砂漠の雨
冥術試験を順調にこなすレイル。
そんな最中に舞い降りた情報は……
デルラスに来て数か月。冥術試験も、遂に後半に差し掛かっていた。
レイルも、おおくの冒険を経て随分と逞しくなったが、体はまだ華奢なままで、外見からそれを見抜く人間はまずいないだろう。
今日は特に用事もなく、ファリーダとともに珈琲を飲んで談笑していた。
窓の外は、この国にしては珍しく雨が降り続いている。
「何年振りかね? こんな天気は。こりゃ、何かいい事でもあるかもしれないねぇ」
「そうだね、僕がここに来てからも初めてだよ。故郷は雨の多いところだったから、珍しいとは思わないけど」
「ふーん、レイルの生まれたところは面倒なところなんだね。そんなに雨ばっかり降ってたら、ちっとも外に出られないし、洗濯物も干せないよ」
「そうだね。傘は良く持ち歩いてたし、洗濯物は冥力乾燥機を使ってたからよっぽど困らなかたんだけどね」
「乾燥機? なんだい、それ」
「ああ、この国じゃ必要なさそうだもんね。沢山の服を乾かす便利な機械なんだ。室内に置いてあるんだよ」
「へーっ、文明が進んでるねえ。……ん、誰か来たのかな?」
扉を叩く音がしたので、ファリーダは玄関に向かって鍵を外した。
すると、大きなフードをかぶった何者かがドアを開けてずっと入って来たので、ファリーダは一瞬驚いたが、すぐにそれがケーナだとわかって、フーッと大きく息をした。
「どう? 驚いた?」
「心臓が飛び出るかと、ちょっと思ったよ。……まったく、いたずら好きだねえアンタは。」
「えへへ」
ケーナは玄関で雨に濡れた上着を脱ぐと、さっさと居間のレイルのところに歩いていき、ドシンと椅子に腰かけた。
「ケーナ!」
「よっ、レイル君。今日も元気かね?」
「うん、この前の試練も大変だったけど、もう疲れもとれたし、大丈夫だよ」
「まったく、大変だったよね。まあ、王家の墓よりはマシだったけどさ、遠かったよね」
「そうだね……あの、ケーナ、ひとつ言っていい?」
「何? さっきから、顔が赤くなってるけど」
「服が透けてる」
「ちょっ!! それ、先に言ってよね!」
ケーナは、慌ててどこかに走って行き、良くわからない服を上に来て戻ってきた。
ファリーダの趣味なのかなんなのかは知らないがあまりセンスがいいとは言えない、やけに派手な色が目立つ民族衣装のような服だった。
「はーっ、こんな服しかないなんて」
「悪かったね」ファリーだが口をとがらせていった。
「それで、今日は何の用? こんな雨の日にわざわざやってくるなんてさ」
「そうそう、大事件なのよ!」
ケーナが机をどんっと叩く。
しかし強くたたきすぎたのか、痛かったらしく右手の拳を抑えた。
「また何か起こったの?」
「うん、<サンドディキシマ>が出たのよ!」