慣れたもの
女性の悪霊ネレストと出会った2人。
「ここって男の悪霊ばかりでしょう? だから私っていっつも冥術士達に頼まれるのよね~人気があって困っちゃうわ」
「何だか、楽しそうに言いますね……」
「うん、だって冥術師に乗り移るのって退屈凌ぎに最適だもの。外にも出れるしね! まあ、結局はここに連れ戻されちゃうわけだけど……」
「そうなんですか、いつも戻ってくるんですね。ここに」
「そうなのよ、レイル。あーあ、さっさと成仏するか人間社会に戻るか、どちらかにしてほしいなぁ」
「えーと、それで、憑依してもらえるんですか?」
「勿論よ」ネレストは、怪しくも感じ良く頷いた。
「君みたいなカワイイ子には、ちょっとサービスもしちゃおうかしら?」
「ちょっと! レイルに変な気起こさないでくださいよ!? ネレストさん!」
目の前にいるのが霊だと言う事を忘れたようにケーナは言うとネレストはウフフと含み笑いをした。
「わかってるわよ、ケーナちゃん。素直な子ねぇ、そういうのも嫌いじゃないよ。要するに……」
「な、何よっ?」
「フフッ……まあ、いいわ。それで、レイル君は心の準備はもう出来てるの?」
レイルの心境は複雑だった。
求めていた悪霊があまりにも予想と違っていたからだ。もっと、恐ろしく狂気に満ちていて、ノエリーが言っていたように説得は大変だと思っていたのに、実際は真逆とすら言えそうな霊なのだ。それ故に、あまりに簡単すぎるが故に、逆に疑いが湧いた。
「あの……本当に大丈夫なんでしょうか?」
「……なーに? 悪霊相手にその質問を投げかけるなんて面白いわねえ。確かに自分の体に入ってどうなるかわからないんだから心配にもなるでしょうね。けど、そこは安心していいわよ。私、悪霊って言っても他人の体を乗っ取るまでの力は無いしね。まあ、大丈夫な証拠を出せと言われると、これってのは無いんだけどさ。まあ、でも結局、君って他に選択肢ないんでしょ?その辺は妥協しなさいな」
「はぁ……」
「それにね、レイル君。正直言っとくけど」ネレストの目が引き締まる。
「私ごときに何とかされる程度だったら君もそこまでよ。立派な冥術師になるんだったら、きっと何とかできるはず」
「ネレストさん……」
「さあ、やるの? やらないの? やらないんだったらさっさと帰った方がいいわ」
「……わかりました。お願いしますネレストさん! 僕に憑りついてください!」
ネレストは、レイルの言葉を聞くとうんと頷いた。
それはまるで、師匠が弟子の挑戦を受けるかのような雰囲気であった。