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82 決意

「もぉ、ミリィってば、お茶会ではしゃぎ過ぎたんじゃない?」


 淡いベージュを基調とした、女性らしい瀟洒しょうしゃで上品な家具が並ぶ一室。天蓋てんがい付きの寝台の横に立って、クライルは呆れたように言った。

 

 彼が見下ろす先――寝台の上には、赤い顔をしたミルレイユが横になっていた。だるそうにしながらも、王女は微笑む。

 

「そうね……でも、すごく楽しかったわ」


「それはよかったけどさ、また熱出すなんて……あんまり無理しちゃだめだよ」


「最近は体調よかったのに……私ってなんでこんなに体弱いのかしらね」


 恨めしげに王女は呟く。昔からこうだ。病弱で、しょっちゅう熱を出し、何度床にせってきたことか。そのうち周りもミルレイユが何かしようとする度、無理をしないよう気遣うようになってしまった。本来は活動的な性格なのに、子供の時から外遊びもあまり許されず、城で静かに過ごすことばかり求められる。父王の毒殺事件に巻き込まれ、歩けなくなってからは、ますますそうだ。


 ここ最近は調子もよかったから、リシェルたちを招いたのだが、確かに少しはしゃぎすぎたのかもしれない。おしゃべりに夢中になりすぎて、ずいぶん長く外で過ごしてしまった。また体調を崩してしまうとは。この退屈で憂鬱ゆううつな城での暮らしで、せめて友とのおしゃべりくらい楽しくしたかっただけなのに……病弱で無理のきかないこの身体が憎らしい。ミルレイユはそっとため息をついた。


「弟の僕は風邪も引いたことないのになぁ」


「丈夫な貴方がうらやましいわ……なんとかは風邪ひかないって本当なのね……」


「あ、ひどいなぁ。僕意外と賢いんだからね〜」


 姉の毒舌に、クライルは笑った。


「きっとさ、お茶会で僕を仲間はずれにしたから罰があったんじゃない〜?」


「クライルったら……」


 ふざけた調子で言う弟に、ミルレイユもつられて笑う。体調を崩し、気分も沈んでいたが、こうやっていつも通りのクライルと話していると、不思議と気持ちが明るくなってくる。


「元気になったら、またリシェルちゃん達呼んでお話しようよ。今度は僕も入れてよね〜。だから、今はゆっくり休みなよ」


「そうね……早く治さないとね」


 クライルはかがむと、そっとミルレイユの寝具をかけ直してやる。


「おやすみ、ミリィ」


 言われて、大人しく目を閉じる姉に、クライルは柔らかく微笑んだ。


「……」


 部屋の扉の前で待機し、わずかに空いたその隙間から二人の様子を見ていたエリックは、目をせた。


 脳裏に蘇ってくるのは、遠い昔の記憶。あれは、王都へ出発する予定だった日の朝のこと。エレナが急に高熱を出し、出発を延期した日のことだ。


「エリック……ごめん……」


 殺風景な薄暗い部屋の中、寝台に横たわり、少女は表情なく、自分をじっと見上げて、蚊の鳴くようなか細い声を発した。珍しく自分から話しかけてきた少女に、エリックは首をかしげた。

 

「ごめんって……何がだ?」


「私……いつもエリックに……迷惑……かけてる……」


 熱のせいで、わずかに上がった息とともに吐き出された言葉に、エリックは首を振った。


「何言ってるんだよ。迷惑なんかじゃないさ」


 彼女は確かに、頻繁に体調を崩す。加えて、突然意識を失う謎の病。いつも心配でたまらないのは本当だが、それを迷惑と感じたことなど、一度もない。


「……エリック……本当に行くの?」


「ああ、必ずお前を助けてくれる魔法使いを探してくるよ」


 エリックは安心させようと、力強く頷き、少女の手を取るとぎゅっと握りしめた。少女もまた、弱々しくはあったが、握り返してくる。


「エリック……私を……助けようとしなくて……いい……」


「……!」


「私のせいで……エリックが辛い思いするの………………嫌だ……」


 か細く、ぼそぼそとした、抑揚のない声。村の他の子達からは気味悪がられる、感情のこもらない話し方。

 

 だが、涙が溢れそうになった。

 

 この幼い少女は、感情がないわけじゃない。ただ病気のせいで、それを表現するのが難しいだけだ。その無表情の下には確かに、自分を慕い、心配してくれる、誰よりも優しい心があるのだ。


「別に辛くなんかないさ。むしろ、村の外なんて行ったことないから、楽しみなくらいなんだ。大丈夫だから、心配するな」


 滅多に表に出ることの無い、少女の想いに触れ、涙がこぼれそうになるのを必死でこらえて、笑顔を作る。


「今日は珍しくよくしゃべるんだな、エレナ。それだけ元気ならきっとすぐよくなるさ。さ、もう休め」


 絶対に、この子を助ける。

 こんなに優しい子が、何の罪もないのに、こんな幼い年齡で死ぬなんて、あんまりじゃないか。

 

 彼女には病気を治して、大人になって欲しい。笑えるようになって、勉強して、友達を作って、恋をして……普通の子のように、たくさんの幸せを知って欲しい。

 

 そのためなら、自分はどんな苦労にも苦痛にも耐えてみせる。

 神様がそうしろというならば、この命を差し出したって構わない。


 幼い少女の寝顔を見つめながら、あの日、そう決意した――


「エリックさん。交替のお時間です」


 物思いに沈んでいたエリックは、他の護衛騎士に声をかけられ、現実に意識を引き戻された。


「……ああ」


 エリックはちらりと、王子がいる部屋を見やった。一声かけようかと思ったが、遠慮する。あの二人だって、あとどれだけ二人でいられる時間があるのか。いつ理不尽な離別が来るのか……そんなことは誰にもわからない。


 騎士は部下に後を任せると、宿舎の自室へと戻っていった。


「よぉ、久しぶりだな」


 部屋に入るなり、聞き覚えのある声がした。開いた窓辺に、一羽のカラスがとまっている。カラスはさっと部屋の中に降り立つと、どろりと溶けて形を失う。黒く液状化した物体は、今度は上へと伸び、男の姿を形作った。

 眼帯をした深緑の髪の男――ノーグだった。




 

 

 


「なるほど。シグルトの奴、お前と俺の繋がりに気づいていたか」


 今まで一体どこで何をしていたのか。久しぶりに現れたノーグは、エリックから近況報告を受け、苦々しげに呟いた。 


「どこから知られたんだろうな。裏切り者でもいるのか? ……エリック、あの王子はしっかり監視してたんだろうな?」

 

「さあな。俺だって寝てる間のことまでは知らないさ」


 剣を腰から外し、どさっと寝台に腰掛けたエリックは気のない返事を返す。


「……随分投げやりだな」


 ノーグは眉をひそめた。

 

「エリック、お前ここのところ剣術の稽古をさぼっているらしいが……どういうつもりだ?」


「……別に。あいつを殺せないのに、これ以上強くなったって仕方ないしな」


「はっ! 復讐は諦めたってわけか? ……お前、まさか解放軍から抜ける気じゃないだろうな?」


 ノーグの声が一段低くなった。返答次第では容赦しない。そんな殺気にも似た圧が全身から漏れ出す。


「……いや。あんたのことは嫌いだが、世話になったことは事実だ。最後まであんたに付き合う。ただ……俺はもうあいつらとは関わらない」


 エリックは怯むことなく淡々と、だがきっぱりと言い切った。 

 

「お前が復讐を諦め、身を引けば、あの娘がこのまま何も知らずに幸せになれる……ってか? はは、お優しいことだな」


 ノーグは口の片端だけ持ち上げ、馬鹿にしたように笑った。


「つまり、お前はあの娘に人形のままでいろっていうわけだ。力も記憶も失い、シグルトがネジをまかなきゃ動くこともできない、あの男にただ愛でられるだけの愛玩人形、か……まあ、何も知らなきゃ、それはそれで幸せかもしれんな」


 エリックがばっと立ち上がり、ノーグに殴りかった。顔面に拳がめり込んでも、しかし、魔道士は微動だにしない。殴られた顔面は黒く液状化してぐにゃりと歪み、しばらくおいて、再びノーグの顔を形作る。


 ノーグは自らの再生された顔を、直っているか確認するかのように手ででた。


「おいおい、いつも言ってるが、不用意に俺に触れてくれるなよ。今日は分身だからいいが、これが本体だったら、どうするんだ。そんなに殺気立ってたらかなり長く魔力が使えなくなるだろ」


 エリックの憎しみ、敵意が強ければ強いほど、触れられた相手は長期に渡って魔力を失う。再三言い聞かせ、感情をコントロールし、不必要な場面で力を使わないよう日頃から言い含めているというのに、成長の見られない弟子に、ノーグは呆れたように言った。


「……あんたがあいつを侮辱するからだろ」


「気づいているだろ? わざとだよ。これも訓練だ。あの娘のことになるとお前はすぐ我を失う。もっと感情の制御が出来るようにならないとな」


 もっともらしいことを言って笑うノーグをにらみつけた後、エリックは再び寝台の上にどかっと腰を落とした。そのまま深くうなだれる。


「俺だって、今この瞬間もあの男を殺してやりたいさ……でも、仕方ないだろ? 他にどうしろっていうんだよ?」


「お前、シグルトが言ったことを鵜呑うのみにしてるのか? 俺はあいつを信用してない。俺たちの邪魔をする気がないって? 国王の命令でカロンを焼き払って俺の仲間を殺したのは誰だよ? 信用できるか」


 ノーグは憎々しげに言った後、腕を組み、エリックを見下ろす。


「俺は法院にいた頃、あいつとも何度か仕事したが……何を考えているのかよくわからん奴でな。うまく言えないが、時々、名前も、年齢も、その存在自体、何もかも嘘なんじゃないかって感じることがあった」


 あれだけの力を持ちながら、少なくとも表面上は野心も野望も持たず、どんな非情な任務もただ命令通りに、淡々と、無情に、完璧にこなし、その本心は嘘くさい笑顔に隠されてまるで見えない。ノーグにとって、あの同年の魔道士は、当時から得体の知れない存在だった。

 

「これは初めてあいつに会った時から変わっていない、俺の直感だが……あいつは、信用出来ない。俺たちがあの娘から手を引いたところで、いつ俺たちを潰しにくるかわからん」


 シグルトへの不信感を口にした後、ノーグはふむと首をかしげる。 


「しかし、シグルトも何がしたいのかよくわからんな。アーシェの願いを叶える、か……あのお人好しのアーシェが、あの状況で最後に願いそうなことなんぞ、お前たちの安全くらいしか思いつかんが……シグルトのやっていることはそれとは真逆だしな」


 思案するものの、考えても無駄と悟ったのか、ノーグは肩をすくめ、薄く笑った。


「まあ、奴にも多少はアーシェへの情があったんだとしても、何だかんだ言って、結局は禁術への興味が動機だろうな。魔道士ってのは新たな力への欲求が抑えられないもんだ。禁忌とされる術も使ってみたい、機会があれば試してみたい……で、六年前、その機会が来た。結果、完成した玩具が思いの外気に入って夢中になった……ってとこか。なにせ、あの娘もお前に似てあの容姿だ。シグルトも男だったってことだな」


「人形だの玩具だの、これ以上あいつをそんなふうに言うなら……」


 エリックが拳を握りしめ、その全身から再び怒気が立ち上る。ノーグはそれをなだめるように手で制した。


「まあ、聞けよ。実はな、シグルトの親もかつて禁術に手を出していてな。血は争えんというわけだ。で、結果処刑されている。師であるガームの爺さんにな」


「何の話だ?」


「詳細は一切伏せられてるが、実は法院にいた頃にちょっと興味があって調べてな。天の塔には導師しか入れない、機密文書が保管された隠し部屋がある。そこにガームの爺さんを騙してうまいこと入って、当時の報告書を読んだんだが……シグルトの親はある禁術の研究をしていたらしい」


 突然話題が変わって、怪訝そうな顔をするエリックに、ノーグは薄ら笑いを浮かべた。


「死者の蘇生。死者の骨から肉体を再生させ、魂を呼び戻し、生き返らせる。死亡直後、遺体が腐敗する前に魂を呼び戻す方法ならかつてやった奴が何人かいたらしいが、この方法だと死んで何十年経っていても、骨さえ残っていれば死者を蘇らせることが出来る。こんなことが可能になったら、世の中大混乱だな。ガームの爺さんの報告書では、研究段階で気づいて実行を阻止したらしいが……シグルトの親、アルフェレス夫妻は、人格的には問題があったが、二人揃って天才って言われてたらしいからな。実行していたら成功していたかもしれん」


「……何が言いたい?」


「お前、アーシェの遺灰がどうなったと思う?」


 アーシェの名が出て、エリックの肩がかすかに震えた。脳裏に蘇る情景。白い雪景色の中、ひらひらと舞う灰色の――

 

「アーシェの遺灰は法院に回収され、本人のものだと確認され死亡が認定された後、師匠だったシグルトが引き取った。アーシェは既に母親が死んで、親族もいなかったしな」


 エリックは当時を思い出して、吐き気に似た気分の悪さが湧き上がるのを抑えながら、ノーグの話に耳を傾けた。

 

「調べたが、その後シグルトが遺灰をどこかに埋葬した形跡はない。ずっと家に保管されていたはずだ」


「……あいつの家にまだあるってことか?」


「いや。俺の予想ではシグルトも今、アーシェの遺灰がどこにあるかわかっていない」


「どういうことだ?」


「四年前、シグルトの家の前の使用人共は、あの娘を身代金目的で誘拐する事件を起こした。だが、犯人たちには記憶がなく、どうもそいつらの知人の、シグルトに恨みを持つ魔道士に操られていたらしくてな。そいつらは誘拐事件の前にも、度々操られ、シグルトの家から目立たないように金目のものを盗み出しては、売りさばいて、その魔道士に金を渡していた」


 エリックは鼻で笑った。


「大魔道士のくせに、泥棒に気づかなかったのか。意外と脇が甘いな」


「まあ、わからんでもない。あの男、他人にも自分の物にもまるで関心が無さそうだったしな」


 ノーグは肩をすくめると、先を続ける。

 

「犯人は既に捕まっていてな。その自白によれば、盗んだのは、倉庫にほこりを被って放置されていた、貴重な古書や魔道薬、銀の食器類、そして――女神フラヴェリアの石像……」


 女神フラヴェリア。大陸で広く信仰される、冥界の女神だ。冥界で死者の魂を守り、転生へと導くとされる。


「それで?」


「おかしいと思わないか? あの信仰心のかけらもなさそうな男が女神像だなんて。しかも、事件が発覚してから、シグルトは他のもっと貴重なものには目もくれず、その女神像だけ買い戻そうと、しばらく探し回ってたらしい」


「……それに何かあるってことか?」


「その女神像、実はテレルト商会が当時数量限定で販売していた、死者の遺品や遺灰を入れるための入れ物でな。中が空洞になっていた。シグルトは、一体何を入れていたと思う?」


「アーシェの、遺灰……?」


「おそらくな」


 エリックの返答に、ノーグは頷く。


「だが、結局シグルトは女神像を探し出せなかった。盗まれたと気づいたのが遅すぎたんだ。女神像は既に何回かの売買を経て、誰の手に渡ったかわからなくなっていた。俺はずっと行方を追っていたんだが……最後の買い主を調べ出すのは苦労したよ」


「……誰だ?」


「先代導師のリトーだよ」


 一年程前に急死した導師の名に、エリックは表情を険しくした。 


「あのヴァイスって奴の師匠か」


 王城で幾度か、遠くから見かけた美貌の青年。一見穏やかそうな雰囲気だが、あの悪評高いロゼンダとよく一緒にいるあたり、彼も決して信用出来るような人物ではないだろう。


「死んだアーシェの遺灰が盗み出され、別の導師の元に……偶然とは思えん。リトーには妻が死んでから、死者蘇生の禁術を研究してる、なんて噂もあってな。しかも奴は導師だ。アルフェレス夫妻の研究の詳細についても知り得た」


「……」


「リトーの死も不審な点が多い。事故死とされているが、ヴァイスを弟子にしてから、間もなく亡くなったってのも怪しすぎる。しかも、リトーは奴を弟子にしたばかりでなく、養子に迎えている。リトーの全財産はヴァイスが受け継ぎ、今リトーの屋敷に住んでいるのはヴァイスだ」


「つまり……」


「おそらくアーシェの遺灰は今、ヴァイスが持っている」


 ノーグはにやりと笑った。


「アーシェに会いたがっているのは、俺たちだけじゃないかもな」


 あの長い金髪の導師。あの男やリトーが仮にアーシェの蘇生を企んでいたとして、一体何のために?


「目的は何だ?」


「さあな。それはわからんが、アーシェのことを調べている奴らがいるなら、いずれあの娘の秘密にも気づくだろう。あの娘は今後も狙われ続けるぞ。それでもお前は知らん顔するつもりか?」


「……あの男が守るだろ」


 自分よりもあの男の方が強い。そして、自分と同じくらい、彼女に執着している。あの男は本人が言った通り、何としても彼女を守るだろう。

 

 エリックは、内心悔しさに歯噛みしながらも、それを隠して淡々と答えた。


「お前はそれでいいのか?」


「……何度も言わせるな。俺はもうあいつらとは関わらない」


 エリックは首を振った。もう決めたのだ。彼女の今の幸せを守ると。


「あの娘の幸せを壊すことになるから……か。お前といい、アーシェといい、お人好しってのは、自己犠牲が好きらしいな」


 エリックは顔を上げ、揶揄する男を真っ直ぐに見返した。先程まで無気力に見えた黒い瞳に、今は強い光が宿っている。

 

「ただ、どこの誰ともわからない奴が、アーシェの生死をもてあそぶような真似をするのは許せない。あんたがヴァイスを調べるって言うなら、それには協力する」


「なるほど、シグルトの傍が一番安全だから、あの娘は奴に任せ、お前は密かに危険を排除し、陰からあの娘を守るってわけだ。健気だな」


 どこまでも馬鹿にした調子のノーグを、エリックはただ睨み返す。だが、否定はしなかった。

 彼女とはもう関わらない。だが、彼女に危険が及ぶというなら、自分は全力でそれを阻止する。

 

「まあ、それでいいさ。ヴァイスは国王派だからな。禁術研究の証拠でも掴んで消えてくれればこちらとしては有難い。いや……奴がアーシェの遺灰を持っているのなら……一番有難いのは、アルフェレス夫妻の死者蘇生法を使って、アーシェを蘇らせてくれることか……」


 アーシェの蘇生。

 その言葉に黒い瞳が、揺れた。


「……そんなことが、本当に出来るのか?」


「可能性は十分ある。あれが壊れていないんだからな」


 ノーグは、部屋に置かれた小テーブルを見やった。その上には、部屋に戻った時にエリックが置いた、小さな丸いガラス球のペンダント。傷ひとつない球の中で、指針がふわふわと一定方向を指して、浮いている。


 アーシェが作った、魂の羅針盤。

 

「……ただし、禁術ってのは、必ず相応の代償が必要になるものだがな」


「…………」


 エリックは灰色の髪の少女を想う。

 会いたい。アーシェに。どんな手段であっても。

 

 だが、仮にアーシェを蘇らせられるとして。

 果たして彼女自身はそれを望むだろうか?


(アーシェ……お前は最後に、あの男に何を願ったんだ?)


 アーシェと過ごした半年は、自分にとって本当に幸せな日々だった。


 だが、アーシェにとってはどうだったのだろう?

 笑顔の下で、本当は彼女が何を思っていたかなんて、わからない。


 あの男の言う通り、自分はアーシェのことを何もわかっていないのかもしれない。


 いや、もしかしたらエレナのことだって……


 アーシェのことも、エレナのことも。

 結局、自分が正しいと信じる道を選ぶしか無い。

 たとえそれが、最善ではなかったと後になってわかり、後悔したとしても。


 今は自分の選択を信じるしかないのだ。


お読みいただきありがとうございました!

次話も日曜更新予定です。

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