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砂塵りのケーナ  作者: 束間由一
最終章:別離
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動き出す闇

 レイルは冥術士の試練を全て突破した。

 そして……

 




 強い光にに照らされて、レイルは目を覚ました。

 ベッドのシーツからはデルアラス特有の柔らかい匂いがする。気持ちの良い、清々しい朝だった。



 体を持ち上げると、木製の洋服かけの方を見る。

 そこには、特殊な繊維で作られた、美しい文様の羽織がかかっていた。それは、レイルがデルアラス公認の冥術士として認定された記念として、エドガルドから渡されたものだった。本人に実感があるかないかはともかく、少年は、晴れて見習いでは無く一人前の冥術士になったのであった。



 デルアラスでの用事が終わったレイルだったが、まだこの地を離れることはしなかった。名残惜しさからか、少なくともケーナの誕生日の日まではここにいることに決めていたのだ。そして、今日がその誕生日の日だった。

 

 

 階段を、少年は軽快にトタトタと降りる。


 下では、いつものように朝食を用意してファリーダが立っていた。しかし、なぜかその表情はいつものようではなく、何か重苦しい雰囲気を放っていた。



 「ファリーダ!」


 「おはよう、レイル……」


 「どうしたの、浮かない顔して? 体調悪いの?」



 レイルがここに来てから、ファリーダが体調を壊した事は一度も無かった。

 それが、今はじめて具合が悪そうにしている。レイルは嫌な予感を察した。



 「もしかして、何かあったの」


 「ああ…………レイル、良く聞いておくれよ」


 「何?」


 「エドガルド司祭が、昨日亡くなったわ」


 「ええっ!!」



 レイルの体に、ゾクッとしたものが走った。

 つい先日まで元気で、自分の冥術士の資格を認めてくれた老司祭が急に命を失ったなど信じがたいものだった。



 「な、なんで……」


 「道端に倒れてたんだって。しかも、全身を炎で焼かれてね」


 「そんな……!? じゃあ、エドガルド様は!?」


 「殺されたんだよ。何ものかの手によってね」



 置いてある新聞に目をやる。

 書いてあることは、ファリーダの言っていたこととほぼ同じだった。ただ、加えることがあるとすれば「犯人はまだ見つかっていない」と言うことだ。



 「まったく、誰がこんなことを……」ファリーダが腕組みをして首を傾ける。


 「……そういえば、大分前にデルアラスの王宮で似た事があったよね?」


 「ああ、そうだったね。でも、確か犯人は捕まったんだろう? 反乱分子とか名乗ってたみたいだけど、そのお仲間だろうかね?」


 「……でも、だとしたら、なんでエドガルド様だったんだろう? 司祭様はデルアラス王との繋がりが全く無いとは言えないけど。王家の血を引く人間じゃ無いはずだ」


 「わからないね…………とにかく、暫く外出は控えた方がいいよ。外は危険だしね」



 ファリーダはそう言った後、すぐにケーナが扉をバタンと開けて中に入ってきた。

 急いで来たらしく、顔からは汗がこぼれ落ちていた。



 「大丈夫だった!?」


 「私は大丈夫だよ……それより、大変だよ! レイルが疑われてるんだ!」


 「僕が!?」


 「レイルは、エドガルド様と今まで何度もあってきて面識があるからね。犯人の候補に挙げられちゃってるんだ」


 「そんな……僕は!」


 「わかってる。だから、何とかして誤解を解かないとね……私が、何とか色々頑張ってみるから、レイルはあまり動かない方がいいよ。怪しまれるかもしれないから」


 「誕生日会……どうしようね」ファリーダが心配そうに言う。


 「それは、後だよ。今は、私のこと祝えるような状況じゃないんだからね。デルアラス全体が朝から混乱してるよ」


 「そうかい……で、どうするんだい? 頑張るってったって、いくら王族って言ったってやれることにゃ限度があるよ?」


 「ひとまず、ノエリーに相談してみようと思うよ。何か、いつものように良い情報をくれるかもしれないし。言っとくけど、止めても無駄だからね!」


 「ケーナ!」レイルが声を上げた


 「レイル、待ってて。必ずあんたの誤解は解いてあげるからさ!」 


 「ケーナ……その……」



 ケーナは、レイルが何か言おうとしたのを最後まで聞かずに、勢いよく外に出て行ってしまった。

 少年は、それを見送ると、寂しげな表情を浮かべて、食卓の椅子に座る。ファリーダが元気を出してと励ますようにコーヒーを出すと、彼はゆっくりとそれを啜った。



 闇は、今、確実に動き始めていた。 












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