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砂塵りのケーナ  作者: 束間由一
最終章:別離
116/119

絶望的な戦い/奪われた秘術


 たび重なる悲しみと裏切りに錯乱状態のケーナ。

 ついにレイルに希望を見出すことを諦め、剣を手にして彼に斬りかかる……




 レイルから受けた身体的な痛みを忘れるように、ケーナは素早く動き、剣を斬突させてレイルの体を捉えようとする。レイルは、それを全て紙一重でかわしていった。風を切る音が、血の匂いで充満した砂漠の町に響く。



 「はぁぁぁぁぁ!」



 ケーナの鍛えられた剣技は、本来華麗で無駄が無い。しかし、冷静さを取り戻せない今はやはりまだ精彩を欠いていた。



 「ほらほら? そんな動きじゃ僕を殺せないよ?」


 「うるさいっ!」


 「君って、やっぱり感情がきちんと操作出来ないんだね」


 「あんただってそうだったでしょうが!」


 「あれは、芝居だよ。お芝居」


 「あんたは、レイルじゃない! レイルじゃないんだ!」


 「まだ言ってるよ……でも、僕はレイルなんだ。これが、本当の僕さ!」


 「認めない! 私はあんたの存在を認めないっ! あんたは、死ぬべきなんだ! 私の知ってるレイルの手をこれ以上汚させない!」

 

 「無いものの妄想にいつまでもかれていたって無駄だよ!」


 

 レイルの手から、炎の球が放たれた。ケーナは間一髪でそれを避ける。当たれば火傷では済まなかっただろう。続けざまに放たれる氷の冥術も地面を転がって避けた。それらはどれも、共に冒険した時に少年が使っていたものだった。ケーナの心は再び悲しみに包まれる。どうしてこうなったのか、その答えは現時点ではどこにも見当たらなかった。



 「逃げるばかりじゃつまらないよ? そうだ、ちょっといじめてあげようか」


 「何……?」



 レイルは両手をクロスさせて、特殊な恰好ポーズをする。

 すると、他の冥術のように、レイルの足元に紋様のようなものが浮かび上がった。しかし、今までの者とは違い、黒く輝く波動のような物がその文様から湧き出始めてレイルを覆った。



 「見せてあげよう……僕の新しい冥術を」


 「レイル……まさか!」



 ケーナが走って止めようとしても、もう遅かった。

 


 「その鋭気を虚ろに帰せよ……<掠奪縮剥相メガハーフ>!」


 「!?」



 ケーナの周囲の空間がぐにゃりと上下に歪みねじれる。

 そして歪みの隙間から生まれ出た黒い触手のような何かが彼女の体の中にすうっと入ってきた。すると、まるで肩に石でも乗せられたかのように、体がグッと重くなった。



 「どうだい? あんだけの試練を乗り越えて手に入れた割には地味だろう?」


 「これは……」


 「この冥術はね、対象者の全ての力を半減させる力があるんだ。どんなデカブツでこれをも喰らえばかなり弱体化するだろうね。しかもこれは特殊なもので、普通の防御手段や防御系冥術などでは防げないんだ。すべてを貫通して確実に効果をもたらす……あのじじいがご丁寧に教えてくれたよ」


 「くっ……どこまでも、悪質な!」


 「ククク……しかし、元々大したことないのに力の半分が無くなってしまったら。残念だけど僕を倒すことはもう無理だね。君はもう死ぬしかない」


 「そんな……」

 


 ケーナの体に冷たい血が駆け抜ける。

 最早、絶望的な状態だった。動くのすら苦しい状態では、レイルの言う通り現状を打破することは不可能に近い。もはや、覚悟を決めるしか道は無かった。



 「自分の浅はかな判断を、あの世で後悔するんだね……ケーナ!」


 「ううっ……こんな……こんなところで……」


 「さあ、悲しみを背負ったままあの世へ向かえ! <暗黒界衝波カロントラズ・ノート>! 」



 レイルの手から、暗黒の波動がケーナに向けて放たれる。

 彼女にはもう避ける力は残されていなかった。



 死ぬ。

 剣を構えてケーナはそう覚悟した。そして、闇の波動にその身を包まれる。



 

 

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