悪い予感
司祭エドガルドが何者かによって殺された。
彼と関係のあったレイルにも、その容疑がかけられてしまったが、ケーナがそれを何とかしようと動き出した。
「はー、大変なことになったね!」
「そんな気楽な言い方しないでよ、ノエリー!」
学者の彼女は事件の事を知ってもマイペースを崩さない。
それどころか、イタズラとばかりにケーナにとびっきり苦いコーヒーを提供した。
「こういう時は、動揺したら負けなのよ、ケーナ」
「だけど…………ぷっ!? ちょっと、何なのよこれ!?」
「寝ぼけマナコも吹っ飛ぶだろうと思ってさ」
「全然、眠くないわよ!」
「そりゃ失礼しました~」
「もー、今がどんな状況か分かってるんでしょうね?」
「分かってるさ。私は学者だよ、ちみ?」
「疑わしいなぁ」
ノエリーは二ヒヒと笑った。
その見慣れた笑顔が、ケーナを少し安心させる。
「しっかし、タチが悪い犯人だよねーわざわざ、見えるように遺体を置くなんてさ」
「え、何でわかるのよ? 通りすがりに殺されたのかも知れないじゃない?」
「おそらく、それはない。司祭様はあれでも一流の冥術士で賢人だからね。道端で襲われても、あんな新聞に乗ってるような、神殿のそばで丸焼きにされてうつ伏せでバッタリってなヘボな死に方はしないよ。もっと抵抗したり逃げたりした跡があるはずさ。それに、近くで焼け焦げた跡も犯人の足跡も無かったらしいじゃない? おそらくは、他のところで殺されて、そこに運ばれたんだろうね……足跡も、消したのか、或いは冥術の力で浮遊して移動していたのか」
「あのさ……その内容じゃあレイルに余計疑惑がかかっちゃうじゃないの!」
「ううん」ノエリーは眉を顰める。
「そうなんだよね。まずい事に、私の読みだとエドガルド司祭は不意打ちにあった可能性が高いんだ。本人がやったか、何者かが変身して近づいたかは分からないけど、顔見知りで親しい人が司祭様を至近距離から襲ったっていうシナリオが浮かんじゃうのよ」
「でも、レイルはやってないよ! レイルは、そんなことする子じゃない……」
「私も、そう思うよ。レイルが人殺しなんてできるとは思えない」
「ノエリー、何とかならないの?」
ノエリーは腕を組んで考える。
しかし、彼女の頭脳と知識を持ってしても、現状ではなかなか良い方法が浮かばなかった。
「うーん。まず、現場に行ってみる事からはじめようか。私がいかに名探偵ノエリー様であっても、もうちょっとヒントが欲しいんだよね」
「いつから探偵になったのよ?」
「今でーす。レイルをこのまま容疑者にしとくのは私も忍びないからね! だから、今回はあんたと一緒に調査しちゃおうかなー」
「ノエリーが一緒に来るの? 出ずっぱりなのに珍しいね」
「たまには外出しないと運動不足になっちゃうしね~」
それは、女学者の本音ではなかった。
本当は、ケーナを1人で動かせるのが心配だったのだ。それに、悪い予感が彼女の頭の中で渦巻いていた。実際は、自分が動かなくてはならないと言う強い思いに駆られていた。
「ありがと。じゃあ、さっそく現場に向おうよ!」
「よしきた!」
ケーナは、ノエリーと一緒に埃っぽい部屋から外へと飛び出す。
太陽はいつもと変わらず、燦々と2人に照りつけた。