3つの仕事
レイルの正体は帝国の手の者だった。
彼は全てを欺き騙していた……
「なんで……なんで……」ケーナは怒りと悲しみに苛まれ、震える。
「僕の目的の1つは、確かにあのジジイに認められることだった。この国に伝わる秘伝の冥術を習得する事が仕事の1つだったんだよ。だけど、他にも目的があった」
「レイル……」
「この国の偵察……即ちスパイさ。このデルアラスは、帝国の事を良く思ってないからね。いずれは敵に回る可能性が高い厄介な国だから、こうやって僕を差し向けたんだよ」
「まさか……あの時の、城内での事件も……」
「へえ、良く思いだしたね! そうだよ、あのたちを殺したのも僕さ。なかなか、勘の良い奴だったから気付かれちまってね、悪いけど死んでもらったよ。あの犯人は、僕の冥術で記憶を刷り込ませてやったのさ。可哀そうに……無実の罪で牢獄暮らしとはね」
「………………だったら……だったら、何でここにファリーダや住んでいた関係のない人まで殺したのよ!? レイルがスパイだって言うんなら、全部目立たないようにやればよかったじゃない!!」
「ククク……そうだね、ただのスパイならそれでもよかっただろう。けど、僕にはもう1つ仕事があった……それが、この虐殺さ!」
「なんですって!?」
「他の仕事が全部終わったら、最後に見せしめで幾らかの人間を殺してこいって言われていてね。まあ、ちょっとした脅しのようなものかな」
「人の命を、何だと思ってるのよ!!」
「悪いねぇ、ケーナ……お前には悪いけど、この仕事が全て成功した暁には、冥導隊隊長の地位と多額の資金が手に入るんだよ! 金も権力も一度に手に入るんだ!」
「自らの地位と欲望の為にみんなを…………許せない…………」
「ええ? 聞こえないなぁ」
「許せないって言ってるのよ!! レイル!!」
ケーナが、まるで悪魔のような邪笑を浮かべる少年を睨みつける。
しかし、少年はそれに動じることなど全くなかった。
「君に、僕の人生を左右する力なんて無いさ。さあケーナ……いたぶってあげるよ!」
レイルの手から、強烈な波動が巻き起こる。風の高位冥術だった。
その勢いは強烈で、ケーナはノエリーとともに吹き飛ばされて、地に体を打ち付けた。
「つっ………ううっ……」
少女は、心身共に激痛が走り頭を抱える。
その横で倒れているノエリーは、既に息をしていないようだった。
そんな2人に、レイルはゆっくりと砂の地面を踏みしめて近づく。
ズサッズサッと言う音が、ケーナの耳にひたすら大きく響いた。