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砂塵りのケーナ  作者: 束間由一
第二章:愛の輝き
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撃破……そして……


 ファムナの決死の作戦は成功した。

 ガロウドの体は崩れ、ケーナがそれにトドメを刺す。




  挿絵(By みてみん)


 

  「やった……!」



  レイルは喜びの声を上げた、そして戻ってくるケーナを暖かく迎える。



 挿絵(By みてみん)



 「やったんだね! 僕達、ガロウドを倒したんだ!」


 「うん!」


 

 2人は顔を見合わせたが、すぐにファムナの方を見た。ファムナは、本当の兄弟を見るような優しげな笑みを浮かべていた。レイルは、彼女に向って一礼する。



 「ありがとうございます。おかげで助かりました!」


 「お礼なんて、いいわよ。しかし、ガロウドの理性が無くて良かったわ……<歩みの種>の存在を忘れてしまっていたおかげで、助かったわ」


 「あの、<歩みの種>って一体何なんですか?」


 「ああ……それはね」


 

 ファムナは、<歩みの種>のなる大きな木を眺めた。

 木は、今の戦いにも動じることなくがっしりとその場に根を下ろし、立っている。ふと、優しげな草木の瑞々(みずみず)しい香りがレイルやケーナの嗅覚にも入り、気持ちを解きほぐした。 



 「その実は、毒があるの。対象を確実に死に至らしめる毒……」


 「えっ!? そんな、危険なものなんですか?」


 「一度口にすれば、肉体は崩壊して命を失う。それは、魔物や、死者アンデットであっても逃れることは出来ない。私達アール人は、恐ろしい物を作ったものよね」


 「戦争に、使おうとしたんですか?」


 「そうよ。でも、使う前に暴走したガロウドが皆を殺してしまったから、使う機会が無かったのだけれど」


 「そうですか……」


 「私達は、禁忌を犯してしまった。やはり、それは罪だったのよ。私がこうなったのも当然の報いね……それで、こんなものをあなた達は何に使うつもりなのかしら?」


 「それは」ケーナが割って入る。

 「これを、成長させて木になったものを司祭様に届けなければならないの。一週間以内に届けなければ、ダメなんだよ」


 「そう……」


 「ファムナ、何か知らない?」 

 


 ブロトロンの肉体を持つ青髪の女性は再び大きな樹木を見上げた。



 「あの木みたいに、大きなものでなければ何とかなるよ」


 「本当ですか!? じゃあ、どうすれば……」


 「簡単よ、ケーナ。こうすればいいの」



 ファムナは、落ちている<歩みの種>を1つ拾い上げた。

 そして、それを自らの口に近づける。



 「ちょ、ちょっと! 何してるの!?」ケーナが驚いてファムナに近づき、顔を見上げた。

 「それを、食べたら死んじゃうんでしょ?」


 「そう。人の混じった私が食べれば、この種は体内でその養分を一気に吸って木になるはずよ」


 「でも、それじゃあ!!」


 「いいのよ、ケーナ、レイル。私は、もう十分に生きた……そろそろ、あの世へ生きたいのよ」


 「ファムナさん……」


 「罪悪感なんて、感じないでね……このまま、この体でこれ以上生きる意味は無いのだから。それに、あなた達の為ならこの命捧げてもいいって思ったし」


 

 レイルが「だけど」と言って引きとめようとしたが、ファムナは実を砕き、中の種を自らの口に入れてしまった。すると、彼女の体が、少しずつ静かに崩れ始める。



 「ファムナさん!」2人の少年と少女は名を呼んだが、もはや止めることは出来ない。



 「レイル……ケーナ……会えて良かった…………私は悔やんでないよ……妹は生きていたんだってわかったから…………ありがとう…………」



 ケーナが、黒い土になってすべて地に落ちると、その中に、不思議な形の小さな苗木が天に向って生えていた。ファムナの生命を吸ったそれは、力強い力を放ち、レイル達を見つめるように、緑の葉を煌かせる。


 

 ケーナは、手でその苗木を土ごと取り上げると、持ってきた袋に大事そうに詰めた。

 こうして、エドガルドの提示した試練の全てが遂に果たされたのだが、尊い命を犠牲にした成果であったため、レイルとケーナは素直に喜ぶことはできなかった。



 ファムナが天国で妹のエメリナと出会える事を祈りながら、彼等は来た道を引き返すのだった。

 





 












 







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