撃破……そして……
ファムナの決死の作戦は成功した。
ガロウドの体は崩れ、ケーナがそれにトドメを刺す。
「やった……!」
レイルは喜びの声を上げた、そして戻ってくるケーナを暖かく迎える。
「やったんだね! 僕達、ガロウドを倒したんだ!」
「うん!」
2人は顔を見合わせたが、すぐにファムナの方を見た。ファムナは、本当の兄弟を見るような優しげな笑みを浮かべていた。レイルは、彼女に向って一礼する。
「ありがとうございます。おかげで助かりました!」
「お礼なんて、いいわよ。しかし、ガロウドの理性が無くて良かったわ……<歩みの種>の存在を忘れてしまっていたおかげで、助かったわ」
「あの、<歩みの種>って一体何なんですか?」
「ああ……それはね」
ファムナは、<歩みの種>のなる大きな木を眺めた。
木は、今の戦いにも動じることなくがっしりとその場に根を下ろし、立っている。ふと、優しげな草木の瑞々(みずみず)しい香りがレイルやケーナの嗅覚にも入り、気持ちを解きほぐした。
「その実は、毒があるの。対象を確実に死に至らしめる毒……」
「えっ!? そんな、危険なものなんですか?」
「一度口にすれば、肉体は崩壊して命を失う。それは、魔物や、死者であっても逃れることは出来ない。私達アール人は、恐ろしい物を作ったものよね」
「戦争に、使おうとしたんですか?」
「そうよ。でも、使う前に暴走したガロウドが皆を殺してしまったから、使う機会が無かったのだけれど」
「そうですか……」
「私達は、禁忌を犯してしまった。やはり、それは罪だったのよ。私がこうなったのも当然の報いね……それで、こんなものをあなた達は何に使うつもりなのかしら?」
「それは」ケーナが割って入る。
「これを、成長させて木になったものを司祭様に届けなければならないの。一週間以内に届けなければ、ダメなんだよ」
「そう……」
「ファムナ、何か知らない?」
ブロトロンの肉体を持つ青髪の女性は再び大きな樹木を見上げた。
「あの木みたいに、大きなものでなければ何とかなるよ」
「本当ですか!? じゃあ、どうすれば……」
「簡単よ、ケーナ。こうすればいいの」
ファムナは、落ちている<歩みの種>を1つ拾い上げた。
そして、それを自らの口に近づける。
「ちょ、ちょっと! 何してるの!?」ケーナが驚いてファムナに近づき、顔を見上げた。
「それを、食べたら死んじゃうんでしょ?」
「そう。人の混じった私が食べれば、この種は体内でその養分を一気に吸って木になるはずよ」
「でも、それじゃあ!!」
「いいのよ、ケーナ、レイル。私は、もう十分に生きた……そろそろ、あの世へ生きたいのよ」
「ファムナさん……」
「罪悪感なんて、感じないでね……このまま、この体でこれ以上生きる意味は無いのだから。それに、あなた達の為ならこの命捧げてもいいって思ったし」
レイルが「だけど」と言って引きとめようとしたが、ファムナは実を砕き、中の種を自らの口に入れてしまった。すると、彼女の体が、少しずつ静かに崩れ始める。
「ファムナさん!」2人の少年と少女は名を呼んだが、もはや止めることは出来ない。
「レイル……ケーナ……会えて良かった…………私は悔やんでないよ……妹は生きていたんだってわかったから…………ありがとう…………」
ケーナが、黒い土になってすべて地に落ちると、その中に、不思議な形の小さな苗木が天に向って生えていた。ファムナの生命を吸ったそれは、力強い力を放ち、レイル達を見つめるように、緑の葉を煌かせる。
ケーナは、手でその苗木を土ごと取り上げると、持ってきた袋に大事そうに詰めた。
こうして、エドガルドの提示した試練の全てが遂に果たされたのだが、尊い命を犠牲にした成果であったため、レイルとケーナは素直に喜ぶことはできなかった。
ファムナが天国で妹のエメリナと出会える事を祈りながら、彼等は来た道を引き返すのだった。