親しき者は息絶えて
ケーナ達が向かった先には、多くの死体が横たわっていた。
ファリーダの家に馬は急ぐが、果たしてレイル達の生死は!?
「ああっ!?」
砂漠馬は止まった。ケーナが止めたのだ。
行き慣れた家の前には、その主であるファリーダが空を向いて仰向けに倒れていた。その美しく長い首は無残にも切り裂かれ、血が周囲に滴り落ちていた。既に事が切れている。その側では、レイルが青ざめた顔で、力なく両膝をついていた。
「ケーナ……」少年がかすれたような声で言う。
「ごめん、守れなかった」
「そんな…………嘘だよ…………だって、今朝まで元気だったじゃない!」
「黒いマントを着た男が、みんなを襲って…………」
「嘘だ……嘘だって言ってよ……」
ケーナは、ファリーダの側で倒れこむように崩れ落ち、褐色の肌を持つ彼女の顔を撫でる。その閉じられた目と口元は穏やかだった。
「ごめん……本当にごめん……」レイルは、ただ謝る。
「……ファリーダ……ファリーダ!」
ケーナと、遺体となった彼女は長い付き合いだった。幼い頃に出会い、それからずっと仲が良かった。料理が上手で、ケーナにとってファリーダの料理は宮廷のどんな料理よりも美味しいと思っていた。困った時は、いつも相談に乗ってくれた。弟が死んでも、弱音を吐かずに気丈に生きてきた。優しさをずっと失うことのなかった彼女が、こんな無残な死に方をしなければならなかった事、そしてもう二度と話す事も笑いあう事も出来ない事に、ぬくもりに触れる事が出来ない事に、ケーナは絶望した。
「ケーナ」
ノエリーが、しゃがんで少女の肩に手を当てる。しかし、博識な学者である彼女も、今この悲しみを和らげる知恵は全く浮かんでいなかった。ただ、側にいる事で精一杯だった。
「どうして…………どうしてこんな……」少女の美しい瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちる。
「ひどいね、これはただの反政府勢力とかの仕業じゃないよ。あきらかに、大きな何かが絡んでる」
「……帝国……なの?」
「断定は出来ないけどね……でも、レイルが無事だっただけでもよかったわ」
ノエリーが少年の方を見たが、罪悪感があるのか彼はすぐに言葉を返さない。
「あんたのせいじゃないよ…………必死で頑張ったんでしょ?」
「……」
「大丈夫、ファリーダだってに責めることはないからさ。それより、その命を守らなきゃ」
学者は勇ましく立ち上がった。他人の為にここまで頑張ろうとしたのは、初めてかもしれない。自分が奮い立たなければけないと言うらいに、今おかれている状況は危機的なものだった。
「2人とも、立って ! ファリーダには悪いけど、今はここから早急に離れなきゃ!」
「……ノエリー?」ケーナが涙で顔をくしゃくしゃにしながら弱々しい声で言う。
「ワタシんらが死んだら、この子の死も無駄になっちゃうからね。とにかく、安全なところに行こうよ」
「……うん……」
悲しみは消えない。でも、ここでめそめそしている程ケーナは弱くは無かった。レイルとともに立ちあがり。ノエリーに促されて砂漠馬に向けて歩き出す。
「あのお馬さんは大きいから3人いけるでしょ」
「そうだね……でも、どこに行けばいいの?」
「それは勿論、王宮でしょ! ね、レイル……」
ケーナがそういって、レイルの方を見たその時だった。
黒き闇の刃が、グサリと、ノエリーの胸を貫く!
「え…………っ!?」
ノエリーは目の前が真っ白になり、最初何が起こったか分からなかった。
しかし、彼女の口から血がつうと流れおちた時、ドクドクと言う音とともに視覚を取り戻す。
「そ…………そんな…………!」
彼女に刃を向けた者。
それは、レイルだった。