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砂塵りのケーナ  作者: 束間由一
第一章:砂漠の少女
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 ケーナがレイルを森に連れてきたのは、犯人探しだけでは無かった。

 2人は自然の中で語らう。




 レイルは、ファリーダに聞いた事を急に思い出した。

 ケーナのお母さんは、彼女が小さい頃に男と一緒に失踪してしまった。兄弟もいないから、おそらくは父親と二人きりだ。それはきっとさびしい事だろう。ケーナの笑顔の中に、その寂しさを見出してしまったのだ。


 レイルは胸が苦しくなった。

 昨日、自分はケーナの事を支えたいと思った。確かに思ったが、まだ漠然としている。それなら、ここで、ケーナにしっかりと聞いてみるべきじゃないだろうか? ケーナの事をもっと知ればその気持ちも確固たるものに近づくのではないか? 今話せば、ケーナの笑顔が消えるかもしれない。悲しい気持ちにさせるかもしれない事は分かっていた。だから、レイルが口を開いた時にまず発せられた言葉は、とても遠まわしなものだった。


 「ケーナ、いつもありがとう」


 「ん? 急にどうしたのよ?」


 「僕は、君に会えて本当によかったと思ってるよ。ここまでの試練だって一緒だったから乗り越えられた。それだけじゃない大切な、まるで家族みたいな仲間が沢山出来た。とても、嬉しいと思ってるよ」


 「そ、そう言われると何だかちょっと照れ臭いや。でも、私の方も同感だよ。本当にレイルと会えてよかったなって思ってる。ホントだよ?」


 「うん、わかってるよ。僕にこんなに良くしてくれた人はいなかったもの。僕は、僕はね、お父さんも、お母さんもいないんだ。兄弟もいない。小さい頃からずっと、冥術師見習いとして司祭様の下で修行していたけど、優しくなんてしてもらえた事なかった。だから、ケーナやファリーダさんの優しさがとっても新鮮だった」


 「レイル……」


 「だから、僕もケーナに優しくしたいと思う。力になりたいって、思うよ。頼りにならないけど、相談にも乗る。今日だって、そう思ってた」


 ケーナはさっきの明るい笑顔から、愁いを帯びたような微笑みに変わっていた。

 いつものケーナには無い、悲しさと優しさや色々な感情が入り混じって1つの波紋を描いたような美しくも深遠な表情だった。レイルは、彼女のその素顔に、一度心を奪われた。


 「ファリーダから聞いたみたいだね……」


 「えっ……!? なんで……」


 「わかるよ、だから気を使ってくれたんでしょ? レイルって正直だからね。……何処までファリーダが話したか知らないけど、私もお母さんがいないんだ。私を置いてどこかに行っちゃった。お城ではずっと父上と2人きりで暮らしてきたの。寂しかった……」


 「お父さん……どんな人なの?」


 「良くも悪くも、軍人だよ。父親と言う意味では機能していないよ。お金に関しては出し渋らないけど愛情は薄いかな」


 「でも、生きてる。お母さんも生きてる。それだけでも、僕から見ればずっと幸せに見えるんだけど」


 「生きてるから、両親がこの世にいるから幸せってわけじゃないよ。孤独なのは同じ、私にはレイルやファリーダが家族みたいなものなんだから」


 「でも、ケーナはお父さんともお母さんとも、仲良くなれるチャンスがあるよ。生きているんだからきっと……」


 「レイル!」


 ケーナは急に怒ったような声を出した。   

 そしてレイルの方を急に悲しい目で見る。


 「ケーナ……」


 「そんな簡単な事じゃないんだよ。お母さんは、私を見捨てたんだよ。私、ずっとこの森で待ってたんだ。お母さんが消えたこの森でずっと……でも、結局そんなの無駄でしか無かった!」


 「無駄じゃないよ、そんなことない」


 「だったら、何なのよ? 意味があったなんて証拠、レイルに言えるわけ?」


 「君は、森と仲良くなった。鳥とだって仲良くなった。意味は、あったと思うよ」


 「そう、そう言う事……あはは、あはははは! そうだね、それは言う通りかも! ごめんね、ちょっと感情的になっちゃって!」


 ケーナは再び元の笑顔に戻った。

 それを見てレイルもあわせてにっこりと歯を見せて笑った。


 「こっちこそ、ごめんね! 嫌な事思い出させちゃって。」


 「いいんだよ、レイルがそうやって私の事心配してくれた事の方のほうがずーっと嬉しいんだから。さーて、それじゃあ改めて犯人捜ししようかな?」


 「うん!」




 その後、いくら探しても犯人は見つからなかった。

 しかし、2人にとっては有意義な時間であった。


 











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