醜鬼襲来
魔物達との苦戦を続け、地下15階まで辿り着いたレイル達。
そこにいたものとは……
「こ、こいつらは……」
2人は、その階を探索していたところ、何かに囲まれてしまった。
それは人型で、体は深緑色。大きな巨躯を覆う分厚い脂肪は重力に負けて垂れ下がり、その上には醜悪かつ凶悪そうな顔が乗っかっている。
「ブロトロンだよ!」剣を構えながらケーナが言った。
「トロルの上位種だ! こいつらは、今までの魔物より厄介だよ!」
「どうしてさ」
「こいつらは、冥術に耐性があるんだ。炎や氷の冥術には特に強いって聞くよ」
「そうなんだ……どうしよう、僕の冥術で何とかなるかな?」
「何とかするしかないよ……力を温存したい気持ちはあると思うけど、出し惜しみしたらここで死んじゃう!」
「わかった! 全力で行くよ!」
ブロトロンの一匹が、レイル達との距離が一定まで近づくと、遂にその拳で一斉に殴りかかってきた。ケーナとレイルは二手に分かれてそれをかわす。当たれば、おそらく骨が粉砕するだろうだろう威力を示すように、ブンと言う風切り音が2人の肝を冷やす。ブロトロンはその一撃が終わると、その狙いをケーナの方に定めた。動きこそ遅いが、周囲を他のブロトロンに囲まれているため、彼女はうまく距離を放す事が出来ない。他のブロトロンが攻撃姿勢を取らないのは、彼等にとってレイル達はただの小さな獲物であり、ただ面白がって暫く高見の見物を気取るつもりなのだろう。彼等は、見た目に違わず、知能はそれほど高くないのだ。ケーナ達の小さい体に宿る実力など推し量る様子など無かった。
「何とかしないと……ケーナが危ない!」
レイルは、ケーナを助けるため <電槍>を放つ!
雷光の矢がブロトロンをかすめるが、ケーナが言うだけのことはあり、蚊が刺した様な効果しか与える事が出来なかった。悪鬼は太い手で、頭の辺りを何かあったかなと言うように気にする。しかし、注意を引くのには十分だった。
「グォォォォォォ!」ブロトロンが怒りの雄叫びをあげ、レイルに殴りかかる!
「くっ! 動きが遅いのなら、あの冥術を使ってみよう…………我が歩み飛鳥の如く! <俊速法>!」
レイルの足が光り出した。すると、彼の走るスピードが3倍になる!
韋駄天の速さになった彼は、その動きでオークの目を撹乱すると、背後に回り込む。
「次は……我が術法よ快く閃け! <詠唱時短>!」
レイルの足元に魔法陣の様な文様が浮かぶ。これは、冥術の詠唱時間を短くする効果をもつ補助冥術だ。これを利用し、すぐさまレイルは次の冥術を使う。
「これなら……<神電槍>!」
それは、初めて使う高等冥術だった。
しかし、今のレイルはそれを使いこなすだけの器がすでにあり、凄まじい電光が竜のような形をとってブロトロンを直撃する!
「ギャァァァァァァ!」
バシンと言う光と共に、その巨躯は黒焦げになり、その場にドシンと頭から崩れ落ちた。
それに、ケーナが剣でトドメをさすと、上の階の魔物のようにブロトロンは灰になって地面の砂に塗れた。
「やった……」
レイルは、ひとまず一匹倒してホッとしたが、安心できる状況では全く無かった。
寧ろ危険。この一匹が倒された事により、他のブロトロンが一斉に攻撃態勢に入ったのだ。強いと分かるなり束になってかかる辺り、酷い性格をしているものである。2人の少年と少女を囲ったまま、じわじわと、甚振るように、その距離を詰めていく。頭が良くない彼らだが、この包囲網はなかなか上手いやり口だ。
「うわ……」ケーナの顔から汗がこぼれ落ちる。
「多いね……これだけ、まとまってこられると。逃げ場が無いよ」
レイルとケーナは、互いに背中を合わせて、これからの事を必死に考える。
しかし、敵は眼前に迫っていた。そして、その一匹が襲いかかる!
ガシッ!
2人は、身をかわそうとした。
しかし、目の前のそれは、予想外の動きを見せていた。何と、他のブロトロンの一匹がレイル達の盾になり、同じブロトロンの攻撃を受けとめて殴り倒したのだ!
レイルとケーナは、何が起こったのかわからず、その場で暫し唖然とする。