レイルのスーパーダンス
2人は、何とか王家の墓からデルアラスに戻ってくる事が出来た。
レイルは女性になる事に成功したが、同時に悪霊に取りつかれているため様子がおかしい。ケーナは早く試練を終わらせるためにいち早く神殿へと向かおうとするのだが……
舞台裏の階段のところで、ケーナは心配そうな顔をしていた。
レイルに憑りついているのは、おそらく悪霊なのだ。何を考えているのかわかったもんじゃない。こうやって踊る事で、何か悪さをしようと企んでいるのかもしれないのだ。止めなくてよかったのだろうかと、心の中に後悔があった。
そんなケーナの肩に、何者かがポンと手の平を乗せる。
ケーナが振り向くと、それはノエリーだった。
「ちゃお! 何だか面白い事になったねー? くくく」
「ちょっと!? どうしてこんなトコにいるの?」
「偶然よ、偶然。ちょっと買い出しに来たんだけど、こんな事になってたからつい寄って来たのよ。そしたら、舞台の上にレイルがいるじゃない? しかも、何か胸がボイーンってなってるし、くねくねしてるし、こりゃ上手く悪霊に憑りつかれたんだろうって、すぐにわかったよ。アンタも近くにいるだろうと思ってたけど、予想どうりだったね!」
「ノエリー、楽しそうに言うなー。それで、大丈夫なの? レイルをあのままにしておいて。わたし、すっごく嫌な予感がするんだけど」
「あはは! ケーナのそういう心配そうな顔ってカワイイと思うよ?」
「もー、からかわないでよ! こっちは本気なんだから!」
「ほー。本気ってやっぱり、アンタってレイルのこと好きって事なのかなあ?」
ケーナの顔は、カーッと赤くなった。
そして、あたふたした。
「ちょっと! わたしは、別にそういう意味で言ったわけじゃないんだからね!? あくまでも、大事な友達の身を案じてるんだよ!」
「はいはい。まあ、大丈夫だと思うよ? この冥術師の試練はレイルが始めてじゃないんだし、悪霊がもし悪さするんだったら、今までにもそういう事件が起こってたんじゃないかな? この国で、そんな話聞いたこと無いからね~」
「まあ……確かにそうだけど」
「でしょ? それに、レイルは、そんな悪霊に負けちゃうような弱い子じゃないと思うよ? 砂漠を1人で歩いてたわけだし、冥術師としての才能もありそうだし、あの子なら何とかなるはずだよ。」
「そうかな?」
「私を信じなさいって! ノエリーお姉さんの情報は、とーっても頼りになるんです。」
その割に、地図は結構あてにならなかったんだけど。と、ケーナは思ったが、何だか肩の荷が下りたような感じがした。
再び、舞台の方に目をやる。
レイルは、信じられない程機敏な動きで踊っていた。軽快なタップステップと、滑らかな体の動きはただ妖艶で官能的というものではなく、実に美しく、芸術的とすら感じさせる。奏でられる音楽ともキチンと波長を合わせており、踊りに詳しくないケーナだったが思わず視線をくぎ付けにされてしまった。ネレストと言う女性が何者なのかは知らないが、ここまで素晴らしい踊りをさせる事が出来ると言う事は、ただならぬ人物に違いないと、ケーナは思った。
会場からは、声援があふれる。
今宵、デルアラスの夜はレイルの踊りによって、華やかに迎えられることになった。