帝国の影
ノエリーに、殺人事件の犯人について意見を求めるケーナ。
ノエリーは今日も上機嫌だ。
「……ふーん、なるほどねぇ。それはひょっとするとスパイかもね」
「スパイ?」
「うん、敵を傷つけずに殺める事が出来るなんて相当の実力者だからね~どこかの国で雇われた一流のヤツじゃないかな? デルアラスは対外政策は温和だけど、良く思ってない国はいるしね。」
「良く思ってない国……どこよ?」
「例えば、帝国。ガレストリア帝国なんてあり得そうじゃない?」
ケーナもレイルもその名前には覚えがあった。
世界でも有数の軍事大国であるガレストリア帝国。あの国は、かなりの強硬派で、デルアラス含め諸国にも高圧的な態度で臨んでいる事から世界的にも危険視されている国なのだ。ケーナは、考え込むような顔をしてノエリーへの質問を続ける。
「帝国が絡んでいるって言いたいんだね? じゃあ、何のために? まさか、この国を乗っ取ろうなんて思ってるとか……」
「あながち、間違いじゃないね。あの国は、私達と仲良くやろうなんてこれっぽっちも思ってないんだ。向こうのトップは悪魔にでも憑りつかれているんじゃないかって言う人もいるくらいだし。」
「ええっ……!」
動揺していたのは、ケーナよりもレイルの方だった。
わかりやすく身を震わせて困惑を表現した。
「あはは! 恐がりだなぁ、レイルって! そんなすぐには攻めて来ないよ。この国だって軍勢持ってるんだしさ」
「もー、ノエリーは悠長だなあ!」ケーナがレイルをかばう。
「言っとくけど、今回殺されたのはその軍の中でも有数の実力を持った人だったんだよ? 笑い事じゃあいられないよ! 」
「あ、そうか。確かに上層部の人間が死ねば、組織は多少混乱するもんね。」
「そこを狙って来られたら大変でしょ?」
「確かにねぇ。でも、それは無いような気がするよ」
「なんで?」
「あんた、帝国とデルアラスの距離分かってる? ざっと2000ルーラ(※ほぼ3000km)はあるんだよ? それに、間には友好関係を結んでない国もあるし<竜巻地帯>もある。軍を進めるのは相当難しいのさ」
「じゃあ……一体何で、スパイを? 人を殺してまで?」
「さあね……目的まではわからないけど、殺したのは顔を見られたからじゃないかな? 指名手配されちゃあ仕事を続くけれないから」
「ふぅん」
ケーナは何か引っかかるものがあった。
しかし、それが何なのかはわからなかった。
「でさ、犯人はまだ国内にいると思う?」
「おそらく、いないんじゃないかな? これだけ大事になると警戒も強くなるでしょう? スパイ行為はほとぼりが冷めるまではできないだろうしね」
「そっか……」
「まあ、つまり、裏を返せば、あんた達がデルアラス内を捜索しても身の危険が無いに等しいって事にもなるけど」
レイルは、ノエリーの危険でないと言うような言葉を聞いて少しほっとした。
しかし「帝国」という言葉は、まだ頭の中で重くのしかかったままだった。