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84 未練と迷いと

「リシェル様、わざわざお届けいただき、ありがとうございました」

 

「いえ……では、失礼します」


 揉み手しながらペコペコと頭を下げてくる中年の魔道士に、リシェルは愛想笑いを作って、そそくさと退室した。


 閉まったドアの前で、ほっと一息つく。

 今日の午前中は、シグルトは王城へ出かけていて不在だ。彼が前日に処理した書類を、枚数に間違いがないか等確認したあと、各部署へ届けて周り、今最後の書類を渡したところだったのだが……


(手のひら返しって、こういうことだよね……)


 法院の魔道士たちの態度の変化には、呆れを通り越して笑ってしまう。以前はあんなに冷たい目でリシェルをにらみ、こそこそと陰口を叩いていた魔道士たちが、今はまるでシグルト本人に相対した時のように、敬語を使い、頭を下げてくる。


 リシェルがシグルトの婚約者になったことに加え、結婚後は弟子をやめることも、今は誰もが知っている。どうやら彼らにとってリシェルは、“シグルトの弟子”という羨望と嫉妬の的から、“シグルトの婚約者”という敬意の対象に、完全に切り替わったらしい。


 シグルトとの関わりひとつで、こうも自分に対する周りの反応は変わってしまうのだ。師の影響力の大きさを実感するとともに、リシェルは少し虚しさを感じた。結局、自分はシグルトの付属品でしかないのではないか、と。


 出来ることなら、立派な一人前の魔道士に、自分の力でみんなに認めてもらえるような人間になりたかった。だが、魔道士になるには才能が必要だ。魔力という、特別な才能が。こればかりは生まれ持ったもので、どうしようもない。


 自分にもパリスやディナ……アーシェのような魔力が、才能があったらよかったのに。何度そう思ったことか。だが現実はそう上手くはいかない。


(でも……きっとこれでよかったんだよね?)


 昨夜、花嫁衣装について語っていた時のシグルトの嬉しそうな笑顔を思い出す。彼はリシェルが魔道士になることを最初から望んでいなかった。リシェルが魔道士の道を諦め、彼の妻になる。現状は彼にとっては最も望んだ理想の未来だろう。


 自分に出来ることならば、何だって彼の望みを叶えて、彼を幸せにしたい。その気持ちは嘘ではない。だが、もし自分に才能があったなら……いくらシグルトの望みでも、魔道士となる夢を諦めきれる自信がなかった。それくらい、リシェルは本気で魔道士になることを願っていた。パリスに教えてもらって、初めて魔法が使えた時の、今まで感じことのない、あのわくわくとした気持ち。魔法ほど夢中になれるものが、この先見つかるだろうか。


 自分に才能がなくて、むしろ良かったのかもしれない。諦めるしかないのだから。結果、シグルトの望みを叶えてあげられた。リシェルは自身が魔道士を諦めると宣言し、修行をやめてから、シグルトが申し訳無さそうにしつつも、明らかに安堵し、喜んでいるのを感じていた。


(うん、これでよかったんだ……)


 リシェルは来た道を戻りながら、周りを見回した。色とりどりの髪色と目の色を有した、ローブをまとう魔道士たち。天に届くほど壮麗な塔。はためく六芒星の織られた旗。扉や柱、天井など至る所に刻まれた魔術的な装飾。シグルトに拾われ、その弟子となってから毎日通った、エテルネル法院。結婚後は、もうここへ来ることもなくなる。


 他の魔道士にうとまれ、さげずまれ、睨まれ……決していい思い出ばかりの場所ではない。

 

 それでも、寂しさを感じた。

 それは多分、どれだけ納得した気になっていても、まだこの場所に、諦めた夢に、未練があるから。


「リシェルさん」


 物思いに沈んでいたところに、不意に聞き覚えのある声に名を呼ばれる。振り返るとそこにいたのは、リシェルと同じ白のローブをまとった、ひょろりとした痩せぎずの男。


「ルーバスさん?」


 彼を見るには久しぶりだ。確かガルバ山のゴブリン退治の任へ赴き、前回の導師会議も欠席していた。


「任務から戻られたんですか?」


「はい。先程」


「そうだったんですね。お疲れ様でした」


 リシェルはねぎらってから、気づく。


「その首……大丈夫ですか? 任務でお怪我でも?」


 ルーバスの首には、ぐるりと白い包帯が巻かれていた。問われて男のこけた頬にすっと赤みが差す。


「ああ、お優しいリシェルさん……心配してくださるんですね。大丈夫です。怪我ではありませんから」


 ルーバスは小さな茶色の瞳で、じっとリシェルを見つめる。


「リシェルさん、お話したいことがあるので、今から一緒に来ていただけますか?」


「え? お話、ですか? 一体何の……?」


「とても大事な話なんです」


 リシェルは首をかしげた。彼が自分に一体何の用なのだろう。


 なんだか今日の彼は、いつもと違う。しっかりとリシェルの目を見て、おどおどすることもなく堂々と話している。自信に満ちているような印象だ。任務に出ている間に何かあったのだろうか。


「実は、シグルト導師にもお越しいただくよう、伝言をお願いしています」


「先生も……?」


 内容は見当もつかないが、導師を呼び出すとは余程のことかもしれない。


「わかりました」


 リシェルは頷くと、ルーバスの後について歩き出した。







 


 

 パリスは頬杖をつき、ぼんやりと青い空を見上げていた。

 窓枠に身をもたせ、ブランがいないのをいいことに、修行も仕事もさぼって、しばしこうやって無為むいに時間を過ごしている。


 ――いいですよ。リシェルが弟子をやめたら、君を私の弟子にしても。


 あの日からずっと頭を占めているのは、シグルトの弟子にしてやるという提案。

 

 パリスも馬鹿ではないから、シグルトの意図はわかっている。彼は本心から自分を弟子にしたいわけではない。パリスをリシェルにこれ以上関わらせたくないのだ。その交換条件として、弟子にしてやるといっているに過ぎない。


 自惚れでなく、リシェルはかなり自分を信頼してくれている。自分は彼女のことを一方的に恨み、さらって売り飛ばそうとしたというのに、本当にお人好しだとは思うが、悪い気はしない――いや、正直嬉しい。だがまさか、彼女の自分への信頼が、シグルトの不興を買ってしまうとは。


 パリスはずっと、シグルトに憧れてきた。比肩する者のない強大な魔力と実績、魔道理論への深い理解と知識、そして、それを鼻にかけることも、金や権力への欲も持たない、謙虚で高潔な人格。完全無欠の偉大なる大魔道士だ、と。だが、さすがのパリスももう、シグルトの人格にまで夢見てはいない。リシェルやブランの話を聞いて、そして実際に彼と接して、その人となりもわかってきた。


 怠惰で仕事はもっぱらブランに押し付け、国や法院への忠誠心もなく、世の中をよくしようという気概も大志も、後進を育成しようという責任感も親切心もない。それを上手く卒ない対応と、穏やかな笑顔に隠しているだけだ。


 彼にあるのはただ、リシェルへの異常な執着と独占欲。彼女を害する者、必要以上に近づく者――そして、自分以外に彼女の信頼と関心を勝ち得そうな者がいれば、排除する。それがたとえ親友の弟子でも。


 弟子にしてやると言った時の、シグルトの悪魔のような微笑みを思い出すと、今だに背筋が冷える。そう、ブランがよく言うように彼は――性格が悪い。

 

 だが、それでも。

 彼が並ぶ者ない大魔道士であることには変わりない。その彼の弟子になることが、どれだけ自分の将来のためになるか。


 弟子になれば、自分への嫉妬から、相当しごかれるかもしれない。だが、元より彼の弟子になれるならば、どんな過酷な修行にも耐えてみせると誓っていたのだ。それで強くなれるならば、シグルトに近づけるのならば、望むところだ。


(迷う必要なんて、ない……)


 それでも、ずっと決断できずにいる理由は――師匠ブランとリシェルへの自分の感情だ。


 最初は嫌でたまらなかったブランとの師弟関係も、今はパリスにとってすっかり居心地の良いものになっていた。優しい師匠から寄せられる期待と信頼。それに精一杯応えたいと、ごく自然に思える。以前の自分では考えられなかった変化だ。


 自分がシグルトの弟子になると言ったら……ブランもリシェルもパリスの夢が叶ったことを心から喜んで、祝福してくれるだろう。

 それでも、自分は二人を裏切ったような、後ろめたい気持ちになるだろうとわかっていた。

 

 この人を師匠として認め、ずっとついて行こうと決めたブランにも。

 魔道士を諦めるなと励ましつづけてきたリシェルにも。


 特に、リシェルには。

 彼女にまだ魔道士としての可能性を感じているのは嘘ではない。確かに今引き出せる魔力はひどく弱い。だが、これは確信に近い直感だが、彼女には素質があるように思えるのだ。自分にはまだ出来ないが、かつてブランが彼女にやったように、もう一度力ある魔道士に魔力の覚醒を促してもらえれば、一気に魔力が開花する可能性もある。


 その可能性に気づいていながら、彼女にこのまま魔道士の道を諦めさせ、自分が夢だったシグルトの弟子に収まる。

 これが彼女に対する裏切りだと感じる程には、自分は彼女に情を持ってしまっている。


(僕もずいぶん甘くなったな……)


 ふと冷静になって、自嘲する。


 自分の夢は、いつかシグルトのような大魔道士になることであったはずだ。そのために子供の頃から、血のにじむような努力と研鑽けんさんを重ねてきた。欲しいのは魔道士としての力と知識であり、ぬるま湯のような師弟関係でも、何の得にもならない友情でもない。


 パリスは視線を青空から下へと落とした。眼下では、たくさんの魔道士たちが忙しなく、法院内を歩き回っている。シグルトの弟子になれば――彼らすべての頂点に立つことも夢ではないだろう。


(こんなチャンスを目の前に迷うなんて、僕らしくない)

 

 次会ったら、シグルトに言おう。弟子にしてください、と。そして、師となるシグルトの機嫌を損ねないよう、彼の望む通り、リシェルとはもう関わらない。

 

 どのみち、結婚後はリシェルは魔道士をやめ、法院には来ないはずだ。会う機会自体ほとんどないだろう。会ったとしても、今まで通りの態度で接するわけにはいかない。彼女は――シグルトの花嫁なのだから。


 胸が何かを訴えるようにかすかに痛む。だが、それを無視して、パリスは仕事に戻るべく、歩き出そうとし――その時ふと、二つ並んで歩く白いローブが目に入った。


「あれはリシェルと……ルーバス?」


 ルーバスが先に歩き、リシェルが後に続いている。ずいぶんと珍しい組み合わせだ。


「二人きりで一体どこへ……?」


 嫌な予感がする。まさか、ルゼルがまたリシェルに何かしようとしているのではないか。

 今日は王城で国王と六導師の会議があり、シグルトもブランも、午前中は不在にしている。


 自分がリシェルを守らねば。

 パリスは先程リシェルと関わるまいと決意したこともすっかり忘れて、反射的に駆け出し、急いで二人の後を追った。 




 



 


 リシェルがルーバスに連れてこられたのは、法院内にある、式典などで使われる講堂だった。現在は一部改修中で、使われていない。


 リシェルにとって、ここに入るのは初めてだった。見上げる程高い天井。敷き詰められた青い絨毯。ずらりと並んだ焦げ茶色の木製の長椅子。一段高くなった舞台には演台が置かれている。その後方には、講堂内を見渡すように、両手を広げて立つ老人の石像――大魔道士ガルディアの像が設置されていた。背後にある大きなステンドガラスから差し込む色鮮やかな光が後光となり、石像をおごそかで神聖な神のように見せている。


「あの、先生は?」


 ルーバスに、舞台の前まで連れて来られたリシェルは、きょろきょろと辺りを見回しながら問う。講堂内には誰もいない。


「まだいらしてないようですね」


「あの、ルーバスさん。お話って一体どんなことでしょう?」


 ルーバスはリシェルの正面に向き直ると、真っ直ぐに少女の目を見て、ためらうことなく言った。


「リシェルさん。私と結婚してください」


「…………え?」


「あなたのことが好きです。どうか私の妻になってください」


 あまりにも突然で突拍子もない求婚に、リシェルは驚いてルーバスをまじまじと見返した。冗談かとも思ったが、彼はふざけて物を言うような人間には見えなかったし、その表情は真剣そのものだ。


 彼はどうしてしまったのだろう。リシェルと彼はまともに会話したこともほとんどない。なのに、求婚しようと思う程想いを寄せられていたというのか。一体いつから?


 どういう反応を取るべきかもわからなかったが、何とか言葉を絞り出す。


「え、あの……私は、先生と結婚するので……って、ご存知ですよね?」


「知っています。だから、私がシグルト導師に勝ったら、私と結婚してくれますよね?」


 ルーバスは前のめりになって、自分を見て欲しいと言わんばかりに、胸に片手を当て、早口で興奮気味にまくし立てる。


「シグルト導師が来たら、決闘を申し込みます。彼を殺して、私の方が強いと証明してみせます。だから――」


「ちょ、ちょっと待ってください! ルーバスさん! 急にどうしちゃったんですか!?」


 彼の勢いに押されつつ、それをなんとか押し留めようと、リシェルは両手で彼を制した。


「落ち着いてください! いきなり、け、結婚だとか、先生を殺すとか……そんなの無理に決まってるじゃないですか! 決闘だなんて……やめてください!」


 戸惑う少女に、ルーバスはこけた頬を染めながら、笑みを作った。


「心配いりません。私はあの人に負けないくらい強くなった。大丈夫です。私は必ず勝ちます」


 ルーバスは一歩、リシェルに近づいた。

 その小さな目には、今まで彼が人に対するときに必ずあった怯えの色は一切ない。代わりにそこに溢れているのは揺るぎない自信――異様な全能感だった。


「あの人に勝って、これからは私があなたを守って差し上げます。だから、私の側にいて、私だけに笑ってくれますよね? 私を――愛してくれますよね?」


 本能的な危機感を覚えて、リシェルは逃げるように一歩下がろうとした。が、ルーバスの伸びてきた両手にがしりと両肩をつかまれ、はばまれる。


「や……!」


「リシェルさん、愛しています。私は、あの人に勝って、必ずあなたを手に入れてみせる」


 まるでもう既に、言葉通りリシェルを手に入れたかのように、ルーバスの顔には満足げで、恍惚こうこつとした笑みが浮いていた。彼の小さな茶色の目の中に、陶酔と、狂気と、そして自分へのほの暗い欲を見て、リシェルは背筋を凍らせた。


「は、はなして……!」


「おい! 何やってる!」


 突然、広い講堂内に、少年の怒声が響き渡った。


「パリス!」


 リシェルは救いの声に、そちらを振り返る。講堂の入り口に、息を切らし、肩を上下させたパリスが立っていた。

 

 パリスは、リシェルの怯えきった表情と、彼女に掴みかかる男を見て、怒りで足取りも荒く二人の方へ歩み寄る。


「ルーバスさん! あんた一体何やってるんだよ!?」


「来るな! 彼女は私のものだ! お前にも渡さない!」


 いつもおどおどとしている男の、聞いたことのない大声とその常軌を逸した発言に、パリスは思わず途中で足を止めた。

 

「はあ!? 何言ってるんだよ? 頭おかしくなったのか?」


「うるさい! 彼女は私と結婚するんだ!」

 

「正気か!? 馬鹿なこと言ってるとシグルト様に殺されるぞ!」


 完全に気が触れたとしか思えないルーバスの様子に、パリスも戸惑いつつ怒鳴り返す。


 ルーバスはふんと鼻で笑った。


「シグルトは私が殺す。あいつを殺して彼女も、最強の名誉も、私がもらう」


「あんたなんかにシグルト様がやられるわけないだろ。寝言言ってないで、さっさとリシェルからその手を放せ」


 心底呆れ返って言うパリスに、自らの発言を寝言と一蹴されたルーバスは、不快そうにぐにゃりと顔を歪めた。

 

「……パリス・ユーメント。お前もいつも私を馬鹿にしていたよな。私の方が立場が上だった時から、ろくに挨拶もせず……知ってるんだぞ。お前が若い魔道士たちに、私が未来の導師に相応しくないと……私より自分の方が実力が上だと、陰口を叩いていたこと……貴族の生まれで、ちょっと才能があるからって、尊大な態度で人を見下して……ちょうどいい。シグルトの前にお前で力試ししてやる」


 言ってルーバスは、リシェルから手を放し、パリスの方へと向き直った。そのひょろりとしたやせ細った身体から殺気が立ち上る。

 

 パリスは足を肩幅に開いて、臨戦態勢を取った。どうやらルーバスは本気で戦う気のようだ。本当に彼は頭がおかしくなってしまったらしい。説得は無意味だ。叩きのめして正気に戻した方が早い。


「リシェル。後ろに下がってろ」 


 自分の攻撃が当たらないよう指示すると、リシェルは素直に頷いて、舞台の方へと後退し、ルーバスから距離を取る。出来れば今すぐ彼女には逃げて欲しかったが、あいにく彼らのいる舞台近くの出入り口は、通行不可の札が下げられ、閉じられている。運悪く改修工事で封鎖されてしまっているようだ。


(まあいいか。すぐ終わるし)


 ルーバスが言った通り、自分のほうが彼より実力が上だと、同世代の若い魔道士たちに言っていたのは本当だ。陰口のつもりはなかった。なぜなら、事実だから。彼がその地位に相応しい実力の持ち主ではないことは、法院内の誰もが知っていることだ。


 ルーバスが片手を持ち上げた。その手に光が集まり、鋭い一条の光線となって、パリスの方へ向かってくる。ごく基本的な攻撃魔法だ。威力もそこまでではない。やたら自信ありげだから、てっきり何か強力な上級魔法でも習得して調子に乗っているのかと思っていたのだが。

 

 パリスもまた、目の前に両手を広げ、身を守るべく、青白い魔力の結界を張る。ルーバスの攻撃を防いだら、間髪入れずに、この結界の魔力をそのまま彼に向かって放つ。リシェルに当てないように気をつけるだけでいい。それでもう決着がつくだろう。

 

「悪いけど、はっきり言って僕のほうがあんたよりずっと強――――」


 最後までいい終わらぬうちに、ルーバスの放った光がパリスの結界に触れ――――まるでペン先で薄紙を刺すがごとく、あっさりと突き破る。

 

 パリスを守っていた青白い光の盾は消え去り、光線が少年の腹を貫いた。


「え――?」


 何が起こったのかわからず、パリスは自身の腹部を見下ろした。

 白いローブが真っ赤に染まっている。


(なんだ、これ……?)


 状況が、理解できない。

 急速に身体から力が抜けていく。

 立っていられない。

 

 がくっと、膝から崩れ落ち――青い絨毯の上へと倒れ込む。


 遠くで、リシェルが自分の名前を呼ぶのが聞こえる。

 何度も、何度も。

 目の前がぼやけ、暗くなっていく。


(……リシェル……助け、ないと――)


 そこで、思考が途切れた。

 

お読みいただきありがとうございました!

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