悪霊の頼みごと
デルアラスに無事戻ってくる事が出来た2人。
レイルは悪霊ネレストのおかげで女性化したが、様子がおかしい。
「レイル、急いで司祭様のところへ行こう! そのままじゃ、見てられないしね!」
商業区まで来たので神殿まではあと少しだ。
ケーナは、このまま馬を進めようとする。しかし、レイルがケーナの服を引っ張ってちょっと待てと言うような顔をした。
「ケーナ、悪いんだけどぉ……」
「何よ、レイル?」
「ネレストさんが、1つだけお願があるんだって」
「お願い? ちょっと! そんな怪しい霊の話を聞いて大丈夫とは思えないんだけど……」
「聞いてくれなかったら、王家の墓に戻っちゃうってさ。ケーナ、聞いてあげようよ?」
「うーん、しょうがないなあ」
ケーナは頭を掻いた。
とんでもない要求をされたらたまったもんじゃない、下手をすればレイルが悪霊に肉体を奪われるかもしれないという不安もよぎった。しかし、ここでネレストがレイルから離れれば女性化は解けてしまうかもしれない。難しい選択だが、ここは要求に従うことしか選べなかった。
「それで、ネレストさんは何を望んでるわけ?」
「ううん、えっと、皆の前で踊りたいんだって。」
「はあ!? 踊る? それって、レイルが踊るってこと!?」
「そうだよ。ネレストさんがサポートするから大丈夫だってさ。」
「ふぅん、まあ、向こうに舞台があるから、そこで踊ればいと思うけど。本当に、大丈夫なんでしょうね? 」
「うん、これはサービスだって。とっておきのダンスを見せてあげるって言ってるよ。ああ、ついでに衣装も飛びきりのものを用意してほしいってさ!」
「うう……わかったわよ! 服も交渉してみる! けど、その後はちゃんと神殿にいってもらいますからね!」
「おぅけーって、ネレストさんが言ってるよ」
2人は、まず商業区の管理者に事情を説明し舞台の使用を許可してもらった。
管理者のマルゴスは快く承諾し、イベントとしての告知もしてくれることになった。
衣装も、踊子の服を貸してくれた。恐ろしくきわどい衣装なのでケーナはギョッと驚いたが、レイルは全然動じることなくその服を着こなした。
太陽が沈み始めるころ。
木製の大きな舞台の周りには、たくさんの人が集まって人だかりができた。
マルゴスの宣伝の効果は絶大だった。数時間で、これだけの人を集めたのにはケーナも感心した。食べ物を売る売り子まで現れてまるで、サーカスか何かでも始まるみたいな雰囲気だった。おまけに、司会者までちゃんと用意されていた。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます! 本日は、ここにいるレイルさんが皆さまに素晴らしいダンスを見せてくれるそうです! まずは、盛大な拍手をお願いたします!」
会場には、声と拍手が入り混じる。
デルアラスの民は、こういうイベントが大好きなのだ。舞台で何か出し物があれば、皆飛び付いて、てんやわんやと大騒ぎして楽しむのが常識と言っても良かった。
「では、早速、踊りをお願いしますね! レイルさん!」
「はい、がんばりますぅ」
これまた、どこからともなく現れた楽団が、踊りに似合いそうな演奏を始めた。
それに合わせて、レイルは、ふわりふわりと体をくねらせる。