったように呟いたとき、ふと後ろを眺めていた双城先輩が叫んだ。



 「来たよ!! モスマンが追いかけてきた!」



後ろを見れば、道路の向こう側から何かが飛行している姿が見えた。

まるで戦闘機のようなスピードで徐々に近づいてくる。


モスマンが僕たちを追いかけてきたってことは … さっき僕たちのために時間を稼いでくれたマラはどうなったんだ?

マラは自分が抹殺されたあとは、モスマンは次に僕たちを抹殺するだろうと言っていたが。



 「マラはどうなったんだ? マラは生きてるよな?」



必死にそう叫ぶと、深堀部長が答えてくれた。



 「さぁな。仮に生きてたとしても、相当ダメージを負っているハズだ。ちなみに携帯は今でも繋がらないんだが … 」


 「そんな … !?」


 「まぁ、一応 様子は麻里に見に行ってもらっている」



深堀部長はそう言うと、隣の席の浅井先輩に命令した。



 「剛一、そろそろいいだろう」


 「おう」



すると、浅井先輩は窓から上半身を乗り出して、サブマシンガンを後方へと向けて連射しだした。

もう1度後ろを振り返ってみると、モスマンが目の前まで迫っている。



 「おいっ! スピードをもっと上げろぉ!」


 「正気か? ここは一般道だぞ?」


 「関係ねぇだろぉ? このままじゃ、俺らまとめて南無阿弥陀仏だぁ」



浅井先輩と深堀部長が口論しているが、その時、ガタンと車体が揺れた。

それを機に、車体が左右へと蛇行する。



 「くそ! ハンドルが効かない! タイヤをやられたか。」



スポーツカーはそのまま操縦不能となったようだ。



 「ブレーキも効かない! みんな! シートベルトをしっかり締めろ!」



直後、車体が大きく横転し、歩道を乗り上げ、近くのシャッターが閉まっている店へと突っ込んだ。

窓ガラスがすべて粉砕され、衝撃が体を襲う。


幸い、全員がシートベルトを着用していたためか、誰も外へは投げ出されずに済んだようだった。



 「みんな、大丈夫か?」



深堀部長の声が聞こえる。



 「はい、僕は … 無事です。」


 「そうか、みんな、各自シートベルトを解除したら、外へ出ろ! 祐磨と凜の2人は外に出たら、一目散に逃げろ! わかったか?」



とりあえず、僕は凜を連れて外へと出た。

凜の額には切り傷ができていたが、大きな怪我ではないようなので一安心する。



 「来たわよ!」



双城先輩の叫びを聞き、辺りを見渡してみると、道路の向こうからモスマンが近づいてきていた。

それを見て、深堀部長、浅井先輩、双城先輩の3人は、それぞれ銃を手にすると、連射し始める。



 「さぁ、今のうちに逃げろ!」



僕は頭を下げて、凜の腕をつかむ。



 「凜、行くぞ。」


 「うんー … 」



凜は浮かない表情のまま頷いた。







午後10時、既にシャッターが下りて閉まっている商店街を、僕と凜は走っていた。


凜が疲れたと言うので、ひとまず休憩をとることにする。

後ろを振り返っても、モスマンが追ってくる様子はない。



 「みんなー … 大丈夫かなー?」



凜が心配そうな表情を浮かべ、そう呟いた。



 「大丈夫だよ。きっと」



今はそう信じるしかない。


凜も疲れているようだし、ひとまず休憩をとろうとしたが、せっかく先輩たちやマラが逃げる時間を稼いでくれたのに、無駄にしちゃいけないと思い、い、再び足を動かすことにした。



 「凜、歩けるか?」


 「足が痛いよー、もう歩けないー!」


 「だったら、おんぶしてあげるよ。ほら」



僕がしゃがむと、凜はしばらくどうしようか迷っていた様子だったが、僕の背中に覆いかぶさってきた。

そのまま僕は立ち上がり、歩き出す。


それにしても凜って軽いな。



 「凜、しっかり掴まっててね」


 「うん」



ちょっと小走りになりながら歩く。

歩いている最中でも、凜がしっかりと僕の体をギュッと握りしめてきた。

それがなんか照れくさい気もする。


ふと耳もとで凜が何かを囁いている声が聞こえてくるような気がした。



 「 … お兄ちゃん … 」



お兄ちゃん?

そう聞こえた気がした。


すると凜は、声を押し殺しながら涙を流し始めた。

涙が僕の首筋にポタポタ落ちてくる。


だが、僕は追求しないことにした。

気になるが、今はそっとしてやるべきだろう。


僕は車1台も通っていない夜の道路を懸命に歩く。




何分歩き続けたのだろうか?

僕は携帯で時計を確認してみると、夜の11時を超えていた。


家に帰りたい … でも無理だ。

モスマンはいつ襲撃してくるかわからないのだ。


気がつけば、僕が背中におんぶしている凜は、スヤスヤと寝息を立てていた。

僕におんぶされて、よっぽど安心しているのだろう。

その時、



 「祐磨ー、大好きー … ムニャムニャ … 」



その瞬間、僕は思わず「えっ!?」と叫んでしまった。

たぶん … 凜の寝言だろう。


でも、なんか嬉しいような感情が、心の中で溢れていくのを感じた。


凜はぶっちゃけ言うと可愛い。

そりゃ、子猫みたいに愛くるしくて可愛いのだ。

学年の男子から大人気を得ているだけあって、本当に可愛い。


そんな可愛い子から、大好きと言われて生きててよかったと感じる。

でも、大好き・・・ってどういう意味なのだろうか?

同じ部活仲間としての大好きなのか、それとも男の子として大好きなのか … 。

もし、後者の意味だとしたら … 僕は … 嬉しい。


そんな風に妄想に浸っていたせいか、後ろからクラクションが鳴り響いていることに今更ながら気が付いた。

振り返ってみると、1台の大型トラックが僕のすぐ後ろで停車していた。

トラックからは、40代の男性が降りてきて、僕を睨みつけてきている。



 「何 車道の真ん中を歩いてんだ!! さっさとどけよ! だいたいな、いくら通行量が少ないからといって、車道を歩くバカがいるかってんだ!」


 「す … すみません。」



そう謝った時、僕はふと目にしてしまった。

大型トラックの窓ガラスに黒い物体が映ったのだ。


たしか先輩の話によると、モスマンは鏡に映るところならどこにでも現れると・・・。



 「おじさん、逃げてください!」

 

 「はぁ? 逃げる? 何でだ?」



だが次の瞬間、窓ガラスからモスマンが勢いよく飛び出してきた。

同時に男性の頭部が、スイカ割りのように切り裂かれた。


そのままモスマンは僕に襲いかかってくる。

背中に凜を背負っているため、回避するのは容易ではなかった。


咄嗟に横へとジャンプしたが、その際に右脇腹を何かでえぐられたような感じがした。

しかも、何か生暖かい感じもする。


そのまま地面に転がってしまう。

地面に倒れたままの姿勢で確認してみると、右脇腹から出血していた。

真っ白なカッターシャツが次第に赤く染まっていく。

やられた と思った時には、激痛が体中に襲ってきた。

あまりの激痛にのた打ち回る。


僕が怪我したのに気が付いたのか、凜が駆け寄ってきた。

地面に転がった時に足を負傷したのか、凜は地面を這うように僕に近づいてくると、



 「祐磨ー! 大丈夫ー!? 血が … 血が出てるー!!」

 「くっ … 大丈夫 … だ … 」



凜もどうしてよいかわからない様子。

ただ涙を流しながら、僕の目を見つめている。


でも、こうしてはいられない。


僕はポケットから拳銃を取り出し、こちらを見下してくるモスマンに向けて、思いっきり連射してやった。

モスマンの体に穴が空いていくが、全然ダメージにはなっていない。



 「くそっ … ! 化け物が!!」



弾が切れたと同時に、モスマンが腕を振り上げた。



 「やべぇっ!?」



慌てて寝転がるように回避するものの、胸を軽く切り裂かれた。

鋭い痛みを伴いながら、そのまま地面へと倒れてしまう。



 「ガはっ!!」


 「祐磨ー!!」



凜は足を引きづりながらも、僕へと駆け寄ってきて、顔を覗き込んできた。

目からは涙がポタポタと僕の顔へと落ちてくる。



 「祐磨ー! 死んじゃだめだよー? 生きてるよねー?」



凜の声が聞こえ、腕を上げて返事をすると、少し安心したような表情になった。

しかし凜は、僕の胸と脇腹から流れ出る血液を見て、顔が強張らせる。



 「ううー、血が止まらないよー、このままじゃ祐磨がー!!」



もう終わりだ。

僕はもう体を動かせない。



 「凜 … 逃げろ … 」


 「嫌だー! だったらー … 祐磨と一緒に死ぬ。祐磨を置いていけないよー!」



凜は僕の体を抱きしめてきたまま、一歩も動かない様子。

その間にモスマンは、ゆっくりと凜の後ろへ近づいていた。

そして、腕を振り上げる。



 「凜 … 」



凜は覚悟を決めたように、目を閉じている。

ごめん、凜を守るって約束したのに …



そして、モスマンが腕を振り落とそうとした時のことだった。

突如、ピーーという笛の音が響き渡った。


まさに、振り落とそうとしていたモスマンの手がふと止まる。


何だと顔を上げたとき、近くの路地から1人の女の子が飛び出してきた。

黒髪のストレートロング、制服姿、なによりもこんな暗い夜でもわかるくらいの赤い目。


そう、そこにいたのは、朝に出会った倉梨狐美という女子高生だったのだ。

彼女が何でここに?


いや … たしか彼女は端谷北高校の超常現象部だと聞いたような。

もしかして、助けに来てくれたっていうのか?



 「やはり、本当にモスマンが現れたんだね」



狐美はそうつぶやくと、一瞬だけ躊躇ったものの、胸にかけている黒色のペンダントを右手で握りしめた。

その黒いペンダントは、彼女の先祖代々の家宝であるらしい。


するとどういうことだろうか?


突如、彼女の赤い目が光り、全身が黄金の光に包まれたのだ。

まるで太陽のような眩しい光が、商店街一帯を照らす。


しばらくすると、光は消え失せて、彼女の姿が見えてきた。

だが、さっき見た彼女とは違和感があった。


なんと、彼女の頭からは黄金色の三角の形をした耳が2つ、そして短めのスカートからは黄金色のフサフサした尻尾までが生えていたのだ。

一瞬、コスプレかと思ってしまったが、尻尾が左右に揺れている。

恐らく作り物ではないのは明らかだ。


その光景を同じく眺めている凜がぼそりとつぶやいた。



 「これってー … もしかしてー … 伝説のー」


 「あなたが凜さんね。たぶん気が付いているかもしれないけど … 」



いや … 僕にはさっぱりわかりません。

狐美は少し言いにくいのか、口を閉ざしていたが、静かに頷き、



 「そう、九尾の狐。わたしは九尾の狐の子孫なの」



そう言うと、彼女は胸にかけてあるペンダントを手にとり、



 「このペンダントは先祖代々に伝わる特別な石、殺生石というの。でも、詳しい説明はこれが終わったあとね!」



すると、彼女の手に日本刀が出現し、一直線上にいるモスマンへと斬りかかった。

モスマンの羽が切り落とされ、続けて足が切断される。

両足と羽を無くしたモスマンは、不気味な悲鳴を上げながら、のた打ち回っていた。


それにしても速過ぎる。

彼女の動きが速すぎて、残像しか見えない。


やがてモスマンの両手両足・体のほとんどを切断すると、彼女は日本刀を動かす手を止めた。



 「あとは … 凜さん、お願いします。」



狐美にそう告げられ、凜は一瞬キョトンとした表情になったが、僕が落とした9mm拳銃を手に取り弾倉を交換すると、モスマンに近づいていった。

足を引きづりながらも、凜は拳銃をモスマンの頭部に狙いを定める。


もはや、凜の表情は怒りで満ちていた。



 「ううー、よくも、祐磨をー … 許せないーーー!!」



そう叫びながら凜は13発の銃弾をモスマンの頭部に浴びせた。

至近距離で銃撃されたせいか、モスマンの頭部は無残にもはじけ飛んだ。


そのままモスマンはピタリとも動かなくなり、やがて空気に溶けるように消滅してしまった。


モスマンは死んだ・・?

ということは、僕たちは助かったのか・・・?


そう思ったとき、不意に意識が遠のいてきた。

ダメだ … 無性に眠たい。

たぶん、僕はもう限界なんだろう。

これほど出血しているんだから。


僕がまぶたを閉じかけようとしたとき、



 「祐磨ー!! 死んじゃダメーーー!!」



凜の叫ぶ声が聞こえ、僕はまぶたを必死に開ける。

目の前には凜の可愛らしい顔が僕を覗き込んできている。



 「嫌だよー! 起きてよー! 祐磨ー!!」


 「 … り … ん … 」


 「あたしのせいだー、あたしが怖がってばかりいたからー」



すると凜の後ろから、今だに獣耳と尻尾が生やした狐美が近づいてきて、僕の顔を覗き込んできた。



 「凜さん、下がって。まだ間に合うかも」



狐美は凜を下がらせると、胸にかけていた黒のペンダントを手に取り、それを切り裂かれた僕の胸へと押し当て始めた。


何するつもりなんだろうか?

たしか、このペンダントは殺生石だと言ってきたような・・・。


すると不思議な現象が起き始めた。

切り裂かれていた胸の傷口がみるみるうちにふさがっていくのだ。

同時に痛みも消えていく。


次に彼女は僕の右脇腹にも殺生石を当てていくと、またもや右脇腹にあった傷口がふさがっていき、痛みも消えた。

意識もはっきりとしてくる。


僕がゆっくり起き上がったのを見て、凜が僕の体を抱きしめてきた。



 「祐磨ー! うぅ、あたし、祐磨が死んじゃうかと思ったー」


 「凜、僕はちゃんと生きてるよ。でも、なんで傷が … ふさがったんだろう?」



僕と凜が狐美を見つめると、彼女は困ったように頭をかきはじめた。



 「まぁ … 殺生石にはね、生命エネルギーを高める力があるの。とても強力なパワーだから、普通の人間や動物がずっと身に着けたりでもすれば、体の細胞が活性化し分裂増殖するわ。さっき一瞬だけ近づけただけで、傷口がふさがったでしょ?」


 「そっか、ありがとう。いろいろ助かったよ」



お礼を言うと、狐美は少し頬を赤くしながら、照れくさそうに笑った。



 「お … お礼は … いいわよ … 。それより2人は … 付き合ってるの?」


 「えっ!?」


 「いや … その凜さんが … 」



言われてみれば、凜がさっきから僕の体をギュっと抱きしめてきているままだ。

よっぽど僕が生きていることに嬉しいのか、凜の表情は明るい。

今朝の凜とは大違いだ。


僕が凜の顔を見ていると、凜は無邪気な子供のようにニコリと笑った。

その表情を目にして、またもや僕の胸が高鳴る。



 「祐磨ー?」


 「何?」


 「あたしを守ってくれてありがとー。祐磨かっこよかったよー」


 「僕は … 結局何もできなかった。すべて狐美のおかげだよ」


 「でも祐磨が、あたしを守ろうとしてくれたということにはー、変わりないよねー」







次の日の朝、



 「ほぉ~、なるほどね、九尾の狐の子孫に助けられたとはね~」



ここは超常現象部 部室の情報収集室。

現在部屋内には、僕と文崎先輩と倉梨狐美の3人がいる。


狐美は少し緊張気味に椅子に座っていた。

ちなみに今は獣耳と尻尾は生えていない。



 「ていうか … 本当にあの伝説の九尾の狐の子孫なの?」


 「何よ祐磨君、もしかして疑ってるわけ?」


 「いや … 目の前で見たけど、今でも信じられないから」


 「わたしの先祖は本当に九尾の狐なの」


 「じゃあ、狐美は人間じゃないってこと?」


 「それは間違い! ええーと、詳しく説明すると、九尾の狐と人間が結婚して、子どもが生まれて現在に至るわけ。つまり … 人間と九尾の狐のハーフってことかな? わたしには九尾の狐の血がちゃんと流れているのよ。ほら、目の瞳がみんなと違って赤いでしょう?」


 「まぁ、そうだけど … 」



そこで文崎先輩がボソリとつぶやいた。



 「そのペンダントは殺生石って言ってたわよね。それを使うと、狐に変身するってことかい」


 「ちょっ … 狐に変身って … まぁ、耳と尻尾は生えるけど … 」



狐美は顔を真っ赤にしながらうつむいてしまう。



 「あの、文崎先輩、マラと深堀部長達は無事なんですか?」



僕が心配そうに尋ねると、文崎先輩は静かに首を縦に振った。



 「まぁ、部長、浅井、双城は無事だったみたいよ。っでマラちゃんなんだけど」


 「は、はい」


 「マラちゃんは、右腕と背中を負傷していたけど、命には問題なかったわい」


 「よかった。」



ひとまずみんな大丈夫だったことに、一安心した。

後でお礼言っとかないと。


そこで、僕は気になっていたことを思い出し、思い切って尋ねてみることにした。



 「先輩、凜にはお兄さんっているんですか?」


 「・・・・・・・・・」



その質問をした瞬間、文崎先輩の目が曇った。

もしかして質問したのはまずかったか?


 「いたわよ。1年前まではね」


 「えっ? 1年前まで … ?」



何か嫌な予感がする。



 「ってことは … つまり … 」


 「ええ、凜ちゃんのお兄さん、この元超常現象調査部の部員だった來林俊一は、1年前に亡くなったわい」


 「なんで、亡くなったんですか?」



理由を尋ねてみると、文崎先輩は寂しそうな表情で浮かべ、口を開いた。



 「1年前の春、この部活に凜ちゃんが入部してきたの。凜ちゃんの親は昔に亡くなっててね、凜ちゃんは大のお兄ちゃんっ子だったわけだわい。いつもお兄さんと一緒にいるときは元気にはしゃいでたね。でも、悲劇が起こったのは夏よ。1年前の夏、市内北部にある化学工場で大規模の爆発事故があったのは、あんたでも知ってるでしょう?」


 「まぁ … なんとなく覚えています」



1年前の夏、市内北部にある大企業の化学工場で大爆発事故があったということは、ニュースでも報道されていた。

確か、死者62名、負傷者173名が出たという大事故だったような。



 「アレはね、実はただの事故ではなかったのよ。表向きは大爆発事故と報道されているけどね、実際は違うわい。だってその現場に、私たち超常現象部の部員もいたからよ」


 「えっ!? 先輩たち、そこにいたんですか?」


 「まぁね、工場に出現した最大級のランク5を殲滅せよ という任務内容だったわい。私たちが現場に到着したときは、すさまじい光景だったわよ。工場のあちこちから火災し、敷地内は血まみれだった。最初はただの火災かと思ったけど、よく見たら、敷地内のいたるところに作業員と消防士の切断された死体があったわい。これを見て、ただ事ではないと思ったわ」


 「じゃぁ … 誰がそんなことを … ?」



先輩は身を震わせると、



 「見た目は人間だった。最初見たときは、生存者かと思ったのよ。当時1年生だった凜ちゃんは、見た目通りお人よしだから、助けようとしたの。でも … 突然そいつは、凜ちゃんを吹き飛ばし、私たちに襲いかかってきたのよ。当時のメンバーが数名やられ、腰を抜かした凜ちゃんが襲われようとしたとき、妹を庇おうとしてお兄さんは … 」



そこで先輩は黙り込んでしまった。



 「 … ちなみにお兄さんの写真とかありますか?」



僕がそう尋ねると、先輩は無言で1枚の写真を取り出し、手渡してきた。

そこに写っていたお兄さんを見て、僕は思わず息をのんだ。



 「凜ちゃんのお兄さん、あんたにそっくりなんだよね」



そう、顔も髪型もそっくりだった。

下手すれば僕と見間違うくらいに。


そこで僕は、ハッ!と思い出した。


昨夜、僕が凜をおんぶしていたとき、凜がふと「お兄ちゃん」と呟いたことを。

恐らく凜は、昔お兄さんにおんぶしてもらったときの感覚を思い出したのだろう。


しかも、僕が2年になった最初の日、凜に部活勧誘されたことも思い直してみる。

恐らく、凜は僕と同じクラスになったとき、気が付いたのだろう。

僕がお兄さんにものすごく似ていることに。

だから凜は僕をこの部活に誘った。


おまけになぜか男子の中では、僕だけに懐いてくれているし。



 「凜ちゃんはね、お兄さんが亡くなってからまったく元気がなかったんだけどね、でも、丁度あの子があんたを部活に勧誘してから、元通りに元気になったわけ。たぶん、あんたを本当のお兄ちゃんとでも思っているのかもね」



そっか … じゃぁ、あの夜、「祐磨ー、大好きー」 という言葉の意味も、僕をお兄ちゃんだと思って大好きだと言ったのか?

なんとなく嬉しいような気もするし、悲しいような気もする、複雑な気分だった。



 「まぁ、いいじゃない、柊よ。 あれ? もしかしてあんた、凜ちゃんに恋してる?」


 「ええっ!? あの … 先輩、それは … えーと」


 「もしかして図星? まぁ、これからあんたが凜ちゃんに、同じ部員仲間として接するか、妹のような存在として接してやるか、それとも … 」


 「ああ! それ以上は言わないでください!」



先輩はニヤリと笑いながらこちらを見る。


その時、ドアが勢いよく開き、凜が部屋に入ってきた。

凜は僕を見つけるな否や、背中に抱き着いてくる。



 「祐磨ー!! 祐磨だー!!」



凜が背中に密着してくるので、ドキドキする。

いつもの凜に戻ったので、なんか嬉しい。

やっぱ凜には笑顔でいてもらいたい。

凜の笑顔を見ていると、こっちまで嬉しい気分がする。



 「凜、元気だね」


 「うんー! 祐磨と一緒にいると、あたし元気になるもーん!」



そして僕は、凜の笑顔を見ているうちに、無意識にこう呟いてしまった。



 「僕は凜の笑顔が好きだよ。凜のすべても」


 「えっ? 祐磨ー、もう一度言ってー? 聞こえなかったんだけどー?」



危ない危ない!

小さい声で呟いたおかげで、どうやら聞こえてなかったらしい。



 「あっ … いや … その … 何でもないよ。さぁ、今日も練習がんばろう」


 「そっかー、うん、がんばろーねー!」




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