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74 祝勝会

 クライル主催の祝勝会当日。

 約束通り、ディナは終業時刻に迎えに来た。


「いいですか、約束した通り、お酒は飲んじゃ駄目ですよ。遅くなる前にセイラに迎えに行かせますから、絶対に一人では帰らないこと。いいですね?」


 しつこくリシェルに言い聞かせるシグルトを、ディナは冷たい目で見ていたが、彼に表面上だけの挨拶を済ませ、リシェルと二人きりになると、途端に上機嫌になった。


「さあ、今日はエリック様も来るし、せっかくだから二人でおしゃれして行きましょ!」


 そう言って有無を言わさずリシェルが連れて行かれたのは、ディナがよく行くという洋服店だった。最新の流行の服を扱う、王都の女性に人気の店だ。ディナは前から目をつけていたという、大人っぽいシンプルなデザインの深緑のワンピースに着替えた。彼女の橙色の髪に、その深い緑がとてもよく映える。いつもは一つに結っている長い髪を下ろすと、普段よりぐっと女性らしさが際立った。


「ディナ、すごく似合ってる!」


 リシェルが感嘆すると、ディナはにんまり笑った。


「ふふ、ありがと。次はあなたの番ね」


「私は別にこのままで……」


「大丈夫、お金は私が払うから。ね、これ着てみてよ。私、一回あなたにこういう服着せて見たかったのよね。絶対似合うわよ!」


 そう言ってディナが手にしたのは、爽やかな水色のワンピース。上はブラウスになっており、襟元にはリボン、腰から下にふんわりと広がるスカートは上からレースが二重に重ねられている。いかにも貴族の令嬢が好みそうな、品がありつつ可愛らしいデザインだ。素敵だとは思うものの、いつも地味なローブばかり着ているリシェルには、いささか派手にも感じられ、着るのは少々抵抗があった。


「あの、本当にいいから。買ってもらうなんて悪いし。私なんかには似合わないと思うし」


「何言ってるの! あなたぐらい素材がよければ似合わない服なんてないわよ! さ、着てみて!」


 ディナに無理やり試着室に押し込まれ、試着だけならと袖を通してしまったのが間違いだった。着替えたリシェルを見て、「思ったとおり可愛い!」と大喜びしたディナは、そのままさっさと支払いを済ませ、自分たちが着ていたローブを自宅に送る手配までしてしまった。服に合う髪飾りと靴まで選び、買ってくれたディナの強引さに、リシェルは折れた。彼女とともに、祝勝会の会場へと向かう。


 会場となっているのは、王都でも最も大きい酒場の一つだ。リシェルとシグルトが住む家よりもずっと大きな建物に、一階も二階も煌々と明かりが灯され、中から賑やかな人の声が聞こえる。この酒場を経営する豪商とクライルが懇意であり、快く場所を提供してもらえたのだそうだ。王子の騎士団の祝勝会なのだから、王城の広間で行われるが通常だが、それは国王の許可が下りなかったらしい。


「ひゃは〜! リシェルちゃんかっわいい〜! お人形さんみたい!」


 会場の入り口に入るやいなや、クライルが目ざとくこちらに気づき、駆け寄ってくる。彼は嬉々とした笑顔で、普段とは違う装いのリシェルを大声で褒めそやした。その声に、ダートンやザックスも来て、リシェルたちを取り囲む。


「リシェルちゃん、ローブ姿しか見てなかったけど、そういう格好するともう本当可愛すぎて……」


「まぶしすぎる! こんな可愛い奥さんをもらえるシグルト様がうらやましい!!」


 ダートンは目を丸くし、ザックスは目を覆って大げさに叫ぶ。騒がしい彼らのせいで、既に会場にいる大勢の兵や騎士たちまで皆自分たちに注目している。彼らの無事を確認できてほっとしたものの、恥ずかしさが勝り、リシェルは赤面してうつむいた。


「可愛いでしょ? この服、私の見立てですからね」


 縮こまるリシェルとは反対に、ディナは得意げに胸を張った。


「うんうん、そういうディナも今日すごい綺麗だよ〜。いつもは姉御って感じだけど、今日は美しいお姉さまって感じ!」


「ディナさんもまぶしい! 美しさに目が焼かれるっ!」


「ありがとうございます」


 ディナは照れる様子もなく、髪をかき上げ不敵な笑みをうかべつつ、当然といった風に王子たちの賛辞を受け取る。


「二人ともすごく似合ってるよ〜。ね、君もそう思うでしょ? エリック?」


 クライルは自身の背後に控える騎士を振り返り、同意を求めた。


 リシェルはそっと顔を上げ、クライルの後ろに立つエリックを見た。赤い騎士服をまとい、無表情に主に付き従う、いつもと何も変わらない、彼だ。最後に別れた時は顔色も悪く、足取りもふらついていたが、すっかり元通りに回復したように見える。安堵すると同時に、緊張で少し体が強張った。彼は今、自分のことをどう思っているだろう?


 憎い男の弟子から、その婚約者となった、自分のことを。


 だが、彼はリシェルたちの方へちらりと視線を寄越したものの、それはすぐに主へと戻り、彼と目が合うことはなかった。


「…………はい」


 エリックはただ、それだけ答えた。だが、クライルには満足できない反応だったらしい。


「いやいや、『はい』じゃなくてさ。ここはもっと褒めるべきところだよ? せっかくおしゃれして来てくれた女性に対して失礼でしょ! それとも二人の美しさに言葉も出ない感じ?」


 なおも絡んでくる主にやや眉を寄せ、迷惑そうな顔をしつつ、エリックが再び口を開きかけた時――――


「殿下? こんな入口で集まって何されているんですか?」


 その場に現れたのはパリスだった。法院からそのまま来たのか、普段どおりのローブ姿だ。入り口を塞いで話しているリシェルたちに怪訝けがんそうにしている。


 だが、見慣れぬ姿で立つリシェルが視界に入った途端、目を見開いて硬直した。


「はは、言葉が出なくなっちゃった奴がここにもいるよ」


 クライルがからかう。パリスは目を白黒させながら声を絞り出した。


「お、お前、その格好……」


「ディナが選んでくれて……でも、こういうの着慣れてなくて……やっぱり変かな?」


 友の反応を悪いように捉えたリシェルが恥ずかしげにもじもじと言うと、パリスは力強く首を振った。


「そんなことない!」


 意外に大きな声が出たことに、自分でも驚いたのか、気まずげに軽く咳払いをする。


「あ、いや、いいんじゃないか。別におかしくない、と思う」


「パリスも素直じゃないなぁ! 正直にすごく可愛い、好きになっちゃいそう〜って言えばいいのに」


 けらけらと笑うクライルを、パリスは疎ましそうに軽くにらむ。


「殿下は女性にそういう言葉を安易に言い過ぎだと思いますが」


「そう言われても本心だからさぁ。僕は正直者なの」


 クライルは笑ってぱちんと両手を叩いた。


「さて、パリスも来たし、そろそろ時間だねぇ。ぼちぼち始めよっかぁ」






 祝勝会に集まったラティール騎士団の面々は、今、広いホールの中央に設えられた、一段高くなった舞台に向かって立ち、自分たちの団長が挨拶を始めるのを待っていた。皆各々手に酒の注がれたグラスを持っている。


 リシェル、ディナ、パリスの三人も、舞台にほど近い場所で、グラスを手に宴の開始を待っていた。リシェルのグラスに入っているのは、シグルトの言いつけ通り、酒ではなくただのジュースだ。


「……騎士も一般兵も同じ席なんだな」


 ざわざわとした会場内を見回して、パリスがぽつりと呟いた。


「普通は違うの?」


「ああ。というか、他の騎士団だと騎士は貴族、一般兵は平民だから、そもそも祝勝会も同じ会場ではやらないな」


「本当にあなたたち貴族って、お高くとまってるわよね。国のために命をかけて戦ったのは同じじゃない。そこに貴族も平民もないでしょうよ」


 ディナが呆れ顔で言う。


「私も他の騎士団の祝勝会には何度も出席したわ。貴族側でね。みんな自分がどう手柄を立てたかの自慢話ばっかりでうんざり。私は今日のこの会場の、和気あいあいとした雰囲気が好きだわ。クライル王子は、身分で人を差別しないところだけは本当に長所ね。国民には人気があるし、あれでボンクラじゃなかったら、案外一番いい王になるかも」


「クライル王子が国王? いや、無理でしょう」


「だからボンクラじゃなかったら、って言ってるじゃない。あれに国王が務まるわけないでしょ」


 ディナとパリスが話していると、やがて舞台上に、グラスを片手に持ったクライルが現れる。ざわめいていた会場内が自然と静かになっていった。彼は軽く咳払いすると、一段高いところから皆をにこやかに見回し、声を張る。


「えー、みんな今回の任務お疲れ〜。本当疲れたよねぇ。長旅で、途中いろいろあったし。でもまあ、みんなの活躍のおかげで無事に盗賊団討伐の任務を果たし……って、あれ? 僕達、盗賊団倒してないよねぇ? 戦ってすらいないし……ってことは任務果たしてない? 戦ったのはあの気色悪い魔物だし……いや、待てよ。あれも結局最後にとどめを刺したのはシグルトだしな……あれ、もしかして僕達って今回何もしてない?」


 話し途中で、顔に疑問符を浮かべながら、徐々に首を傾けていく。会場内から野次が飛んだ。


「大将しっかりしてくださいよ〜」


「何もしてないのは大将だけですよ! 俺たちはちゃんと頑張って戦ったんですから!」


 クライルはしばし考え込んだ後、得心したように一人うなづく。


「まあ、盗賊団を壊滅させたのは、あの魔物で、あの魔物を倒したのは、うちの団に一時加入してたリシェルちゃんを助けに来たシグルト……ってことはもう、我がラティール騎士団が盗賊団を討伐したのと同じだよね!」


「いやいや無理あるでしょ、それ」


「飛躍しすぎですよ〜」


 会場内が笑いに包まれる。クライルもまた、へらっと笑ってみせた。


「まあ、細かいことはいいや。早く飲みたいし。とにかくみんな頑張ったってことで。今日は僕のおごりだから楽しんでよね!」


 わっと歓声が上がる。クライルはそれに負けじと、さらに声を張り上げた。


「おっと、君たち、今回助っ人に来てくれた魔道士三人にも感謝を忘れないように。ディナもパリスもリシェルちゃんも、本当にありがとね!」


 舞台近くに立つリシェルたち三人に会場内の視線が集中し、たくさんの拍手と感謝の言葉が投げかけられる。ディナは得意げに、パリスは平然と、リシェルは恥ずかしそうに、それらを受け取った。


「それから、リシェルちゃん!」


 大声で名を呼ばれ、リシェルはびくっと身を震わせた。舞台上を見上げれば、クライルがたれ目を細めて自分を見ていた。


「シグルトとの婚約おめでとう!」


 クライルの一声に続いて、皆の声がわれんばかりに会場内に響く。


「おめでとう!」


「く〜シグルト様うらやましい〜」


「リシェルちゃんお幸せに〜!」


 温かな拍手と飛び交う祝福の声の中。


 ふと、黒い瞳と視線がかち合う。一瞬だけ周囲の音が遠のき、時間が止まったように、リシェルは錯覚した。クライルの立つ舞台下に静かに佇むエリックがこちらを見ていた。深い、謎めいた漆黒。見つめ合う刹那に、そこから彼の想いを読み取ろうとする。だが、視線はすぐにリシェルの元から離れていった。


「というわけで、今日は飲みまくるよ〜! 乾杯!」


『乾杯!!』


 クライルがグラスを掲げ、皆が唱和し、それにならった。




 



 会場内は喧騒に満たされていた。先程クライルが立っていた舞台上では、華やかな衣装に身を包んだ踊り子たちが舞い、その足元では楽団が陽気な音楽を奏でている。騎士も一般兵の別もなく、皆が酒坏を手に、上機嫌に歌い、語らっていた。


 騒がしいのが慣れないリシェルも、今日のこの和気あいあいとした賑やかさは嫌ではなかった。遠目にクライルやディナが皆に囲まれ、楽しそうに盛り上がっているのを見つめながら、自然と笑みがこぼれる。


「それにしても……よくシグルト様が許したな」


 すぐ横に立つパリスがぽつりと呟き、リシェルは彼の方を見る。


 二人は今、会場の隅の方で並んで立ち、壁を背にもたれていた。宴の開始直後は、二人とも皆に取り囲まれ、感謝と祝福の言葉を掛けられていたが、それも一段落すると、こうして二人、どちらからともなく喧騒を離れ、ぼんやりと会場内を眺めていた。パリスもこの場の雰囲気は嫌ではないようだが、少々疲れたらしい。


 リシェルは自身の襟元についたリボンを指先で軽く引っ張った。


「えっと、この格好のことは先生は知らなくて……ディナが用意してくれたんだけど、怒られちゃうかな」


「いや、その格好じゃなくて……ここに来ることを、さ」


 パリスもシグルトの嫉妬深さは察しているらしく、彼が大事な婚約者を男ばかりの宴の席に参加させたことに疑問を感じているようだった。


 リシェルは、手にしたグラスを傾け、中のジュースを飲み干した。果実の甘さと香りが口いっぱいに広がる。空っぽになったグラスに映った自分の顔は、無理に作り笑いをしており、どうにも情けなさがにじみ出ていた。


「うん、これが最初で最後だから……」


「最後?」


「パリス……私、魔道士はやっぱり諦める」


「……!」


 パリスがぱっと壁から背を離し、リシェルに向き直った。


「お前、また……! あんなに頑張って修行してたのに、どうしてだよ?」


 アンテスタの任務へ向かう途中、リシェルは一度は弱音を吐いた。自分に才能はない、シグルトの望み通り魔道士を目指すのはやめる、と。それを引き止め、修行を続けさせたのはパリスだ。成果が上がる兆しすら見えず、リシェルの心が折れかけているのは感じていた。それでも、彼女は本当によく頑張っていた。それはやはり、本心では魔道士になりたいという希望を捨てきれていなかったからだろう。


 その彼女が自分の夢を諦めるとしたら、理由は一つしかない。


「……もしかして、シグルト様に諦めろって言われたのか?」


「……はっきり言われたの。私には才能ないって……私の魔力じゃ魔道士になるのは難しいだろうって……」


「そんな……」


 うつ向くリシェルを見つめながら、パリスは無意識にグラスを持つのと反対の拳を握りしめていた。


「そんなの、シグルト様にだってわかるわけない……」


「え?」


「確かに、人が持つ魔力の量は生まれつき決まってるって言われてる。修行によって潜在的な魔力の発現を徐々に高めていくわけだけど、どこかの時点でその伸びは止まる。それがそいつの魔力の限界っていうのが定説だ……でも、本当にそれが限界なのかは本人はもちろん、誰にもわからない。実際、魔術学院では入学後一年経ってもろくに魔法が使えず退学になったけど、その後諦めずに数年修行を続けたら、強い魔力が発現した奴だって、稀だけどいるんだ。いくらシグルト様だって、まだ一年も修行していないお前の才能の有無がわかるわけない!」


「パリス……」


 怒ったように早口に、一気にまくし立てた少年に、リシェルは呆気に取られて、目を瞬かせた。


「……意外。パリスが先生の言うことを否定するなんて……」


「あ、いや。僕は……ただ、諦めるのはまだ早いって……」


 我に返ったようにパリスは先程の勢いを引っ込め、目を泳がせた。幼い頃からずっと憧れ続けた偉大なる魔道士。その彼の判断に異を唱えるなど、自分は一体どうしてしまったのだろう。


 ただ無性に……腹が立った。


「ありがとう、パリス」


 リシェルは微笑んだ。まだこんな自分に可能性があると信じてくれるパリスの言葉が、純粋に嬉しかった。


「でも、いいの。先生は普段はあんなだけど、魔道士としては誰よりもすごい人で……そんな人が才能ないって言うなら、きっとそうなんだと思う……諦めたくないって駄々をこねて、先生やパリスにこれ以上迷惑は掛けられないもの」


「別に、僕は……迷惑、じゃ……」


 言いかけてパリスは口をつぐんだ。ブランにリシェルに魔法を教えてやれと言われて、嫌だ、面倒だと確かに思っていたはずだ。いい迷惑だ、と。だが、今口から出そうになった言葉はそれを否定していた。 


「パリスのおかげで、私、中途半端だけど魔法が使えるようになって……すごく嬉しかった。修行もずっと付き合ってくれて……せっかくたくさん時間を割いてくれたのに、こんな結果になって本当に申し訳ないけれど……でも私、パリスと友達になれてよかった」


 照れくさそうに笑うリシェルを見て、彼女が初めて魔法を使った時のことを思い出す。パリスの助言でコツを掴み、初めてその手に光を生み出すことができたリシェルは、心底嬉しそうに笑い、珍しくはしゃいでいた。リシェルに修行をつけてきたのは、ブランに言われたからではない。リシェルにひどいことをしたという負い目からでもない。あの笑顔のためだったのだと、パリスはようやく悟った。


「結婚式、よかったらブラン様と来てくれる?」


 パリスの胸の中で、もやもやとした何かが広がっていく。


「…………ああ」


 だが、彼女の決断への同意も、反対も、祝福の言葉も、内心の苛立ちも、どれも形にすることはできず、結局口から絞り出た答えはたったそれだけだった。


「おややぁ、こんな隅っこで、二人っきりで何話してるんですかい?」


 突然二人の会話に割って入ってきたのは、ザックスだった。もうかなり酒が入っているのか、赤らんだ顔をして、パリスの肩に親しげに腕を回してくる。


「坊っちゃん、まさかリシェルちゃんのこと口説いてるんじゃ?」


「なっ……そんなわけないだろっ」


 間近に浴びる酒臭い息に顔をしかめながら否定するパリスに、ザックスはにたりと笑った。


「本当かな〜? 真剣な顔しちゃって……」


「ザックスからかうなよ。リシェルちゃんたちも向こうで一緒に飲もうよ! みんな二人と話したいってさ!」


 赤い顔に人の良さそうな笑みを浮かべたダートンが促してくる。


「そうそう、道中は坊っちゃんはお高くとまってたし、リシェルちゃんは高嶺の花すぎて、俺たち以外、みんなあんまりお話出来なかったからさぁ」


「僕は別にお高くなんて―───」


「はいはい、坊っちゃんは庶民との接し方に慣れてなかっただけなんですよねぇ。これから存分に親睦を深めましょうや。さあさあ」


 ザックスにがっちり肩を囲い込まれ、強引にホールの中心へと連れて行かれながら、パリスは肩越しにリシェルを振り返った。


 リシェルは、パリスたちについて歩きながら、ダートンと談笑している。普段とは違う装いの少女はとても可愛らしい。だが、いつまでたっても見慣れない。あのいつもの地味なローブ姿が、彼女には一番馴染んで似合っているように思える。


 パリスはそこで初めて、リシェルの左手の薬指に嵌められた指輪に気がついた。


(お前は本当にそれでいいのか――――?)


 シグルトとの結婚も、魔道士を諦めることも。

 いくら恩があるとはいえ、シグルトの意に沿って生きることが、彼女にとって本当に幸せなのだろうか。


 苛立ちにも似た胸のざわつきを抱えたまま、パリスは賑やかさの中へと戻って行った。


前回から久しぶり更新になってしまいました……

次話からはまた隔週ペースで更新出来ればなぁと思っております。

お読みいただきありがとうございました。

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