さらば悪霊
司祭エドガルドの元に無事にたどり着いたケーナ達。
試練は果たされたが、レイルの体にはネレストが憑依したままで……
「うむ……わかっておる。すぐに、除霊してやろう。しかし、その恰好からして、やはりネレストを憑りつかせたか」
「!! ……有名なんだね。ネレストさんって」
「そうよ」
ケーナは、その女性の声に驚いて、レイルの方を振り向いた。
そこには、既に元の男に戻ったレイルと、ネレストがいた。
司祭エドガルドもこれには驚き、白い髭をグイグイとつまんだ。
「ほう、ネレストが自ら肉体を離れるとはな。 今まで、そんな事は一度も無かったぞ」
「驚いたでしょう? いつもは、むりやり引っぺがしてもらってるけど、今回はサービスなのよ~」
「何だ? レイルの事が気に行ったのか?」
「まあ、そう言う事ね。あまりにレイル君が可愛かったから、踊りまで見せてあげちゃったよ」
「ほう……」
「それじゃあ、私はサッサと戻る事にするわ。あそこには戻りたくないんだけど、しょうがないわね」
「そうか、くれぐれも気を付けてな。」
「私、既に死んで悪霊になってるんですけどね……うふふ! まあ、銀の壁も戻る時には機能しない仕掛けになってるから大丈夫よ」
エドガルドとネレストの会話は、とてもさっぱりしていた。まるで、顔なじみ同志の様だった。ネレストには他人に距離感を与えない雰囲気が漂っていた。
「さて、レイル君にケーナちゃん。あなた達ともこれでお別れだね! ちょっと残念だなぁ」
「ありがとうございました。ネレストさん」
「いいのいいの! 私も退屈だったしさ。また気軽に、遊びに来てよ! 沢山の罠がお出迎えしてくれるからね!」
「はい」と、レイルは言ったが、多分無理だろうな―と内心は思っていた。
「それじゃあ、さようなら! 見送りは要らないからね!」
ネレストは小さく手を振って神殿の扉ををするりとすり抜けて行った。きっとあれなら、牢屋の中だろうが何だろうが簡単に移動できるだろう。幽霊と言うのも便利なものだとなケーナはちょっと思った。
「フォフォ、今回は手間が省けたのお」
エドガルドはぐいっと背伸びをした。
ケーナも安ど感に包まれたが、気になる事があったので口を開く。
「司祭様、1つ聞きたいんだけど」
「ん、何じゃね?」
「ネレストさんって一体、何で悪霊になったの? 知ってるなら教えてほしいな」
「ああ……彼女の事か」
エドガルドは遠い目をして天井を見た。
白内障なのか、黒目は少しだけ白く濁っていた。
「彼女は、悲しい恋をした女じゃよ」