急襲、ワイバーン
アール人の生き残りで、魔物と融合させられたファムナと知り合い、力を借りることになったレイル達。要塞のさらに奥へと進む。
地下40階に到達し、遂に最大の難関とノエリーが言っていたワイバーンの棲家へとレイル達は足を踏み入れた。かつての戦争で、空からの攻撃に対抗するために作られた翼竜は、レイル達に容赦なく襲いかかる。直線状の一本道以外は底の見えない、落ちたら即死であろう崖になっている地形は、まるで彼らの動きに有利になるように作られたかのようだった。
「2人とも、気をつけて」ファムナが言う。
「奴らは近接攻撃だけじゃなく、炎も吐く。なるべく奴らの直線状に立たないようにして!」
『はい!』ケーナとレイルの声が同時に出た。
「向こうは、飛行している……それを止めれば十分に勝機はあるよ。幸い、このブロトロンの肉体は物理攻撃にも炎にも耐性がある。逃げきれない時は盾にしてその隙に攻撃すれば効果的だわ」
「詳しいんですね」
「私もかつては戦士だったのよ、ケーナ……さあ、慎重に行きましょう!」
ワイバーンが、首を突き出して、レイル達に突撃してくる。
レイル達は、言われたとおり肩面をファムナに立ってもらい、反対側の敵のみを狙う事にした。
「翼を使えなくすればいいのなら! ……真空の刃よ、標的を切り裂け! <斬空爪>!」
レイルの手から、風の刃が放たれる。その切れ味は鋭く、ワイバーンの翼を見事に切り落とした。翼を失ったワイバーンは奈落の底に落ちて行く。
「やった!」ケーナが左手を強く握る。
「ケーナ、いけるよ! あいつら、そんなに頑丈じゃ無いみたいだ」
「そうだね。じゃあ、私の剣でも……」
少女は、突撃に失敗し横切ったワイバーンに剣撃を加える。
彼女の剣は、流石は王家の名剣。その翼をまるで紙のようにシュッと切り裂いた。
そして、このようにワイバーン達を次々に崖の下に落としながら、3人は少しずつ前進し、遂に突破する事に成功した。新たなる仲間の存在のおかげで、レイル達は比較的楽にこの難関を突破できたのだ。
「……はぁ」レイルが、大きく息をする。
「よく頑張ったわね、2人とも」
「ありがとうございます、ファムナさん。あなたのおかげで何とかなりました」
「そんなことないわ。レイルの冥術、ケーナの剣技、どちらもワーバーンに対抗するには十分だった。あなた達でも十分乗り越えられたと思うわ」
「そんな……」
褒められて、顔が赤くなったレイルを、ケーナが小突く。
「もう、照れちゃって…………でも、これで<歩みの種>まではあと少しなんですよね?」
「そうね、もう魔物の巣窟のような場所は無いはずよ。ただ……」
「え? まだ、何かあるんですか?」
「あれが現れるかもしれない」
「あれ?」
「負の遺産のひとつがね……前に言ったでしょ? 私達は、ある魔物の暴走が元で壊滅したって」
「はい…………まさか!」
「そう、そのまさかよ。その魔物は、今もこの要塞のどこかにいる。もし出会ったら、最悪の事態だと思って」
その、最悪の事態は、不運にも、この後レイル達に訪れるのであった。