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砂塵りのケーナ  作者: 束間由一
第二章:愛の輝き
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立ち塞がるは野望の足跡

 レイル達は、最大の関門であるワイバーンの巣を突破した。

 しかし、本当の正念場はその後だった。




 目の前平らな洞窟の道に、立ちふさがる巨大な影。

 その姿に、レイル達は足を止めた。



 骸骨のような8つの頭部。ドロドロとしたドス黒い体は、何かがゴボゴボと(うごめく)き、そこから次々と蛆虫(うじむし)の様な生き物が生まれては地に落ちる。蟷螂のような8本の足と巨大な2本の鎌、背中には血のように真っ赤な気色悪い血管が走った羽が生えている。そして、放たれる圧倒的な邪気と臭気。



 それは、レイル達が今まで見てきた魔物とは、まったく格が違う、とてつもなく醜く恐ろしい存在だった。見ているだけで、吐き気を催しそうなほどに見た目がおぞましい。 




 「な……何なのよ? 気持ち悪い……」ケーナも思わず口を覆う。


 「来るかもしれないとは思っていたけど、現れてしまったわね……」


 「ファムナさん?」


 「この、異形の者の名は<ガロウド>……野望にかまけた人間の、なれの果てよ」

 

 「これが……人間だった?」


 「そう。彼の野心と生への執着心は、時に心強くも感じられた。けれど、そんなものはただの幻想だった。結局、彼は自らを魔物と融合させると、その暗黒の力に取り込まれてしまった。今そこにいいるのは理性を失ったただの哀れな存在にすぎない。最凶で最悪の哀れな存在に…………ね」


 「……」


 「今までの魔物とはわけが違うよ……なにせ、こうやって今まで誰ひとり息の根を止めることは出来なかったんだから。2人とも心してかかって!」


 「はい!」



 ケーナとレイルは、目の前の敵に視線を合わせ臨戦態勢をとる。

 目の前でカクカクと顎を動かし何か呪文のような物を唱える髑髏の魔物に対し、恐ろしいという気持ちは体中を走っていたが、を向けて逃げることはしなかった。それは、逆に死を呼び寄せる可能性もあったし、ここまで来て試練を諦め、全てを捨てるわけにはいかなかったのだ。何が何でも乗り越えるという意志が2人にはあった。



 「いくよ…………煉獄の炎よ、悪しき物を焼き払え! <炎熱陣(バイダレイブ)>!」



 レイルの、炎の冥術が発動する!

 ガロウドの周囲が炎の海で覆われた。しかし、それは奴の体を焼く事は無く、ただメラメラと燃えるだけだった。その炎の中を、気味が悪いくらいの速さで、ガロウドはカシャカシャと移動する。気がつけば、洞窟の壁を駆けあがり、天井に移動していた。



 「全然、効いてない!?」


 「レイル、上に行ったよ! 気をつけて!」



 レイル達の足元に蛆虫が落ちる。

 ケーナは、それを見て鳥肌が立ったが、それに構う余裕もなく、身の危険を感じ移動する。



 ズシン!



 2人が離れたところに、ガロウドが落ちてきた。

 思いのほか素早い。今までのどんな魔物よりも大きいのに、一番身軽なのが、2人を更に恐怖させた。



 「うわわ!」


 「くっ! 何て機敏なのよ!?」


 「何とかしないと……」



 レイルは、慌てて<俊速法(ダブルクリック)>と<詠唱時短(エンディミスソーン)>を3人全員に使い移動速度と、冥術詠唱時間を早くする。こうしなければ、簡単にやられてしまうだろうからだ。レイルの予想どうり、物凄い勢いで、ガロウドは鎌になった両手を振りまわしてきた。切られたら、一巻の終わりとも言うべき切れ味だった。



 「うっ、反撃する余裕が無い……」ケーナは冷や汗を垂らす。


 「ケーナ、レイル! 洞窟の奥に向かう道が開いてる! ひとまずそっちに向いましょう!」

  

 「わかりました」



 3人は、全力で洞窟を駆ける。歩みの種のある方に向って。

 しかし、やはりガロウドは素早く、距離を放す事は出来なかった。そして、洞窟が行き止まりになったところで、遂に逃げ場が無くなってしまう。



 「まずい……これじゃあ……」レイルの体は汗でぐっしょりと濡れていた。


 「2人とも、後ろを見て!」ファムナが言う。


 「後ろ?」

 

 

 レイルとケーナが振り返ると、そこにはひときわ大きな木が洞窟の天井めがけて生えていた。

 2人は、危険な状況とはいえ目的の場所に辿り着いたのだった。


 



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